夕食を終えて玉座に戻ってきた、 

少し食べ過ぎたせいか満腹感に少し浸りたいが、

仕事は山ほどある、特に明日は闘技トーナメント予選開催日だからな・・・

 

いつもながら我が親衛隊の料理は美味であった、 

最高においしいだけではなく栄養、バランス、出す順番まで緻密に計算されている、

何よりあれだけ食べたにもかかわらず胃にもたれる事はない、消化が非常に良い・・・

 

目の前の書類に目を通していると、

洗い物を本来の食事係に任せたであろう親衛隊がやって来た、

あのお方に美味しく食べていただけたのが嬉しかったのか笑顔だ。

 

「皆、ご苦労であった」

「今回はとても良く仕上がりました、自信作でしたから」

「3年間漬けておいた実を特別に出させていただきましたー」

「とっても良く食べてもらえて、安心しました」

「それでぇ、これからどうしましょう〜」

 

ふむ、そうだな、食事の後といえば・・・

 

「よし、では風呂に案内してさしあげろ、丁重にお世話するのだぞ」

「かしこまりました、隅々までお世話させていただきます」

「それとリリ、食後の軽い果物を持って行ってあげてほしい」

「では1口ずつ種類豊富にー」

「ルル、確か先日ルルの作ったお香が残っておったであろう、あれを持って行ってほしい」

「わかりました、リラックスできると思います」

「レンよ、念のため、万が一のためにミルから胃腸薬を貰ってきて、渡してきて欲しい」

「は〜い、いただいてきますぅ〜」

「では頼んだぞ」 

 

出て行った親衛隊たち・・・

本当なら全て私が直々に手を出したいのだが、

目の前の仕事がこう山積みでは・・・とにかく無事に闘技会を終わらせなければ。

 

「必ず死者だけは出ないようにしなくては・・・」 

 

戦争でかなりの民を失ったこの国が、

平和の下に行う闘技トーナメントであるからして、

あくまでも祭りである・・・よって安全を第一に考えなくてはならない。

 

「まあ、明日の予選は問題ないであろう」 

 

それより明日・明後日と闘技大会の間は通常の皇務がしにくくなる、

特に本戦である明後日は大会の総責任者として、我が城の庭と言って良い、

中央闘技場で朝から夜まで全試合見届けなければならない義務がある。

 

「それに明日は・・・」

 

おっといけない、

もうこんな時間だ、

早く書類を片付けてしまおう。

 

「今夜は0時までかかりそうだな・・・」

 

さてこの書類は・・・闘技トーナメント開催に合わせて戦争で壊れた施設の補修費用・・・

2枚目は国内外から集まる来賓の招待費・・・飛竜で送り迎えするのだが餌代が増えてないか?

そもそも国で養っている竜なのだから、余計に餌代が増える必要は・・お、そうか、迎えに行く先で餌を貰うのか、

しかしそれならば逆にこちらでの餌代が浮くことになるだろう・・・さらに竜を洗う水代・・・川を借りれば良いであろう。

あれほど水増し請求には厳しくいくと言っておるのにまったく・・・軍部大臣の指示か、仕方の無い奴だ。

 

どうも右から左へと書類を流れさせようとしている・・・

これが父や兄であるならばもっと早い段階で議論の場に入っていたであろう、

だが仕方ないのかも知れない、私はまだ二十半ば、国王になって1月しか経っていない、

それだけまだ信用されていないのか、私は大臣達に出された書類に署名すれば良いだけと思われているようだ。

・・・なめられているのであろうか、それとももしや、わざとこのような穴の開いた書類を出し、

私が怒って訂正させる事によって、仕事をしていると実感させたいがための計画的行動・・・いや、考えすぎだろう。

 

「そうだな、せっかく私の部下についてくれているのだ、私も信頼せねばなるまい」 

 

信頼したうえで書類を訂正する・・・

そうだな、金を着服するつもりなら私の目に届かぬ所でするはず、

少なくとも書類をこうして出している以上、私を信頼して出してくれている、と思おう。

 

「信頼してなければ、とっくに国を出て行っているはずだ・・・」

 

そう、あの時の私のように・・・

考えてみれば今残っている大臣は父についていた者も多い、

しかしその父を私が討ってからもなお私に尽くしてくれているという事は国を想っての事であろう。

 

「・・・私もあのお方に信頼してもらわねばな・・・」

 

 

 

 

 

一夜が明けた。 

あのお方と朝食を共にできる・・・

そう思うと早く目が覚めてしまった、待ちどおしい・・・

 

「ハプニカ様!」

「何だララ、慌しい」

「こ・・このような手紙を残されて、姿が!!」

 

手渡された手紙、そこにはこう書いてあった。

 

「今日1日、自分が国王に相応しいか街を見て考えたいと思います、 

純粋に1人で決めたいので、決して探さないでください、自分の身は守れます、 

夜には帰りますが、夕食は待っていただかなくて結構です」

 

・・・・・ふむ、1人でよく考えたい、か・・・

てっきり「やはりアバンスへ行く」とでも書いてあるかと背筋が凍ったが、

この文面ならば、本当にただ迷っているだけであろう、として、迷っているということは・・・

 

「ララ、これならば取り乱す必要は無い」 

「しかし、もうこのまま戻ってこない事も・・・!」 

「夜には帰ると書いてあろう、あのお方は嘘はつけまい」 

 

この場合は下手に監視を付けると、

ばれてしまった時に完全に信用を無くしてしまう。

よって、あのお方の希望通りにするのが良いであろう。

 

「あのお方のやりたいようにやらせるが良い」 

「・・・心配はなされないのですか?」

「迷っているのだろう、という事は少なくとも脈はあるという事だ」

 

そうなれば私に口説くチャンスがあるという事だ、

それにはまず私を信頼してもらう必要があるからな・・・

 

「それよりもう闘技トーナメントの予選は始まっておるのか」 

「先ほど、軍部大臣のスロト様が開幕宣言をされた所です」 

「そうか、それならば今は予選の1回戦が行われている頃だな」 

 

予選といってもようは全国民のうち参加希望者が、

おのおの公園や町長の庭、武器屋や空き地で勝手に闘っているだけで、

一応勝ち進めば本戦に出られる事にはなっているが、予選8回戦からは

ようやくまともな剣士がシードとして参加する、そこで一般挑戦者は否応無しに一掃される。

さらに12回戦では明日の本戦へ出る選手の補欠8名が参加し、そこでやっと予選と呼べるレベルとなる。

 

闘技場が使われるのは8回戦からとなり、

本戦出場者2名が決まる15回戦まで休まず続けられるのだが、

神聖な中央闘技場では予選は行われない、そのかわり本戦は1回戦から決勝まで通して見ることができる。

 

「ハプニカ様、では・・・」

「ララの心配する気持ちもわかるが、私が心配しておらぬのだ」

「そうですか、では私も心配しない事にさせていただきます」

「それが良い」

「では本日は予定通りに中央闘技場へ・・・」

 

そう、中央闘技場では予選は行われないのだが、

午後からは特別演舞が行われる事となっている、

その頃には一般の参加者は皆、敗退しており国民に戻っているため、

あっという間に売り切れた本戦のチケットが手に入らないもの、また、

明日が待ちきれない者が今日午後からのエキビジションを楽しみにしている。

 

「ルルの準備はもうできておるのか?」

「はい、早めに朝食を済ませ、今は装備の準備をしている頃ですわ」

「前大会の優勝者であるからな、それに相応しい腕前を見せてもらわなければならぬ」 

 

まあ、ルルなら問題なかろう。

 

「それでルルの相手は?」 

「はい、リリが付き合う事になりました」

「ほう・・・それは豪華であるな、前々回の優勝者と前回の優勝者の戦いか」

「国民も喜ぶと思います」

「そうであろう、贅沢な組み合わせだ」

 

これは私も楽しみだ、

観客はルルが演舞程度の事をすると思って見に来るであろう、

それが過去の優勝者同士の一戦となれば・・・喜ぶ表情が目に浮かぶようだ。

 

「ハプニカ様はどういたしますか?」 

「なら私も闘おうか、私が優勝したのはもう10年程前になるが・・・」 

「それはおよしになっていただいた方が・・・お相手がおりません」 

「ララ、そなたと手合わせするか?そなたは前々々回の優勝者であろう」

「いえ、稽古でしたらまだしも、ハプニカ様と闘うような恐れ多い事は・・・」

 

ふむ・・・では・・・

 

「なら、あのお方と闘ってみるとするか?」 

「しかし、あのお方は・・・」 

「おお、そうであったな、1人で考えたいと姿を消したのであった」 

 

国民にあのお方の実力を見せる良い機会と思ったのだが・・・

 

「よし、では私は白竜で入場するとしよう」 

「それが良いと思われます、白竜を身近で見られて国民も喜ぶでしょう」 

「そうだな、白竜で降りて、本戦の組み合わせを発表するとしよう」 

 

さあ、軽く朝食を食べて、昼の特別演舞まで皇務に励むとするか・・・

 

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