僕「足がちょっと痛い・・・」

 

昼下がり、歩いていける距離の本屋から帰ってきた。

昨日のマザー牧場の疲労がまだ足にきているようだ、

まあ、もう1日過ぎればさすがに・・あれ?マンションの前にあるのは・・・

 

僕「えっと・・・雪巳ちゃんたちの弟の・・・雅幸くん、だっけ」

雅幸「・・・・・」

 

口から何か出してる、

細く透明な棒・・これは牛キャンディの棒か?

と、棒だけを抜いて僕に投げつける!ぺしっ、と顔にあたった!

 

僕「こらっ!何するんだっ!」

雅幸「・・・・・お姉ちゃん・・はやく・・かえして・・・」

 

たたたたた・・・

 

逃げてっちゃった。

 

僕「なんなんだ、まったく・・・」

 

エレベーターで家に帰ると、

雪沙ちゃんが廊下をお掃除してる。

 

雪沙「おかえり〜」

僕「ただいま、漫画買ってきたよ」

雪沙「あとでみせて〜」

僕「うん、あと、下で雅幸くんだっけ?会ったよ」

雪沙「またかんしゃくおこしてた〜?」

僕「あ、雅幸くんに牛キャンディあげた?」

雪沙「うん〜、みんなにあげたよ〜?」

 

やっぱりな。

 

僕「弟妹たちの分も買ったんだね、えらいえらい」

雪沙「でも〜、まさゆき、遠足いけなかったから、おこってたよ〜」

僕「ええっ?そうか、同じ学年だもんね」

雪沙「ふんっ、て牛キャンディー取ってったよ〜」

僕「そうか・・・なるほどね・・・」

 

雅幸くん、ちょっと恨んでるんだろうな、

遠足に雪沙ちゃんだけ僕のお金で行けたもんだから。

もちろん恨むのは筋違いだろうけど、小5にそんなのは通用しない。

 

僕「先に部屋で読んでるね」

雪沙「うん〜、おそうじちゃんとやってるね〜」

 

部屋に入ると雪巳ちゃんがおせんべいを咥えながらテレビゲームをやっている。

 

雪巳「ほひーひゃんおひゃえひー」

僕「ただいま」

 

うーん・・・やっぱり子供だ。

間違いなく中学1年生の、お子様だ。

でも・・・おっきな胸と、丸いおしりは立派なんだよなぁ。

 

雪巳「・・・・・」

 

ばりばりと食べながらテレビゲームに熱中してる、

僕が来たからといって顔を赤らめることなく、黙々と・・・

うーん、僕のほうは意識しちゃってるのに、どうして平気なんだろ・・・

 

雪巳「おにいちゃーん」

僕「ん?」

雪巳「このゲーム終わったら、キスしよっかー」

僕「ええっ!?」

雪巳「したくなーい?」

 

まるでキスがテレビゲームの後の別の遊びでもあるかのような発言・・・

なんちゅう・・・雪沙ちゃんがいなかったら、キスどころか「えっちしよー」とか言いそうだ。

 

ぴんぽーん

 

僕「誰か来たから、見てくるよ」

雪巳「んー・・はーい」

 

玄関ではすでに雪沙ちゃんが下のロックを外していた。

 

雪沙「みすずさんだよ〜」

僕「えっ、ほんと?わざわざチャイム鳴らすことないのに、鍵を忘れたのかな?」

 

玄関が開いた。

 

美鈴「こんにちわ、今日は涼しいわね」

雪沙「こんにちわ〜」

 

紫のラフな格好・・・

でも大人の女の人、っていうオーラが感じられる。

 

僕「こんにちは、この時間って仕事の帰りですか?」

美鈴「今日はお休みよ、日曜日ですもの」

僕「あ、そうか、夏休みですっかり曜日の感覚が無くなってた」

 

そうだそうだ、ネズミーランドのお土産を・・・

 

僕「この前のお土産渡さなきゃ」

美鈴「ありがと、はい、これは私から、水ようかん」

雪沙「ありがと〜〜〜」

 

部屋に戻ってネズミーシーの油絵を取る。

 

雪巳「美鈴さん来たの〜?」

僕「そうだよ。美鈴さ〜ん」

美鈴「はいはい、雪巳ちゃんこんにちわ」

雪巳「こんにちわー」

僕「どうぞ、ネズミーの人魚の油絵」

 

ほほえみながら、手にとってまじまじと見てる。

 

美鈴「いいわねー、ありがとう、飾らせてもらうわ」

雪沙「いちまんえんするんだよ〜」

僕「こら、そういう事は言わない!」

雪巳「あー、水ようかんー」

僕「せっかくだから美鈴姉さんも、みんなで今から食べません?」

雪沙「お皿もってくる〜」

美鈴「そうね、ネズミーランドのお話も聞きたいし」

 

4つだけ水ようかんを出して残りは冷蔵庫へ・・・

雪巳ちゃんはネズミーランドのガイドマップまで出して説明している。

 

美鈴「そう、びしょ濡れになっちゃったのね」

雪巳「お兄ちゃん、びっくりした顔でシャツ買いに行ったんだよー」

僕「あれはまいったよ、ああいう商法なのかと・・・」

雪沙「は〜い、おさら〜、すぷ〜ん」

美鈴「ありがとう、いい子ね」

 

水ようかんを食べながら談笑・・・

ホテルパンナコッタでの出来事を雪巳ちゃんに何か言われやしないか心配だったけど、

特にそんなこともなく、話は進んでいった。

 

僕「本当に色々と予約とかしてくれて感謝です」

美鈴「いいのいいの、弟クンたちが楽しんでくれれば」

雪沙「みすずさんは〜、だんなさんといかないの〜?」

美鈴「そうねえ、でも首輪外すの面倒くさいし・・・」

僕「くっ、首輪ぁ!?」

美鈴「あ!・・・な、なんでもないわ、そうだ、そろそろ行かなくちゃ」

雪巳「水ようかんありがとー」

 

・・・・・僕の兄さんは、一体どうなってるんだろう・・・・・

 

美鈴「弟クン」

僕「はいっ!?」

美鈴「絵、車まで運んでくれるわね?」

僕「あっ、はいはい」

雪沙「ばいば〜〜い」

雪巳「さようならー」

美鈴「はい、またね」

 

絵を持って美鈴さんと玄関を出る。

そんなに大きい絵じゃないから美鈴さん1人で持てるはずなんだけど・・・

エレベーターに乗り込むと、きりりとした表情になった。

 

美鈴「どうだった?ネズミーシーでのあの子たち」

僕「はい、それはもう楽しんでくれて・・・」

美鈴「そう、んー・・・そうね、今はね」

僕「え?どういう事ですか?」

美鈴「そうねえ、まあ、ちょっとだけ言いたいことがあるの」

 

エレベーターが1階について駐車場へ。

僕は助手席に乗り込む、でも車はまだ動かない。

 

僕「なんです?」

美鈴「まあ、今はあの子たち、どこ連れてってもらっても嬉しいでしょうけど・・・」

僕「けど?」

美鈴「あの子たちの様子をよく見て、判断することね」

僕「え?まさか・・・あの子たち、嫌がってた!?」

 

まさか!?

 

美鈴「そんな事はないわ、でも、この先はわからないわ」

僕「この先・・・?」

美鈴「まあ、あの子たちは君のお付きだから仕方ない事ではあるんだけど・・」

僕「あんまり連れまわすなってことですか?」

美鈴「ちょっと違うわね・・いい?あの子たちは基本的に君の誘いは断れないの、絶対」

僕「はあ・・・」

美鈴「それが仕事でもあるし、君に嫌われたくないから。言いたいことわかる?」

 

なんとなく、わかる・・・と、軽くうなずく僕。

 

美鈴「あの子たちが喜んだ、じゃあ次はあそこ、その次はあそこ、ってやりたくなる気持ちはわかるわ」

僕「でも、喜んでもらえるなら・・・」

美鈴「喜んでるのは君でしょ?いいこと、あの子たちだって、どこも行きたくない日だって来るわ」

僕「それに、僕の行きたい場所が彼女達の行きたい場所とも限らない、と」

美鈴「そうね、でもあの子たちに断る権利は無い。つまり・・・度を過ぎないこと」

 

そうだよな、あちこち引っ張りすぎても可哀想だ。

 

美鈴「だからといってあの子たちにお伺いをたて過ぎる事はないわ、だって君は世話されてる立場だもの」

僕「また矛盾することを・・つまり、さじ加減ってことですよね?」

美鈴「そうね、だいたいわかってきたわね」

僕「あの子たちにもあの子たちのスケジュールがあるってことですよね」

美鈴「そういうこと。デート申し込む時はちゃーんと相手の事を考えるのね」

 

ふむふむ・・・って!

 

僕「公私の区別が難しいですね」

美鈴「簡単よ、公であり私でもあるって考えればいいの」

僕「・・・・・わっけわかんないや」

美鈴「ま、悩んだら連絡して、またいつでも相談にのってあげるから」

僕「は、はいっ・・・」

 

ようやく車は動き、

僕をコンビニに置いて美鈴ねえさんは去っていった。

 

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