誰にも気付かれぬよう、暗闇を進む。

このような高地であっても上層の雲が覆うこともあり、

月や星すらない、別荘からの僅かな灯かりもすぐに届かなくなる。

 

「・・・あそこか」

 

白竜の闇に光る紅い目・・・

闇に乗じて敵襲したとき、

相手はこの目を見ただけで腰を抜かしたものだ。

 

「さあ白竜よ、説明してもらおうか」

「・・・・・アス、ツレテイク」

「何?明日か!?急な話だな、だが、まあ急いではいたが・・・わかった、用意する」

「ハプニカハ・・・ツレテユカヌ」

「私を連れて行かぬと申すのか!?では誰と・・・もしや、あのお方のみ!?」

 

連れて行くとはいえ、あのお方に操縦は不可能だ。

だが、操縦はできなくとも、白竜が責任を持って地上へ送り届けることは可能だろう。

 

「あのお方と私を引き離すというのか」

「・・・マタ、モドッテクル」

「だが、あのお方が戻らぬと言えばどうするのだ?」

「ソレハ、イママデノ、ハプニカシダイ、ダ」

「すなわち、ここであのお方を世話していた間に心を掴めたがどうかという訳か」

 

試されるのであるな、

私がここへ来て、いや、私たちがここへ来て、

ただ一緒にいられる事だけを喜んで過ごしていたのか、

本気であのお方に愛をわかっていただき、一度離れたとしても、

ここへ来たい、もしくは私たちにまた会いたい、愛し合いたいと思っていただける事ができたのか・・・

 

「白竜よ、私に、私たちに、猶予を与えてくれていたのだな、あのお方へ愛を捧げるラストチャンスを」

「・・・・・デハ・・・イクゾ」

「わかった、私も心を決め、あのお方を待つことにしよう・・・白竜よ、ありがとう」

 

バサバサと音を残し、闇の森へと帰っていく・・・

明日か、では場合によっては今夜が生涯の別れになるやも知れるのだな、

そうならない事を祈るが、寝室へ戻ってあのお方の寝顔を心に刻ませていただこう。

 

「・・・・・審判のとき、きたる、か」

 

 

 

翌日、愛しいお方は朝食が終わると食料の調達に行きたいと申し出た。

白竜はそれさえ予測していたのだろうか?丁度、ララたちは家事に追われ、

ミルも何やら研究しておる、本来ならば私がついていくべきであるが、ここは白竜に任せなければならない。

 

「じゃあ行ってきまーす」

「1人で大丈夫か?」

「はい、そんなに多くは取ってきませんから」

 

館を出ていった、

あの後姿も、ひょっとしたらもう最後の別れになるかも知れぬ、

そう思うと目頭が熱くなる、だが、賽は投げられた、後は待つしかないのだ。

 

・・・・・しばらくしたのち、白竜があのお方の前へ降りたようだ、

私は少し隠れながら窓から覗く・・・上に乗った・・・そのまま飛び立ってしまう、

あのお方は少し驚き、戸惑っている様子・・・と同時にバタバタとこちらでも慌しい足音が近づいてきた。

 

「ハプニカ様!旦那様が!白竜に!」

「外をご覧くださいー、ご主人様がー!」

「早く追わないと、どこかいっちゃう!アナター!」

「ダーリン行っちゃうのーレンもつれてってぇ〜!!」

 

時すでに遅しの4姉妹、

玄関先で白竜が消えていくのを見届けたのち、

今度は私のほうへと詰め寄ってきた、少々怒っているようだ。

 

「これはどういった事でしょうか?説明していただきましょう!」

「そうですー、白竜に何をさせたのでしょうかー、ハプニカ様がさせたはずですー」

「あれって単なる遊覧飛行だよね?すぐ戻ってくるよね?ね?ね?ね?」

「どうしてダーリンを1人にしちゃったー?もう1人にさせちゃいけないのにぃー!」

 

皆、ただ事では無いことはわかっているようだ、

そしてこれに私が絡んでいる事も・・・それもその筈、私がついているべき時間だったからな。

まあ、少ししらばっくれてみるのも面白いかも知れぬが、もう侍従関係ではないゆえ、正直に話そう。

 

「元々そういう約束だ、時が来たら地上へ送り返すと・・・それを守っただけだ」

「でも、旦那様だけで地上にだなんて、裸で放り出すようなものですわ、なんて無責任なのでしょうか!」

「たとえそのような約束でもー、関係ありませんー、私たちがご主人様についていくのは自由のはずですー」

「今から白竜を呼び戻してよ!まだ間に合うよ!私の大事な亭主を返してよ!ハプニカ様、絶対おかしいよ!」

「ダーリン風邪ひいちゃうー、1人で寂しくなっちゃったらどうするのー?ダーリンここに戻ってくるよねー?」

 

やはりこの私が4姉妹を裏切ったというショックは大きいようだな、

逆にあのお方を4姉妹から奪った地上での出来事は、想定内といった所か。

まあ私とて城で4姉妹に出し抜かれたのだ、お互い様と言いたいが、そうは取ってはくれぬだろう。

 

「全てはあのお方の意思次第だ、本当に我々のうち誰か1人でも愛し、求めてくだされば、必ず戻ってくる」

「それはいつでしょうか!?ハプニカ様の予定では、いつ、お戻りになられると踏んでらっしゃるのでしょうか?」

「さあな、今日の夕方かも知れぬし、明日かも、明後日かも、1週間後かも、1ヶ月、いや、1年かも知れぬ」

「それはー、もう戻ってくる事はないという可能性も含まれているという事でしょうかー!?」

「ああ・・・白竜はいつかは必ず戻ってくるであろう、ただ、その背中には誰も乗っていないという事もありえる」

「ひどいよ!せっかくここに来れたのに、せっかく仲良く過ごしてたのに、どうして逃がしちゃうんだよ!」

「それを言えば媚薬で離れられない体にしていたそなた達の方が酷いのではないか?騙していた訳であろう」

「好きだからー、ほんとうに好きだからー、好きってわかってもらうためにぃ、わかってもらう事をしたのぉ」

「レンよ、いや、ララたちもだ、あのお方に本当に愛しているとわかってもらうために、急ぎすぎて強引になってしまったのではないか?」

 

私とて外堀を埋めるような形で、結婚が、あのお方の王位継承が規定路線のように進めてしまった、その強引さを今は恥じておる。

 

「今までしてきた事はどうあれ、もう後はあの愛するお方の判断に委ねられた、後は待つだけだ」

「いえ、私は、私たち4姉妹はおとなしく待っているつもりはありません、追いかけますわ」

「パラシュートのようなものを作ってー、夜中にこっそりとー、白竜さんたちにばれないようにー」

「いざとなったら白竜とだって戦うよ、空中では勝ち目は無いかもしれないけど、勝てるまで何度だってやる」

「木の中のぉ、水の流れにのってぇ、木の船をつくってぇ、根元までいけるかなぁ、滝は我慢するぅ」

 

こんなはずではなかったと焦る4姉妹、

確かにここまでうろたえ、強行に追おうとしている所を見れば、

ララたちがあのお方を本気で、本当に、本心で愛しているのは間違いないであろう。

 

「落ち着くのだ、ここへきて今まで、あのお方の心にそなたたちの愛が響いておれば、必ず戻ってくる」

「でも最悪の場合は、二度と戻ってこないのですから、ここで寿命尽きるまで朽ち果てるつもりはありませんわ」

「それは心配しなくても良い、もし私の白竜が戻ってこなくとも、ミルの白竜があと10年はすれば自由に操れるようになる」

「10年も経てばー、あのお方はどこかの誰かと結婚なさってー、子供を2・3人は作れてしまいますー」

「仕方がないではないか、そもそも毎晩、体を欲するようにしてしまったのはそなたたちの仕業であろう」

「勝手に紫の実を持ち出したのは悪かったよ、でも、誰も相手にしてもらえなくって今晩、1人で悶え死んだらどうするのさ!」

「おそらくあのお方を白竜はダルトギアに送ったであろう、ならばマリーやシャクナがおる、心配はいるまい」

「ダーリンがガルデス城で王様になってー、私たちだけここに残されてたらぁ、まるで私たちが牢屋に入れられたみたいですぅ」

「だな、懲役10年の空中牢獄だ、そうなったとしてもその処罰を下したのはあのお方という事になる、ならば刑期を全うするしかあるまい」

 

私たちを生かすも殺すも全てあのお方次第だ、

今まで好き勝手にあのお方を愛し続けたのだから、

今度はあのお方がそれについてどうしようと好き勝手にできるのだ。

 

「さて、私はミルに報告してくる、そなたたちはしばらく頭を冷やすが良い、もしくは脱出方法でも考えるのだな、無駄だと思うが」

 

・・・私とて不安でないはずがない、

心の奥では震え、怯えている、誰もいなければ泣き叫びたいくらいだ、

しかし待つしかない身である以上、粛々と待つのだ、今夜を、明日を、来ないかもしれない戻られる日を・・・・・。

 

 

コンコン

 

「ミルよ、邪魔するぞ」

 

入ると顕微鏡で何かを観察している、

かなり真剣な様子だ、横にはグラフがあり何か数字を書き込む。

集中し、細胞の1つ1つを調べているようだ、これは出直すべきか・・・

 

「あ!お姉さまぁ?」

「いや、後にしよう、悪かった」

「ううん、このままでもだいじょうぶぅ」

 

顕微鏡から目を離さないまま話をしておる。

 

「実はミル、言いにくい事なのだが、その・・・」

「お兄ちゃんもう行っちゃったぁ?昨日お姉さまの白竜さんから聞いたぁ」

「そうか、ミルにも話しておいたのか、ならば話が早い」

 

という事は、あのお方が去ったことに気がつかなかったのではなく、

いなくなる事をすでに知っておるから、落ち着いて朝から研究をしておったのだな。

今朝、起きるといつのまにかあのお方の姿はなく、もう白竜が連れて行ったのかと慌てたが、

ミルの部屋から出てきて安心したのだった、きっとその時に直接の別れは済ませたのだろう。

 

「その・・・不安は、無いか?」

「お兄ちゃんが幸せになって欲しいからぁ、祈るしかないのぉ」

「そうか、まあ今更どうこうし様が無いからな」

「私が一番嬉しいのはぁ、お兄ちゃんが帰ってきてぇ、お城で一緒に住もうって言ってくれる事だけどぉ」

「だがあのお方がどんな形であれ、自分の選んだ意思で幸せになってくれるのが一番良い、といった所であるな?」

 

信頼を失って数ヶ月でどこまで取り戻せたかはわからない、

だがやれる事はやった、安心はしてはおらぬだろうが、ミルも腹を決めたのだろう。

 

「お姉さまぁ、やっぱり凄く回復してますぅ」

「さっきから何を熱心に調べておるのだ?」

「お兄ちゃんに朝、出してもらった精液ぃ」

 

そうか、それは熱心になるはずであるな、

どのように採取したかまでは聞かないでおこう。

 

「ということは子種として機能しそうか?」

「まだ今のこれは可能性は少ないけどぉ、頑張ればぁ」

「回復しておるのだから、人並みにレベルの近くまでは行けそうということか」

「これもぉ、ララさんたちのおかげですぅ、地上で漬けたスバランの紫の実を毎日食べさせていたからぁ」

「それがなければ種無しになってしまった可能性もありそうだな」

 

一概に4姉妹を責める事はできぬか・・・

生殖能力を回復させた決断は命を救う次に大きな功績、と言ってもおかしくない。

頭を冷やせなどと言ってしまったが、4姉妹なりの判断とて正しい部分があるのも認めねばならぬな。

 

「・・・可能性は薄いが、ここに残っている者がすでに妊娠しておる可能性もゼロではないな」

「お兄ちゃんはぁ、きっと戻ってきてくれるのぉ、リリさんじゃないけどぉ、そんな感じがなんとなくするのぉ」

「ほう、ミルがそのような、感覚で物事を語るのは珍しいな、わかった、私もそれに賭けてみよう」

 

・・・・・窓の外が騒がしい、

何かと思ったら4姉妹が、まったく別の白竜を追いかけておる。

 

「待ちなさい!あなたは私たちの白竜として今日から仕えるのよ!」

「あの白竜の方がー、なんとなく言う事をきいてくれるような気がしますー」

「もうどれでもいいよ!ハプニカ様の白竜だって何とかなったんだ、新しい野良なら半年で慣らしてみせるよ!」

「あ〜枝の上ににげちゃったぁ〜、縄で罠でも作って待ったほうがいいのかなぁ〜」

 

どうやら私の白竜があてにならないと判断し、

まったく新しく、何の調教もされてない白竜を捕まえて、

操縦し地上へ降りるつもりのようだ、今の4姉妹なら本当にやってしまいそうで怖いな。

 

「・・・では私は4姉妹が放り出したであろう家事の続きをしてやろう」

 

あと、あのお方がするはずだった食材集めもだ。

一応、今夜もあのお方の分の料理を作るとしよう、

日帰りはなさそうだが、今はそうする事でしかあのお方との繋がりは無いゆえに・・・・・。

 

 

 

夜になり、あのお方がいない別荘を過ごす。

4姉妹は1日中、白竜ハントをしておったため風呂を出てすぐ眠ってしまった。

私は屋上で、ランプ1つをぶら下げハンモックで横になる・・・風の少ない穏やかな夜だ。

 

「待つことも愛情・・・だな」

 

もちろん4姉妹のように情念深く追いかけるのも1つの手ではある、

だが、すでにあのお方の心を引っ掻き回してしまった罪悪感が残り、

今は穏やかに自分を見つめ、あのお方への愛情を積もらせるしかない。

 

「今頃、どうなさっているのか・・・」

 

あのお方もどこかの、ガルデス城の屋上あたりで私たちの事を想ってくださっているのだろうか?

それとも地下拷問室でマリーあたりに媚薬の実の毒気を抜いてもらっているのだろうか、もしくはシャクナと・・・

いかん、嫉妬心で少し頬が熱くなってきた、股間も少々・・・いや、やめておこう、今、あのお方が戻ってきた時、汚れた手で抱きしめる訳にはゆかぬ。

 

「マリーとシャクナが、あのお方の心を解きほぐすとしたら・・・」

 

お互い正反対と言える2人だ、

だが、マリーはシャクナの教会で清楚を学び、

シャクナもマリーの地下拷問室で性技を学んだ、

この2人が組んだとなれば、どちらからのアプローチも可能だ、

おそらく2人が反目しあってると見せて、実は最後は2人がかりで・・・ありえそうだな。

 

「その作戦なら色々な説得ができる」

 

天使と悪魔が交互にささやき、

どちらにつくか迷わせる事で本当に大事なことを気付かせる・・・

シャクナが天使、マリーが悪魔か、子供の教育劇のようであるが、脚本がしっかりしておれば効果は高いだろう。

 

「私にもそのような事ができる器用さがあればな・・・」

 

いや、それはあのお方の言葉を借りれば「ハプニカらしくない」といった所だろう。

だが私とて戦いでは策略を練り、小細工も勝つためにならばと効果的に使った、あまり使うまでもなく勝てたがな。

兄者を討った時は正々堂々とであったが、父上を討つのは4姉妹とミルと私で練ったトラップでしか勝てる方法は見つからなかった。

 

「そうか、あのお方が私らしいのを望むとしても、私が私である以上、私のする事が、私らしいのだ」

 

あのお方が私に幻想を抱いていたとすれば、

無理にそれに合わせようとするのではなく、

こういうのも私である、と認識を改めさせれば良い。

それは私にも言えよう、あのお方らしさ、あのお方ならこうに違いない、と

決め付けるのではなく、あのお方は本当はこうなのかと、認識を修正し、新しい発見もせねばならぬのだ。

 

「ようやくわかってきたような気がするな・・・」

 

それに性格や趣味趣向などは年月でよく変わるもの、

あのお方を生涯愛するならば、あのお方の全てを受け入れ、

なおかつ、あのお方に全てを受け入れてもらわなければならぬ・・・

 

「ふっきれた、な」

 

ではもう無理に自分を作る必要も、

間違った我慢をする事もないな・・・よし・・・

 

「あのお方を想って、自分を慰めさせていただこう」

 

そっと股間に指を這わせ、ショーツをなぞる・・・

 

「・・・・んぁっ・・・」

 

しゅっ、しゅっ、とやさしく擦ると、

みるみるうちに奥が熱く、疼き、じわじわと濡れてくる・・・

湧き上がる情にもう片方の手で胸も慰め、股間の指はショーツの中へ・・・

 

・・・・・くちゅっ・・・

 

「もうよい・・・もし今、戻ってこられたら・・・そのまま犯してしまおうぞ」

 

そう考えれば4姉妹は自分に正直だ、

本当に好きになったとわかったら暴走とも取れる愛情表現で、

あの手この手で嫌でも愛を押し付ける・・・待て、それは私とて同じだったのではないのか?

 

ぐちゅっ・・・ぐにゅっ・・・くりくりっ・・・

 

「・・・・はぁっ・・・」

 

おそらく、これは、相手の気持ちをどれだけ思いやれるかではないだろうか?

4姉妹は、自分たちがあのお方を愛していると信じてもらいたいがために突っ走った、

私はあのお方が私を愛しているはずという事をいい事に、そこにあぐらをかいていた・・・心の内も知らずに。

 

「相手が何を望むか、私が何を望むか・・・望むものは互いであるにもかかわらず・・・難しい・・もの・・だ・・・ああぁ・・・」

 

愛が重荷になってはいけないのだ、

何もなくとも求め合うものでなければ・・・

あのお方が求めるそぶりでもしてくれなくては、意味が無いのだ。

 

「あのお方に・・・求め・・・られた・・いっ!!」

 

私は求めておるぞ、いま、まさにっ!

戻ってこられたら、もう一度会えるならば、

何をどう望むのか、その望みに私はどう応えられるのか、

言葉と体で、たっぷりと・・・ああぁ・・・指が、指がこんなに入ってしまう!

はやく、はやくっ!早く戻ってきてほしいっ!な、涙が・・・涙が溢れて・・ううぅ・・・ぅぅぅぅうぅ・・・・

 

「ぅ・・ぅぅ・・・ぅぅぅうううあああああ!!!」

 

泣きながらビクビクとイッてしまう!

戻ってこなければ、おそらく明日も、明後日も、

こうして自分を慰める夜を過ごすであろう・・・あぁ・・・

あのお方の温もりの、記憶が薄れて無くなってしまわない内に、

どうか帰ってきて欲しい・・・そして、私を求めて欲しい・・・お願いだ・・・・・

 

 

 

翌日、4姉妹は別荘の家事をこなしつつも、

時間を作り白竜ハントにいそしんでいる、もちろんミルも、

自分の小白竜をあやしつつ、10年はかかる調教を少しでも短縮しようとしている。

 

「私も新しい白竜の調教、と言いたいが、辛抱して待たねばな」

 

そう呟きながら編み物の続きをする、

あのお方が戻ってきた時のためだ、心をこめて・・・

大戦の時、戦争に出た夫を送り出した妻はこんな気持ちだったのだろう。

もちろん私がそういう立場なら、共に出兵する道を選ぶが、それが許されぬならば、

心を押さえつけ、無理にでも穏やかにせねばならない、これがじわじわと心を蝕みそうで怖い。

 

「ラーナンや、ジュビライの妻の気持ちも、わからなくもないな」

 

ひたすら待つ愛情表現、

それを「死」という結果で壊されれば、

復讐や後追いに狂ってしまうのも仕方がない、それも愛なのだ。

 

「恋愛の本を読みたくなるな、後で書物庫を探してみよう」

 

静かに時間を過ごすには良さそうだ・・・

 

「あの白竜、舌を出しましたわ!失礼ですわね!」

「ルルー、そっちから近づくとしっぽで払われそうよー」

「え?うわっ!ほんとだ!白竜って後ろにも目があるみたい」

「おいしい実いっぱいあげたのにぃ、お礼も言わないで行っちゃったぁ」

 

・・・いや、4姉妹が賑やかにしてくれている、

夜にまた屋上へ出て、ランプの灯かりで読むとしよう。

 

「・・・だが、あのお方が一泊で戻ってくだされば・・」

 

いや、勝手な期待は外したとき裏切りに感じてしまう、

待つ身ではあるが、期待せずに待つ・・・難しいが、それが良かろう。

そして1日の蓄積されたモヤモヤは、毎晩自分を慰めて発散すれば良い。

 

・・・・・その夜

 

「んああっ!あ!あああああぁぁぁっ・・・ぁぁ・・・」

 

これを発散と言って良いのかっ・・・

余計に悶々としたものを蓄積している気も・・・

ああぁ・・・愛しておるっ!会いたい!逢いたいいいぃぃぃ・・・・・

 

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