満員の中央闘技場では国歌斉唱が終わり、

私は2階にせり出した国王席へ静かに座る。

右隣にはララ、そして左隣には軍部大臣のスロト・・が私に話かけてきた。

 

「いやはやハプニカ様、白竜でいらっしゃるとは素晴らしい演出でしたぞ」

「そうか、白竜を見世物にして良いものかとも思ったが、それを聞いて安心した」

「ウッホン、ハプニカ様のなされる事に誰が文句を言いましょうぞ」

 

・・・あいかわらず調子の良い太鼓持ちだ、

私を褒める事しか考えていない・・・だがそれもよかろう、

ほんの数ヶ月前までは敵であったのだから・・・私もこやつを信用せねば失礼になる。

 

特別演舞が始まり、まずは子供の部の対決・・・

闘技トーナメントに出られるのは14歳からであるからして、

13歳までは選びぬかれた2名のみがこの日に呼ばれて闘う。

とはいえ前大会優勝のルルはその14歳で本戦を優勝しているため、

その僅か1つ年下の戦いであっても、じゅうぶん迫力がある・・・さて今回は・・・

 

ふむ・・・1人はなかなかの体つきの少年であるな、

もう1人は・・・ずいぶんと背の低い少女のようだ、

司会者がそれぞれを説明するようだ、場内が静かになる。

 

「それでは子供の部決勝、ダーズ君13歳対ウェミンちゃん9歳の対決です!」

 

9歳か・・・小さいはずだ。

私が7歳であそこに立った時、

今のあの少女より背が高かったように思う。

少年の武器は鉄球か、子供だからこその武器だな、

少女のほうは・・・これまた長いムチだ、互いに距離を置いての戦いとなるな。

 

「互いに礼!・・・はじめ!!」

 

ゴ〜〜〜〜〜〜ン!!

 

鉄球を振り回しはじめる少年、

少女はムチを振りかぶったまま様子を見ている・・・

お互い牽制しあっていてゆっくりと足を動かしている。

 

「・・・・・勝負あったな、この結果・・・少女の勝ちだ」

「さすがハプニカ様、お目がするどい」

「なぜかわかるか?スロトよ」

「そ、それは・・・いやはや私の目では・・・」

「ララはわかるであろう」

 

闘技場のほうを見つめたまま話すララ。

 

「はい、ダーズ少年の方は武器の鉄球を中心に闘っております」

「そうだ、鉄球の動きに少年が合わしておる、つまり少年は鉄球に使われておるのだ」

「しかしウェミン少女の方はムチを細かく震わせながら、獲物を狙う蛇のように隙をうかがっております」

「すでにあのムチは少女の片腕、分身といっていいであろう」

「武器に使われている側と武器を使いこなしている側では、年齢の差など関係なく・・・」

 

バシッッッ!!!

 

「それまで!勝者・ウェミン!!!」

 

そら見たことか・・・

ムチひと降りで少年の武器を落とし、

頭と背中を直撃させた・・・アザは二月は消えないであろう。

 

「ややや!ハプニカ様さすがでございますな」

「もうよいスロト・・・お前は黙って見ておれ」

「はっ」

「ララよ・・あの少女、良い竜使いになるであろう」

「そう思います、将来が楽しみです」

 

あの少年・少女が、あのまま大きくなったら・・・

少年は天馬にすらアゴで使われてしまうようになるだろう、

少女は武器と同じように、飛竜とは自分と同等、

いや、それ以上の関係となり、乗りこなす事ができるだろう。

武器の使いこなし方がそのまま天馬や竜の使いこなしに通じるのだ。

 

「さてララ、次は?」

「魔法による的当てです」

「リリとルルの戦いはまだか」

「特別演技最後ですので、あと1時間ほどかかるかと・・・」

「なら私はレンを見てくるぞ・・スロト、じきに戻るから心配はするな」

 

私はララと中央闘技場から城へ戻る、

城の庭ではレンが長槍を手に何度も何度も素振りをしている、

傍では私の妹・ミルが様子を見ながらアドバイスを送っているようだ。

 

「レンちゃん、しなりが甘いよ?」

「ミルちゃん、足は変じゃな〜い〜?」

「ちょっとさがってきてるよ・・・あ、お姉さま!」

「明日の準備に余念はないな?」

「はいっ!」「はぁいっ!」

 

そう、明日の闘技トーナメントにはレンが出場する、

そのレンのパートナー、専属僧侶としてミルがつきそう。

ミルは治癒魔法だけではなくレンの良きセコンドとしても力を発揮できる。

 

「では続けるがよい」

「ハプニカ様ぁ、必ず優勝しますねぇ」

「お姉さまー、私が、ミルが必ず優勝させますっ!」

「うむ、ララ・リリ・ルルと優勝しておるからな、レンも間違いなかろう」

「ではハプニカさまぁ、稽古つけてくださぁい」

 

ふむ・・・それは良いな

 

「時間が無いので少しだけであるぞ」

「おねがいしまぁす!」

「ララ、私の武器を・・・」

 

さあ、軽く汗を流すとしよう。

 

 

 

 

 

「あ・・・ありがとうございましたぁ〜」

「・・・よし、これなら優勝は間違いあるまい」

「レンちゃん、回復させるねー」

「ありがとーミルちゃ〜ん」

「良いな、長槍のしなりも自在に操らなければならない事を忘れるでないぞ」

 

とはいえ戦争中にあれだけ実績を積んだレンだ、

いくら4姉妹でのコンビネーションを利用した戦いが多かったといえど、

個々の力も抜群に優れており、1対1の戦いなら明日の相手ならば負けはせぬであろう。

 

「ハプニカ様、そろそろ・・・」

「おおララすまない、もうそんな時間か」

「では戻りましょう、レン、優勝を楽しみにしていますから」

「はぁい、ララお姉さまぁ」

「行くぞ・・・ミルも頼むからな」

 

闘技場へ戻る・・・

レンはよほどの落とし穴が無い限り優勝であろう、

今回ばかりはレンが優勝しなくてはならない理由もある。

 

「ララよ、もしレンが負けたら・・・どうのように言うつもりだ?」

「お言葉ですが、負けは考えておりません、私の大切な妹ですから」

「そうであるな・・・妹を信じてやるのが姉であるからな」

「はい、たとえ何があっても、レンは血以上に濃い妹です」

「うむ・・・では私も信頼しよう、妹を」

 

闘技場につくと丁度、竜対天馬5頭の戦いが終わったところだ。

次はいよいよリリとルルの戦い・・・玉座に座るとスロトが何か言いたそうだ。

 

「どうした、話すが良い」

「ははっ、明日の組み合わせが決定致しました」

「どれ、見せてみよ」

 

スロトから受け取ったトーナメント表に目を通す。 

 


第79回国王杯全ダルトギア闘技選手権

決勝トーナメント表

【全試合日程】

1回戦AM8:00
2回戦AM11:00
3回戦PM1:00
4回戦PM3:00
準々決勝PM4:00
準決勝PM5:00
決勝PM7:00

第79回国王杯本選組み合わせ

・日程                  1回戦 2回戦 3回戦 4回戦 準々  準決   決勝  準決  準々 4回戦 3回戦 2回戦 1回戦
                    08:00 11:00 13:00 15:00 16:00 17:00 19:00 17:00 16:00 15:00 13:00 11:00 08:00

       ジュビライ  ─────────┐                     ┌───────── エスパス  
                      │                     │
       ジュテーン   ───┐    中央├──┐               ┌──┤東2   ┌─── ダルメン
                北1先├──┐   │   │                        │  │   ┌──┤南2先
       セダイ    ───┘   │   │   │                        │  │   │   └─── ゴクジ
                      東4├──┘   │                        │  └──┤北3
       予選A    ───┐  │        │                        │        │   ┌─── ゼンジュウ
              南4├──┘   西1 ├──┐              ┌──┤南2    └──┤西1後
        ジュビライjr ───┘             │   │              │   │             └─── ヤマシー
                                     │   │              │   │
       ベルマリー  ─────────┐  │   │              │   │   ┌───────── サンガイ  
                    │  │   │              │   │   │        
       バーニー    ───┐    南4├──┘   │              │   └──┤西2   ┌─── シャムジ
               東1先├──┐   │        │              │        │   ┌──┤北3先
       ダーマ    ───┘   │   │        │              │        │   │   └─── トリニダ   
                       西4├──┘        │              │        └──┤東2
       パッシ        ───┐   │             │              │             │   ┌─── カムバ  
                  北5├──┘        南1├──┐    ┌──┤中央         └──┤南1後
       ヘノヘ     ───┘                  │   │    │   │                  └─── アローマックス 
                                          │   │    │   │ 
       アントン   ─────────┐        │   │    │   │        ┌───────── アピ 
                              │        │   │    │   │       │ 
       リョフガイバー───┐    北4├──┐   │   │    │   │   ┌──┤南2    ┌─── ハンナン
                西1北├──┐   │   │   │   │    │   │   │   │   ┌──┤東3先
       サガンド      ───┘   │   │   │   │   │    │   │   │   │   │   └─── ドーレ
                        南3├──┘   │   │   │    │   │   │   └──┤西2
       ラグ     ───┐   │        │   │   │    │   │   │        │   ┌─── マインス 
                  東5├──┘    東1├──┘   │    │   └──┤東2    └──┤北2後
       ジャトロ   ───┘             │        │    │       │             └─── ミジュマ
                                     │        │    │        │
       グラパ    ─────────┐  │        │    │        │   ┌───────── フレシュ
                                │   │        │    │        │   │
       マバーシ    ───┐    東4├──┘        │    │        └──┤北1   ┌─── ナコー 
              中央後├──┐   │             │    │             │   ┌──┤西3先
       インチャス   ───┘   │   │             │    │             │   │   └─── ギケーン  
                       北4├──┘             │    │             └──┤南1
       トニーテン  ───┐   │                  │ │ │                  │   ┌─── シュン
                  南5├──┘              中央├─┴─┤西1              └──┤東2後
       ワッテ      ───┘                       │ 中 │                      └─── サンジュ 
                                               │ 央 │  
       セレッツ    ─────────┐             │    │             ┌───────── F・マリー   
                                │             │    │             │
       マルカ    ───┐    東3├──┐        │    │        ┌──┤西3   ┌─── オンダロック 
               南1先├──┐   │   │        │    │        │   │   ┌──┤南3
       ヴォルテス  ───┘   │   │   │        │    │        │   │   │   └─── カニパン
                      中央├──┘   │        │    │       │   └──┤北2
       ハツミー   ───┐   │        │        │    │        │        │   ┌─── ホーリー  
                  西5├──┘    南1├──┐  │    │   ┌──┤北1    └──┤西2後
       キト       ───┘             │   │   │    │   │   │             └─── D・T
                                     │   │   │    │   │   │
       ヴィッセーラ ─────────┐  │   │   │    │   │   │   ┌───────── バンガ  
                                │  │   │   │    │   │   │   │
       ブレイズン  ───┐    北3├──┘   │   │    │   │   └──┤東1    ┌─── キョー    
               北2先├──┐   │        │   │    │  │        │   ┌──┤北4
       ディオラ     ───┘   │   │        │   │    │   │        │   │   └─── ディージャ 
                       東3├──┘        │   │    │   │        └──┤西1
       ナッコ     ───┐   │             │   │    │   │             │   ┌─── アスタート   
                西3後├──┘         北1├──┘    └──┤東1         └──┤南2後
       テイヘンダー ───┘                  │              │                  └─── ドトー
                                          │              │
       レン     ─────────┐     │              │        ┌───────── ジェフェニ
                                │       │              │        │
       プリメーロ    ───┐    南3├──┐  │              │   ┌──┤西1    ┌─── エヒー・C   
                東2先├──┐   │   │  │              │   │   │   ┌──┤中央先
       アルビン     ───┘   │   │   │  │              │   │   │   │   └─── フローレ  
                      西3├──┘   │  │              │   │   └──┤東1
       カヤ     ───┐   │        │  │              │   │        │   ┌─── ジョーイースト
                北1後├──┘    中央├──┘              └──┤北2    └──┤北3後
       コナン    ───┘             │                       │             └─── ナイクス
                                     │                       │
       チキス    ─────────┐   │                       │  ┌───────── ヴェルヴィ 
                                │   │                       │  │  
       サナンサ   ───┐     北2├──┘                       └──┤南1   ┌─── ルックス  
                西2先├──┐  │                                  │   ┌──┤西4
       デソー      ───┘   │   │                                  │   │   └───  ツクネン   
                       南2├──┘                                  └──┤北1
       ワミ     ───┐   │                                            │  ┌─── 予選B  
                 東1後├──┘                                            └──┤東3後
       トクシ     ───┘                                                      └─── ダバダ   


 

ふむふむ・・・

レンのライバルとなりそうな2人、

F・マリーとヴェルヴィはレンとは決勝まで当たらぬのか、

それどころか準々決勝でマリーとヴェルヴィが闘う事となる・・・

 

「スロトよ、厳正な抽選の結果がこれか」 

「いやぁ、レン殿は運が良い・・・」

「まあ、そなたが運と申すなら、そうなのであろう」 

「東闘技場準々決勝のチケットを持ってる客は幸運ですな、F・マリー対ヴェルヴィ殿が見られるとは」

「私の見る試合は・・・中央闘技場から離れられぬからな・・・どれ・・・」

 

1回戦の2試合から決勝まで全8試合か、

そのうち、レンの試合は決勝まで行くとすると3試合見れる、

私に気を使ったのであろうか?まあ、嫌ではないが、作為が入るとろくな事がない気がする。

 

「ハプニカ様、リリとルルが・・・」

「おお、いよいよか」

 

闘技場がにわかに騒がしくなる、

左右からそれぞれリリとルルが入ってきたためだ、

戦闘服に身を包み、互いに剣を向け合っている・・・司会の声が会場に響く。

 

「おまたせいたしましたー!それでは本日の最終演目、

前回の優勝者・ルル様と前々回の優勝者・リリ様による、

真剣勝負を只今より行います!皆様、盛大な拍手でお迎えください!!」

 

ワーワー!ワーワーワー!!

 

「すごいぞー!」

「おいおい本当かよ!?」

「明日のチケット手に入らなかったけど、これだけで満足しちゃうよ!」

 

喜びの声が観客席から聞こえてくる、

ふむ、これだけで今日のこの特別演舞は成功といえよう。

日は沈みはじめ、闘技場をたいまつの炎が次々と照らしはじめる・・・

 

「・・・・・」

「・・・・・・・」

 

ステージに上がったリリとルル、無言で向かい合う・・・

審判も上がり合図すると互いに礼、そして剣の構えを取った。

一気に会場が静まり、始まりの銅鑼を今か今かと固唾を飲んで見守っている・・・

 

「・・・・・ふむ、ララよ、本当に本気でやるのだな」

「はい、しかし闘技トーナメントと同じように剣の刃は殺してあります」

「それでも当たればかなりの衝撃であろう・・・よし、しかと見せてもらうぞ」

 

もったいつけるかのように静かな時間が流れる・・・

そして止まっていた審判の腕が天を向き、次の瞬間、一気に下がる!

 

「はじめ!!!」

 

ゴーーーーーーーーン!!!

 

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