美鈴「猫と也幸くんは・・・行き過ぎね」

僕「そうだとは・・・思って・・・ます」

美鈴「言ったでしょ?前に、飢餓の子にジュースあげちゃいけない話」

僕「うん・・・って、美鈴ねえさんだって、チョコドリンクを!」

美鈴「あら!みんながジュース飲んでる中、あの子だけ仲間はずれにするの?ひっどいわね〜」

 

おいおいおい・・・言ってること矛盾してないか!?

 

美鈴「ま、あの子にはちゃんと君になついてくれたお礼ね」

僕「それって物で釣ってるんじゃ・・?」

美鈴「相談所の前で君になついてくれた、っていう労働に対する対価よ」

僕「うー・・・」

美鈴「たまたまいてくれたから、使えるものは使わないとね、そういう意味では感謝だわ」

僕「じゃあ、このまま住まわせたら、もっと相談所に安心してもらえ・・・」

美鈴「それはやめなさい、本当に際限無くなるわ、けじめがつかなくなるから」

 

洗面器に埋まったティッシュくずの上に乗る母猫、

トイレかな?と思ったら・・・食べはじめたぞ、い、いいのか!?

 

美鈴「あらあら、トイレとは思わずに猫の草だと思ったみたいね」

僕「食べちゃっていいんですか?」

美鈴「んー・・・仕方ないでしょ。トイレ早く作ってあげなさい、そのダンボールで」

僕「でも、ここに直接、猫砂入れたら漏れませんか?水分とか・・・」

美鈴「そのためのゴミ袋よ」

 

そうか、なるほど・・・

 

美鈴「猫ちゃんたちが入りやすいように、ひとつの面を3分の1くらいまで破って」

僕「はい・・・雨で濡れたせいで簡単に破れる・・・で、ゴミ袋を・・・」

美鈴「作りながら聞いてちょうだい・・・いいこと、これ以上はもう増やして住まわせちゃ駄目よ」

僕「3人が・・・定員ですよね」

美鈴「そう、これ以上は君が目を光らせきれないわ、何かあったら責任取れないでしょ?」

 

責任・・・責任かぁ・・・僕、雪巳ちゃんとやっちゃったから、責任取らなきゃいけないのかなぁ・・・

ってそういう意味じゃないよこの話は!それに、雪菜ちゃんとも半分やっちゃったし、雪沙ちゃんとも、

って、そんな事考えてる場合じゃない・・・猫砂をどばどばどば・・・こんなもんかな・・・完成だ。

 

母猫「にゃぁ〜〜〜・・・」

 

お、早速やってきて・・・ジャーーーー・・と・・あ、大きいのも・・・

って、じーっと見てたらかわいそうだ。仔猫は・・2匹寝てて、虎猫は新幹線のおもちゃでじゃれている。

 

美鈴「一応、也幸くんは猫ちゃんたちの貰い手が見つかるまでの世話係って事になったわ」

僕「そうだ!猫、どうやって貰い手を捜そう」

美鈴「んー、そうね・・・今はインターネット使えば簡単に見つかるでしょうけど、ちょっと恐いわね」

僕「恐いって?」

美鈴「虐めるために貰ったりだとか、三味線にしたり、動物実験に持ってったり・・・」

 

そんな所へはやれないよ!!

 

美鈴「安心して、ナース時代の同僚とか、治った患者さんとかをあたってみるから」

僕「ありがとう・・でもナースって不規則で家にあまりいないんじゃ」

美鈴「そうね、でもそういう子は2・3人で住んでたり実家から通ったりしてる子も多いわ」

僕「それなら安心ですね」

美鈴「それと患者さんだったら退院したばかりでも、まだ心のケアが必要な人もいるから、アニマルセラピーになるわ」

 

仔猫を1匹1匹チェックする美鈴ねえさん・・・

 

美鈴「この子はメスね・・・この子は・・・」

僕「4匹まとめて貰ってくれる人がいるといいんですけど・・・」

美鈴「難しいわね、多頭飼いはお金もかかるし・・この子はオス・・この子は・・・」

 

色と性別をメモしてる、律儀だ。

 

美鈴「この子はオス・・・え?オス?・・・・・オス???うそっ??」

僕「どうしたんですか?」

美鈴「オス・・・・・だわ、ええ、これは・・・オスね、間違いなく」

 

仔猫のちんちんがそんなに珍しいんだろうか・・・

 

美鈴「・・・ねえ弟クン、この猫ちゃんたち、もし売れたら・・・半分くれる?」

僕「ええっ?売れるんですか!?」

美鈴「売れたらよ・・・売れたらそのお金半分ちょうだい?」

僕「え、ええ、いいですよ・・・でも、普通にそこらへんにいる猫ですよ?」

美鈴「・・・この子たち、勝手に人にあげたり、逃がしたりしちゃ駄目よ?絶対に!!」

 

メモを大事にしまう美鈴ねえさん。

 

僕「あれ?この母猫の性別は調べなくてもいいんですか?」

美鈴「・・・・・君、面白いこと言うわねー」

僕「え?だって・・・・・あ、メスだ」

 

新幹線に飽きた仔猫が僕の背中によじのぼってきた・・・

 

美鈴「也幸くんには良い社会勉強になるでしょ、ここにいる期間は」

僕「あくまでも猫がいる間だけ・・・わかってくれるかな」

美鈴「そのへんのお話はもうしっかりしておいたから」

僕「ありがとう、助かります」

美鈴「大事なお姉ちゃん3人も取られちゃったんだもん、恨まれないようにしなきゃね」

 

立ち上がる美鈴ねえさん、荷物を持って・・・

 

美鈴「じゃあこれで失礼するわね」

僕「え?もう行っちゃうんですか?」

美鈴「ええ、君のお兄さんがお腹空かせて待ってるし」

 

・・・他に色々と美鈴ねえさんに相談したい事あったはずなんだけど、

也幸くんや猫たちの事で貴重な時間を取られちゃった気がする・・ま、いいか、

いつでも相談はできるんだし・・そうだ、これだけちょっと聞いておこう。

 

僕「あの、気になってたんだけど・・・」

美鈴「なあに?」

僕「最近、なんで家に来るときインターフォン押すようになったんですか?」

美鈴「ほら、今はこの家、君だけが住んでる訳じゃないでしょ?」

僕「あ・・・そうか、そんな所まで気を使ってくれて・・・」

 

僕は肩までやってきた仔猫を降ろして美鈴ねえさんを見送る。

 

美鈴「いい?也幸くんにジュースをあげたりする時とかは、飢餓の話と今日の私の言葉、両方頭に置いておくことね」

僕「今日の・・・1人だけ外されたらかわいそう、恨まれる、って話ですか」

美鈴「そう、よーく考えて行動すること。あの子たちは子供だから、君の考え1つで天使にも悪魔にもなるわ」

僕「・・・しっかり覚えておきます」

美鈴「ま、也幸くんを引き取りたい、っていうのならそれもいいけどね、でも現時点で4人は多すぎよ」

 

そう言うと美鈴ねえさんはお風呂場のほうへ行ってみんなに一声かけ、

玄関へ・・・ハイヒールを履いて・・・美鈴姉さんにも色々と心配させてるよな。

 

僕「ほんとにありがとう」

美鈴「そうそう、初島のパンフレット、今度持ってくるわね、近いうち」

僕「はい、手間かけてすみません」

美鈴「いいのいいの、大事な大事な弟クンだから・・・管理人さんに気をつけなさいね」

僕「気をつけます・・・」

 

玄関を開け、くるっと振り返る。

 

美鈴「君とあの管理人さんも紙一重だったりして」

僕「そんな!」

美鈴「ウソよ、さっき言ったこともう忘れたの?何ありきか、よ・・・じゃあね」

 

・・・最後に強烈な言葉を残して美鈴ねえさんは帰って行った・・・

そうだよな、雪香が言ってる援助交際のパパと僕の違いっていうのは、

あの管理人と僕の違いにもあてはまるはず・・・あいかわらず難しいけど、まあ、胸張っていこう。

 

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