「そうだ・・俺は・・俺は・・・ウインドルージュ出てこい!!」
どうやら大きいソファーの上のようだ、そして足元にやってきたのは・・・
あいかわらず前髪で目を隠しているこの女こそ、僕の追いかける宿敵!!
「ああわかるさ、お前の催眠ガスが嫌というほど味わっているからな、ウインドルージュ!」
「ふふ、いつもいつも味わっちゃって、まったく進歩がないんだから」
ガッ、と飛び掛かって捕まえたい所だがその意志に体が反応しない!
くそ・・・薬で力が入らないようにされているみたいだ、目の前にいるというのに何もできない!
「くそっ!逮捕してやる!お前を、どこまでも追いかけて、絶対捕まえるからな!」
「うるさいうるさいうるさい!目的は何だ!僕を人質にして宝石を奪うつもりか?」
「あのねえ、私がそんなセンスのない方法使う訳ないじゃない、怪盗は怪盗らしく颯爽と獲物を奪うの」
甘い女の子の香りがする・・ずっと追いかけてた標的が今、目と鼻の先に・・!
でも、でもいつも、これぐらい近づいてもどうしても捕まえる事ができなかった・・!!
「ああ、これからも追いかけるさ、逮捕するまで何年も何十年も!そのために僕は警官になるんだからな!」
「そう・・残念ね、私は今度でもう、その追っかけっこを終わりにするつもりなの」
「君、事件の推理力は抜群なのに、身近な洞察力がまったく駄目ね」
この顔、どこかで・・?そ、そういえば、いや、で、でも、まさか・・・
そして再び眼鏡をかけると・・間違いない!このそばかすだらけの顔は・・・!!
大学でも同じ講義だなーと思った程度でほとんど話した事などない、
おそろしいほど地味な女の子・・口数も少ないし友達もいなかったと思う、
そんな彼女が、まったく目立たなかった彼女が、日本中を騒がせている義賊だったのか!?
「びっくりした・・・まさか三上さんがウインドルージュだったなんて」
「その様子じゃほんっとおにまったく気が付いてなかったみたいね」
「う、うん・・・まったく・・三上さんいつも一人で勉強ばかりしてて目立たなかったから・・・」
「一応、それなりの認識はしてたみたいね、三上めいに対しては」
「そりゃあ一応、ずっとクラスメイトだったから・・っておい、話をすりかえるな!」
「いいじゃない、もっと話そうよ、学校ではほとんど話できなかったんだから」
「そういう場合じゃないだろ!ウインドルージュ!僕を捕まえてどうするつもりなんだ」
「・・・そういえば私、三上めいより、ウインドルージュとして君と話をした時間の方が長かったかも・・」
「ねえ、私、ずっと君の事を見てたの、本当に気づかなかった?」
「そうだよね、君はずっとウインドルージュばかり見てたから・・・」
「はじめて同じクラスになった時のこと、覚えてる?小学6年生の時・・・
私、無口で人と話すの苦手だから、虐められやすかった・・でも君が助けてくたの、
今でも覚えてる・・・僕は警察官の子供だから、悪い事は許せない!って言って・・・」
同じ小学校だって事すら忘れてた、てっきり中1から同じクラスだと・・・
「嬉しかった・・でも、私、お礼言えなかった・・ただ泣いてただけで・・
そんな私に君はやさしく、声をかけてくれた、虐められないようにするから、
もう大丈夫だから、って・・・後で本当に嬉しかったけど、お礼、ずっと言えなかった・・・」
警察の不祥事が相次いだ時、悪い事をする警官や、悪い奴を逃がしたニュースが重なった時・・・
テレビで君のおじいさんが頭を下げてたのが学校で話題になって・・その時の君、今でも忘れられない」
「その時、警察にもできない事がある、捕まえられない悪い奴がいる、って事に、
本当に悔しそうにしてたよね・・私、なんとかしてあげたくて・・・それがきっかけなの、
私がウインドルージュになったのは・・君のためだったの、君が生みの親なの、ウインドルージュは」
「実は私のママも昔、怪盗紅孔雀って名前で活躍してて、パパと結婚して引退してたの、
そんなママに相談して、私、警察にできない事件を解決する怪盗になるためのノウハウを、
中学時代の3年間、みっちり教えてもらったの、学校では地味でおとなしい少女のままでいながらね・・・」
うーん、そう聞いても、あの地味すぎる三上さんがウインドルージュだなんて、まだ信じられない・・・
「そして高校に入ったと同時にウインドルージュとしてデビューして、
後は知っての通り・・・ウインドルージュでいると日常の時に暗かった私が内に秘めていた物が解放されたの、
まるで別人のように、明るく激しく颯爽と・・まさに三上めいと逆の人間になれたわ、気持ち良かったぁ・・・本当に」
「二重人格とでもいうのかしら?もう、どっちが本当の私でどっちが偽りの私かわからなかった、
私の中ではどっちも私だって言い聞かせたけど・・だって、どっちの私も、君の事が・・・ずっと、君が・・・」
そういえば何度か命を助けられた事もあったっけ、7年の間に・・・
でも、でも僕はそのウインドルージュを逮捕するために、この7年間、頑張ってきたんだ!!
「う・・うそだ!都合の良い嘘を並べるな!絶対、逮捕するからな!」
「・・やっぱりそんな事を言うと思った、君は学校でウインドルージュの事は何でも知ってるって友達に自慢してたけど、
私だって君の事は何でも知ってるんだから、君は7年間ウインドルージュを追っかけていたけど、私にしてみたら、
ウインドルージュは10年間も君を追っかけていたんだから、そう考えると君が勝てるはずないじゃない?そうでしょう?」
そのずっと前から実は追いかけられてた、監視されていたなんて・・・