「どうだ、気分がいいだろう」
「はい、街があんなに小さく見える・・・」
「ここまで高く上がれるのは私の白竜だけだ」
なんとかこのお方を連れ出す事ができた・・・
何となく少しだけ騙しているような気がし、私の胸をモヤッとさせる。
「落ちないように私の背中にぴったりくっついているのだぞ」
ええい、行ってしまえばそれで良いのだ・・・
戦(いくさ)というのは強引に突っ走ってしまえば何とかなる事もある、
しかしそれはとっさの判断能力と一貫した方向性があって初めて出きること・・・
このお方が囮になった時、セルフがもう見捨てるしか無いと判断した事があった、
しかし「私には必ず助け出す名案がある、任せて欲しい」と案も無いのに説得し、結果的に助け出せた事もあった・・・
「ではよくつかまっているのだぞ、しっかりな」
白竜をさらに加速させる、
1分1秒でも早くアバンスに着き、話を決着させたい。
このお方を安心して私の所へと来ていただけるように・・・
そうだ、このお方の意思もはっきりさせておかねばなるまい。
まったくその気がないのに口説き落とそうとするのは失礼極まりない・・・
「それで・・・その・・・少しは・・・考えてくれたか?」
「はあ、あの・・・ハプニカ様は・・・なぜ私を?」
「・・・それは、そなたの全てが・・・何もかもが・・・」
「私はハプニカ様が思っているほど・・・・・いえ、何でもないです」
「・・・・・そなたのことはずっと見てきた・・・よくわかっているつもりだ、そなたの魅力を」
・・・・・このお方の欠点をあえて言うならば、
この、あまりにも謙虚すぎる性格だ、自信が無い訳ではなかろうに・・・
なあに、我が国の国王となった暁には、じきに威厳も身についていくであろう、
むしろ私がそのように育てるつもりだ、私に任せておいてくれれば間違いない。
もちろん私も王妃としての身に付けなくてはいけない事はどんどんこれから勉強するつもりだ。
「あの、ハプニカ様、贈り物、ありがとうございます」
「なに、つまらんもので申し訳なく思っているほどだ」
「あの花・・・とても嬉しかったです、それから、
あの食事も・・・とってもおいしかったです、
あの剣・・・とても立派で・・・もったいないです、
あの薬・・・とっても足が楽になりました、ありがとうございます」
・・・・・まったく脈が無い訳ではなさそうだ、
私は安堵の気持ちも込めて、軽く振り向き、言う。
「・・・・・よかった」
再び前を向くと、そこには・・・
「見ろ、海だ」
「あ、本当だ・・・懐かしい・・・」

遠くにきらきら輝く海が広がる、
海へつけば後は海岸沿いに行けば、アバンスへは一本道だ。
このお方の生まれ育った海を見ながらならば、
見とれている間にそのままアバンスへ行ってしまえるだろう・・・
それに、白竜であればすぐに海へ行けると実感してもらえれば、
セルフの遣いの仕事が終わってからも、急いで海へ行く必要は無くなるだろう、
我が国でゆっくりしていってもらえれば、きっとこのお方の心もダルトギアに・・・
「・・・ハプニカ様、潮の匂いがしてきましたね・・・懐かしい匂いです」
「・・・・・そなたが好きなときに、いつでも、こうして海に連れてきてやろう」
「白竜だと海まであっという間ですね」
「ダルトギアでも、ガルデスでも新鮮な魚は手に入る・・・空は海に繋がっているからな」
「そうですね、そういう考え方もできますね・・・」
・・・そうだ、その通りだ。
そして、アバンスとダルトギアも空で繋がっている・・・
万が一、このお方がアバンスで暮らす事になっても、この白竜で毎朝バラの花を届ける事くらいは出きる。
海岸を旋回し、
いよいよアバンスの方向へ竜を飛ばす、
思いもよらぬ方へ白竜が行くので、きっと不安であろう・・・
「一体どこへ・・・?」
「大切な所だ」
白竜の速度をさらに上げる、
海岸を道しるべに雲の隙間を割ってぐんぐんぐんぐん・・・
やがて・・・一際大きな城が見えてきた、あそこがまさしく、
世界最大の都市、アバンス・・・解放軍リーダー・セルフの治める国だ。
急降下し、アバンス城の屋上に降り立つ、
まわりの傭兵は驚いているようだが、攻撃の意思は無いようだ、
まあこの白竜に立ち向かって普通に勝てる訳はないであろうし、
乗り主もはっきりしているはず・・・案の定、敬礼している衛兵もいる。
まあ、ここへは何度か来た覚えもあるが・・・一応礼儀として名乗っておこう。
「私の名はダルトギア国王ハプニカ!セルフ様の遣いの者を、
こちらにお送りして参った!ぜひお会いしていただけるようお願いする!」
白竜から降りると丁重に案内される、
私もこのお方を丁重に連れて・・・さて、
いよいよ対決だ・・私達はセルフの玉間に通された。
「よくいらしてくれました、ハプニカ様、それと・・・」
セルフが結婚したばかりの王妃・リュームと、
玉座に並んで座っている、挨拶の構えをし、早速こう切り出した。
「セルフ殿、久しぶりだな、婚礼式には出席できずにすまぬ」
「いえ、いいんですよハプニカ様が忙しいのは承知してましたから」
「手紙の方、ついさっき受け取った、条文にある平和条約、全て異存はない」
「それを言いにわざわざ・・・?外で白竜が飛んできた時はびっくりしましたよ」
「実はそれだけではないのだが・・・とりあえずこの条文には署名しておいた」
私はすでに署名と拇印のしてある条文書をセルフに渡した。
「ありがとう。で、それだけではないとは?」
「ああ、実は・・・彼のことだが・・・」
私が愛する人をちらりと見ると、それに気付いたセルフが話かける。
「あ、すまない、今までありがとう、あちこち伝言させて・・・」
「いえ、ついででしたから・・・楽しい旅でしたよ」
「ひと月も働かせてしまって・・・お礼をしなくちゃ」
その会話に口を挟む。
「そのことだが、セルフ殿は彼をこの後、どうするつもりだ?」
「どうするつもりって、彼にはできればこの国の参謀にでもと」
やはりそうか・・・さすがセルフ、抜け目はない。
「セルフ殿の気持ちもわかるが・・・できれば私の国に欲しい」
「それは私も同じです、彼がずっとアバンスにいてくれれば、これほど心強いことは・・・」
「しかし、セルフ殿にその権利が明確にあるということはなかろう?」
「それはお互い同じです、しかし我が国では多くのモアス民を抱えています」
「なら我が国で全てのモアスの民を引き取ろう、それで文句はあるまい?」
ここは言い負ける訳にはいかない!
と、その様子をずっと無言で見ていた、
セルフの王妃・リュームが口を開いた。
「どちらにしても、強制することはできませんわね」
私が愛しい人を見ると、セルフも見つめ、先に言葉を発した。
「どうか、このアバンスに残ってはもらえませんか?」
「私とともに・・・ガルデスの城で暮らそうぞ」
遅れて私も・・・さて、審判は・・・!?
「ちょっと待ってください、俺、そんなこと急に言われても・・・
とりあえずは荷物がガルデス城にあるのでそっちへ戻ります、
・・・・・あとのことは・・・ゆっくり決めます」
その言葉に思わず私は頬がゆるんだ。
「そうか!それでは帰ろうか、ガルデスに」
「はい、セルフ様、それでは失礼します」
ガルデスへ、戻ると言ってくれた!!
セルフは仕方ないな、という感じで頬杖をつき、
去ろうとする私の愛しい人に声をかける。
「いつでもあなたを迎え入れる準備はできてますから、
この国はあなたの第2の故郷だと思ってかまいませんよ」
「・・・ありがとうございます」
「あと、ひと月働いてくれたお礼を・・・」
「いえ、旅前にいただいたお金がたくさん残っていますので、それで結構です」
「・・・うーん、ではあとで改めてガルデス城に届けましょう」
いかぬ!戻ると決まった以上、長居は無用だ!
まだ話している途中にもかかわらず、私は強引に体ごと引っ張る。
「セルフ殿、ではな、近いうちにまた会おう」
「あ・・・セルフ様、それでは・・・わっ、わっ」
「さ、日が暮れぬうちに早く!」
さあ、ここにもう用は無い、さっさと行こう!
私たちが去ったのち、セルフの王妃・リュームがセルフに話し掛ける。
「ハプニカ様も必死ね、多分、もう彼は当分ここには来れないわ」
「どうして?」
「次に会う時は、2人の結婚式ね」
「えっ!?あの2人、そうだったの?」
「彼は別としてもハプニカ様はね・・・ふふふ」
「リューム、君、知っていたのか?」
「男の人は戦争中はそういうことに鈍感だから」
城の窓から外を見たセルフの目には、
逃げるように飛び去る、2人を乗せた白竜が見えた・・・・・
白竜がガルデス城を目指し大急ぎで飛ぶ、
太陽もそろそろ暮れようとしている・・・
いくら白竜が速いといってもやはり往復で半日かかる、
ちょっと散歩、と言うには無理があったが、結果が良ければいいのだ。
これでセルフという邪魔者の線はとりあえず消す事ができた、さて、次だ・・・
「今夜はそなたのために豪華なごちそうが用意されておる、
私の親衛隊、あの4姉妹が力を合わせて作るとっておきの料理だ、
おなかをすかしているであろう、すぐに戻るのでもう少し待ってくれ」
手綱で気合いをつけると、
さらに白竜は加速し、ガルデスの城が見える頃には、
すっかり夕方に・・・夕日に照らされたガルデスシティを見入る愛しい人・・・
地上ではあわただしく人がうごめいている、
それもそのはず、明日からは我が国自慢の闘技大会が復活するのだ。
このお方が来る直前まで、私はその準備にも追われていたのだが、
今は大臣に全て任せてある、後は試合を見るだけ・・・振り返ると、
準備に忙しい闘技場の存在に気がついたのか、私に問いかけていた。
「ハプニカ様、闘技場が多いですね」
「ああ、城の庭に1つ闘技場がある、他にあと4つ、
東西南北に・・・その4つの闘技場では1個所につきに5つステージがある、
1度に5試合同時に戦闘が行える闘技場が4つ・・・我が国の自慢の1つだ」
「すごいですね、じゃあ4×5で20試合同時に行えますね」
「城の中央闘技場を合わせて21試合だ、それでも足りぬ時がある」
もう少し闘技場を見せよう・・・白竜の高度を下げ、
闘技場がだんだんはっきりわかるようになる・・・準備は順調のようだ。
「実は我が国伝統の闘技トーナメントが復活することになってな・・・
明日は予選、明後日はいよいよ本選が行われる、私も楽しみにしている」
「トーナメントですか、面白そうですね」
「ああ、予選は見るに足りんが本選は迫力がある、
私も明後日は中央闘技場で1日中観戦するつもりだ・・・
どうだ?よければもうしばらくここに滞在して見ていかぬか?」
「面白そうですね、やはり竜に乗っての戦闘ですか?」
「いや、純粋な剣の腕を見たくてな、竜から降りての闘いだが・・・」
この勇ましくも頼もしい戦いを見てもらえれば、
きっとダルトギアに対し親しみが湧き、良い印象を持ってくれるに違いない。
「わかりました、トーナメントが終わるまでは、お邪魔させていただきます」
「そうか、嬉しいぞ・・・ではトーナメントが終わったら・・・」
「・・・終わったら?」
「その・・・できれば返事を聞かせてほしい・・・私の・・こととか・・・」
「・・・わかりました、それまでには何らかの答えを出せるように・・・考えます」
白竜をゆっくりと減速させ、
ようやくガルデス城に降り立った、
城の傭兵が帰りを待ちわびていたようだ。
「おかえりなさいませっ、女王様っ!」
「ご苦労」
「すでにご夕食の用意ができておりますっ!!」
「さ、行くぞ、今日はめでたい、宴のようなものだ」
白竜から降りると、
傭兵が手に持つ籠の中にある山盛りの林檎を3つばかりつかみ、
頑張ってくれた感謝の意を込めて白竜の頭めがけ軽く投げる。
しゅるっ、ぱくっ、ぱくっ、ぱくっ
白竜は慣れた感覚で舌をあやつりキャッチすると、
おいしそうに飲み込む・・・白竜と目が合うと、ゆっくり頷いた。
「白竜よ、ご苦労であった・・・さ、我々も食事だ」
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めくる |