☆女王の壮大な愛☆ハプニカ編

 

「よくぞいらしてくれた、礼を言うぞ」 

 

私は目の前で膝をつく青年に感謝の言葉を告げる、

ここまでの道のりはつからったであろう・・・

ボロボロになった靴がそれを物語っている。

 

「一言連絡をくれれば迎えの竜を出したのに・・・ 

 ここまで登ってくるのは大変であったろう」 

「はい、思ったより高い場所にあって・・・でも良い運動でしたよ」 

 

良い運動、の一言で片付けてしまうこの青年・・・・・

城の窓では我が国原産の飛竜や天馬が飛び交っているのが見える、

手紙の1つでも送ってもらえれば私が直接迎えに行ったであろう・・・

 

「竜とまでいわなくてもせめて馬ぐらいは・・・ 

 いや、そなたは馬には乗らない主義であったな、失礼・・・」 

「いえ・・・ふもとから見るぶんには近く感じたんですが、こんなにかかるとは・・・」 

 

そうであろう、ここガルデス城は

ズバラン山脈の中で最も高いガルデス山の中腹にある。 

我がダルトギア王国の首都ガルデスシティの象徴であるため、

ふもとから見えやすい場所に建てられた、しかし歩いて来るとなると、

どんなに早くとも2日はかかってしまうであろう、馬でも1日かかる。

 

「門番もびっくりしていたぞ、そなたの名を聞いて・・・ 

 はじめは冗談だと思ったらしい、機嫌を悪くしていたら詫びよう」 

「・・・ハプニカ様にそんな言葉をかけていただけるなんて光栄です」 

 

ハプニカ・・・それが私の名前。

ダルトギア王国の新女王となり、ようやく1ケ月を過ぎたところだ。

 

「どうもこの玉座というのは座りごこちが悪い・・・肩がこる」 

「そうですか、でもハプニカ様に相応しい場所に思われますが」 

「・・・これもあの戦争のせいだ、あの大戦はいろんな物を失ってしまった・・・」 

 

先の大戦で魔に操られた悪の将・ザムドラー率いるスルギス王国と同盟だった我が国は、 

前国王、すなわち私の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーの凶行により、

当初はスルギス側について罪の無い民衆を苦しめてしまっていた。 

それがどうしても我慢できなかった私は妹のミルと私個人の親衛隊・天馬騎士4姉妹を連れ、 

正義の解放軍に加わり共に戦ったのであった、そう、この青年とも・・・。 

 

「それで今日はわざわざこんな高地まで何をしに?」 

「一応、各国に平和になったお礼の挨拶回りをと思いまして・・・

 ついでに伝言役みたいなのをやっております、これを・・・」 

 

私は解放軍リーダー・アバンス王国の国王に就任したセルフからの手紙を、 

目の前の青年から受け取った、内容は各国の平和条約制定についてのようだ。 

 

「ふむ、セルフもいろいろ大変だな、戦争が終わっても休む暇が無いと見える」 

「お言葉ですが・・・ハプニカ様もこの国に戻って不眠不休で再興に尽くしてらっしゃると聞きました」

「私は仕方あるまい、父や兄のつぐないがあるのだから・・・それよりそなたは?」 

「はあ、私には・・・帰る場所なんてありませんから・・・」 

「でも各国に散らばっておるのであろう、モアスの生き残りが」 

 

この青年はかつて「幻の海上要塞」と呼ばれたモアス島・モアス王国の騎士であった、 

しかし敵の魔法攻撃により島ごと沈められてしまい、今では深い深い海の底・・・

逃げ延びる事ができた僅かな民は各国の港に移住していると聞く。

 

「今更集まってもらっても何もできませんよ、 

 もう国王も島も、何もかも沈んでしまったんですから・・・」 

「ではそなたが新たな土地で新モアスの国王になるがよかろう」 

「そんな・・・私は一介の騎士です、そんな器ではありません」 

「何を言っておる、あの戦争の影の功労者はそなたであろう、そなたがいなければ・・・」 

 

そう、この青年がいなければ、勝利は無かった。

どんな戦いにも裏方に徹して勝利を運ぶ影の功労者というのがいる、 

時には囮にさえ喜んでなってくれた・・・私の考える攻略作戦に欠かせない駒となってくれた。

しかも、その作戦をさらにワンランク上げる頭脳を兼ね揃えており、

もはやこの青年は私の頭脳的参謀といって良い存在になっていった。

しかしどうしても目立つのはセルフやリューム、ツァンク将軍といった名のある者ばかり・・・

 

「・・・少なくとも私はそなたをセルフと同等・・・いや、それ以上の働きをしたと思っている」

「そんな、誉めすぎですよ、もったいない・・・」 

「私は真剣だ」 

 

そう、私はずっとこの青年に目をつけていた。

一匹狼だった彼を初めは便利な駒だと思っていたのが、

次第に私の部下に欲しい、親衛隊に入れたい、やがてその想いは・・・

こういっては何だか、あの戦いの中であるのもかかわらず、異性を異性として見たのは

これが初めてだったかも知れない、それは命の危険と隣りあわせだった日々の中で、

私のなかにほんの一握り眠っていた、「女」としての本能が目覚めたからではないかと思っている。

それを自覚した時、蝋燭の炎が消える瞬間に激しく燃える様子が思い浮かんだ。しかし私はこうして生きている。

 

「では、そなたはこれからどうするのだ?」 

「そうですね、今はとりあえず各国を廻って解放軍に参加してくださったお礼を言いに行っていたのですが、 

 それもこの国で最後ですし、伝言役の仕事ももうハプニカ様のお返事で終わりでしょうから、 

 セルフ様の所へ戻ったら、そのままアバンスに住もうかなと・・・」 

「ほう、アバンスの城で官僚にでもつくのか?」 

「とんでもない、平和になったことですし城下町で道場でも開こうかと・・・」 

「そんなこと、セルフが許すはずなかろう、それ相応の仕事があるに違いない」 

「確かにセルフ様はそういう感じの事を言ってくれていましたが・・・私には・・・」 

 

あの時、心につけられた炎は今もなお燃え上がっている。

私は外を行き来する飛竜を見つめながら、言葉を押し出した。 

 

「・・・では、この国に残ってはくれぬか」 

「は?」 

「私の力になってほしい」 

 

窓からさーーっと風が入り、私の長髪をなびかせる。

 

「この国に・・・ですか?」 

「そうだ」 

「しかし私にできる事などもう何も・・・竜や天馬には乗れないし、 

 剣の腕もこの国には私よりうまい人はいくらでもいるし、 

 あとは・・・戦術などの講師ぐらいですか、でもそれはもっと専門家が・・・」 

「そんなことはさせられぬ、そなたに失礼だ」 

「では、私に何を・・・?」 

 

さらに強い風が吹いた、 

私の髪がぶわっと持ち上がる・・・ 

そうか、飛竜たちも私に勇気を与えてくれているのだな・・・・・ 

 

「そなたにしかできない事だ・・・」 

「何をすれば・・・いいと?」 

「何もしなくてよい、ただ、そこに座ってくれるだけで」 

 

くるりと振り返り、 

私はこの青年に座って欲しい場所を腕で示した。

その先にあるのは、私がつい先ほどまで座っていた・・・・・そう、玉座だ。 

 

「まさか・・・」 

「この国の国王になってくれぬか」 

「私には無理です!国王なんて、私にはそんな力は・・・」 

「そなたは何もしなくていい、この城の皆が全てやってくれる」 

「じゃあ、ハプニカ様はどうなさるのですか?」 

「当然、私は王妃につく」 

「・・・えっ!?」 

 

私は入ってくる風に背中を押されつつ、 

愛しい人の方へと一直線に突き進む。

目の前までつくと、心の中で剣を構え、想いを言葉に出した。

 

「どうか・・・私と結婚してくれぬか」 

「はっ・・・ハプニカ様っ・・・!!」 

「ずっとそなたに目をつけていた・・・私では不満か?」 

 

ハプニカ王女☆

 

私はこの愛しい人の手をそっと取り、 

腰をかがめ、甲に唇を合わせる・・・

そのまま想いを込めて、瞳を見つめた。

 

「ハプニカ様・・・私は・・・そんな器の人間ではありません」 

「何を言う、世界中に知れ渡る英雄ではないか」 

 

私のキスした甲をじっと見つめる愛しい人・・・

 

「私はこの国の者ではありません」 

「住めばそなたも立派なこの国の者だ」 

「ハプニカ様だからこそ国民は慕っているのでしょう、私では無理です」 

「そなたの事は国民みんな尊敬しておる、無論、私もな」 

「私に国を動かす技量などありません」 

「それは私や大臣が全てする、おぬしは何もしなくてよい」 

「・・この国最大の特産物は天馬や飛竜です、それに乗れない国王だなんて・・・」 

「私が1から教えよう、難しいことなどない、事によれば私がすべて操る、そなたは後ろに乗っているだけでよい」

「・・ハプニカ様がよくても、妹のミル様やあの親衛隊、それにこの城の方たちが・・・」 

「この城の今の王は私だ、大臣に文句は言わせぬ、ミルや天馬4姉妹も喜んでくれよう」 

 

静まる部屋に大きなため息が1つ・・・

さらなる静寂ののち、ため息の主がさらに言葉をつぶやいた。

 

「・・・この国と・・ハプニカ様には・・・それ相応のふさわしい方がいらっしゃるはずです」 

「どういう意味だ?」 

「私にはもったいなさすぎます、もっとハプニカ様を支えられる方でないと・・・」 

 

その言葉が言い終わらないうちに、 

私は頭に血がのぼったまま、言葉をぶつける!

 

「私にはそなたしかおらぬと言っておるのだ、 

 私が一緒になりたいのはそなただけ、誰がふさわしいかは私が決めることだ! 

 もったいない?そなたは私にとって最高の宝石、その自分を卑下するということは私を侮辱することになるのだぞ、

 もしそなたが私より格が下でつりあわないというのなら、私がそなたと同じ身分になろう、 

 その時はもうこの国など知らぬ、それだけの覚悟でそなたと結婚したいと言っておるのだ、 

 国のためではない!私の心が・・・そなたを求めておるのだ!!!!!」 

 

まさに搾り出した言葉・・・!!

思わず取り乱してしまった、落ち着かなくては・・・

これが戦闘中なら隙が出来てしまう、戦闘中に計算して感情をぶつけた事はあったが、

このように我を忘れたのは自分でも戸惑うほど意外だ・・・落ち着かなくては・・・落ち着こう・・・

肩で呼吸をし、息を整える。うつむき、唾を飲み込んみ、一瞬無になってから、真っ直ぐに瞳を見つめる。 

 

「私を支えられないというなら・・・その分、私がそなたを支える・・・ 

 普通の夫婦が普通に支え合う倍、いや、何倍、何十倍も、そなたを支え・・・愛する・・・ 

 そなたがそばにいてくれるだけで・・・私には・・・何よりの支えだ・・・・・」 

 

・・・やはり駄目だ、

無理に感情を抑えようとしたばかりに目から涙が溢れてくる・・・

戦闘中は抑えきれたというのに、これはどういう事だ・・・うぅぅ・・・

 

このように涙を流したのはいつ以来だろうか・・・

思い出すのはこの部屋で父上と兄上を、この手で斬った時・・・

いや、あの時は決して涙を流すまいと我慢した、一筋の汗が流れたのみ・・そういう事にしたのだった。

 

しかしこれは紛れもなく、汗ではない涙・・・

もう言い訳は出来ないな・・なぜなら私は今、膝をつき、

愛しい人にすがって震えながら泣いている・・・うぅ・・・寒い・・切ない・・・

 

「・・・・・う・・・すまない・・・取り乱して・・・しまった・・・」 

 

この感情に耐えられなくなった私は慌てて冷静になろうとする、

取り乱すにも程がある・・まわりには衛兵が見ているというのに・・・

 

「・・・そうだな、突然結婚してくれと言われても・・・ 

 本当にすまない、自分よがりであった、そなたの気持ちも考えず・・・ 

 どうか今晩はゆっくりしていって、そして考えてほしい・・・」 

 

涙をぬぐい、玉座へ戻る。力が抜けるように腰が落ちる・・・

 

「・・・最後にもう一度だけ言う・・・私は本気だ・・・」 

「ハプニカ様・・・」 

「おい、客室にご案内さしあげろ、決して失礼のないようにな」 

「はっ!!」 

 

深く大きな一礼を残し玉座の間を出て行った・・・

疲れた・・・あまりにも感情を出しすぎた・・・また涙がこぼれそうになる。

 

 

「失礼します」

 

入ってきたのは私の親衛隊、

天馬騎士4姉妹のララ・リリ・ルル・レンだ、

戦争でも私の腹心として、また剣として、盾として、分身として闘ってくれた。

 

「ハプニカ様、取り乱していられたようですが」

「廊下にも響きましたー、びっくりしましたー」

「あれだけ会いたがってましたから、無理はないと思います」

「それで〜、結婚式の日どりはいつにしましょうか〜」

 

・・・・・さて、どうしようか・・・

まずはあのお方の疲れを癒してさしあげなくてはならない。

 

「そうだな・・・ララ、リリ、まずは花と・・疲れの取れる軽い食べ物を運んであげて欲しい」

「ではアップルジュースとアップルパイを作らせていただきます」

「お花は庭の綺麗なのを今すぐー・・・」

「ルル、兄の遺品にまだ使ってない剣が1つあったであろう、あれをさし上げて欲しい」

「よろしいんですか?国宝ですが」

「ああ、いかに国宝でも主がいないより、使われないよりは使われた方が剣も喜ぶであろう」

「・・・わかりました、でももし国外で出回ったら国の威厳が・・・」 

「売ろうとしても値はつけられないであろう、それは心配ない・・・それとレン」

「は、はい〜〜〜」

「ミルから足の疲れにきく、最高級の塗り薬を貰ってあのお方につけてさしあげろ」

「わかりました〜〜〜」

「頼んだぞ」 

「はい〜〜〜〜〜」 

 

とりあえずあのお方へのもてなしは親衛隊に任せ、

私はこれからの事を考えよう・・・さて、どうしたものか・・・

 

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