何を考えておるのか、どうしてなのか問いただしたかったのだが、
嫌われたのか無視されたり威嚇されたり逃げられたり・・・こんな事は今までそうなかった。
もちろん4姉妹の言う事もきかず、約束の手前、何度か指笛で呼んだり、無理矢理乗ろうとまでしたが駄目だった。
唯一ミルだけが普通に接していたが、それはミルによれば何も聞こうとしない、何も白竜にしようとしないからだという。
まあ、白竜の子供と仲が良い事もあるし、いらない卵を処理してくれるからでもあろう。
よって私からミルに、間接的に白竜の真意を問うようにお願いはできぬ、無理にする必要もない。
ミルが子供の白竜を調教し、あのお方を乗せるという考えも浮かんだが、それにはおそらく10年はかかるであろう。
結果的に、私はあまり酷く心を痛めずに、あのお方を引きとめ続ける事ができるのだ。
地上にいた時は第一王妃という揺るがぬ位置がある程度保障されていたが、
恋愛に関して素人で疎い私が横一線から再スタートされたとなると、末席に落ちる可能性は十分にある。
「最近、私も料理の腕が上がってきてな・・・こういうのを食べたい、というのはあるか?」
「そうですね、そうだ!リリさんが凄く美味しいハーブティーを入れてくれて・・・あれをまた飲みたいです」
「リリはそういうのが得意だからな、わかった、頼んでおこう、一緒に私の作ったケーキも食べていただく」
ルルはマッサージの腕が凄く上手、レンはあの若さという私ではどうしようもない武器がある。
「でも、ハプニカ様でも、そういう仕草があるんだなって思うと、ちょっと安心します」
「いえ、いつも完璧でクールなハプニカ様が好きなんですが、たまにこういう姿を見られるのも、かわいくって」
胸がときめき、目まいがするほどに嬉しい!そうか、私の武器は、クールか。
「ではリリのハーブティーと私のケーキで勝負だ、服もララより良い物を作ってみせる」
「お兄ちゃんがぁ、トーナメントを見たいっていうからぁ、みんなで闘うのー」
「私抜きでやってどうする、あのお方にはレベルの高い物を見せねばなるまい」
「よし、では私1人で4姉妹全員の相手をしよう、それぐらいのハンデでも足りぬくらいだが・・・」
「駄目ぇ、お兄ちゃんはトーナメントが見たいんだからぁ、あと剣は禁止でぇ、木の棒で闘うのぉ」
「わかった、ならば私は4姉妹が闘い終え、最後に残った1人と対戦しよう、これも立派なトーナメントだ」
「うんー、じゃあ玄関へー、出たところで闘うのー、お兄ちゃんは寝室から見下ろしてるー」
「わかった、最後の最後に出るゆえ、4姉妹の代表者が決まるまではあのお方に見つからないようにしておこう」
ストレッチをしておったり、精神統一をしておったり、皆、真剣そのものだ、
このピリピリした空気は大戦中を思い出すな、それもそのはず、あのお方のための勝負なのだから。
「ハプニカ様もいらしたのですね、でもどういたしましょう、4人のがトーナメントとして、すっきりしたのですが」
「でしたらー、我々4人のトーナメントが終わってー、その勝者とハプニカさまで決勝戦をいたしましょうー、シードということでー」
「リリ姉さん負けないからね、闘技場での真剣勝負は5分で止められちゃったけど、今度は時間無制限で、絶対に勝者が決まるんだから」
「えー、レンが負けちゃうって決めないでぇ、ダーリンのためにぜったいぜったいぜーーーったい勝って、ハプニカさまにも勝つんだからぁ〜」
あのお方が参加した闘技トーナメント以上のものを見せねばならぬため、
より高いレベルを見せる必要があるが、これなら及第点だろう、私にはまだまだ劣るが・・・
木の棒でなければ防具をつけていても、かなりのダメージを与え合っているであろう、
逆に木の棒だからこそ、下手に力を入れすぎると折れてしまって即座に隙を突かれてしまう、
だからこそ力の入れ具合、木の振り方にこつが必要になるのだが、それを完全に習得するのはどちらが先か・・・
かなり悔しそうだ、稽古であってもここまでの表情はそう見せぬのだが・・・
「さーて、早く負けちゃったから、あの人に解説でもしてこよー、アナター!」
「むっ・・・ルルめ、負け惜しみを・・・それだけ悔しかったのだな」
大戦などで稽古はよくやっておったが、それは互いの確認行為でしかなかったからな。
なるほど、そういう事か、ルルとレンはどちらが先に木の棒を使いこなすかであったが、
ララとリリはすでに、早ければ握った時点でその性質・性能を見抜いており、手数で勝負しておるのだな、
つまり、いかに自分の木を強すぎず弱すぎずで攻撃し、相手の木にダメージを蓄積させ、折ってしまうか・・・技術の闘いだ。
「お姉様ー、やりますわねー」「リリ、あなたもなかなかですわっ!」
リズムとタイミング、そして動作の加速度で木の剣を強くしておる、
隙を作ろうと狙っておるな、だがそれではミス待ちになる、すなわちララがミスをしなければ・・・
「甘いな、私ならば、わざと木を折らせて、折れた木の先で相手の頭を打ったであろう」
「ヌンチャクのような方法ですねー、ではハプニカ様と戦うときに使わせていただきますー」
「・・・ならば私もそれに対処してみせよう、もっとも打ち合う暇など無いであろうがな」
「ご主人様になぐさめてもらいますー、ご主人様ー、いま参りますー・・・」
まるで早く負けたほうが、早くあのお方に会えるみたいではないか!
ララに間違いないだろうが、皆がそう思うからこそレンにチャンスがある、
何よりこれでレンが勝てば、あのお方は褒め称え、夢中になってしまうかも知れぬ。
つまりレンにとって得るものが大きいのだ、闘技トーナメント優勝の比ではない程にな。
そういう時は必ず本来以上の力が出る、レンの伸びしろを考えれば、まさかの大逆転があっても、おかしくはない。
なぜならレンが大逆転を起こすとすれば、ララが圧倒的に攻めてトドメに出る瞬間かその前・・・
だからこそ、そのチャンスを作らせぬために、レンに好きに攻めさせ、わざと不利になり、逆にその隙を狙う・・・これはララが何枚も上手だ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・」「ほらレン!腰が入ってませんわよ!」
攻め続けるということは短時間で決めなければ疲れてしまうからな。
途中からレンも「攻めさせられている」事に気付いているはずだが・・・
大きく身を引いた!あの闘い方は、長槍を持っている時のものだぞ!?
だが、持っているのは残念ながら槍ではなく短い木!よって・・・ぎりぎりで避けられた!
こうなっては勝負あっただ、ララは礼儀を尽くすかのような全力の振りでレンの首を打った!
骨が折れるのではないかという程に食い込み、小さな体が逆上がりのように舞う・・・レンの目がとんでいる。
レンが場合によってはララさえ打ち負かす可能性というものが見えた、本当に恐ろしい。
よろよろとミルの肩を借りこちらへ来た、言葉を交わしたいが次は私の番だ、精神を集中する。
私とてここでララに負けてしまっては、一気に立場が危うくなる、これぞ真剣勝負だ、負ける訳にはいかない。
私はゆっくりとララの前に立つ、この闘いの意味はすでに・・・心得ている!
ララもさすがに緊張しているようだな、私だって負ける訳にはいかぬ、その理由を考えればな!
「・・・・・決勝戦、ララ対ハプニカ・・・・・・・・・・・・・・・はじめ!!」
やはり私とララの対戦ではそうはいかぬ、稽古で何百回も知り尽くしているゆえに・・・
現に兄者とは稽古で1度も勝てなかったが、たった1回の真剣勝負で倒している。
ララ自身も、さっきレンが与えられたチャンスが今度は自分にきていると、よくわかっているはずだ。
だが私とララでは裏の読み合いも、裏の裏、さらには裏の裏の裏、
裏裏裏裏裏裏裏裏・・・までいってきりがない、よって勝負に出るのはコインを投げて表裏を当てるようなものだ。
これがマリーであったらさらに色々と面白い駆け引き、心理戦を楽しめたであろうが、
ララも私も互いを知りすぎている、私が兄者にしたように、ララも私には絶対に言えぬ攻略法を隠し持っておるのかも・・・!?
こういう時、おそらくララはまず様子を見る手を打つ、その直後に何か仕掛けるだろう、よって一瞬の判断力の勝負になるはずだ・・・
・・・・・間合いが短くなってきたぞ?これは・・・・・くる!!
逆にその逃げた反動で大きく地面にバウンドした、倒れて動かない・・・
だからこそ、ララは様子見として棒を私に投げ、避けた方向に攻撃が来る、
そう思わせたかったのだろう、それを逆手に取り、様子を見るために投げた木の棒と一緒に、
そのずっと下、視界に入りにくい膝下を超低空飛行でタックルし、私を倒しに来たのだ!!
気付かずやられていてもおかしくなかった、しかし私は対戦で1度に30人も相手にした事がある、
そういった時はいちいち相手の剣や位置を確認してはいられない、リリではないが、直感、感覚で防ぎ、斬るのだ。
今回はそれが発揮できたから良いものを・・・だがこれでわかった、ララは正真正銘、紛れもなく、私を本気で倒しに来たのだ!!
ララたちの健闘ばかりが目立ち、私は勝って当然、当たり前・・・
もちろんこれ自体にも意味はあるのだが、アピールという点では4姉妹のほうが、わかりやすい。
冷静に考えれば私は1試合しかしておらぬが、ララなどは3試合も行って、あのお方に闘いを見せたのだ。
すでに褒美でももらっているかのように愛しいお方をむいておる。
「ちゃ、ちゃんと見てました!・・あっ、ルルちゃん、そこ感じる!」
「ふむ、良い運動になったが、そなたが望むならリーグ戦やハンディをつけて毎日でもお目にかけるが」
「いえ、もう・・・正直、見てられま・・あああ!レンちゃん!強く吸いすぎて、痛い!・・でも気持ちいい・・」
「やはりそなたには闘いよりこちらの方が相応しいな、では私もまざろう・・・」
「わたくしも、今度はハプニカ様に負けませんわよ、もちろん妹たちにも」
「あ、あ、ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
こちらの方はまだまだ私は経験不足、4姉妹に劣る部分もあるだろう。
だが、鍛錬をおこたらず、愛し続ければ・・・愛しいお方も私たちの戦いのメッセージを、感じ取っていただけたであろうか?
ではなくてだ、私たちの強さを見せる事によって安心してもらうのだ、
もう強くないから守れないと言った愛しいお方に、我々は守られなくとも平気だ、
それどころか、我々がそなたを守るからこそ、強くなれるのだと・・・だから強くなる必要は無いのだと。
愛しいお方の力が無であっても、その前に立ちはだかる我々が、私が無敗であれば、結果的に愛しい方が闘わずして最強なのだという事を。
さあ、最強の戦士を、2番目の私が、尽くしてさしあげようぞ・・・・・。