美味しく食べていただいた後を片付けるのも、こんなにも楽しいとはな。
あのお方は今、レンとミルが迫っているようだが、なあに、食後の軽い運動でしかないであろう。
あのお方のために布団を干すのが嬉しい、あのお方のために風呂を洗うのが嬉しい、
あのお方のためにハンモックを補強するのが嬉しい、あのお方の寝息が聞けるだけで嬉しい・・・
「どうも私は、愛さなくてはいけないという、強迫観念に駆られていたのかも知れぬな」
見えないもう1人の自分に脅されて、あのお方を愛する事に必死になりすぎていたのであろう、
だから、国の都合で愛していたように見せていたと、思われてしまっていたのだ、自然に愛すれば良かったものを。
今にして思えば、国のため、国民のためという想いが少しでもあれば、それを見透かされていたのだろう、今こそ本当に愛せる時だ。
「尽くすのも良いが・・・共に作業をするのも、良いであろうな」
「気のせいだっ!これは日あたりがだな・・・リリには関係ないっ!」
「ハプニカ様でもー、ご主人様の事を空想なさるんですねー、私たちと一緒ですー」
こうして別荘の外へ、スバランの実集めに出た、2人でこっそりと。
「さあ、あちらの茂みはあまり人が入らぬゆえ、実も多いであろう」
残念ながら、その強烈な媚薬、惚れ薬はすでに4姉妹がそなたに・・・
もしやこれを薄めて長期間飲ませたのは、離れさせなくする以外にも、
子種を復活させるためではないのか?確かこの実は繁殖力の弱い白竜が、
精を激しく燃え上がらせるために食べるもののはずだ、人間にもきくはず!
そうか、何も惚れさせるために行った卑劣な方法だけでは無いのだな、さすがだ。
もっとこう、心に刻み込むような、私が本気で愛している証明を・・・
「待つのだ、何も食べられるのは実だけではない、この葉も美味であるぞ」
「これ昨日のサラダに入ってましたよね?じゃあいっぱい摘みましょう」
「7人分だからな、思ったより多く取った方が良い、なあに、取りすぎてもすぐに生い茂る」
確か子供に酒を飲ませるようなものだと記憶しておるのだが・・・
やはりこのお方は、王になるべき天賦の才能があるのかも知れぬ。
・・・なんとなく私の白竜の視線を感じるのは、気のせいでは無いであろうな。
「俺、ハプニカ様の役にもたてたみたいで嬉しいです!これで全員だ」
「はい、ミルちゃんやララさんたちとも、2人きりで魚を獲ったりジュースを作ったり・・・」
「なんと!では、すでに皆と、1人1人と、手伝いをしておったのか!」
「ハプニカ様だけ、なんだか知らないけどまだで・・・でもこれで一通り完了です」
「そうか、私だけが出し抜いたと思ったら、私だけ残して皆がすでに出し抜いておったか・・・」
愛しいお方は何も悪くはない、私の恋の駆け引きが下手なだけだ、
妹のミルにも劣るほど・・・何か私の武器を探すとしよう、手始めに別荘中をあさってな。
あのお方の心を掴む服はどれであろうか、色々探すが地味なのしかない、
派手なのは全て城にあるのだろう、この別荘では母としての仕事がメインゆえ、
機能性や清潔感を考えたものが多い・・・おや?奥のこれは何だ?やけに大きな白いドレス、
これは・・・ウェディングドレスだ!このような所に保管してあったのか、どれ、着てみよう。
着るというよりは、付けてみるだけだが・・・ふむ、なかなか良さそうだな、
だが私が気に入っても、愛するあのお方が気に入らなければまったく意味がない・・・
「このウェディングドレスも、国王の結婚式用にしては地味だな」
本当に身内だけの結婚式を、改めてか先駆けて行った時のものであろう、
城で婚姻の儀式をするとなると形式ばかりの連続で、終始窮屈な目に合うのだろう。
「だからこそ、ここで肉親とのみ、堅苦しくない、あるいみ本当の結婚式を・・・」
「い、いや、洋服を整理していたら、お、奥の方にあったのでな、す、少し、着てみたのだが・・」
慌ててしまうではないか!裸を見られるより、何百倍も、赤面ものだ!
「す、すまない、少し、夢を見ていただけだ・・その、そ、その・・・」
ここは淡々と片付けるのがよかろう・・・ドレスをバサリと落とし、
あくまでも冷静に折り畳む・・・これでよし、もう何事もなかったようなものだ、
今のは夢だ、幻だ、本当のウェディングドレス姿は、しかるべき時が来てからだ。
「・・・すまない、もう夢から覚めた、これは奥へ戻すとしよう」
不覚であったな、これでは本番の時に、今以上のドレスを用意せねばならぬ。
私と愛しいお方の結婚式・・・必ず実現させなければならぬ、だが今は夢でしかない。
しかし、大戦の時とて平和を取り戻すのは夢であった、叶わぬ夢と思えたときもあった、
だがそれは皆の手で実現できたのだ、必ず叶えてみせる、叶えなくてはならないと、命を懸けて。
・・・愛しいお方はまだぼーっとしている、私のウェディングドレス姿の残像でも見るかのように・・・
「そうか・・・夢を見るのは自由だからな・・・それが叶わぬ夢でもな」
「・・・そうだな、私もあきらめてはいない、一生あきらめないつもりだ」
「そうですね、いつか叶うといいですね、いえ、きっと叶えられますよ」
そう心でつぶやいた・・・どうやら夢は叶えられる方へと向いてきているようだ、
叶わぬ夢でも叶えてみせる、大戦ではそれができた、今度もそれを命がけで成し遂げてみせよう。
毎晩の夜伽はいつしか6人でローテーションを組むようになった、
1週間のうち6日をそれぞれ1人ずつが担当し最後の日は休日だ、
とはいえ媚薬の実のせいで誰かを呼ばずにはいられぬため、水面下での駆け引きが激しいが・・・
「そなたがあまり動けぬ分、私が倍やっているだけだ、気にするな」
おそらく4姉妹はここへきてから媚薬の実を薄く飲ませることを再開したと見える、
あきらかに精の量も勢いも、回数も濃さも増しておる、子種を復活させるには良いことかもしれぬが・・・
愛しいお方の気持ちもできるだけ理解したい、こういうのを疎かにしていたからこそ、
1度酷い振られ方をしてしまったのだ、もう同じ過ちは繰り返してはならない。
「だが、私がそなたを愛していないと判断されてしまったのなら、それは愛が足りないのであろう」
「足りないのは愛の質と、その愛の方法だ、攻めるばかり、追うばかりに夢中になったのは失敗であった」
マリーほどの複雑かつ卑劣・淫猥な方法まで行かなくても良いが、
もう少し工夫というか、思い込みに気付くべきであった、恋愛は難しい、
ただお互いが好きであっても、結ばれるとは限らないのだから・・・母上が生きていれば相談もできただろうに。
「私はそなたの献身的で強い心に惹かれた、そなたは私のどこに惹かれたのだ?」
「ハプニカ様は・・・ハプニカ様だから、惹かれました、といっても告白されるまで、高嶺の花だと思ってましたけど」
「大戦中、私はあくまで公平にサブリーダー的役割をせねばならなかった、恋していたからこそ逆に避けていたのかも知れぬ、すまぬ」
たとえ皆の前であっても、告白をし、そのうえで解放軍をまとめていればよかったのかも知れぬ、
あの時の私には無理だった、と言ってしまうのは簡単だが、そのせいでこうなったのだ、無理を承知で感情を押さえ込まぬ方が良かった・・・
「ならばその前、返事は大戦後とうことで意思だけでも伝えるべきだった」
「・・・なんとなく、そういうのってハプニカ様らしくない気がします」
「そなたが私にどういう幻想を抱いているが知らぬが、そなたの事になると単なる脆い女だ」
「だが、私にもっともっとクールになれというなら、そうなろう」
「そこまでは言ってないです、無理しないで・・・無理されると心が痛みます」
「そうだ、そなたもトーナメントで無理を、とんでもない無茶をした、私も心が痛み、壊れた」
「す、すみません、そういうつもりで言ったんじゃないです、俺、俺・・・」
「無理はもうしないと約束して欲しい、でないと、私もそなた以上に無理をするが・・・」
「クールが好きなら、顔色ひとつ変えず頭の先から足の先まで舐めてさしあげるが」
「いえ・・・あ、ちょっといいかも・・・いえいえ!そうじゃなくて」
「無表情でそなたにまたがり、淡々と腰を振るのが良いなら今からでも・・・」
「ハプニカ様は、ハプニカ様らしく、つまり、ハプニカ様自身、ありのままでいてください」
まあこれで、糸口が掴めた、ありのまま、このままで一生懸命に愛せば、伝わるのだな。
「では、ありのまま、間違えた部分は私らしく訂正して、そなたを愛そう」
「そなたの返事は無理強いせぬ、ただ、今はそなたの方こそ、そなたらしくしていてほしい」
例えそれがスバランの木が出す空気のせいだとしても、本心は伝わったはずだ。
「寝てしまわれたか・・・では私も・・そなたを抱きしめたまま、寝るとしよう・・・」
これがこのまま、1年も2年も、5年10年と続いてくれたら・・・
そうなってはいけない、という想いとそうなって欲しい、という想いが葛藤する。
いつかどこかでつけなくてはならないケジメ・・・愛しいお方がぬるま湯なようなこの状況を、
この先ずっと受け入れるとしてもだ、どこかのタイミングで明確な意思表示は必要となるであろう。
私にしても、騙し続けているような状況で一生を共にするのは不本意だ、そしてタイミングがあるとしたら・・・
機嫌を損ねて拗ねているだけという可能性も考えられなくはないが・・・