仕事は山ほどある、特に明日は闘技トーナメント予選開催日だからな・・・
最高においしいだけではなく栄養、バランス、出す順番まで緻密に計算されている、
何よりあれだけ食べたにもかかわらず胃にもたれる事はない、消化が非常に良い・・・
あのお方に美味しく食べていただけたのが嬉しかったのか笑顔だ。
「よし、では風呂に案内してさしあげろ、丁重にお世話するのだぞ」
「ルル、確か先日ルルの作ったお香が残っておったであろう、あれを持って行ってほしい」
「レンよ、念のため、万が一のためにミルから胃腸薬を貰ってきて、渡してきて欲しい」
目の前の仕事がこう山積みでは・・・とにかく無事に闘技会を終わらせなければ。
あくまでも祭りである・・・よって安全を第一に考えなくてはならない。
それより明日・明後日と闘技大会の間は通常の皇務がしにくくなる、
特に本戦である明後日は大会の総責任者として、我が城の庭と言って良い、
中央闘技場で朝から夜まで全試合見届けなければならない義務がある。
さてこの書類は・・・闘技トーナメント開催に合わせて戦争で壊れた施設の補修費用・・・
2枚目は国内外から集まる来賓の招待費・・・飛竜で送り迎えするのだが餌代が増えてないか?
そもそも国で養っている竜なのだから、余計に餌代が増える必要は・・お、そうか、迎えに行く先で餌を貰うのか、
しかしそれならば逆にこちらでの餌代が浮くことになるだろう・・・さらに竜を洗う水代・・・川を借りれば良いであろう。
あれほど水増し請求には厳しくいくと言っておるのにまったく・・・軍部大臣の指示か、仕方の無い奴だ。
これが父や兄であるならばもっと早い段階で議論の場に入っていたであろう、
だが仕方ないのかも知れない、私はまだ二十半ば、国王になって1月しか経っていない、
それだけまだ信用されていないのか、私は大臣達に出された書類に署名すれば良いだけと思われているようだ。
・・・なめられているのであろうか、それとももしや、わざとこのような穴の開いた書類を出し、
私が怒って訂正させる事によって、仕事をしていると実感させたいがための計画的行動・・・いや、考えすぎだろう。
「そうだな、せっかく私の部下についてくれているのだ、私も信頼せねばなるまい」
そうだな、金を着服するつもりなら私の目に届かぬ所でするはず、
少なくとも書類をこうして出している以上、私を信頼して出してくれている、と思おう。
「信頼してなければ、とっくに国を出て行っているはずだ・・・」
しかしその父を私が討ってからもなお私に尽くしてくれているという事は国を想っての事であろう。
「今日1日、自分が国王に相応しいか街を見て考えたいと思います、
純粋に1人で決めたいので、決して探さないでください、自分の身は守れます、
てっきり「やはりアバンスへ行く」とでも書いてあるかと背筋が凍ったが、
この文面ならば、本当にただ迷っているだけであろう、として、迷っているということは・・・
「迷っているのだろう、という事は少なくとも脈はあるという事だ」
おのおの公園や町長の庭、武器屋や空き地で勝手に闘っているだけで、
一応勝ち進めば本戦に出られる事にはなっているが、予選8回戦からは
ようやくまともな剣士がシードとして参加する、そこで一般挑戦者は否応無しに一掃される。
さらに12回戦では明日の本戦へ出る選手の補欠8名が参加し、そこでやっと予選と呼べるレベルとなる。
神聖な中央闘技場では予選は行われない、そのかわり本戦は1回戦から決勝まで通して見ることができる。
その頃には一般の参加者は皆、敗退しており国民に戻っているため、
あっという間に売り切れた本戦のチケットが手に入らないもの、また、
明日が待ちきれない者が今日午後からのエキビジションを楽しみにしている。
「はい、早めに朝食を済ませ、今は装備の準備をしている頃ですわ」
「前大会の優勝者であるからな、それに相応しい腕前を見せてもらわなければならぬ」
「ほう・・・それは豪華であるな、前々回の優勝者と前回の優勝者の戦いか」
それが過去の優勝者同士の一戦となれば・・・喜ぶ表情が目に浮かぶようだ。
「なら私も闘おうか、私が優勝したのはもう10年程前になるが・・・」
「それはおよしになっていただいた方が・・・お相手がおりません」
「ララ、そなたと手合わせするか?そなたは前々々回の優勝者であろう」
「いえ、稽古でしたらまだしも、ハプニカ様と闘うような恐れ多い事は・・・」
「おお、そうであったな、1人で考えたいと姿を消したのであった」
「それが良いと思われます、白竜を身近で見られて国民も喜ぶでしょう」
「そうだな、白竜で降りて、本戦の組み合わせを発表するとしよう」
さあ、軽く朝食を食べて、昼の特別演舞まで皇務に励むとするか・・・