しかし、これほどまでに飛ばして良いのであろうか、このままでは互いに潰れるのではないか?
それが蓄積されれば、ただでは済まない・・・本当にこのまま続けて良いのか?
客は、国民は喜んでおるが、これ以上のエスカレートはいかに信頼している親衛隊であろうと・・・
リリもルルもまったく退く様子は無い、姉妹といえど互いに譲れぬ意地があるであろう、優勝した・・・
もう十分であろう・・・しかし、どうやって・・・私が降りるか・・・
2人の剣が互いの喉を指した所で止まり、降ろして互いに深く礼をする。
・・・時計は5分しか経っていない、そうか、5分勝負であったか、ならば初めから飛ばしたのも当然だ。
「以上、リリ様・ルル様による、特別演舞でした!盛大な拍手でお称えください!!」
ワーワーワーワーワーワーーワーワーワーワーワーワーーー!!!
エキジビションであるから勝敗をつけるまでサービスする必要はない、
勝者が出てはどちらかの過去の優勝に傷がついてしまう、さらには、
ここで試合を成立させ、完璧な闘いを見せ終えてしまっては、明日の決勝戦を闘うレンとその相手に失礼だ。
「はい、しかしリリもルルも5分以内に決着をつけるつもりで闘いましたわ」
「はっ、演舞が終わりまして、ハプニカ様から直々に明日の組み合わせ発表でございます」
そう、本戦のトーナメントは前日夜に国王が自ら発表し翌朝に配られる、
国王が発表するということによりトーナメント組み合わせに誰も文句を言わせぬためだ。
明日の朝配られるといっても、本戦参加者にはもう配り終えている頃であろうし、
気の早い者は私の発表の直後にそれを記録して配りはじめる者もいる・・新聞社などそうだ。
まあ、一種の儀式のような発表であるから、何も目くじら立てる事はないのだが・・・
問題は・・・80名もの名前を大声で読むのが面倒な事くらいだ。
「・・・そして最後にルックス、ツクネンの勝者と予選B、ダバダの勝者が闘い、
さらにその勝者がヴェルヴィ殿と闘う、これが16ブロック目である!!」
「この闘いは長き大戦が終わった記念である、祭りである!皆もそれを忘れぬように!では明日、ここで勇者を待っておるぞ!!」
「いや、あれで良いのだ、結末を見せるのは贅沢すぎる、なあララよ」
「私もリリ姉さんに洗ってもらいました、試合が終われば姉妹に戻りますから」
「はっ、そろそろ予選の終盤を見届けに行かなくてはなりませぬので、これにて・・・」
まあよい、それより私には、しなければならぬ事がある、もっと大事な、大切な・・・
我が国や周辺国から招待した来賓・貴賓の者に、あのお方を紹介したい。
はっきり「私の夫となる・・」と言わずとも、これで既成の事実を作ってしまうのも悪くないからな。
体を早く休めておいた方が良いからな、夕食も先に終わらせているであろう。
城へ入る門の前に、私の姿を見るや馴れ馴れしく声をかけた男・・・
誰であったか・・・そうだ、この男、私の記憶に間違いがなければ・・・
「ハプニカ、あいかわらず美しい・・年月を経て、さらに美しくなったな」
「おお、今は女王であったの、ではこれから私の王妃・・・ということで良いか?」
「ハプニカ、何をふざけているんだ、私とハプニカはフィアンセではないか」
「待てターレ、私はそんな約束をした覚えは・・・・・・・・・・・・・・・・あるな」
「では決まりだ、ハプニカ、早速パーティ会場で皆に報告を・・」
「待て!何か違う!何か・・・・・そうだ、あれは・・・戦が始まる少し前だ・・・」
「そうか、ターレ公爵、そなたが父上の選んだ、私のフィアンセか・・・」
「国王であるジャイラフ様の命令は絶対・・だが私は喜んでハプニカを嫁に貰おう」
「・・・しかし兄者の結婚が決まってからでなければ、私が先に嫁ぐ訳には行くまい」
「ジャヴァー王子にもすでに5人のフィアンセがいると聞いている、時間の問題ではないか」
「何を焦っておられるのだ?父上の命令は絶対である以上、私は逃げはせぬ」
「そう申されてもターレ公爵とは年に1・2回しか・・・それに・・・」
「いや・・・どうも戦の匂いが近づいているらしい・・・敵はわからぬが・・この国を守るつもりだ」
「ハプニカは闘う必要など無い!もし戦になったら私と山奥の別荘で過ごそう」
スバランの木の事は王家以外には秘密であった、ターレ公爵はまだ皇族外だ。
「いや、隠れるなら一緒だ、ハプニカ、戦の前に婚姻を済ませよう」
「そ、それは・・・私は、フロン家を守るために、誇り高きフロン家を後世に残すために・・・」
「・・・・・・・わかった、しかし兄者が結婚して王妃を手に入れてからでなければ嫁ぎに行くことはできぬ」
「ああ、何なら父上にお願いしてみるが良い、私と同じ事を言うと思うが」
結局、その1ヵ月後に戦が始まり、ターレ公爵は山奥の別荘へ避難した。
私は国を守るために闘い、そして世界を守るために国を出て、そして父と兄をこの手で・・・
ようやく思い出した、今まで忘れていたのも無理はない、今日こうしてやっとターレ公爵と再会したのだから。
「待て!待て待て・・・今は事情がずいぶんと変わっているではないか」
「うむ、ターレ公爵、時間がないので続きはあらためて話合おう」
「そなたは貴賓控え室で待っておれ、勝手なことを言いふらすでないぞ」
明日の闘技会参加者であるため、不正防止もあってパーティーに参加させられぬ・・・
「明日のトーナメント、レン様への掛け金が1.0倍になっております」
「それがどうした・・・そもそも伝統とはいえ本戦の賭博に私は乗り気ではない、そなたがどうしてもと・・」
「大事な復興資金でありますぞ!それで明日朝締め切りまでに1.1倍になる可能性が・・・」
あのお方がパーティーに来れなかったうえに、ターレ公爵が私のフィアンセだと触れ回ったおかげで、
それをいちいち打ち消して回るのに・・・あまりのいらつきに足をカツカツ鳴らす、頬杖をつく・・・
「はっ!今、投票を打ち切ればレン様勝利の場合、レン様以外への掛け金が全て回収できますぞ」
「明日の朝まで待つと1割、支払う可能性があるから打ち切れというのであるな?」
「しかしハプニカ様、闘いに細工する訳ではなく、これはあくまで収入を・・・過去の大会でも前例が・・・」
しかし不正はいかん、国民を騙すような事をしてはいかんだろう。
・・・私が個人的に、レンに100口賭けているから、配当が増えるのを待っているのではないぞ!
「心配であるな・・・10時まで待って、来なければ探しに行ってきて欲しい」
「では10時過ぎまであのお方の部屋で待機して、いらっしゃらなければ街まで・・・」
「・・・いや、私の部屋の方がいいな、その方があのお方も話し易いであろう」
「・・・・・いや、無理に連れてくる必要はないぞ、疲れていたりするなら・・・」
「いや、待て・・・疲れていたら、その・・・眠ってから、連れてきて・・・欲しい」
いらいらしすぎて、訳のわからぬ事を・・・眠ってから連れてこい、と・・・
汗が出てきた、風呂に入ろう・・・しまった、親衛隊を皆、あのお方のほうへ回してしまった、
1人で入るのは無用心・・・だが、私が1人で入っている最中にあのお方を親衛隊が風呂に連れてきたら・・・
あのお方の風呂は私と同じ皇族用を使うように言ってある、もし、もし一緒に入ることになったら・・・
それはそれで良いではないか、い、いや、ならぬ、か・・・胸の鼓動が早くなってきた・・・よし・・・風呂に・・・入ろう・・・