「はい、思ったより高い場所にあって・・・でも良い運動でしたよ」
城の窓では我が国原産の飛竜や天馬が飛び交っているのが見える、
手紙の1つでも送ってもらえれば私が直接迎えに行ったであろう・・・
「いえ・・・ふもとから見るぶんには近く感じたんですが、こんなにかかるとは・・・」
ふもとから見えやすい場所に建てられた、しかし歩いて来るとなると、
どんなに早くとも2日はかかってしまうであろう、馬でも1日かかる。
はじめは冗談だと思ったらしい、機嫌を悪くしていたら詫びよう」
「・・・ハプニカ様にそんな言葉をかけていただけるなんて光栄です」
ダルトギア王国の新女王となり、ようやく1ケ月を過ぎたところだ。
「・・・これもあの戦争のせいだ、あの大戦はいろんな物を失ってしまった・・・」
先の大戦で魔に操られた悪の将・ザムドラー率いるスルギス王国と同盟だった我が国は、
前国王、すなわち私の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーの凶行により、
当初はスルギス側について罪の無い民衆を苦しめてしまっていた。
それがどうしても我慢できなかった私は妹のミルと私個人の親衛隊・天馬騎士4姉妹を連れ、
正義の解放軍に加わり共に戦ったのであった、そう、この青年とも・・・。
「一応、各国に平和になったお礼の挨拶回りをと思いまして・・・
私は解放軍リーダー・アバンス王国の国王に就任したセルフからの手紙を、
目の前の青年から受け取った、内容は各国の平和条約制定についてのようだ。
「ふむ、セルフもいろいろ大変だな、戦争が終わっても休む暇が無いと見える」
「お言葉ですが・・・ハプニカ様もこの国に戻って不眠不休で再興に尽くしてらっしゃると聞きました」
「私は仕方あるまい、父や兄のつぐないがあるのだから・・・それよりそなたは?」
この青年はかつて「幻の海上要塞」と呼ばれたモアス島・モアス王国の騎士であった、
しかし敵の魔法攻撃により島ごと沈められてしまい、今では深い深い海の底・・・
逃げ延びる事ができた僅かな民は各国の港に移住していると聞く。
「何を言っておる、あの戦争の影の功労者はそなたであろう、そなたがいなければ・・・」
どんな戦いにも裏方に徹して勝利を運ぶ影の功労者というのがいる、
時には囮にさえ喜んでなってくれた・・・私の考える攻略作戦に欠かせない駒となってくれた。
しかも、その作戦をさらにワンランク上げる頭脳を兼ね揃えており、
もはやこの青年は私の頭脳的参謀といって良い存在になっていった。
しかしどうしても目立つのはセルフやリューム、ツァンク将軍といった名のある者ばかり・・・
「・・・少なくとも私はそなたをセルフと同等・・・いや、それ以上の働きをしたと思っている」
次第に私の部下に欲しい、親衛隊に入れたい、やがてその想いは・・・
こういっては何だか、あの戦いの中であるのもかかわらず、異性を異性として見たのは
これが初めてだったかも知れない、それは命の危険と隣りあわせだった日々の中で、
私のなかにほんの一握り眠っていた、「女」としての本能が目覚めたからではないかと思っている。
それを自覚した時、蝋燭の炎が消える瞬間に激しく燃える様子が思い浮かんだ。しかし私はこうして生きている。
「そうですね、今はとりあえず各国を廻って解放軍に参加してくださったお礼を言いに行っていたのですが、
それもこの国で最後ですし、伝言役の仕事ももうハプニカ様のお返事で終わりでしょうから、
セルフ様の所へ戻ったら、そのままアバンスに住もうかなと・・・」
「とんでもない、平和になったことですし城下町で道場でも開こうかと・・・」
「そんなこと、セルフが許すはずなかろう、それ相応の仕事があるに違いない」
「確かにセルフ様はそういう感じの事を言ってくれていましたが・・・私には・・・」
「しかし私にできる事などもう何も・・・竜や天馬には乗れないし、
あとは・・・戦術などの講師ぐらいですか、でもそれはもっと専門家が・・・」
そうか、飛竜たちも私に勇気を与えてくれているのだな・・・・・
その先にあるのは、私がつい先ほどまで座っていた・・・・・そう、玉座だ。
「ハプニカ様だからこそ国民は慕っているのでしょう、私では無理です」
「・・この国最大の特産物は天馬や飛竜です、それに乗れない国王だなんて・・・」
「私が1から教えよう、難しいことなどない、事によれば私がすべて操る、そなたは後ろに乗っているだけでよい」
「・・ハプニカ様がよくても、妹のミル様やあの親衛隊、それにこの城の方たちが・・・」
「この城の今の王は私だ、大臣に文句は言わせぬ、ミルや天馬4姉妹も喜んでくれよう」
「・・・この国と・・ハプニカ様には・・・それ相応のふさわしい方がいらっしゃるはずです」
「私にはもったいなさすぎます、もっとハプニカ様を支えられる方でないと・・・」
私が一緒になりたいのはそなただけ、誰がふさわしいかは私が決めることだ!
もったいない?そなたは私にとって最高の宝石、その自分を卑下するということは私を侮辱することになるのだぞ、
もしそなたが私より格が下でつりあわないというのなら、私がそなたと同じ身分になろう、
その時はもうこの国など知らぬ、それだけの覚悟でそなたと結婚したいと言っておるのだ、
国のためではない!私の心が・・・そなたを求めておるのだ!!!!!」
これが戦闘中なら隙が出来てしまう、戦闘中に計算して感情をぶつけた事はあったが、
このように我を忘れたのは自分でも戸惑うほど意外だ・・・落ち着かなくては・・・落ち着こう・・・
肩で呼吸をし、息を整える。うつむき、唾を飲み込んみ、一瞬無になってから、真っ直ぐに瞳を見つめる。
「私を支えられないというなら・・・その分、私がそなたを支える・・・
普通の夫婦が普通に支え合う倍、いや、何倍、何十倍も、そなたを支え・・・愛する・・・
そなたがそばにいてくれるだけで・・・私には・・・何よりの支えだ・・・・・」
無理に感情を抑えようとしたばかりに目から涙が溢れてくる・・・
戦闘中は抑えきれたというのに、これはどういう事だ・・・うぅぅ・・・
いや、あの時は決して涙を流すまいと我慢した、一筋の汗が流れたのみ・・そういう事にしたのだった。
愛しい人にすがって震えながら泣いている・・・うぅ・・・寒い・・切ない・・・
「・・・・・う・・・すまない・・・取り乱して・・・しまった・・・」
取り乱すにも程がある・・まわりには衛兵が見ているというのに・・・
本当にすまない、自分よがりであった、そなたの気持ちも考えず・・・
疲れた・・・あまりにも感情を出しすぎた・・・また涙がこぼれそうになる。
戦争でも私の腹心として、また剣として、盾として、分身として闘ってくれた。
「そうだな・・・ララ、リリ、まずは花と・・疲れの取れる軽い食べ物を運んであげて欲しい」
「ではアップルジュースとアップルパイを作らせていただきます」
「ルル、兄の遺品にまだ使ってない剣が1つあったであろう、あれをさし上げて欲しい」
「ああ、いかに国宝でも主がいないより、使われないよりは使われた方が剣も喜ぶであろう」
「・・・わかりました、でももし国外で出回ったら国の威厳が・・・」
「売ろうとしても値はつけられないであろう、それは心配ない・・・それとレン」
「ミルから足の疲れにきく、最高級の塗り薬を貰ってあのお方につけてさしあげろ」