あのお方がいなくなってから2日がたった、

今日、戻られないとなると長期化も現実味を帯びてくる。

もし私たちが、誰も文句を言えないほどに愛していたならば、

すでに昨日か、今日、城でゆっくりしていけと言われたとしても明日には来るはずだ。

それを超えるとなると、1週間ではきかぬだろう、1ヶ月から3ヶ月はじっくり考えていただく事になる・・・

 

「逆に、騙されたと思い憎まれたならば、これ以上は考えることすらせぬだろうな」

 

その時は我々の事など忘れてしまうであろう、

にもかかわらず忘れられない我々は10年間待ち続け、

ようやく地上についた頃にはあのお方がアバンスあたりで幸せな家庭を・・・

 

「そうだとしても、その現実を受け入れることが償いになるなら、仕方あるまい」

 

どうなったとしても待つしかない・・・

よしできた、スバランの葉を使った紅茶だ、

リリがあのような状態である以上、私が自分で作らねばならぬからな。

 

「あのお方にも飲ませたいものだ」

 

そう思うとつい、2人分作ってしまう・・・

今、この瞬間にあのお方が戻ってきても良いように。

もちろん、そんな可能性は少なく、あとでゆっくり両方飲む事になるのだが。

 

「・・・ん?今日は風が・・・いつもと違うな」

 

ここではあまり季節の変化は無い、

スバランの木自体が大事(おおごと)であるため、

常春ともいえる環境で、雨は降るが気温はそう変わらない。

よって風の動きは夜に強くなる事が多いくらいで、いつもは一定だ。

しかし今は昼にも関わらず、なんというか、空気が渦巻いて何かを待っているようだ。

 

「白竜が大きく羽ばたき、着陸する瞬間のような・・・」

 

まあ、気のせいか、

たまたま空気の流れが変わっただけであろう。

おかしな期待をしても肩透かしが目に見えておる、しかし・・・

 

「おそらく違うであろうが、待つのは自由だ」

 

そうだ、待つというのはこういう事だ、

何もせず、あてにもせず、ただ心に期待を押しとどめる待機もあれば、

くるはずのないものをソワソワと玄関で待つのも立派な待機だ、そして今、私は後者を取りたい。

 

「・・・表よりも屋上が良いな」

 

渦巻く空気の中心がこの別荘のような気がした、

さらに、玄関の前とかではなく、屋上に向かって風が吹き上げる・・・

室内であっても、見えない誰かが招きよせているようだ、屋上へ出て待てと。

 

「疲れればハンモックで寝れば良いな」

 

屋上へと駆け上がる、

あのお方の幻を追って・・・

来るはずもないのに、なぜか胸が躍ってしまう。

 

「これでもし、本当に来たら、それはあのお方とは天命で繋がってる事になるな」

 

何があっても、

どんな事が起きても、

たとえ絶望的な別れがあっても、

最後には必ず結ばれる縁、それはもう天命だ、

神が初めから決めていた筋書き・・・だが、それが無いならば、私が自ら書くだけだ。

 

「・・・・・やはり渦の中心はここか」

 

まるでスバランの木が、大きな呼吸をしているようだ。

特別な来客を、いや、住人を迎え入れるために、抱きしめるために心を落ち着けているような・・・

どうしても白竜が戻ってくるはずだと関連付けてしまう、まあ良い、しばらくはこうして待たせてもらおう。

 

「私は、ここにいる・・・さあ、戻ってくるのだ、愛しいお方よ・・・」

 

・・・・・

・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

 

「こうしていると、幻でも見てしまいそうだ」

 

ざわざわと周りの枝が揺れ、

葉音が騒がしくなる、夕方に白竜が一斉に戻る時間帯があり、

その時にはこういった現象が起きるのだが、まだ日は高い・・・う〜む・・・

 

ビュンッ!!

 

一際目立つ気配が遠くから舞い上がる!

あれは木の外側から、下から飛び上がってきたようだ!

眩しい陽射しに目を細めながらよーく見ると、白竜だがかなり大きい!まさか!

 

「まさか・・まさか、しかし、いや、間違いない!」

 

私の白竜だ!!

そこまでは良い、

問題は背中に誰かを乗せておるかだ!!

 

バサバサバサ・・・

 

こちらへやってきた!

私の所へ、この別荘の屋上へ舞い降りる!

伏せた所でようやくわかった、乗っていたのは2人、シャクナと・・・・・

 

愛しいお方だ!!

 

「ハプニカ様!」

 

私の胸に飛び込んできた!

顔をスリスリと埋めて、抱きついてきている!

 

「ど、どうしたというのだ?」

「ハプニカ様・・・好きです・・・大好きです・・・」

「なっ、何があったというのだ!?」

 

まだ、この状況を信じられぬ・・・

 

「ハプニカ様と離れてみて、一人でじっくり考えて、ようやくわかったんです、

俺が愛すべき人、俺が本当に愛する人に、どうするべきかという事を・・・

もう俺は迷いません、ハプニカ様、好きです、愛しています、どうか、今までの無礼を、

許してください・・これからはどんなことがあっても、ハプニカ様の、そして、

みんなのそばを勝手に離れたりしませんから・・・もう疑ったりもしませんから・・・」

 

な、な、なんという、ありがたい言葉だ・・・

夢でも幻でもなければ、私は、私は・・・あぁ、強く抱きしめてあげねば・・・!!

 

「ううぅ・・・そなたから・・そのような言葉が聞けるとは・・・

私は・・・どう感謝していいのか・・・謝るべきは私の方であるのに・・・」

「ハプニカ様・・・感謝するなら白竜にしてあげてください・・・

白竜が俺に気づかせてくれたようなものですから・・・」

 

そうか白竜・・・見るとシャクナが荷物を降ろしておる、

いつのまにか登ってきた4姉妹やミルも手伝って・・・さすがにこの状況は邪魔できぬか。

荷物が全て降ろされると、白竜のほうから私の元へ歩み、すまなかったとでも言いたげに擦り寄ってきた。

 

「白竜よ、ご苦労であった、そなたをパートナーに持てて誇りに思うぞ」

「・・・・・クエッ」

 

今のはおそらく、私もだ、と言ってくれたのであろう。

ずっと白竜について予測していた事が今、確信に変わった、

白竜はおそらく、人の心が読めるのだ、それは考えている事が筒抜けになっているのか、

リリのように、なんとなくこう思っているだろうと感じる力が発達しておるのか、もっと賢く、

仕草や口調、喋る内容で心理状態を緻密に分析しているのか・・・飛び上がり木の枝、家族の元へ戻っていった、本当に感謝だ。

 

「ハプニカ様、左手を出してもらえますか?」

「な・・・なんだ?どうした?」

 

涙を拭いていた私の左手をそっと取る愛しいお方、

続けてポケットから取り出した箱、中には2つの指輪・・・

 

「それは・・・!」

「ハプニカ様・・・俺、もうハプニカ様を守る力はありません、

でもハプニカ様が俺に、本当にそばにいて欲しいというのであれば、

私はハプニカ様の望む限り、そばにいようと思います・・・ですから・・・

その・・・その印に・・・俺と・・・結婚してください」

「・・・・・!!!」

 

涙が・・・涙がさらに溢れて止まらぬ・・・!

ゆっくり左手の薬指にはめられた!紛れも無い結婚指輪が!!

 

「もし、了承してくれるなら・・・俺にも・・・はめてください」

 

残った指輪を箱ごと渡された、

ああ、これをはめてさしあげれば、私たちは・・・

感動を噛み締めるように、愛しいお方の左手を取り、薬指にゆっくりとはめた。

 

「嬉しいぞ・・・そなたと・・・こうし・・て・・・」

 

ああ、何と言って感謝すれば良いのか、言葉が・・・出ない!

 

ぱちぱちぱちぱちぱち・・・・・

 

代わりに私たちの周りから湧き上がる拍手!

 

「おめでとうございます」

「おめでとうですー」

「おめでとっ!二人とも」

「おめでとうございますぅ」

「お姉さま、良かったですねっ」

「トレオ様、ハプニカ様、おめでとうございます」

 

皆の祝福を受けながら、

私の顔をそっと持ち上げる愛しいお方・・・

しばし見つめたのち、やさしく、やさしく唇を重ねてくれたのであった・・・・・

 

・・・・・・・・・ありがとう。

 

 

 

落ち着いた後、私は愛しいお方に紅茶を飲んでいただきながら、

現在のダルトギア、ガルデス城について軽く教えていただいた。

シャクナとマリーが内政を取り仕切り、誰か看板として国王に掲げるまでは予測していたが、

まさかそれをバニーガールにさせ、娯楽の国にするとまでは思いもよらなかった、驚愕の事実だ。

そしてシャクナやマリーに説得され、よく考え直して、皆の気持ちに応えたくなったという・・そう、皆の、な。

 

「では、本当に・・・いいんですか?」

「ああ、私としても歓迎する、その方が良い」

 

私に告白したように、他のララたちやミルにも告白したいという。

別に何もおかしな事はない、元々は皆で王妃になるつもりであったし、

嫉妬心から言えば、まず最初に私から告白していただいたという事実だけで十分だ。

 

「それでは早速、行ってきます」

「なあに、心配する事はない、皆、自然に喜ぶであろう」

「はい・・・では・・・・・」

 

・・・きっと、たらい回されるであろう。

最初がミルかララかというくらいで、あとは4姉妹順番に・・・

あのお方が戻ってきてくださった時、皆は邪魔せずに私たちを祝福してくれた、

それはもう、帰ってきた時点で皆の想いを受け入れに来てくれた、と安心したからであろう。

だから私も邪魔はせぬ、明日から、いや、今夜からは横一線のスタートと言えるが、今は皆が幸せを噛み締める時だ。

 

コンコン

 

「あの、失礼いたします」

「シャクナか、よく来てくれた」

「ハプニカ様、お久しぶりです」

 

少し大人びたように見えるな、

ついさっきまであのお方が座っていた所へと腰掛ける。

 

「あのお方に色々と聞いたが、城の、いや、国の再興、ご苦労であった」

「ありがとうございます、でも、私も今日をもって城を出てしまいましたので・・・」

「バニー国王とは思い切った決断であるな、他国もさぞ驚いたであろう」

「それが、逆に観光客を呼び込む宣伝をしていただきまして、特にアバンスからツアーが」

「なんと、それは感謝であるな、私がいなくなっても、国と国との関係として、助けていただける・・・ありがたい」

 

私の置き土産のようなものかも知れぬが、

今後も各国とは良い関係を続けていけるであろう。

 

「それでハプニカ様、新国王シグリーヌ・シルヴィアさまから伝言があります」

「・・・私はもうただの、何の地位も無き女であるが、ありがたく聞かせていただこう」

「はい、ハプニカ様のこれまでの功績と想いを受け継ぎ、かならず平和で幸せな国にしてみせる、と」

「それは心強いな、城にいた時に、1度でも直に会っておくべきであった、心配はなさそうだな」

「まだマリーさんがついてらしていますが、シグリーヌ様ひとりに任せても、もう大丈夫かと」

 

シャクナがこうして来れるのであれば、大丈夫なはずであるな。

 

「で、そのマリーはどうしているのだ?一緒に来たのではないのか」

「私もお誘いしたのですが、考えが2つあると・・・1つはハプニカ様の下した刑を守りたいそうです」

「確か1年の奉仕労働であったな、国への奉仕と置き換えるならば、あと半年は来れぬか」

「もう1つの考えは教えていただけませんでした、想像すればいくつかは浮かびますが・・・」

「だがおそらく、半年後にはここへ来るであろう、まあ、来るならば自分の白竜で、という事かも知れぬな」

 

もしくは私たちに気を使って・・・・・

 

「あとシグリーヌ様からもう1つ伝言が、このスバランの木のことですが」

「・・・ここは王家のものであるが、所有の所在をはっきりさせたいのであろうか?」

「ここは元々、聖域として立ち入り禁止でしたそうなので、そのまま、ここを守ってさしあげたいと」

「それはありがたいな、現国王公認で住んで良いと言う訳か」

「はい、さらには今後のために、国の中の自治国とするなり、独立しても良いのではと」

「ここを国にするとな・・・思い切った提案だな、そこまで敬意を払っていただけるのか」

 

確かにここは小さな都市ができるくらいの広さがある、

枝の上や木の内側を開発すれば5階層6階層の、木をくり抜いた塔の様なものにもでき、

立派な空中の国と呼べるまでに発展させる事は可能だ、そうするなら国名はどうしようか・・・

 

「わかった、いつになるかわからぬが、シグリーヌに会って礼を言おう」

「では私は、部屋に戻って、トレオ様を待たせていただきます、きっと・・・」

「そうか、シャクナも確かに告白されるべきであるな、待たせてはならぬ」

「私は最後でしょうから・・・ドキドキしています、教会の神父さまが特級僧侶就任式に出た時よりも」

「就任できたか、それは良かった・・・シャクナよ、あのお方をここに連れてきてもらって、本当に感謝する、ありがとう」

 

大きく礼をして出ていった・・・

さて、今夜は宴会だ、いや結婚式が先であるな、

神父役はミルとシャクナが交互にすれば良い、早速準備だ!

 

「ララたちも、プロポーズが終われば順次、来るであろうな」

 

母上のあのウェディングドレス・・・

あれを正々堂々と着ることができる、

他の者たちはどうしようか・・・白い服なら何でも良いか、

ミルには工夫して私が着終わったのをつけてやりたいな、

あとはとっておきの、母上が造って保管したままの、スバランの黒い実の酒を出そう。

 

「・・・・・ううぅぅうぅぅ・・・」

 

喜びが涙となってこみ上げてくる・・・

よかった・・・本当によかった・・・2泊で戻ってきてくれた・・・

私たちの愛は、決して間違っていなかった、そして、やっと、想いが叶ったのだ・・・!!

 

「これ・・から・・だ」

 

泣いてばかりはいられぬ、

やっとこれから、本当の意味でのスタートなのだ、

あのお方をいかに幸せにし、私も幸せにするか・・・その権利を、やっと手にしたのだ!!

 

「愛しいお方よ・・・ありが・・・・と・・・う」

 

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