☆怪盗ウインドルージュ☆

 

「こら待てウインドルージュ!」

「待たないよーーだ!」 

☆逃げ☆

オレンジのレオタードがバネを仕込んだジャンピングシューズを弾ませ、

高価な絵画を胸に抱いたまま美術館から逃げていく・・・ポニーテールをなびかせながら・・・

もう、いくら追っても間に合わないだろう、またやられた、また・・・・・

 

「くそー、もう一歩だったのに・・・」

 

もう一歩・・・

こうつぶやいたのはこれで何百回目だろうか、

まるでわざと狙ったかのように、僕の手をすりぬけて逃げる怪盗ウインドルージュ・・・

 

「次こそは、次は絶対に捕まえるからな!!」

 

 

次の日、朝食の時間・・重い食卓、父が新聞を読みながらぼやく。

 

「新聞はまたウインドルージュでもちきりだよ、

予告されていたにもかかわらず盗まれた警察の悪口もいつもの通り・・・

これじゃあウインドルージュ担当刑事として恥だよな、一生懸命やってるのに・・・」

 

渋い表情でコーヒーを口にする父、となりで母もため息まじりに言う。

 

「いつになったら捕まえられるのかしらねぇ・・うちはもうウインドルージュで目茶苦茶よ」

 

こんな憂鬱な朝を迎えるのも何度めだろう・・

僕もウインドルージュ担当刑事の息子として、力になれず情けない・・・

 

「せっかくの日曜なのに、最悪の朝だよ・・」

 

と、そうつぶやいた僕の携帯電話が鳴った、相手は・・・警視総監の祖父だ。

 

「おうお前か、ウインドルージュから謎の箱が警視庁に届いた」

「本当ですか?謎の箱って・・・?」

「とにかく来てくれ、鑑識によると危険物ではなさそうだ」

「わ、わかりました、すぐ行きます!」

「お前の父親も一緒に頼むぞ!」

 

謎の箱・・一体何だろう?

 

「父さん!ウインドルージュから警視庁に謎の箱が!」

「何?よし、すぐ行くぞ!」

「はい!!」

 

今度こそ逮捕してやる!!

 

 

「只今まいりました!」

「おうご苦労、この箱じゃ」

 

警視総監の祖父の前にカラフルな箱が置いてある、

「ウインドルージュより(はぁと)」と書かれている・・・

僕と父は箱をまじまじと眺める・・うーん・・・・・

 

「警視総監殿、この少年は?」

 

祖父のそばの鑑識が僕を不思議に思ったようだ。

 

「おお、君は新人ではじめてだったな、こいつはワシの孫でな、

ウインドルージュ担当である息子を手伝ってもらっておる、

頭が相当切れててな、15の時からウインドルージュの手がかりを助言してくれて、

そのまま7年間ずっと特別についてもらっておる、いわば特別捜査官じゃな、

こいつのおかげでウインドルージュを何度も逮捕できそうな所まで追いつめたんじゃ」

「はっ、お孫さんでしたか、失礼いたしました!」

「なあに、孫といっても春からは大学を卒業して警察学校に入る、

じきに遠慮せずこき使えるようになるから、別に気を使わなくてもよい」

「ウチの息子は今までもこき使ってたじゃないですか、これで気を使ってたんですか?」

「まあな、わはははははははは」

 

祖父に口を挟んだ父とは対照的に箱に集中する僕・・・情報を聞かなきゃ。

 

「鑑識さん、スキャンはしたんですか?」

「はい、中にはぬいぐるみとバネが入っています、あとは紙が」

「紙・・ぬいぐるみ、バネ・・じゃあ、いつもの犯行予告ですね」

 

僕は箱に手をかける。

 

「君!大丈夫かい!?」

「鑑識さん、火薬はなかったんでしょ?ウインドルージュは人を殺しませんよ」

「でも、偽者かも・・・」

「この色の趣味と結び方はウインドルージュです、ほら」

「うわっ!!」

 

びよぉ〜〜〜ん・・・

 

驚く新人鑑識、

箱をスッと開けた中から、

ぬいぐるみが飛び出す、ウインドルージュのぬいぐるみだ、

オレンジのレオタード、ポニーテールの・・手にラブレターを持っている、

それを開いて読む・・・相変わらずかわいらしい文字だ。

 

「明日夜11時59分、宝石・ラストセンチュリーをいただきまあすbyウインドルージュ」

 

ラストセンチュリー?それを聞いて父が驚く。

 

「ラストセンチュリーといえば、先週、日本の宝石店が買った世界最大のダイア!あれをか!?」

「ええ父さん、昨日から一般公開されている、20世紀最後の大晦日に掘り出された世界一大きいダイアです」

 

そんなすごい物を・・今までで最も高価なウインドルージュのターゲットだ、

これをブラックマーケットで売れば人生を5回は遊んで暮らせる・・・あれ?

手紙が・・ウインドルージュの手紙の下の方にまだ文字があるぞ?

 

「PS・これをもってウインドルージュは引退しま〜す♪」

 

い、い、「引退!!?」

 

思わず大声を張り上げてしまった・・・

いつもは冷静なこの僕もこの2文字には驚かずにはいられない・・・

まさか・・間違いじゃないよな、この手紙・・偽物?いや、ウインドルージュ独特の判も押してある、

間違いなく本物・・でも引退だなんて・・信じられない、そんな、突然に・・・

僕は推理をはじめた、きっと何かの罠なのではないか?何かの・・・??

 

「何?ウインドルージュが引退だと!?息子よ、それは本当か?」

「確かにそう書いてはいます、が・・・」

「ほほう、孫よ、疑っておるようじゃな?」

 

引退・・引退・・・でも罠だとしても、どういう理由で・・・!?

 

「しかし息子よ、もし引退が本当なら喜ばしい事じゃないのか?」

「とんでもない!もし本当に引退したら、もう捕まえられないかもしれないじゃないですか!」

「ふむ、孫よ、引退されると確かに困るのう・・お前の警察になる目標がなくなるからの」

「冗談はやめてください!」

「怒るな孫よ・・まあ確かに、ウインドルージュもラストセンチュリーを売れば引退して隠居できるだろうな」

 

隠居!?冗談じゃない!!

 

「ウインドルージュはそんな奴じゃありません!今までウインドルージュのおかげで、

どれだけ悪の組織や腐敗した政治家を暴けたと思うんですか!ウインドルージュの盗みには必ずもっと大きな犯罪のしっぽがある、

単なる泥棒とウインドルージュを一緒にしないでください!今まで盗まれた物も、ほとんどは本来の持ち主に戻されてるじゃないですか!

忘れたんですか?幻の絵画事件や、黄金の招き猫事件の時だって、ウインドルージュの盗みのおかげで・・・!!」

 

ハッ、と我に帰った僕・・恥ずかしい、熱くなりすぎた・・・

 

「ふっふっふ、孫よ、お前がウインドルージュに惚れておるのはわかっておるし、我々も心の中では感謝しておる、

だが、罪は罪だ、それは消えることはない、おおっぴらに盗まれ続けるのも警察の威厳にかかわるからの」

「それは・・わかって・・ますが・・・」

「とにかくこれから対策本部じゃ、お前の知恵をまたぞんぶんに借りるぞ、これが最後と思って頑張ってくれ」

 

最後・・これが・・そんなの、信じられないよ、ウインドルージュ・・・

 

 

 

緊急対策本部での会議は夕方まで行われた、

やはりウインドルージュが狙った宝石店には黒い裏があるようだ、

ラストセンチュリーも海外の貿易会社から騙しとった金で買ったようだし・・・

それにしても、何だってこの時期に引退なんだ?ウインドルージュが?いろいろ推理しよう・・

僕は警視庁からの帰り、いつもの喫茶店に入った、もう電気がついている・・・

 

「ふう」

 

いつもの窓際に腰掛ける・・・

今日はお客さん、他に1人だけか・・

ウエイトレスさんが水を持ってきた・・新入りさんかな?

 

「ご注文は」

「ホットコーヒー」

「かしこまりました」 

 

うーん、かわいい・・

しかも巨乳だ・・・服も胸元が大きく開いている・・

長い髪とおしりをゆらして歩いてる・・見とれてしまう・・・

 

そ、そうだ、推理だ推理!

どうしてこの時期にウインドルージュが引退か、だ・・・

もうすぐ3月、卒業のシーズンではあるけれど・・卒業・・

ウインドルージュがはじめて現れたのは7年前・・・

あの時、ウインドルージュとはじめて会った時にした匂い・・

当時僕らの年代で流行していた香水だった、だから年齢は同じか、かなり近いはず・・・

もし同じだとすると・・・22歳、大学卒業・・・?そんな馬鹿な・・・うーん・・・でも・・・

 

「ホットコーヒーお持ちしました」

「あ、ありがとう・・・」

 

ホットコーヒーを置くウエイトレスさん、

しゃがんだ胸元が僕の目の前に・・開いた中の胸が!でかい!

しかも、ノーブラ!?乳首が見えそう・・め、目が吸い込まれるように・・覗いてしまう・・う?

胸が、巨乳が大きくなってきた?何だ?こ、これは、胸じゃない?え?あれ???

 

プシューーーーー・・・!!!

 

「うわあっっ!!!」

 

白い煙が!

巨乳の中から、こ、これは、この匂いは催眠ガス!?

そうだ!催眠ガスが吹き出してきた!しまった!これは・・ウインド・ルー・・・ジュ・・・

 

「げほげほげほげほげほ・・・」

「ふふふふふ・・・・・」

 

いつのまにかガスマスクをつけているウエイトレス、

しまった、まんま・・と・・やら・・れ・・た・・・・・

☆やられた・・・☆

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