・・・あの時、ようやく私が嫉妬してるのに気づいた・・・ 

エネルギーが残っていたら一緒になってやってあげるべきだった? 

ううん、きっとそれはできなかった・・・ご主人様がルージュにあえがされるのを見て・・・

私は対決しようとせず、エネルギー切れを理由に逃げてしまったのかもしれない、きっとそう。

嫉妬があきらめに変わるのは、もうずいぶんと差をつけられてから・・・ルージュが2回目のヴァージョンアップをしてから。

 

「マスター、どうです?新しいメガネは」 

「うん、ルージュよく似合ってるよ!これでまた機能アップしたんだね」 

「羨ましいです・・・ルージュ、おめでとう、先こされちゃった・・私もすぐに追いつくわ」

「では2度目のヴァージョンアップ最初のお仕事をしますわ」 

「うん、よろしく!あとティア、勉強部屋に置いといた今日のノート持ってきて」 

「はい」 

 

 

廊下をルージュと一緒に歩く・・・ 

 

「そうそうルージュ、昨日の件なんだけど・・・」

「・・・ティアさん、いえ、ティア、はっきりしておきますわ」 

「え!?」 

「ティア、あなたヴァージョンアップキットのメガネいくつ持ってらして?」 

「ま、まだ1つだけど・・・」 

「私は2つよ、これがどういう意味かわかるかしら?」 

「・・・私とマスターの間の子が1人、ルージュとマスターが2人・・・ということ?」

「そうですわ、すなわち私の方が愛されてますし性能も上ですの」 

「そうね・・・」 

「今までは同じ1つづつでしたから先輩をたててティアさんの命令もきいてきましたけど、もう私の方が上ですわ」

「上って・・・」 

「ですからこれからはティアと呼び捨てにさせてもらいます、私の命令にも従ってもらいますから、いいですわね?」

「そ、そうね・・・わかったわ・・・ルージュさん・・・」 

 

 

 

この日から完全にルージュがご主人様を独占してしまった・・・ 

私は雑用ばかりでご主人様の目に付く直接的な仕事は全てルージュがとって・・・ 

いつもご主人様にはルージュがべったりで・・・かと思えばその高性能で重要な作業も高速で終わらせる・・・

しかも甘やかせすぎず、かといって甘えさせる時は骨抜きにするそのめりはりで、 

ご主人様の心はいつしかルージュで埋まっていった・・・でも、今考えるとまだその頃、私には仕事があった、なのに・・・

 

ああ、ここから先は見たくない・・・ 

・・・・・でも、見ないからといって他にする事もない・・・ 

・・・いえ、見ましょう、私の罪の懺悔のためにも・・・・・ 

 

 

 

「ルージュ、ティア、話があるんだけど・・・」 

「何ですの?マスター」 

「何でしょうか、ご主人様・・・」 

「うん、実は、もう1台メイドロボを買おうと思ってるんだ」 

「そうなのですか?それは賑やかになりますわね」 

「そうですか・・・でも、なぜ・・・」 

「その、ティアがさ、いつも忙しくてなかなか姿見られないから、もう1台買えばティアも僕のそばにいられると思って」

「まあ、それじゃあ私、ルージュが働かずにマスターのそばでさぼってるみたいですわ」 

「ち、違うよ!ルージュだって忙しくて、もっと楽させてあげたいから・・・」

「・・・・・ご主人様、ティアは、嬉しいです・・・」 

「それでどこの製品を購入なさるのですか?」 

「うん、マルチメディアのMEC!マニアックタイプのハニィ」 

「ふーん、ちっちゃいタイプですわね、大きい丸メガネにおさげ・・・ロリコンですわね」

「はっきり言うなあ、ルージュは・・・」 

「その、あの・・・」 

「どうしたんだい?ティア」 

「・・・いえ、お、お金とか大丈夫なのでしょうか」 

「大丈夫!ためてたから」 

「マスター、最近一生懸命貯金してたのはこのためだったのですのね」 

「へへへ・・・」 

 

 

 

・・・私は購入を止められなかった、 

もちろん止める権利などなかったんだけど・・・ 

私がご主人様の子供を受胎させて、ヴァージョンアップするまで待って、とは言えなかった・・・ 

後でミュウちゃんにご主人様が話してたの聞いちゃったんだけど、実は貯めてたお金は、 

自力で私のヴァージョンアップキットを買おうとしてのものだった、でも、私があまり側にいれないから、

一時も早く私が側にいてほしいからと、新型を買って私の仕事を楽にさせた・・・そして、ミュウちゃんが来た・・・

 

 

 

「はじめてましてぇ〜、ごしゅじんさまぁ〜、ミュウですぅ〜〜、かあいがってねぇ〜」 

「うん、よろしく」 

「ミュウ、はじめまして、ルージュよ」 

「・・・ティアです、はじめまして」 

「はぁ〜〜い・・・ごしゅじんさまぁ〜、だっこしてぇ〜」 

「ははは・・・はい・・・」 

「すりすりぃ〜・・・すりすりぃ〜」 

「はは、仔猫みたいだ」 

 

 

 

う・・・我慢できない、ここはとばしましょう・・・ 

結局、ミュウちゃんは私の仕事とご主人様の側にいる時間をさらに奪っただけだった、

私もお側にいられる時間は増えたけど、ミュウちゃんの個性が強すぎて霞んじゃって・・・

ルージュはミュウをうまく操っていたわ、元々ミュウちゃんが誰とでも仲良くなれるタイプだったから、

ルージュや私を姉のように慕ってくれた・・・ミュウちゃんはいい子よ、でも、でも、でも・・・・・

 

 

 

「みんな話があるんだけど」 

「あら、何かしら?」 

「なんでしょ〜かぁ〜」 

「・・・はい」 

「もう1台、メイドロボを買おうと思うんだ」 

「まあ、それはさらににぎやかになりますわね」 

「し〜えむでやってるのですかぁ〜?」 

「あの、天仁堂が社運をかけた超格安の・・・!?」 

「うん、キスミィを買おうと思って、あんなに安くて高性能なの、買わない手はないから」

「最近のCM攻勢、すごいですものね」 

「♪やれぇ〜ばやぁるほぉどぉ〜きすみぃしすてむぅ〜♪ぴろぉ〜ん♪」 

「・・・大丈夫でしょうか?あの価格・・・心配です」 

「でも天仁堂だし、ヴァージョンアップキットやキスミィとできるゲームで儲けるつもりらしいから」

「遊戯能力がすごいらしいですわね、でも私のところの最新作『桜合戦59』も楽しいですわよ」 

「ミュウのぉ〜、天外魔人3も面白そうですぅ〜、まだ開発中だけどぉ〜」 

「すごいんでしょうね、私の『どこまでもいっしょ』は単純ですし・・・」 

「ちょっとニュースで見たけど、あのゲームはドキドキするよ!キスミィ買うからね!」 

 

 

 

キスティ・・・さすがは天仁堂の底力を感じたわ・・・・・

 

 

 

「はじめまして♪マスター♪キスティだよー♪いっぱいいっぱい遊ぼうね♪」 

「うん、遊ぼう!みんなの自己紹介は後、とりあえずゲームゲーム!」 

「じゃーん♪これでしょー?セットするねー」 

 

 

 

・・・もう耐えられない! 

ご主人様が他のメイドロボに心奪われていく様子を見るのは・・・ 

いざ、こういう状態になると、あの頃のVTRがこんなにつらいなんて・・・・・

・・・・・そうだわ、最後にお仕事したのVTRを見ましょう、といっても、 

お別れの日のじゃなくって、もっと前の、ちゃんとした形での・・・・・ 

 

 

 

「おーい、ティア!ティアはどこにいるのー?」 

「は、はいはい!すみません、お仕事探してて・・・」 

「ティアはそばにいてくれればいいから」 

「でも、何もする事がなかったので、つい・・・」 

「じゃあ昼食作ってくれる?」 

 

ご主人様と一緒にいたルージュが口を挟む。 

 

「昼食はキスティが今、準備をしてますわよ」 

「そうか、じゃあ夕食を頼むよ」 

「夕食、ルージュに任せてくださいません?自信ありますの」 

「でも、ティアにお仕事作ってあげないと・・・」 

「マスターそんな!私どもも一生懸命働いてますのに・・・」 

 

悲しそうなルージュ・・・ 

 

「あのー、いつもご無理して私にお仕事くださらなくても・・・」 

「無理じゃないよ、今日もティアの夕食が食べたいだけ」 

「でも・・・心苦しいです」 

「・・・・・そう?」 

「はい、あの、お仕事は私たちでちゃんと分担しますから、大丈夫です!」 

 

 

 

・・・そうだったわ、 

あれが事実上、通常での最後のお仕事・・・ 

厳密にいうとこれも通常ではないわね・・・ああ・・・ 

まだまだ時間はある・・・でもVTRを再生できるエネルギーはあと僅か・・・ 

少しでも多くのご主人様の笑顔を再生して・・・心に植え付けましょう・・・ご主人様・・・ああ・・・・・

 

 

 

 

 

ピッ 

2100年6月25日AM5:30

ピッピッ 

SOMY アンドロイド57968−799CSS

ピッピッピッ 

メイドロボ ティアラ

ピッ・・・ピッ 

愛称「ティア」・・ピッ、休眠モードに設定されています

 

 

 

とうとうエネルギーが・・・ 

私の自由に使えるエネルギーが切れる・・・ 

最後に再生するVTRは、どれにしましょう・・・ 

そうだわ、私が購入されてちょうぢ一周年の、 

ご主人様が開いてくださった、2人きりの誕生日パーティー・・・

 

 

 

パァン! 

 

「ティア、おめでとー!」 

「ありがとうございます!」 

「ティアが来てくれて1年間、本当に楽しかったよ」 

「まあ・・・!」 

「これからもずっと続くんだよね?」 

「そうですね、ずっとお世話したいです」 

「はい、誕生日プレゼント」 

「これは・・・最新式のメイドロボ用手袋!」 

「うん、1度しかヴァージョンアップしてあげられてないから、せめて手だけでもって」

「高かったでしょう・・・嬉しい・・・」 

「さ、誕生日のケーキを食べよう!って僕しか食べられないけど・・・」 

「いいんです、ご主人様が食べてくだされば幸せです」 

「じゃあ遠慮なく・・・いただきまーす」 

「はい、めしあがれ」 

「おいしい!!!」 

 

 

 

・・・VTRが止まった。 

 

 

・・・・・ピッ・・・ 

・・・バッテリーが切れました、予備電源を起動させます

・・・・・・・・・・ 

 

 

あああ・・・ 

暗闇の中にご主人様の、 

ケーキを頬張る笑顔が・・・ 

それも、闇に溶けていく・・・ああ・・・ 

これでもう、私は完全に・・・思い出だけで生きていく・・・・・ 

 

 

 

・・・ 

ご主人様・・・ 

ご主人様、愛しています・・・ 

ご主人様を私は、どれくらい幸せにできたでしょうか・・・ 

ご主人様が幸せでいるために私が収納されてしまったというのなら、 

ご主人様のために、私は喜んで暗闇に閉ざされ、ご主人様の幸せを祈っています・・・ 

 

ご主人様、お体を壊していませんか? 

ルージュを怒らしたりしていませんか? 

ミュウちゃんはあいかわらず可愛くしてますか? 

キスティの最新ゲームは満足なされていますか? 

私には、もう何もお世話する事ができません、もう何も・・・ 

 

次にお会いするご主人様のお葬式・・・ 

ちゃんと老人になられて、幸せそうな笑顔で息をひきとってたらいいな・・・ 

早く会いたい、なんて思いません、長生きしてくださいね、そして最後に、 

ご主人様の棺に私が入って電源を切られる瞬間に・・・私はご主人様に、最後のわがままをしたいと思います、

頬にキスを・・・その最後のわがままを、ご主人様は許してくださいますよね?

 

私は、ご主人様のために生まれた・・・ 

ご主人様を私の手で幸せにできたと胸を張れるのは1年だけ・・・ 

でも、その後もルージュたちが幸せにしたんですもの、あの1年で私はじゅうぶん・・・ 

・・・・・なんて思わない、もっと、もっとお使えしたい!ご主人様に会いたい! 

何もできなくても、ご主人様の側にいて、もっともっと、ご主人様の、笑顔を見たい!!! 

 

あああ・・・あああああ・・・・・ 

涙ももう出せない・・・枯れはてて・・・ 

ご主人様・・・私のこと・・・忘れちゃうのかしら・・・ 

そうよね・・・5人目を購入する条件で私がこうなったんですもの・・・ 

どんなロボか知らないけど・・・よろしく頼むわね・・・ご主人様を・・・・・

 

 

 

 

 

ピッ 

2100年8月2日AM5:30

ピッピッ 

SOMY アンドロイド57968−799CSS

ピッピッピッ 

メイドロボ ティアラ

ピッ・・・ピッ 

愛称「ティア」・・ピッ、休眠モードに設定されています

・・・予備電源発動中です・・・ 

 

 

 

ご主人様・・・ 

・・・・・ご主人様そんな、駄目です、 

トマトを粗末にしちゃあ・・・でも私も投げちゃお・・・ 

・・・うふふふふふ・・・ご主人様ったらあ・・・もう・・・ 

・・・・・ああ、ご主人様・・・キス・・・してください・・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・ 

・・・・・・・・ 

・・・・・・・・・・ガコッ 

 

 

 

・・・? 

 

 

・・・ガコガコッ・・・ 

 

 

ピッ 

2100年8月2日AM8:56

ピッピッ 

SOMY アンドロイド57968−799CSS

ピッピッピッ 

メイドロボ ティアラ

ピッ・・・ピッ 

愛称「ティア」・・ピッ、休眠モードに設定されています

・・・仮休眠モードに切り替わりました・・・ 

 

え、何?何? 

目が開く・・・視界が開けていく・・・・・

 

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