「そうね、日本とはこれでさよなら・・最後に一番欲しかったモノを盗んでね」
「最後に・・あの宝石か?世界最大のダイヤ、ラストセンチュリー!」
カモフラージュって、あの世界一のダイヤよりも欲しいものがあるのか?
スッと腕を伸ばすウインドルージュ、その人差し指の先が僕の顔に・・・!
「君を私のものにするの、フランスまで連れていって、一緒に幸せに暮らすの」
「冗談なんかじゃない・・冗談なんかじゃ・・君を・・・奪うの」
一体どうしたというのだろう・・あのウインドルージュが泣いているなんて・・・
その先には机と・・上に何かの機械がある?レンズがついている・・・?
そこには7年前の、はじめて僕と会ったウインドルージュの姿が!
若い・・小さい・・・でもさすがの反射神経だ・・ビルをよじ登っている・・・
「はじめの半年はママが私の手助けをしてくれたの、撮影係をしながら・・」
鮮やかな手でガラスを割り、催涙弾を投げ入れ、絵画を盗んで・・・
あ、僕がのたうってる、それを見下ろすウインドルージュ、手で「ゴメンね」を作って、
外へ・・・そんな事してたんだ・・・なんだか懐かしい、あの時の事を思い出してきた・・・
場面が変わり、次々と映し出されるシーンに思い出が蘇る、と同時にウインドルージュの
さすが怪盗、いや快盗といった感じの盗みのテクニックに惚れぼれしてしまう、見とれてしまう・・・
「このあたりから私1人で撮影してるわ、このギャング団、憶えてる?」
「あ!うん、ウインドルージュが捕まえてくれた・・・うわっ、ウインドルージュ強い!」
「体育の授業でドジな女の子を演じてたけど、本気出せばプロレスラーだって倒せちゃうんだから」
それはウインドルージュのやってきた事が実はいかに正しいかを物語っている、
犯した事は罪なのだが、このVTRをテレビで流せば日本中がウインドルージュを許せるくらい・・・
そもそもウインドルージュによって縛り上げられた悪い奴も、逮捕できたのは必ず証拠も一緒にあったから、
それはVTRであった事も少なくなかった・・・ウインドルージュへの感謝が次々と映像で蘇ってくる。
「この時も・・それにこの時だって!こんなに・・助けられていたんだ」
自分では気付かない所でもウインドルージュは僕を助けてくれていた、
僕1人の力だったら知らない部分も含めて100回以上は死んでた・・
というよりも僕って、ウインドルージュの正義の足手まといになってる。
寝ている僕の首の両脇に腕を立てて見下ろしてくる・・女の子の髪の匂いが香る。
「ねえ、これだけ見たらわかったでしょう?何が正しくて誰が正義か」
今、僕を真剣な眼差しで見つめている・・・見つめ・・え、え、ええっ!?
丁寧にちろちろと僕の唇の裏を、歯を、そして舌を舐めてくる・・・
まるで楽しむかのように僕の頬をなでなでしてくる・・・あぁ・・・ぁぁぁ・・・
まるで唾液に媚薬でも入ってるような・・本当に入っててもおかしくない・・・
あぁ、もう駄目だ、何も考えられなくなってきた・・・ただわかるのは、相手は、あ・の・ウィンドルージュ・・・・・
ぴちゃ・・ぴちゃ・・・ちゅうっ・・・ぺちゃっ・・・ちゅちゅっ・・・
あとは撮影しているビデオのジーーーッという音と、どこかの水滴・・・
そしてトクッ、トクッ、と早まる僕の鼓動も鳴って・・・熱い・・耳まであつぃ・・・
「ごちそうさま♪君のキス、しっかりとこのウィンドルージュがいただいたわ」
「まだ余韻にひたってるみたいね・・・ほら5年前、君がドジして溺れたとき人工呼吸で・・・」
「あれが私のファーストキス。本当はちゃんとやりたかったんだけどぉ・・・」
「だっ・かっ・らっ!そのお返しに今、唇を奪ったのっ!本当のファーストキスで」
「やっぱり!ということは・・・5年前もファーストキスだったんだよね?」
「つまり君は、このウィンドルージュに2度もファーストキスを奪われたのよ・・・ふふふ」
僕はウィンドルージュを追う事で恋愛なんてしてる暇なかったけど、
その、追いかけていたはずのウィンドルージュに、2度も、大事な大事な
『ファーストキス』を、盗まれてしまった・・・なんだか、謝って損した気分になる。
ハンカチで口元を拭きながら首を振り、髪を後ろへ流すウィンドルージュ。
きらきら輝いて綺麗・・・そういえば追いかけてたときも、あの狐の尾のような髪に
もうちょっとで手がかかる、っていう所まで行った事があったっけ・・・そのウインドルージュと今、こうして・・・
「・・・そう、残念・・・じゃあ、無理矢理奪わせてもらうわ、心も、体も」