「ハッ!」「ハァッ!!」

 

銅鑼の音と共に2つの影がぶつかり合う!

 

カキィン!ガシィン!カッシャーン!!

 

まさに本気の攻防・・・

命の奪い合いと言っていい、

渾身の闘いが繰り広げられている。

 

「ヤァッ!!」「ンアッ!!」

 

シャィーン!キンッ!ぶんっ!キンキンッ!!

 

手に汗握る、隙の無い攻め合い・守り合いに、

観客も目と心を奪われている、もちろん私でさえも・・・

しかし、これほどまでに飛ばして良いのであろうか、このままでは互いに潰れるのではないか?

 

ガシッ!!ガリッ!!ギギギッ!!!

 

剣が互いの防具に当たりはじめた、

手加減抜きでやっているため、ダメージも受けているであろう、

それが蓄積されれば、ただでは済まない・・・本当にこのまま続けて良いのか?

客は、国民は喜んでおるが、これ以上のエスカレートはいかに信頼している親衛隊であろうと・・・

リリもルルもまったく退く様子は無い、姉妹といえど互いに譲れぬ意地があるであろう、優勝した・・・

 

「はぁっ、はぁっ・・」

「ん・・んんっ・・・んんん・・・」

 

ガキッ!ジャインッ!ズシャッ!!!

 

・・・・・やはり、良き所で止めねばなるまい、

もう十分であろう・・・しかし、どうやって・・・私が降りるか・・・

 

ゴーーーーーーーーン!!

 

「それまで!時間切れです!!」

 

私が止めようと思った瞬間に銅鑼の音が響いた、

2人の剣が互いの喉を指した所で止まり、降ろして互いに深く礼をする。

・・・時計は5分しか経っていない、そうか、5分勝負であったか、ならば初めから飛ばしたのも当然だ。

 

「以上、リリ様・ルル様による、特別演舞でした!盛大な拍手でお称えください!!」

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!

ワーワーワーワーワーワーーワーワーワーワーワーワーーー!!!

 

「すげーもん見たぜ!」

「絶対、明日の決勝より価値あるよ!」

「リリ様もルル様も、サイコーーー!!!」

 

引き分けといえど、観衆は大喜びだ、

やはり真剣勝負であったからな・・・とはいえ、

エキジビションであるから勝敗をつけるまでサービスする必要はない、

勝者が出てはどちらかの過去の優勝に傷がついてしまう、さらには、

ここで試合を成立させ、完璧な闘いを見せ終えてしまっては、明日の決勝戦を闘うレンとその相手に失礼だ。

 

「ララ、計算ずくか」

「はい、しかしリリもルルも5分以内に決着をつけるつもりで闘いましたわ」

「そうであるな、さて、この後は・・・スロトよ、次は何だ」

「はっ、演舞が終わりまして、ハプニカ様から直々に明日の組み合わせ発表でございます」

「そうであったか・・・よかろう」

 

そう、本戦のトーナメントは前日夜に国王が自ら発表し翌朝に配られる、

国王が発表するということによりトーナメント組み合わせに誰も文句を言わせぬためだ。

明日の朝配られるといっても、本戦参加者にはもう配り終えている頃であろうし、

気の早い者は私の発表の直後にそれを記録して配りはじめる者もいる・・新聞社などそうだ。

まあ、一種の儀式のような発表であるから、何も目くじら立てる事はないのだが・・・

 

「では発表しよう」

 

問題は・・・80名もの名前を大声で読むのが面倒な事くらいだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「・・・そして最後にルックス、ツクネンの勝者と予選B、ダバダの勝者が闘い、

さらにその勝者がヴェルヴィ殿と闘う、これが16ブロック目である!!」

 

ようやく言い終える・・・最後に締めなければならない。

 

「この闘いは長き大戦が終わった記念である、祭りである!皆もそれを忘れぬように!では明日、ここで勇者を待っておるぞ!!」

 

観衆の歓声に応え、闘技場を後にする・・・

城へと続く通路でリリとルルが待っていた。

 

「ハプニカ様ー、いかがでしたかー」

「決着をつけたかったのですが、申し訳ありません」

「いや、あれで良いのだ、結末を見せるのは贅沢すぎる、なあララよ」

「まあ、髪が濡れて・・・そんなに汗をかくほど・・」

「いえー、これは先ほど、闘技場のお風呂に入ったのでー」

「私もリリ姉さんに洗ってもらいました、試合が終われば姉妹に戻りますから」

「良きことだ・・・ん?スロト、どうした?」

 

何かそわそわしておる・・・

 

「はっ、そろそろ予選の終盤を見届けに行かなくてはなりませぬので、これにて・・・」

「そうか、では頼んだぞ」

「ははっ、それでは・・・ムッホン!」

 

逃げるように消えていった・・・

さては書類の事で私に怒られるとでも思っていたのであろう、

まあよい、それより私には、しなければならぬ事がある、もっと大事な、大切な・・・

 

「あのお方は、もう城に帰っておられるであろうか・・・」

 

今夜は闘技トーナメント本戦の前夜パーティーがある、

我が国や周辺国から招待した来賓・貴賓の者に、あのお方を紹介したい。

はっきり「私の夫となる・・」と言わずとも、これで既成の事実を作ってしまうのも悪くないからな。

 

 

 

城の庭にはすでにレンとミルの姿は無い、

明日の試合はシードのため午後から、とはいっても

体を早く休めておいた方が良いからな、夕食も先に終わらせているであろう。

 

「おおー、ハプニカ!待っていたぞ」

 

城へ入る門の前に、私の姿を見るや馴れ馴れしく声をかけた男・・・

誰であったか・・・そうだ、この男、私の記憶に間違いがなければ・・・

 

「ああ、久しぶりであるな、ターレ公爵」

「ターレで良いぞ、ハプニカ、私とそちの仲であろう」

 

・・・そう言われても一番最近会ったのは戦が始まる前だ。

 

「ハプニカ、あいかわらず美しい・・年月を経て、さらに美しくなったな」

「ターレ公爵も、貫禄がついて凛々しいではないか」

「私も31だ、年には勝てんよ、はっはっはっは」

 

・・・・・疲れる。

このような会話をこの後のパーティーで、

何十回もするとなると、今から頭が痛くなってくる・・・

 

「では行こうか、妻よ」

「・・・・・・・・・・・・は?」

「おお、今は女王であったの、ではこれから私の王妃・・・ということで良いか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何のことだ?」

「ハプニカ、何をふざけているんだ、私とハプニカはフィアンセではないか」

 

・・・・・何を寝ぼけたことを言っておるのだ

 

「待てターレ、私はそんな約束をした覚えは・・・・・・・・・・・・・・・・あるな」

「では決まりだ、ハプニカ、早速パーティ会場で皆に報告を・・」

「待て!何か違う!何か・・・・・そうだ、あれは・・・戦が始まる少し前だ・・・」

 

記憶を遡る・・私がまだ22になって間もない時だ・・・

 

 

 

☆昔ハプニカ☆

 

「そうか、ターレ公爵、そなたが父上の選んだ、私のフィアンセか・・・」

「国王であるジャイラフ様の命令は絶対・・だが私は喜んでハプニカを嫁に貰おう」

「・・・しかし兄者の結婚が決まってからでなければ、私が先に嫁ぐ訳には行くまい」

「ジャヴァー王子にもすでに5人のフィアンセがいると聞いている、時間の問題ではないか」

「何を焦っておられるのだ?父上の命令は絶対である以上、私は逃げはせぬ」

「・・・・・そうだな、私とハプニカの仲だからな」

「そう申されてもターレ公爵とは年に1・2回しか・・・それに・・・」

「どうしたのだ?私に文句でもあるのか?」

「いや・・・どうも戦の匂いが近づいているらしい・・・敵はわからぬが・・この国を守るつもりだ」

「ハプニカは闘う必要など無い!もし戦になったら私と山奥の別荘で過ごそう」

「安全な別荘なら・・・あ、いや・・・」

 

スバランの木の事は王家以外には秘密であった、ターレ公爵はまだ皇族外だ。

 

「安全な別荘なら・・・ターレ公爵だけで隠れていて欲しい」

「いや、隠れるなら一緒だ、ハプニカ、戦の前に婚姻を済ませよう」

「・・・・・一緒に闘ってはくれぬのか?」

「そ、それは・・・私は、フロン家を守るために、誇り高きフロン家を後世に残すために・・・」

「・・・・・・・わかった、しかし兄者が結婚して王妃を手に入れてからでなければ嫁ぎに行くことはできぬ」

「どうしてもか?」

「ああ、何なら父上にお願いしてみるが良い、私と同じ事を言うと思うが」

「・・・わかった、ではしばし待たせてもらおう」

「我侭を申してすまない、ターレ公爵・・・」

 

 

 

結局、その1ヵ月後に戦が始まり、ターレ公爵は山奥の別荘へ避難した。

私は国を守るために闘い、そして世界を守るために国を出て、そして父と兄をこの手で・・・

ようやく思い出した、今まで忘れていたのも無理はない、今日こうしてやっとターレ公爵と再会したのだから。

 

「ハプニカ、約束を思い出したか?」

「ああ、確かに私はターレ公爵のフィアンセであった」

「では約束通り・・・」

「待て!待て待て・・・今は事情がずいぶんと変わっているではないか」

「しかし約束は約束で・・・」

 

間にララが割って入る。

 

「ハプニカ様、お時間ですわ」

「うむ、ターレ公爵、時間がないので続きはあらためて話合おう」

「話し合う必要など・・・」

「そなたは貴賓控え室で待っておれ、勝手なことを言いふらすでないぞ」

「ハプニカ!父上の約束は、絶対であるぞ!」

 

騒ぐターレを置いて城の奥へ・・・

うーむ、すっかり忘れておったぞ・・・

 

「困りましたですわね、ハプニカ様」

「ララ・・・そなたは覚えておったか?」

「一応、記憶の片隅には・・・リリは?」

「すっかり忘れてましたー、ルルはー?」

「てっきり死んだと思ってました、連絡なかったから」

「そうであろう、今になって言ってこられても、困る」

 

すでに私の心の中には、あのお方しかいないのだから・・・

 

 

 

 

 

パーティーが終わった、

玉座に深く深く腰をかける・・・

精神的に酷く疲れた・・・1人で皆の相手は疲れる、

ミルがいればまだ挨拶回りも軽減できたのだが、レンとミルは

明日の闘技会参加者であるため、不正防止もあってパーティーに参加させられぬ・・・

 

「ウッホン、ハプニカ様」

「なんだスロト・・・手短にしてくれ」

「明日のトーナメント、レン様への掛け金が1.0倍になっております」

「それがどうした・・・そもそも伝統とはいえ本戦の賭博に私は乗り気ではない、そなたがどうしてもと・・」

「大事な復興資金でありますぞ!それで明日朝締め切りまでに1.1倍になる可能性が・・・」

 

ああ、もう、こやつの声を聞いているだけで不快感が上がる!

あのお方がパーティーに来れなかったうえに、ターレ公爵が私のフィアンセだと触れ回ったおかげで、

それをいちいち打ち消して回るのに・・・あまりのいらつきに足をカツカツ鳴らす、頬杖をつく・・・

 

「結論を申せ」

「はっ!今、投票を打ち切ればレン様勝利の場合、レン様以外への掛け金が全て回収できますぞ」

「明日の朝まで待つと1割、支払う可能性があるから打ち切れというのであるな?」

「ハプニカ様の決定であれば皆、納得いかれると・・・」

「ならぬ!不正はするな!」

「しかしハプニカ様、闘いに細工する訳ではなく、これはあくまで収入を・・・過去の大会でも前例が・・・」

「下がれ!賭けの締め切りは変える必要など無い!下がれ!」

「は、はっ!失礼いたしました!ウッホン!!」

 

あわてて逃げるスロト・・・

いかんいかん、感情を激しく出してしまった・・・

あやつの考えも、国を思っての事・・信頼しなくては・・・

しかし不正はいかん、国民を騙すような事をしてはいかんだろう。

・・・私が個人的に、レンに100口賭けているから、配当が増えるのを待っているのではないぞ!

 

「おや?レン、どうした?寝なくて良いのか?」

「はいぃ、まだお仕事が残っていますからぁ」

「仕事・・・?そうだララ、あのお方はまだ戻らぬのか」

「はい、間もなく城門が閉まる10時ですが、まだ・・・」

「心配であるな・・・10時まで待って、来なければ探しに行ってきて欲しい」

 

あのお方に限っておかしなことは無いと思うのだが・・・

 

「では10時過ぎまであのお方の部屋で待機して、いらっしゃらなければ街まで・・・」

「ああ、それで、帰ってきたら私の所へ連れてきて欲しい」

「玉座で待たれるのですか?」

「・・・いや、私の部屋の方がいいな、その方があのお方も話し易いであろう」

「かしこまりました、そうさせていただきます」

「・・・・・いや、無理に連れてくる必要はないぞ、疲れていたりするなら・・・」

「意思を確認いたします」

「いや、待て・・・疲れていたら、その・・・眠ってから、連れてきて・・・欲しい」

 

急に体中が熱くなる、

なんてはしたない事を口にしてしまったのだろうか・・・

いらいらしすぎて、訳のわからぬ事を・・・眠ってから連れてこい、と・・・

 

「了解いたしましたわ、さあ、行きましょう」

「お風呂の用意もできておりますー」

「食事はいらないって話だったけど一応軽く用意しました」

「必ずつれてきますねぇ」

「う・・・うむ・・・たのん・・・だ」

 

私は焦っているのだろうか、ターレ公爵のせいで・・・

汗が出てきた、風呂に入ろう・・・しまった、親衛隊を皆、あのお方のほうへ回してしまった、

1人で入るのは無用心・・・だが、私が1人で入っている最中にあのお方を親衛隊が風呂に連れてきたら・・・

あのお方の風呂は私と同じ皇族用を使うように言ってある、もし、もし一緒に入ることになったら・・・

それはそれで良いではないか、い、いや、ならぬ、か・・・胸の鼓動が早くなってきた・・・よし・・・風呂に・・・入ろう・・・

 

もどる めくる