・・・・・ピチャッ、ピチャッ・・・

 

「・・・・・ん?ここは・・・どこ・・だ?」

 

意識を取り戻しはじめた僕・・

水滴が落ちる音が響いて聞こえる・・

暗い部屋・・真っ暗だ・・起き上がろうとするが・・

 

「う、う、動けない!?」

 

意識ははっきりしだしたのに、

体の感覚も戻ってきたのに、どういう訳か、

腕や体を動かす事ができない!力が入らない!!

 

「そうだ・・俺は・・俺は・・・ウインドルージュ出てこい!!」

 

声が響く・・・すると・・・

 

コツ、コツ、コツ・・・

 

足音が響きながら近づいてくる・・

 

パチッ

 

電気が点けられた、

とはいっても蛍光燈が1本だけ・・・

まだ暗いが室内を照らすにはじゅうぶんだ、

無機質な窓の無い部屋、僕は目線を寝たまま横にする・・

どうやら大きいソファーの上のようだ、そして足元にやってきたのは・・・

 

「よく私がわかったね」

 

オレンジのレオタード、大きいポニーテール、

しなやかな体、ぺちゃんこの胸、乳首のポッチ・・ 

あいかわらず前髪で目を隠しているこの女こそ、僕の追いかける宿敵!!

 

「ああわかるさ、お前の催眠ガスが嫌というほど味わっているからな、ウインドルージュ!」

「ふふ、いつもいつも味わっちゃって、まったく進歩がないんだから」

「うるさい!それより、一体何だ!こんな事をして!!」

 

ガッ、と飛び掛かって捕まえたい所だがその意志に体が反応しない!

くそ・・・薬で力が入らないようにされているみたいだ、目の前にいるというのに何もできない!

 

「何って、そうね、どれから話そうかなぁ・・・」

「くそっ!逮捕してやる!お前を、どこまでも追いかけて、絶対捕まえるからな!」

「捕まえるって、捕まってるのは君じゃないの」

「うるさいうるさいうるさい!目的は何だ!僕を人質にして宝石を奪うつもりか?」

「あのねえ、私がそんなセンスのない方法使う訳ないじゃない、怪盗は怪盗らしく颯爽と獲物を奪うの」

 

腰をかがめて顔を近づけるウインドルージュ・・・

甘い女の子の香りがする・・ずっと追いかけてた標的が今、目と鼻の先に・・!

でも、でもいつも、これぐらい近づいてもどうしても捕まえる事ができなかった・・!!

 

「もう7年にもなるのね、君に追いかけられて・・・」

「ああ、これからも追いかけるさ、逮捕するまで何年も何十年も!そのために僕は警官になるんだからな!」

「そう・・残念ね、私は今度でもう、その追っかけっこを終わりにするつもりなの」

「どういう事だ!!」

「お知らせした通り、引退するの、い・ん・た・い」

 

引退・・・!

信じられない言葉が、

いや、信じたくなかった言葉が、

今、ウインドルージュ本人の口から放たれた、

そう、確かに、はっきりとした口調で、「引退」と・・・!!

 

「なぜだ!なぜ今になって引退するんだ!」

「私、引っ越しをするの、フランスのパパとママの所へね」

「引っ越しだと!?」

「そうよ、最初から大学卒業したら行く約束だったし・・・」

「だ、だいがくぅ!?」

 

ウインドルージュも僕と同じ大学生だった!?

 

「お前は一体・・・何者だ!」

「・・・ついに正体を知らせる時がきたのね」

「正体?正体って、いったい??」

「君、事件の推理力は抜群なのに、身近な洞察力がまったく駄目ね」

「な、なんだよ、どういう意味だ?」

「私・・・こうすればわかるかな?」

 

スッとポニーテールを外し、

どこからか取り出した黒ぶちの眼鏡をかける・・・

この顔、どこかで・・?そ、そういえば、いや、で、でも、まさか・・・

 

「あ、そうそう、ドウラン落とさなきゃ」

 

眼鏡を外しタオルで顔を念入りに拭く・・・

そして再び眼鏡をかけると・・間違いない!このそばかすだらけの顔は・・・!!

 

「お前は、三上めい!」

「ピンポ〜ン♪」

 

三上めい・・・

中学校の時からの同級生で、

しかも大学まで一緒・・!かといって、

親しい間ではない、なぜかいつも同じクラス、

大学でも同じ講義だなーと思った程度でほとんど話した事などない、

おそろしいほど地味な女の子・・口数も少ないし友達もいなかったと思う、

そんな彼女が、まったく目立たなかった彼女が、日本中を騒がせている義賊だったのか!?

 

「ほんとうに・・・三上さんなのか?」

「私は変装も得意だけど、これは素顔よ」

「びっくりした・・・まさか三上さんがウインドルージュだったなんて」

「その様子じゃほんっとおにまったく気が付いてなかったみたいね」

「う、うん・・・まったく・・三上さんいつも一人で勉強ばかりしてて目立たなかったから・・・」

 

ふう、とため息をつくウインドルージュ。

 

「一応、それなりの認識はしてたみたいね、三上めいに対しては」

「そりゃあ一応、ずっとクラスメイトだったから・・っておい、話をすりかえるな!」

「いいじゃない、もっと話そうよ、学校ではほとんど話できなかったんだから」

「そういう場合じゃないだろ!ウインドルージュ!僕を捕まえてどうするつもりなんだ」

「・・・そういえば私、三上めいより、ウインドルージュとして君と話をした時間の方が長かったかも・・」

☆三上さん!?☆

悲しそうな表情をしながら、

眼鏡を外してポニーテールを結び、

ドウランを塗る三上さん、ことウインドルージュに戻った・・・

 

「ねえ、私、ずっと君の事を見てたの、本当に気づかなかった?」

「ええっ!?」

「そうだよね、君はずっとウインドルージュばかり見てたから・・・」

「う、それは・・・」

「顔、赤くして・・本当にウインドルージュが好きなのね」

 

ウインドルージュにそう言われると、は、恥ずかしい・・・

 

「はじめて同じクラスになった時のこと、覚えてる?小学6年生の時・・・

私、無口で人と話すの苦手だから、虐められやすかった・・でも君が助けてくたの、

今でも覚えてる・・・僕は警察官の子供だから、悪い事は許せない!って言って・・・」

 

そんなこと、あったっけ?

というか、彼女が、三上さんが、

同じ小学校だって事すら忘れてた、てっきり中1から同じクラスだと・・・

 

「嬉しかった・・でも、私、お礼言えなかった・・ただ泣いてただけで・・

そんな私に君はやさしく、声をかけてくれた、虐められないようにするから、

もう大丈夫だから、って・・・後で本当に嬉しかったけど、お礼、ずっと言えなかった・・・」

 

前髪で再び目を隠すウインドルージュ、

しかしその目は潤んでいたようだった・・・

 

「その後しばらくして、君も虐められてた時があったよね?

警察の不祥事が相次いだ時、悪い事をする警官や、悪い奴を逃がしたニュースが重なった時・・・

テレビで君のおじいさんが頭を下げてたのが学校で話題になって・・その時の君、今でも忘れられない」

 

・・・これは憶えている、嫌な思い出だ。

 

「その時、警察にもできない事がある、捕まえられない悪い奴がいる、って事に、

本当に悔しそうにしてたよね・・私、なんとかしてあげたくて・・・それがきっかけなの、

私がウインドルージュになったのは・・君のためだったの、君が生みの親なの、ウインドルージュは」

 

え、え、えーーーーー?そんな馬鹿な・・・

 

「実は私のママも昔、怪盗紅孔雀って名前で活躍してて、パパと結婚して引退してたの、

そんなママに相談して、私、警察にできない事件を解決する怪盗になるためのノウハウを、

中学時代の3年間、みっちり教えてもらったの、学校では地味でおとなしい少女のままでいながらね・・・」

 

うーん、そう聞いても、あの地味すぎる三上さんがウインドルージュだなんて、まだ信じられない・・・

 

「そして高校に入ったと同時にウインドルージュとしてデビューして、

後は知っての通り・・・ウインドルージュでいると日常の時に暗かった私が内に秘めていた物が解放されたの、

まるで別人のように、明るく激しく颯爽と・・まさに三上めいと逆の人間になれたわ、気持ち良かったぁ・・・本当に」

 

うっとりしてる・・

本当にウインドルージュでいる時が好きなんだろうな・・・

 

「二重人格とでもいうのかしら?もう、どっちが本当の私でどっちが偽りの私かわからなかった、

私の中ではどっちも私だって言い聞かせたけど・・だって、どっちの私も、君の事が・・・ずっと、君が・・・」

 

まさか・・ウインドルージュは、ずっと僕のために?

そういえば何度か命を助けられた事もあったっけ、7年の間に・・・

でも、でも僕はそのウインドルージュを逮捕するために、この7年間、頑張ってきたんだ!!

 

「う・・うそだ!都合の良い嘘を並べるな!絶対、逮捕するからな!」

「・・やっぱりそんな事を言うと思った、君は学校でウインドルージュの事は何でも知ってるって友達に自慢してたけど、

私だって君の事は何でも知ってるんだから、君は7年間ウインドルージュを追っかけていたけど、私にしてみたら、

ウインドルージュは10年間も君を追っかけていたんだから、そう考えると君が勝てるはずないじゃない?そうでしょう?」

 

そんな・・・ずっと追い続けたウインドルージュに、

そのずっと前から実は追いかけられてた、監視されていたなんて・・・

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