これからどうするか・・・どうするも何も私の思いは1つだ。

私は玉座に深く腰をかけ、あの青年との戦争中の事を思い出す・・・

いや、愛しい人との思い出に想いふける、と言った方が正しいだろう・・・

私はいつのまにか、あの青年の不思議な魅力に心惹かれて行った、

あのお方を想うと胸が締め付けられ・・・これが「ときめき」と確信するのに時間はかからなかった。

 

しかし私は軍をリーダー・セルフと共に取りまとめる必要があった。

セルフは若い、若すぎる、よって軍をまとめるには威厳という面で欠けていた。

威厳だけであればツァンク将軍がいたが、ベテランすぎるうえに我が強すぎる。

結局、セルフでは足りない「まとめる」といった部分では私が担う事も多かったが、

それゆえに特定の戦士に個人的感情を抱いている事がばれると、一気に立場がなくなる。

 

よって、私はいかに胸のうちで慕っている男がいても、

それを微塵も出す訳にはいかなかった・・・損な役回りだ、

リュームや我が妹・ミルのように皆の心を癒す役回りであれば、

まだ胸も楽になったであろうに・・・出来た事はせいぜい数秒、見つめるだけ・・

それでも幸せであった、なぜなら私も、あのお方も生きている、それが確認できたから・・・

 

やがて戦争も終わり、もう我慢する必要が無くなった。

早速、祝勝パーティーであのお方に想いを打ち明けよう・・・

そう決めた時、すでにあのお方は姿を消してしまっていた、まるで幻でもあったかのように。

 

「気持ちだけでも先に言っておくべきであった・・・」

 

その後、私はすぐこの国に戻り、即座に復興作業に入った。

とにかくこの国の、今後の道筋をつけ、安定させなければ身動きが取れない・・・

落ち着いたら親衛隊に任せてあのお方を探し出そう、そう思っていたらあのお方のほうから来てくれた。

 

・・・後はこの通りである。

つい、たまらず感情をぶつけてしまい、

涙までぼろぼろと・・う・・思い出しただけでまた・・・

 

目頭を押さえていると4姉妹が戻ってきた。

 

「準備が整いました、庭のお花を束ねてまいりましたわ」

「アップルジュースとー、アップルパイができましたー」

「国宝の剣、用意いたしました、まったく錆付いてません」

「ミルさまから〜、最高級の塗り薬をいただいてきました〜」

「そうか・・・ではその笑顔のまま、あのお方に渡してきて欲しい」

 

親衛隊4姉妹☆

 

「かしこまりました、おもてなししてまいりますわ」

「ララお姉さまとの自信作ですー、きっと気に入っていただけますー」

「一応、売らない様に釘を刺しておきます、念のために言っておかないと」

「お薬塗ってさしあげますねぇ、新しい国王様になられる方ですからぁ〜」

「うむ、では頼んだぞ、丁重にもてなしてきてほしい」

 

出て行く4姉妹、

まあ任せておいて間違いは無いであろう。

それにしても、もうあの戦いが終わってひと月になるのか、

早いものだ・・と、セルフの手紙に目をやる。

・・・・・あのお方はセルフの遣いで来ている、ということは、アバンスへ戻るのであろうか。

 

「アバンスへ戻ったら・・・・・取られてしまうではないか!」

 

あのお方は私が初めから目をつけていた、

それをアバンスに、セルフに横取りされてはたまらぬ!

せっかくこれから私の愛しい人と、幸せな国造りが始まるのだ、

人の気も知らず、それがさも当然のように参謀にでもするに違いない!

そうはさせん!あのお方は、私の隣で夫として、国王となる事が決まっておる!

 

「これはセルフと直接、対決せねばなるまい・・・」

 

こうしてはいられない!

玉座の後ろにある戦闘服を身に付ける、

ランスも手に・・セルフといざ本当の戦いになってもこれで良いだろう、

話がつかぬ場合は腕ずくであのお方をここへ連れて帰る!

よし、あのお方を連れてアバンスへ行こう!今すぐにだ!近くの衛兵に声をかける。

 

「おい、屋上に白竜はいるか」

「はっ・・・はい、待機されているはずですが」

「そうか、わかった・・・いつでも飛び立てるようにしておいてくれ」

「ど、どこへ行かれるのですか?」

「無論・・・戦(いくさ)だ」

 

 

 

セルフからの手紙に調印し、

軽い旅支度を整えるとあのお方の休まれている客間の前についた。

さて、どうやって連れ出すか・・・そうだな、散歩・・・とでも言っておこう、

アバンスへ軽く散歩へ行って、セルフにあのお方を私が貰うことを宣言し、

そしてまたここへ戻ってくる・・・なあに、私の白竜なら日が沈む頃には戻ってこられる。

 

・・・・・では・・・

 

コンコン

 

・・・・・

・・・・・・・・返事が無い。

 

コンコン、コンコン

 

「・・・おられるか?」

 

・・・・・

・・・・・・・・おられぬようだ。

ではどこへ・・・まさか、もうすでにアバンスへ・・・!?

 

「ハプニカ様」

「おお、ララではないか、あのお方は?」

「リリと一緒にミルさまのお部屋へ歩いて行かれましたが」

「そうか・・・・・なら安心した」

「その姿・・・稽古をおつけになられるのですか?」

 

・・・・・はっ!

自分の姿を改めて見ると、

これは少し、おかしいかも知れない。

散歩へ行く、と連れ出すつもりなのに、

ここまで武装していては、不自然ではないか・・・うーむ。

 

「いや、これはな・・・ま、まあ、よいではないか」

「では夕食の指示に行ってまいります」

「今夜は豪華にして欲しい、宴だ」

「かしこまりました、新しい国王様のために私達4姉妹で作らせていただきます」

「そうしてくれ、まだ返事は貰えていないがこの国に住みたくなるような料理を頼んだ」

 

ララが去り、

私は扉の前で待つ・・・

どうすればセルフに勝てるか・・・

そういえば、まだ後発隊が来てもないのに

どうしても目の前にいる敵の大群と闘うと言ってきかない事があった。

 

確かに僅か9名の少数精鋭で100名以上の、

しかも悪の魔道師コーグがいる敵軍を倒せれば、

一気に平和への近道になる事は間違いなかった。

だがしかしリスクが高すぎた、ここは目の前の敵を逃がしてでも、

皆が合流するのを待つべき・・あまりにセルフがきかなかったので平手打ちで目を覚まさせた。

 

まあ、いざ突っ込めば勝てる可能性はそれなりにあったが、

犠牲者が出る可能性も高かった、その中にあのお方がいた事が、

セルフの無理をつっぱねた最大の原因であった事は誰にも言えない・・・

あのお方がいなければ逆に勝負に打って出た可能性もじゅうぶんにあった、

だが、こういう賭けは自分が必ず勝てると自分に言い聞かせられなければできぬ、だから・・・

 

「だからあのお方がいると、賭けに勝つ確信が持てなかった・・・」

 

あのお方が囮になるたび、

いくら自分が闘っていても、

生きた心地がしなかった・・・

もしあのお方に何かあったらどうしよう・・・

そう思うがゆえに、私が生き延びてあのお方を守ろうと思ったものだ。

 

「あのお方のおかげだな、私が最後まで生きて帰れたのも」

 

・・・それよりセルフをどうするかだった、

いかにあのお方が私に必要で、かけがえのない者であるかの説得・・・

私のあのお方に対する特別な感情など、セルフはとても知りえないであろう、

いや、セルフと結婚したリュームは気付いていたかも知れぬな、あの洞察力なら・・・

そしてリュームがセルフにそれを伝えていたとしたら?身を引いてくれるであろうか・・・

 

「いや、そんなに都合よく行くとは言えまい」

 

だからと、セルフの前で「このお方は私が口説いている最中だ」

とは、とても言えぬ。逆に口説けていない事を暴露しているようなものだ、

そうなると隙を見せ、今度はセルフがあのお方を口説いて大臣か参謀にでも・・・!!

 

「それは・・・ならぬ!!」

 

いざとなったら決闘だ!

セルフのクセは見抜いておる、

斬りつける手首の返しで軌道がわかり、

相手に予想外の動きをされると必ず後ろに半歩下がる・・・

そういえば踊り子出身のチャヌムがセルフと稽古した時、ふざけて胸をはだけたらセルフは動きが完全に止まった。

 

・・・私も・・いや、ならぬ!私の胸を見て良い男は、あのお方のみ!!

 

「・・・きたか」

 

あのお方が戻ってきたようだ、

冷静に、冷静に、不自然でないように・・・

 

 

「ハプニカ様、どうなされたのですか?武装なされて」 

「ああ、その・・・もしよければ、散歩でもせぬか?」 

「いいですが・・・その格好は少々堅苦しいですね」 

「いやその・・・どういう服が良いかわからなくて・・・着替えてくる」 

「そのままでいいですよ、その方がハプニカ様らしい」 

「それは・・・喜んで良いのか」 

「ハプニカ様はハプニカ様な方がいいですよ、無理なさらず・・それでどこへ?」 

「うむ、着替えてついてきてほしい・・・」 

 

着替えをしばし待ったのち、城の屋上へ・・・

何も疑わず付いてきてくれている、さあ、白竜のもとへ・・・!!

 

もどる めくる