今日は私1人で昼食の洗い物をしている、

いかに元女王で、他にいるのが元部下や妹といえど、

ここでは横一線、ただの愛しいお方を取り合うライバル同士だ。

 

「だが・・・・・楽しいな、こういうのも」

 

愛しいお方のために料理を作る楽しさは実感していたが、

美味しく食べていただいた後を片付けるのも、こんなにも楽しいとはな。

あのお方は今、レンとミルが迫っているようだが、なあに、食後の軽い運動でしかないであろう。

 

「愛する人のためにする、1つ1つが本当に有意義であるな」

 

まさに尽くす喜び・・・

何も肉体をもてあそぶだけが愛ではない、

こうした何気ない家事も、立派な愛情表現なのだ。

 

「白竜はこれを気付かせたいために・・・考えすぎだな」

 

だが、あのお方のために編み物をしているのが嬉しい、

あのお方のために布団を干すのが嬉しい、あのお方のために風呂を洗うのが嬉しい、

あのお方のためにハンモックを補強するのが嬉しい、あのお方の寝息が聞けるだけで嬉しい・・・

 

「どうも私は、愛さなくてはいけないという、強迫観念に駆られていたのかも知れぬな」

 

見えないもう1人の自分に脅されて、あのお方を愛する事に必死になりすぎていたのであろう、

だから、国の都合で愛していたように見せていたと、思われてしまっていたのだ、自然に愛すれば良かったものを。

今にして思えば、国のため、国民のためという想いが少しでもあれば、それを見透かされていたのだろう、今こそ本当に愛せる時だ。

 

「尽くすのも良いが・・・共に作業をするのも、良いであろうな」

 

い、いや別に、何も肉体的な、性的な意味では・・・!!

 

ガシャガシャガシャ!!

 

「あらーハプニカ様ー、食器は無事ですかー」

「な、なんでもないっ!少し手が滑っただけだっ!」

「顔が紅くなってらっしゃいますがー」

「気のせいだっ!これは日あたりがだな・・・リリには関係ないっ!」

「ハプニカ様でもー、ご主人様の事を空想なさるんですねー、私たちと一緒ですー」

 

やはり、皆もそういうものなのか・・・少し安心したぞ。

 

 

 

「あまり無理するでないぞ」

「はい、いつも作っていただいてばかりで悪いので・・・」

「木の実集めはこう見えても重労働だからな、心配だ」

 

今日は愛しいお方が食材集めを手伝いたいと申すので、

こうして別荘の外へ、スバランの実集めに出た、2人でこっそりと。

 

「早く集めて皆を驚かせようぞ」

「そうですね、みんなに見つからないうちに」

「さあ、あちらの茂みはあまり人が入らぬゆえ、実も多いであろう」

 

さすが愛しき人、わかってらっしゃる。

4姉妹やミルが嫉妬しないようにとの心遣いであるな?

ならばさっさと奥へ行き、邪魔の入らない所で共同作業を・・・

 

「ハプニカ様!この実は甘いんでしたよね?」

「ああ、少々糖分が多いゆえ、食べすぎには注意だがな」

「この実は・・・油っぽそうですね、すっぱいのかな?」

「それは割ってみればわかる・・・味はハムに近いぞ」

「あ!これは知ってます!ゆうべ食べて美味しかったやつだ」

 

・・・かなり奥まできたな、

ここで後ろからそっと抱きしめて、

愛でも呟きたいのだが・・・我慢、まだ我慢だ。

 

「あれっ?この紫の実、初めて見るけど・・・」

「それは危険だ、スバランの実で唯一、食べてはならぬ」

「そうなんですか、そんなのもあるんだ・・・怖いですね」

「だが白竜にはご馳走だ、これはこれで私が持っていく」

「はい・・・気をつけなくっちゃ、間違って食べたら大変だ」

 

残念ながら、その強烈な媚薬、惚れ薬はすでに4姉妹がそなたに・・・

もしやこれを薄めて長期間飲ませたのは、離れさせなくする以外にも、

子種を復活させるためではないのか?確かこの実は繁殖力の弱い白竜が、

精を激しく燃え上がらせるために食べるもののはずだ、人間にもきくはず!

そうか、何も惚れさせるために行った卑劣な方法だけでは無いのだな、さすがだ。

 

「まあ、まだ早いな・・・」

「何がですか?あ、この実ですか?」

「いや、その青い実は元々そういう色だ、取って良い」

 

私もそろそろ、何か仕掛けなくてはならぬな、

もちろん、こういう抜け駆けも仕掛けではあるが、

もっとこう、心に刻み込むような、私が本気で愛している証明を・・・

 

「待つのだ、何も食べられるのは実だけではない、この葉も美味であるぞ」

「これ昨日のサラダに入ってましたよね?じゃあいっぱい摘みましょう」

「7人分だからな、思ったより多く取った方が良い、なあに、取りすぎてもすぐに生い茂る」

 

ガサガサッ!!

 

「わ!だ、誰!?」

「そなたは下がっていろ!」

 

出てきたのは・・・

 

「クェ〜〜〜」

 

なんだ、白竜の子供か。

 

「びっくりしたー、あれ?はぐれたのかな?」

「おそらく1匹だけ抜け出して冒険しておるのだろう」

「クエッ!グエェッ」

 

私の持っている紫の実を欲しがっているようだ。

 

「これか・・・お前にはまだ早いと思うのだが・・・」

「グエ〜〜〜〜〜〜・・・」

「すごく欲しそうにしてますよ・・・じゃあ俺が!」

 

紫の実を私から奪い、子供の白竜に与えてしまった。

 

ぱくっ・・・・・ごっくん

 

「クェクェクェ〜♪」

 

喜んでいるようだ、

確か子供に酒を飲ませるようなものだと記憶しておるのだが・・・

 

「ははは、こら!そんなに舐めないで!」

「そなた、白竜に気に入られたようだな、珍しいぞ」

「そうですか?こら!すりすりしない!かわいいなぁもう」

 

そう簡単に白竜は心を開かぬ、

特に子供は警戒心が強いゆえ、難しいのだが・・・

やはりこのお方は、王になるべき天賦の才能があるのかも知れぬ。

 

「さあ、料理を作る時間というのも考えねばならに、急ごうぞ」

 

・・・なんとなく私の白竜の視線を感じるのは、気のせいでは無いであろうな。

 

 

 

「ハプニカ様!これくらいでいいですか?」

「ああ、明日の夕食の分にも足りるであろう、ご苦労であった」

「俺、ハプニカ様の役にもたてたみたいで嬉しいです!これで全員だ」

 

全員・・・食材の話ではなさそうだな?

 

「私の役にも、というと?」

「はい、ミルちゃんやララさんたちとも、2人きりで魚を獲ったりジュースを作ったり・・・」

「なんと!では、すでに皆と、1人1人と、手伝いをしておったのか!」

「ハプニカ様だけ、なんだか知らないけどまだで・・・でもこれで一通り完了です」

「そうか、私だけが出し抜いたと思ったら、私だけ残して皆がすでに出し抜いておったか・・・」

 

やはり私は末席に落とされるピンチのようだ。

 

「・・・30秒、時間を貰うぞ」

「え?・・・わ!うっぷ!んぐぐ!!」

 

ちゅうう〜〜〜〜〜〜・・・

 

激しく唇を重ね舌を吸う!

これくらいはせねば気が済まない!

嫉妬のキス、そして、ここから巻き返す、決意のキスだ!!

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・んっはぁっ

 

「さあ行くぞ!」

「は、はひぃ・・・唇が、ピリピリ、して、ます」

「これからは遠慮なく誘わせていただく!!」

 

いかん、私の方がピリピリしておるな・・・

愛しいお方は何も悪くはない、私の恋の駆け引きが下手なだけだ、

妹のミルにも劣るほど・・・何か私の武器を探すとしよう、手始めに別荘中をあさってな。

 

 

 

それからのち、私は別荘の奥で、母上の衣装室をみつけた、

あのお方の心を掴む服はどれであろうか、色々探すが地味なのしかない、

派手なのは全て城にあるのだろう、この別荘では母としての仕事がメインゆえ、

機能性や清潔感を考えたものが多い・・・おや?奥のこれは何だ?やけに大きな白いドレス、

これは・・・ウェディングドレスだ!このような所に保管してあったのか、どれ、着てみよう。

 

「どのような感じか掴むだけゆえ、本気で着なくてもよかろう」

 

きちんと着るとなるとララたちの力が必要だからな、

着るというよりは、付けてみるだけだが・・・ふむ、なかなか良さそうだな、

だが私が気に入っても、愛するあのお方が気に入らなければまったく意味がない・・・

 

「このウェディングドレスも、国王の結婚式用にしては地味だな」

 

わかった、これはこの木で、この別荘で、

本当に身内だけの結婚式を、改めてか先駆けて行った時のものであろう、

城で婚姻の儀式をするとなると形式ばかりの連続で、終始窮屈な目に合うのだろう。

 

「だからこそ、ここで肉親とのみ、堅苦しくない、あるいみ本当の結婚式を・・・」

 

・・・誰かくる、もしや、まさか・・・?

 

「ハプニカ様?・・・ああっ!」

「はっ!?そ、そなたか、あ、その、これは・・・」

 

愛しいお方が私の姿を見て、

驚いている?いや、ぼーっと見とれている・・・

 

「・・・・・」

「い、いや、洋服を整理していたら、お、奥の方にあったのでな、す、少し、着てみたのだが・・」

 

恥ずかしいっ、そんなにじーっと見られると、

慌ててしまうではないか!裸を見られるより、何百倍も、赤面ものだ!

 

「す、すまない、少し、夢を見ていただけだ・・その、そ、その・・・」

「・・・・・ハプニカ様・・」

 

こ、こういう時はどうすれば良いのだ?

いつまでも見世物のようになっていては、耐え切れぬ!

ここは淡々と片付けるのがよかろう・・・ドレスをバサリと落とし、

あくまでも冷静に折り畳む・・・これでよし、もう何事もなかったようなものだ、

今のは夢だ、幻だ、本当のウェディングドレス姿は、しかるべき時が来てからだ。

 

「・・・すまない、もう夢から覚めた、これは奥へ戻すとしよう」

「その、ハプニカ様・・・綺麗でした・・・」

「見た目はどうにでもできる、心が伴ってなくては意味がない」

 

ついでに父上か兄者の服もないのか?

綺麗なら愛しいお方にも着せてさしあげたいが・・・

 

「ん?どうした?そなたの新しい服も探しておるのだが・・・」

「あっ!その、しょ、食事です、夕食の時間が・・・」

「もうそんな時間か・・・では一旦切り上げるとしよう」

 

不覚であったな、これでは本番の時に、今以上のドレスを用意せねばならぬ。

私と愛しいお方の結婚式・・・必ず実現させなければならぬ、だが今は夢でしかない。

しかし、大戦の時とて平和を取り戻すのは夢であった、叶わぬ夢と思えたときもあった、

だがそれは皆の手で実現できたのだ、必ず叶えてみせる、叶えなくてはならないと、命を懸けて。

・・・愛しいお方はまだぼーっとしている、私のウェディングドレス姿の残像でも見るかのように・・・

 

「どうした?ぼーっとして・・行くぞ」

「あ、はい・・私も、夢を見ていたようです・・・」

「そうか・・・夢を見るのは自由だからな・・・それが叶わぬ夢でもな」

 

愛しいお方も、私の夢を・・・

 

「でもハプニカ様、夢は叶える物でもあります」

「・・・そうだな、私もあきらめてはいない、一生あきらめないつもりだ」

「そうですね、いつか叶うといいですね、いえ、きっと叶えられますよ」

 

そうだな、私とそなたとでなら叶えられるだろう、

そう心でつぶやいた・・・どうやら夢は叶えられる方へと向いてきているようだ、

叶わぬ夢でも叶えてみせる、大戦ではそれができた、今度もそれを命がけで成し遂げてみせよう。

 

 

 

こうしてさらに2ヵ月が過ぎた。

毎晩の夜伽はいつしか6人でローテーションを組むようになった、

1週間のうち6日をそれぞれ1人ずつが担当し最後の日は休日だ、

とはいえ媚薬の実のせいで誰かを呼ばずにはいられぬため、水面下での駆け引きが激しいが・・・

 

「・・・どうだ、落ち着いたか」

「はいぃ・・・ハプニカ様、は、はげしぃ・・・」

「そなたがあまり動けぬ分、私が倍やっているだけだ、気にするな」

 

今夜の担当は私、すでに5回ほど精をいただいた。

おそらく4姉妹はここへきてから媚薬の実を薄く飲ませることを再開したと見える、

あきらかに精の量も勢いも、回数も濃さも増しておる、子種を復活させるには良いことかもしれぬが・・・

 

「まだ休むか?それとも・・・」

「もう1回したら、疲れて寝ちゃいそうです」

「ではそなたと話でもしようか・・・」

 

精根尽き果てて眠らせるのはかまわないが、

終わった後にじっくり話をするのも良いだろう、

こういう時こそ、私の気持ちを、愛情を聞いて欲しいし、

愛しいお方の気持ちもできるだけ理解したい、こういうのを疎かにしていたからこそ、

1度酷い振られ方をしてしまったのだ、もう同じ過ちは繰り返してはならない。

 

「そなたを・・・愛している、これは事実だ、初めからな」

「どうしたんですか、急に」

「だが、私がそなたを愛していないと判断されてしまったのなら、それは愛が足りないのであろう」

「その、うまく言えないけど、俺・・・」

「足りないのは愛の質と、その愛の方法だ、攻めるばかり、追うばかりに夢中になったのは失敗であった」

 

親衛隊の誰かが私は恋愛に関しては、真っ直ぐだと言った。

だが、真っ直ぐに突っ込んでくる敵ほど間抜けなものはない。

マリーほどの複雑かつ卑劣・淫猥な方法まで行かなくても良いが、

もう少し工夫というか、思い込みに気付くべきであった、恋愛は難しい、

ただお互いが好きであっても、結ばれるとは限らないのだから・・・母上が生きていれば相談もできただろうに。

 

「私はそなたの献身的で強い心に惹かれた、そなたは私のどこに惹かれたのだ?」

「ハプニカ様は・・・ハプニカ様だから、惹かれました、といっても告白されるまで、高嶺の花だと思ってましたけど」

「大戦中、私はあくまで公平にサブリーダー的役割をせねばならなかった、恋していたからこそ逆に避けていたのかも知れぬ、すまぬ」

 

今にして思えば、恋を確信したその日から、

たとえ皆の前であっても、告白をし、そのうえで解放軍をまとめていればよかったのかも知れぬ、

あの時の私には無理だった、と言ってしまうのは簡単だが、そのせいでこうなったのだ、無理を承知で感情を押さえ込まぬ方が良かった・・・

 

「せめて最後の戦いの前夜にでも、告白すべきであったな」

「いえ、そんな事してる余裕はありませんでしたから」

「ならばその前、返事は大戦後とうことで意思だけでも伝えるべきだった」

「・・・なんとなく、そういうのってハプニカ様らしくない気がします」

「そなたが私にどういう幻想を抱いているが知らぬが、そなたの事になると単なる脆い女だ」

 

きゅうっ、と抱きしめる・・・

 

「だが、私にもっともっとクールになれというなら、そうなろう」

「そこまでは言ってないです、無理しないで・・・無理されると心が痛みます」

「そうだ、そなたもトーナメントで無理を、とんでもない無茶をした、私も心が痛み、壊れた」

「す、すみません、そういうつもりで言ったんじゃないです、俺、俺・・・」

「無理はもうしないと約束して欲しい、でないと、私もそなた以上に無理をするが・・・」

 

静かに沈む空気・・・

風に揺られる葉音だけが聞こえる。

 

「ハプニカ様・・・」

「クールが好きなら、顔色ひとつ変えず頭の先から足の先まで舐めてさしあげるが」

「いえ・・・あ、ちょっといいかも・・・いえいえ!そうじゃなくて」

「無表情でそなたにまたがり、淡々と腰を振るのが良いなら今からでも・・・」

「ハプニカ様は、ハプニカ様らしく、つまり、ハプニカ様自身、ありのままでいてください」

 

・・・ありのまま、か、

だが愛しいお方よ、私はありのままで失敗したのだ、

まあこれで、糸口が掴めた、ありのまま、このままで一生懸命に愛せば、伝わるのだな。

 

「では、ありのまま、間違えた部分は私らしく訂正して、そなたを愛そう」

「でも、その、俺は、俺は、俺は・・・」

「そなたの返事は無理強いせぬ、ただ、今はそなたの方こそ、そなたらしくしていてほしい」

 

・・・考え込んでらっしゃるようだ。

おそらく皆も、ララあたりは間違いなく、

このお方に私と同じように、胸のうちを告白したはずだ。

そして、幸いにも変に疑わず素直に聞いてくれている、

例えそれがスバランの木が出す空気のせいだとしても、本心は伝わったはずだ。

 

「もうすぐ2ヶ月になるな・・・」

「・・・・・・・・」

「約束は守る、場合によっては白竜と決闘さえしてみせよう」

「・・・・・・・・・・・・・・zzzzz」

「寝てしまわれたか・・・では私も・・そなたを抱きしめたまま、寝るとしよう・・・」

 

これがこのまま、1年も2年も、5年10年と続いてくれたら・・・

そうなってはいけない、という想いとそうなって欲しい、という想いが葛藤する。

いつかどこかでつけなくてはならないケジメ・・・愛しいお方がぬるま湯なようなこの状況を、

この先ずっと受け入れるとしてもだ、どこかのタイミングで明確な意思表示は必要となるであろう。

私にしても、騙し続けているような状況で一生を共にするのは不本意だ、そしてタイミングがあるとしたら・・・

 

「白竜が私を乗せてくれた時だな」

 

ここまで白竜が計算しているとするならば、

そろそろ言う事をきいてくれるはずだ、もちろん単純に、

機嫌を損ねて拗ねているだけという可能性も考えられなくはないが・・・

 

「・・・・・ハプ・・ニカ・・・」

「誰だ!?」

「ハプニカ・・・ハプニカ・・・・・」

 

この低いうなる様な声は・・・白竜だ!

 

「外か!?・・・よし、待っておれ」

 

軽く羽織って私は闇夜へと出た。

 

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