朝がきてしまった・・・

日は昇りはじめ、愛しいお方もそろそろ起きる頃だ・・・

私の胸の中でモゾモゾしはじめている・・・目をあけた、気がついたようだ。

 

「起きたか・・・おはよう」

 

目をパチッ、パチッ、とさせている、

いま置かれている状況がわかっていない様子だ。

 

「ハプニカ様・・・ですか!?」

 

顔を上げ、目を擦っている・・・

じーっと私を見つめて・・・そんな目をされると、照れてしまう。

 

「よく眠っていたぞ、そなたの寝顔・・・ずっと見つめてしまったではないか」 

「こっ、ここは・・・!?」 

「見つめて・・・そなたの顔があまりにも愛しいので、つい、抱きしめて、そのまま私も寝てしまった」

「あ・・・そんな、ここは・・・ハプニカさまの、ベッド!?」 

「どうしても我慢できなくて・・・なあに、添い寝させてもらっただけだ」 

 

そう、あくまでも添い寝をさせてもらっただけ・・・

私のほうは情熱を抑えるのに必死だったが、このお方の体に直接何かした訳ではない、

もっとも、明日も同じように添い寝したら、煮えたぎるこの想いを抑圧しきれるか自信はないが・・・

私の胸にとろける愛しい人、そのような事をされては胸が熱くなってしまうではないか・・・

今日の仕事など、闘技トーナメントなど忘れて、このままでいたい・・・ずっと・・・

 

「ハプニカ様・・・」 

「ん・・・まどろむが良い・・・いつまでもこうしていていいのだぞ・・・」 

「は・・・ハプニカ様・・・そんな、俺・・・・・」 

 

離したくない・・・

きゅうっ、とさらに抱きしめる・・・

身も心も包んで、私だけのものにしてしまいたい・・・

 

「ずっとこうしたかった・・・そなたと・・・」 

 

やさしく後頭部をなでると、

気持ち良さそうに顔を摺り寄せてくれる・・・

ポン、ポン、と軽く髪をなでると、力が抜けてさらに私の胸へ身を沈めてくれた・・・

 

「・・・昨日はどこへ行っていたのだ?心配していたぞ・・・」

 

まあよい、今日こうしていてくれるならば・・・

そうだな、今日こそは離すまい、いっそこのままの姿勢で闘技場へ・・・

ん?なんだ?急に部屋中を見回して、何を探しているというのだろうか?

 

「どうしたのだ?きょろきょろと」 

 

・・・視線が止まった、その先にあるのは、時計だ。

とたんに表情が焦りに変わり、私の胸から逃げるように飛び上がった。

 

「すいません、これから行かないと」 

「どこへ行くというのだ?」 

「実は・・・闘技トーナメントに参加してる騎士をコーチしてあげていて」 

「ほう、それで昨日はあんなに疲れていたのか」 

「はい、もうすぐ彼の試合なので行ってあげないと・・・ですから下で観戦していますから」 

「その、そなたがコーチしている騎士の名は?」 

「ひ、秘密です、絶対に!それでは失礼します!!」 

 

パンツ1枚で部屋を出て行ってしまった・・・

こうもあっさり逃げられると、余韻も何も無いではないか・・・

私は空しさに包まれながらベットを降りる、目頭が熱くなってきた・・うっ・・・

 

「想い描いていた今日の予定が・・・台無しであるな」

 

まあよい、良い目覚ましになったと考えよう・・・さて・・・

 

コンコン

 

「入るが良い」

 

入ってきたのは親衛隊の4姉妹だ。

 

「おはようございます、いかがなされましたか?」

「凄い勢いで出ていかれましたがー」

「捕まえて、連れ戻してきましょうか」

「朝食はー、いかがなさいますかー」

 

・・・・・4人揃っておる、

それはいつもの事だが今日に限っては・・・

 

「あのお方はそのままにしておいて良い、それよりレン」

「はい〜っ!」

「今日は大事な闘いではないか、なぜここにいる」

「試合はぁ、1時からなのでぇ、今はハプニカ様のお世話ですぅ」

「しかし準備が・・・」

 

ララが前に出た。

 

「ハプニカ様、レンは重々承知しております、

そのうえで、レンがこの時間まで、と決めた所まで、

いつも通りにやらせていただきたいのですが」

「ふむ・・・心配無用という訳か」

「はい、私達も妹を、レンを信頼していますゆえ」

「そうとまで言うならわかった、優勝を過信している訳でもなさそうであるしな」

「逆にあまり長く精神統一しますとプレッシャーになるかと」

 

絶対に優勝しなくてはならない、という事を踏まえての行動なら、私の口も挟む必要は無いであろう。

 

「わかった・・・レン、すまなかった」

「いえ〜、それで朝食は〜」

「ふむ・・・そういえばもう1回戦の始まる時間であるな、リリよ」

「はいー、1度お呼びに来たのですがー、お邪魔のようでしたのでー」

「ん?・・・・・ああ、そういう事か・・・確かにな」

 

あのお方を胸で甘い抱擁しておったから・・・

確かに邪魔されたくなかった、それを見て気を使ってくれたのであろう。

 

「今から行けば間に合うが・・・ララ、食事はどうしてある?」

「はい、中央闘技場でも、お城の食卓でも食べられるよう準備してあります」

「・・・1回戦を見なければ次は11時か、ゆっくりできるな・・・」

「中央闘技場は今、スロト様がとりしきっています、心配はないかと」

「まあ、そうであるな、忙しくなるのは目に見えているゆえ、少しはスロトに任そう」

 

その方がスロトも私が少しは信頼している事をわかってくれるであろう。

 

「なら慌てることもないな・・・ゆっくり朝食を取らせてもらう」

「では着替えさせていただきます」

「うむ・・・」

 

親衛隊が4人がかりで私の服を着せる・・・

私があのお方と結ばれたら、私もあのお方に服を着せたい。

いや、服を作りたいし、料理も・・・学ばねばならぬであろうな、これから。

 

「明日から、私に料理を教えてもらえまいか」

「私どもが・・・ですか?」

「かまいませんがー、でもなぜ急にー・・・」

「ハプニカ様ならすぐに覚えられると思います」

「まずはぁ、いっしょに作りたいですぅ」

「そうだな・・・レン、1から教えてもらうぞ」

 

着替えが済み食卓へ行くと、

先にミルが朝食をとっていた、

弟子の魔道士にミルクをつがせて・・・

 

「お姉さまぁ、おはよぉございますぅ」

「ああ、おはよう・・・ミルもいつもと変わらぬな」

「いつもと同じほうが、いつもと同じ力を出せるからぁ」

「うむ、いつもの力なら優勝は間違いあるまい・・・今日はレンの補佐、任せたぞ」

「レンちゃんなら大丈夫ぅ、ねー」

「うんー!ねー」

「そうかそうか、良き事だ」

 

相変わらずレンとミルは双子のように仲が良い、

やはりこれも血の引き合わせなのであろう、意識せずとも・・・

ミルが騎士であればミル専属の親衛隊としてレンをつけても良い所であったが、

レン自身は4姉妹の結束を優先するであろうし、私もレンは惜しい。

まあ、ミルにはすでに200人もの弟子がいるゆえ、今必要なのは親衛隊よりも親友だ。

 

「レンとミルは本当に良き親友同士だな・・・」

 

温かいスープと新鮮なサラダが運ばれてきた、

リリが紅茶をそそぐ・・・できればあのお方と一緒に食べたかった・・・

 

「ミルよ、明日の夜、久々にあれの続きを教えて欲しい」

「続き・・・わかりましたぁ」

「うむ、できれば毎晩教えて欲しいところだ」

 

最近はあまりしなくなったが、

私はミルから編み物を教えてもらっていた。

戦場で暇ができたとき、ミルから教わった精神統一方法だ、

しかし、今は目的が違う、愛しいあのお方に私の編んだ服を、

マフラーを身につけていただきたい・・・ダルトギアの冬は厳しいからな。

 

「ララ・・・お前達はもう済ませたのか」

「はい、いつも通り」

「うむ、では食べ終わったら闘技場へ直行するぞ」

 

 

 

 

朝食が終わり城から闘技場への通路を歩く、

ここから先は闘技場だ、そして私が座るのは国王の天覧席・・よって・・・

 

「レン、お前はここまでだ」

「はい〜、がんばってきますぅ〜」

「お、ミルが迎えに来たようであるな」

「では〜、昼食まで稽古してまぁす」

「そうだな、昼食は他の参加者と同じように闘技場の控え室で食べるのであったな、行くがよい」

 

一礼し、城の庭で待つミルの方へ行くレン・・・

3回戦からか、しかし私が直に見るのは確か4回戦から・・・

楽しみだ。さて、急いで行かねばなるまい、本来なら1回戦からずっと闘技場に張り付いてなくてはいけないのだからな。

 

「・・・・・ララ、オッズはどうなっておる」

「最終締め切りで、1.3倍になっております」

「ふむ・・・それは上がったな」

「何でもヴェルヴィ殿とF・マリー様に・・・」

「あやつはマリーで良い、そもそもFを付けるのは

ベルマリーと区別をつけるためだが、それぐらい私もわかっておる」

「はい、それで、ヴェルヴィ殿とマリーに大量の掛け金が・・・」

 

・・・・・きな臭いな。

 

「・・・ルル、伝言だ、レンに昼食を気を付けるようにと」

「わかりました」

 

引き返して走って行くルル。

 

「ミルがついておるから、大丈夫とは思うがな・・・」

 

直感的に嫌な予感がした、

具体的にはわからぬが、こういう予感は注意するに越したことはない。

敬礼する衛兵に手を挙げ、闘技場の階段を上がる・・・上がる・・・入る・・・

 

「2回戦まであと30分程か・・・ん?」

 

スロトが何やら僧侶服の少女と話をしてい・・・追い返した、

少女は心配そうに何度も何度もスロトを振り返りつつ、出て行った。

 

「スロトよ、ご苦労」

「っ!!・・・ハプニカ様!ややっ!これはこれは」

「どうした、何をうろたえておる」

「いやその・・・心配しておりましたぞ、お見えにならぬゆえ・・・」

「すまない、それより今の少女は?」

 

汗をふくスロト。

 

「はっ、本大会の治療係の1人、僧侶のシャクナでありますぞ」

「その僧侶がなぜここへ?ここまで通されて来たにはそれなりの訳があるであろう」

「それがですな・・・何やら不穏な人物がこのトーナメントに参加しておるとか・・・」

「不穏?どんな奴だ?」

「それを今から部下に調べさせようかと・・・」

「ふむ、しかし参加者はお前が全て選んだはずであるぞ」

「確かにそうですが、2枠ほど、私の目が届かない場所がございまして・・・」

 

目が届かない?

・・・・・ああそうか、予選枠があったな。

 

「予選の勝者か・・しかし予選参加の上位もスロトが決めたのではないか?」

「そうでございますが、予想外の参加者が勝ち進んでおりまして」

「・・・・・まさか、早い段階から勝ち進んだのか?」

「おそらくそうかと・・・それをこれから調べる所でございます」

「よし、では私が直接・・・」

 

血相を変えて立ちはだかるスロト!

 

「お待ちくだされ!ハプニカ様は予定通り、闘技場の天覧席へ!」

「・・・しかし、不穏と聞いては・・・」

「それを調べるのが私の役目!ハプニカ様は国民を心配させぬためにも席へ!」

「・・・・・そうだな、わかった、ではとりあえずスロト、お前に任そう」

「ララ様、ハプニカ様を、お頼み申しますぞ」

 

敬礼して出て行った、

はりきっておるのか?

私を守ろうと必死になってくれている、と思おう。

 

「ララよ・・・どう思う」

「情報不足ですわね、こういう時はルルあたりに情報捜索へ行かせたい所ですが」

「うむ、しかしここはスロトに任そうと思う、なあリリよ」

「はいー、逆に今はハプニカ様のー、警護をしっかりしないとー・・・」

「そうだな、本来なら親衛隊4人揃って守らせたいが・・・3人で何とかしよう」

 

言っているそばからルルがやってきた。

 

「レンとミル様に伝えてきました」

「ご苦労であった、あの2人ならよほどの敵でなければ大丈夫だと思うが、

強力な毒を盛られでもするとやっかいだからな、ミルの解毒魔法があるとはいえ」

「はい、回復魔法だけではなく攻撃魔法もミル様は強力ですから」

「ではルルよ、ララ・リリと共に私の警護についてほしい」

「・・・わかりました」

 

キリッと表情が変わるルル、

私も事がはっきりするまで用心せねばな・・・

厳重に警備された国王専用控え室を通り国王が座る天覧席にきた、

私の姿を見かけた国民が立ち上がって拍手を送ってくれる、

それに腕を上げて応える・・・応える・・・応える・・・よし、もういいだろう、座ろう。

 

「ハプニカ様」

 

やや年配のメイドが深く頭を下げながらやってきた。

 

「ん?お前は確か・・・」

「メイドのペネルクでございます、今大会、中央闘技場のメイド長をさせていただいておりますわ」

「おお、そうであったか」

「お飲み物等、御用がありましたら・・・」

「うむ、そうだな、まずは・・・」

 

朝食を食べたばかりであるからな・・・

 

「紅茶などはまだ良いから今のトーナメント表を持ってきて欲しい」

「かしこまりました」

「トーナメント表でしたらここに・・・」

「ララ、これは古い、私は今のが欲しい」

「失礼いたしました」

 

・・・まわりを見回すと衛兵の警備は万全・・・

このような状態で私を狙う事は考えにくい、

不穏な人物が取り越し苦労であるといいが・・・

 

「・・・・・あのお方が心配だ」

「私も同じ事を考えておりました」

「私もですー」

「私も」

「やはりな、ララリリルルがそう言うならレンも同じであろう」

 

そういえば、あのお方は誰かのコーチをしていると・・・

 

「お持ちいたしました」

「ベネルクご苦労・・・ふむ・・・負けた者には線で消してあるな」

 

私がこれから観るのは・・・いや、それよりも・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・あった、こやつか、予選Bの位置のトレオ・・・

 

「このトレオという人物、ララは知っておるか?」

「いえまったく存じません・・・リリは?」

「記憶にありませんー、まったくー・・・ルルはー?」

「少なくとも面識はないはず、レンは・・・レンも知らないと思う」

「うむ・・・ひょっとしたらこのトレオというのは・・・」

 

あのお方が1からコーチした・・・?

 

「・・・騒がしいな、おお、選手が入ってきたか」

 

ステージの下で待機する女戦士2人、

それだけで会場がおおいに沸く、

この中央闘技場は他の闘技場が1箇所に5つステージがあるのとは違い、

大き目のステージが1つあるのみ・・・その分、選り優りの対戦カードが用意してある、

戦士の戦う姿も他の闘技場より近く見えるがために人気があり、選手の声も客の声援もよく響く。

 

「マルカとキトの闘いか、キトはよく覚えておるぞ」

 

確か攻撃魔法と剣の両方ができる二刀流・・・

本大会は試合後の治療以外、魔法禁止なゆえ剣のみの力を試される。

もし魔法も許されていたなら、キトは3回戦シードの実力であっただろう。

 

「マルカは・・・名前だけは覚えておるが・・・ララ」

「はい、マルカ家の1人娘で・・・あちらをご覧くださいませ」

 

審判に呼ばれステージに上がる2人、

キトではない背の低い方、つまりマルカであろう、

体の倍はあろう大きさの剣を軽々と手にしている。

 

「おお!思い出したぞ、小さな体で大きな剣を振り回す少女であったな、

確か前大会にも・・・ルル、覚えておるか?ルルと対戦した相手であったか?」

「いえ、前回は確かにここで闘っていましたが2回戦で負けたため私とは戦っていません」

「そうか、ルルは3回戦シードであったからな」

「それに・・・マルカは今は22歳です、もう少女じゃないです」

「うむ、そうか、背が低いと少女に見えてしまうものだ、マルカに失礼であったな」

 

ゴーーーーーーン!!!

 

話しこんでいるうちに開始の銅鑼が鳴った、

マルカが巨大な剣を振り回すとキトはそれを避け続ける、

そして逃げながらも剣を出すが、絶えず攻撃しているマルカの剣が、

自動的にキトの攻撃を守る盾となり弾き続ける、マルカにとってあの剣は、

最大の攻撃であり、最大の防御でもある・・・ああなると体ごとぶつかれば良いので楽ではあるが・・・

 

「ちと深追いが過ぎるようであるな、リリはどう思う」

「マルカを倒すのはむずかしくてもー、勝つのは容易いですー」

「そうだな・・・そら見たことか」

 

勢い良く突進してきたマルカをキトが引き付けてサッと交わすと、

マルカは勢い余ってそのまま場外に落ちてしまった、ステージから落ちた時点で失格だ。

 

「そこまで!勝者・キト!!」

 

歓声が勝者をたたえる!

マルカは・・・一礼してとぼとぼと帰って行く。

 

「マルカは前回もああであったか?ララよ」

「前回は逃げられ続けて疲れた所を足払いされて・・・」

「そうか、なら今回はその焦りもあったのかもな」

 

客が一斉に退いていく、

それもそのはず、3回戦までの間は昼食を挟む、

皆、早く済ませようと食堂や弁当に殺到しておるのだろう。

 

「さて。私はゆっくりしておれぬ・・・スロトはまだか」

 

とりあえず席から室内へ戻ろう。

 

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