「今日はその10年間を清算するの、ウインドルージュと君の追っかけっこを、終わりにするの」

「逃げるのか!・・・今度は、永久に!」

「そうね、日本とはこれでさよなら・・最後に一番欲しかったモノを盗んでね」

「最後に・・あの宝石か?世界最大のダイヤ、ラストセンチュリー!」

「ハズレ、あれは単なるカモフラージュ、本命は別よ、べ・つ」

 

カモフラージュって、あの世界一のダイヤよりも欲しいものがあるのか?

 

「本当の狙いは何だ!!」」

「・・・私の最後にして最大のターゲット、それは・・・」

 

スッと腕を伸ばすウインドルージュ、その人差し指の先が僕の顔に・・・!

 

「き・み」

「ぼ、ぼぼぼぼぼ、ぼっ、僕!?」

「そう、10年間ずっと狙ってた獲物、それが君」

 

ターゲットは、僕ぅ!?

 

「どういう意味だ!」

「君を私のものにするの、フランスまで連れていって、一緒に幸せに暮らすの」

「な・・・何をふざけた事を・・冗談にしては面白くないぞ!」

「冗談なんかじゃない・・冗談なんかじゃ・・君を・・・奪うの」

「?ウインドルージュ・・・泣いてるのか!?」

 

目を伏せ、前髪で表情を隠すウインドルージュ・・・

一体どうしたというのだろう・・あのウインドルージュが泣いているなんて・・・

 

「泣く訳ないじゃないの!」

 

スッ、と僕から逃げるように離れるウインドルージュ、

僕はようやく何とか動くようになった首を曲げて後ろ姿を追う、

その先には机と・・上に何かの機械がある?レンズがついている・・・?

 

「最後に見て欲しいの、私と君の記録を・・・」

 

ポチッ、と機械のスイッチを押すと、

レンズの先から光が伸び、壁を光で照らす、

上の蛍光燈が消され、壁に5・4・3・・と数字が映され・・・

 

「こ・・これは!」

「ウインドルージュの記録よ、7年間の・・・」

 

そこには7年前の、はじめて僕と会ったウインドルージュの姿が!

若い・・小さい・・・でもさすがの反射神経だ・・ビルをよじ登っている・・・

 

「はじめの半年はママが私の手助けをしてくれたの、撮影係をしながら・・」

 

鮮やかな手でガラスを割り、催涙弾を投げ入れ、絵画を盗んで・・・

あ、僕がのたうってる、それを見下ろすウインドルージュ、手で「ゴメンね」を作って、

外へ・・・そんな事してたんだ・・・なんだか懐かしい、あの時の事を思い出してきた・・・

場面が変わり、次々と映し出されるシーンに思い出が蘇る、と同時にウインドルージュの

さすが怪盗、いや快盗といった感じの盗みのテクニックに惚れぼれしてしまう、見とれてしまう・・・

 

「このあたりから私1人で撮影してるわ、このギャング団、憶えてる?」

「あ!うん、ウインドルージュが捕まえてくれた・・・うわっ、ウインドルージュ強い!」

「体育の授業でドジな女の子を演じてたけど、本気出せばプロレスラーだって倒せちゃうんだから」

 

ウインドルージュの視点で撮られた映像・・・

それはウインドルージュのやってきた事が実はいかに正しいかを物語っている、

犯した事は罪なのだが、このVTRをテレビで流せば日本中がウインドルージュを許せるくらい・・・

そもそもウインドルージュによって縛り上げられた悪い奴も、逮捕できたのは必ず証拠も一緒にあったから、

それはVTRであった事も少なくなかった・・・ウインドルージュへの感謝が次々と映像で蘇ってくる。

 

「うわ!これ、このままだったら、僕、死んでた・・・」

「そう、君って結構ドジだから助けるのだって大変だったのよ」

「この時も・・それにこの時だって!こんなに・・助けられていたんだ」

 

自分では気付かない所でもウインドルージュは僕を助けてくれていた、

僕1人の力だったら知らない部分も含めて100回以上は死んでた・・

というよりも僕って、ウインドルージュの正義の足手まといになってる。

 

「・・・わかってくれたかしら」

「あ、ありがとう、何度も何度も・・・」

「本当、大変だったんだから」

 

ウインドルージュも思い出に浸っているようだ。

 

「最後にこれがこの間の事件、これでVTRはお終い」

「うん・・・あ、この部屋の映像になった、僕と君がいる」

「そう、最後だから記念に録画しておくの、これからの事を」

 

ビュッ!と跳び上がるウインドルージュ!

そのまま体操選手のように一回転して僕の真上に被さった!

寝ている僕の首の両脇に腕を立てて見下ろしてくる・・女の子の髪の匂いが香る。

 

「ねえ、これだけ見たらわかったでしょう?何が正しくて誰が正義か」

「で、でも、ウインドルージュは、その、どろ・・ぼう・・・」

 

顔が近づきすぎててドキドキする・・・

決して正体を見る事の出来なかったウインドルージュが、

今、僕を真剣な眼差しで見つめている・・・見つめ・・え、え、ええっ!?

 

「・・・す・き」

 

ちゅううっ、と唇を重ねてきた・・・!!

やわらかい感触、のち、割って入ってくる暖かい舌・・・!

丁寧にちろちろと僕の唇の裏を、歯を、そして舌を舐めてくる・・・

 

ぴちゃ・・・ちゅっ・・・ちゅうっ・・・

 

流れ込んでくる唾液、

丁寧に僕の唇を吸いしゃぶるキス、

みるみるうちに僕の唇・舌・脳髄が痺れて震える・・・

 

「・・・んっ・・・んふ・・・んふふふふ・・・」

 

すっかりとろけてしまった僕を確認したかのように、

くぐもった含み笑いをキスを通して僕の脳へ伝えてくる・・・

まるで楽しむかのように僕の頬をなでなでしてくる・・・あぁ・・・ぁぁぁ・・・

 

「・・・んふ・・・ふふふ・・・・」

「・・・・・ぁ・・・・・ぁあぁ・・」

 

ウィンドルージュの魔法の舌に翻弄されボーッとなる・・・

まるで唾液に媚薬でも入ってるような・・本当に入っててもおかしくない・・・

あぁ、もう駄目だ、何も考えられなくなってきた・・・ただわかるのは、相手は、あ・の・ウィンドルージュ・・・・・

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

ぴちゃ・・ぴちゃ・・・ちゅうっ・・・ぺちゃっ・・・ちゅちゅっ・・・

 

僕の脳にキスのいやらしい音が響く、

あとは撮影しているビデオのジーーーッという音と、どこかの水滴・・・

そしてトクッ、トクッ、と早まる僕の鼓動も鳴って・・・熱い・・耳まであつぃ・・・

 

「・・・・・ぷはぁっ・・・おいしかったっ」

「・・・ぁ・・・あふ・・・あふあふっ・・・」

「ごちそうさま♪君のキス、しっかりとこのウィンドルージュがいただいたわ」

 

奪われた・・・僕の・・・唇を・・・・・

 

「覚えてる?これがはじめてのキスじゃないの」

「え?あ・・・ぁ・・・」

「まだ余韻にひたってるみたいね・・・ほら5年前、君がドジして溺れたとき人工呼吸で・・・」

 

さっき映像で見せられた中にあった・・・

あの時助けてくれたのはウィンドルージュだったんだ・・・

 

「あれが私のファーストキス。本当はちゃんとやりたかったんだけどぉ・・・」

「・・・ぁ・・・ご・・ごめん・・・」

「だっ・かっ・らっ!そのお返しに今、唇を奪ったのっ!本当のファーストキスで」

 

本当の・・・ウインドルージュの?それとも・・・

 

「私の知る限り、君、ファーストキスでしょ?」

「ぁ・・・ぅ、ぅん・・・」

「やっぱり!ということは・・・5年前もファーストキスだったんだよね?」

「そういうことに・・・なる・・・かな」

「つまり君は、このウィンドルージュに2度もファーストキスを奪われたのよ・・・ふふふ」

 

そうなるのか・・・

意識の無い状態で1度、そして意識のある今、さらに・・・

僕はウィンドルージュを追う事で恋愛なんてしてる暇なかったけど、

その、追いかけていたはずのウィンドルージュに、2度も、大事な大事な

『ファーストキス』を、盗まれてしまった・・・なんだか、謝って損した気分になる。

 

ハンカチで口元を拭きながら首を振り、髪を後ろへ流すウィンドルージュ。

きらきら輝いて綺麗・・・そういえば追いかけてたときも、あの狐の尾のような髪に

もうちょっとで手がかかる、っていう所まで行った事があったっけ・・・そのウインドルージュと今、こうして・・・

 

「って、駄目だ駄目だ駄目だ!!」

「きゃ!どうしたの突然?」

 

この、なんだか変に甘い雰囲気に飲まれちゃ駄目だ!

いま、目の前にいる女は、敵でドロボーなんだぞ!?

その、ウィンドルージュに、変にほだされてはいけない!!

 

「ウィンドルージュ・・・お前を、逮捕する!」

「・・・そう、残念・・・じゃあ、無理矢理奪わせてもらうわ、心も、体も」

 

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