「さて、何事も無かったかのように皇務をしようとするか」

 

まだ夜も明けきってないにも関わらず、

あのまま玉間へ来てしまった、おそらく私の寝室に戻ってしまうと、

失恋のショックで泣き喚き、1日中仕事にならぬからだ、無理矢理にも玉座で気を引き締めよう。

 

「ん?あれは・・・何だ?」

 

玉座に何か置いてある、

これは・・・手紙のようであるな?

 

「ララの字だ、長い文章であるな」

 

さては夕べの脚本に手直ししたとでも?ならばもう遅いが・・・

 

『ハプニカ様へ、長い間お世話になりました、私たち4姉妹はあのお方の親衛隊としての立場を全うするため、

 この国を去り、ついて行きます。ハプニカ様が説得できなかった場合のことを必死に考えた結論です。

 ハプニカ様がいる事で愛するお方を幸せにできないのならば、ハプニカ様がいない環境であのお方を幸せにします、

 そうする事でハプニカ様は報われるのです、どうがご安心ください、実はすでにハプニカ様の知らないところで、

 あのお方の食事にスバランの媚薬の実を、極力薄めて混ぜてではありますが1ヶ月間飲ましていました、

 副作用の強い強壮薬として。あのお方は知らないうちに私たちが恋しくてたまらなくなっているはずです、

 ですから追いかければその夜にでも私たちを激しく求めるでしょう、そのまま旅に出て永住の地を見つけます。

 正確な意思を無視した反則かもしれませんが、結果として愛し合い、幸せになればそれで良いのです、

 もしこのような行動に出ず、あのお方が弱い体で無理に国を出て、国境を越えた森で山賊に殺されでもしたら

 全て私たちの責任です、それにあのお方の体もまだ満足に治ってませんし、完治するものでもありません。

 ですからこの国を出ても一生、私たちでお守りし、失わせてしまった力を私たちが責任を持って補います。

 恋愛には勝負というものもあります、それはライバルとだけではなく愛するお方との勝負もあるのです、

 私たちは国を捨て勝負に出ます、国を捨てる事のできないハプニカ様やミル様に成り代わって必ず勝ってみせます。

 時折、私どもがあのお方を幸せにしている様子をお手紙しますので、後はご心配なくお過ごしください。ララ、リリ、ルル、レン』

 

4姉妹・・・確かにハプニカ親衛隊は解散しあのお方の親衛隊に任命したが、こう来たか。

私のせいであのお方が婚姻を断るというならばと、私を切り捨てたか!女王の私をだぞ!まさしくこれは文面通り、勝負に出たのであろう。

 

「私が国を捨てられないだと?私がこの国とあのお方、どちらを取るかと問われたならば、それは・・・」

 

弱い足音が近づいてきた、

入ってきたのは妹のミルだが、

なんと大きな荷物を手にしている、まさか・・・!

 

「お姉さまぁ、ララさんたちがぁ、お兄ちゃんを追っかけて行っちゃったぁ」

「ああ手紙で読んだ、ミルにも手紙が残してあったか」

「ううん、直接聞きましたぁ、長い話はできなかったけどぉ」

「その姿・・・ミルも追いかけるというのであるな?この国を捨てて」

「できる事ならぁ、この国に連れ戻したいのぉ、きっとララさんたちも本心はそうだと思うのぉ」

 

しかし、それができぬ場合はどこかで一生を、共に過ごすと・・・

そもそも私がこの国のためにあのお方を使おうとした、と誤解されている訳だから、

この国に戻そうとしては、あのお方にこの私の愛を信じてもらえる事はできない、ならば取る方法は、ひとつだ。

 

「ミルよ、私も準備する、よって出るのは・・・ララたちは天馬に乗って行ったのか?」

「ううん、歩いてついていったみたいぃ、みんな天馬は置いていったみたいなのぉ」

「そうか、ならば出るのは今日の夕方か明日朝で良いだろう、歩きなら泊まれる所は数限られている」

 

まさかララたちがついていて、野宿させるはずは無いからな。

 

「お姉さまぁ、ほんとうにいいのぉ?このお城がぁ、誰もいなくなっちゃうぅ」

「だが、この国には多くの国民がいるではないか、空き家が出れば新しい住人が入るだけだ」

「わかりましたぁ・・・弟子のみんなに説明する時間ができちゃったぁ、ちゃんと言わないとぉ」

「それならば・・・よし、このガルデスシティの街中に重大発表があると公表し、大至急、城の前へ国民を集めよう!」

「じゃあ夕方に公表するって、今から告知するように大臣さんたちに命令してきますぅ」

 

よし、私もこれから早速、荷物をまとめるぞ!

 

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 

必要最低限なものをまとめ、白竜に積み込む。

武器防具よりも生活用品だ、まあ両方ともある程度は向こうにあるが・・・

あのお方が私に返したものは置いていこう、結婚指輪も机の上に置いたまま・・・

 

「よし、白竜よ、私が合図の指笛を吹いたら降りてきてくれ、私とミルを乗せ、行き先はお前の故郷だ」

「・・・・・ホントウニ・・・イイノカ」

「ああ、まずは荷物だけ運ばせてもらう、その後、荷物を置いたら手伝ってもらう事がある」

「・・・・・ワカッタ」

「では色々とする事が残っているゆえ、しばらく重いかも知れぬが我慢してくれ・・・それっ」

 

林檎を投げるとぱくっ、と食べ、飲み込んだ。

白竜が喋れる事を知るのは私とミル、4姉妹でもララしか知らぬ。

ある意味、奥の手中の奥の手であるからして、最重要国家機密とも言えよう。

 

「いや、マリーも知っておるか・・・あやつも本来は白竜を飼っておったからな」

「お姉さまぁ」

「ミル、お前も荷物を積み込みにきたか」

「うん〜、お城の広場にも国民がいっぱい集まってる〜」

「もうすぐ時間だな、どうする?初めから白竜に乗っておくか?」

 

首を左右に振る・・・

そうか、私の別れの演説を横で聞いてくれるか。

国民にも納得してもらわねばならぬからな・・・2人ともいなくなる事を。

 

「よし、私も手伝おう、この重いのは・・・服であるな」

「こっちはエリクサーとか包帯とかぁ、怪我したときのぉ」

「解毒薬は向こうでも作れると思うが、そういう備品は持っては行かぬか」

「お母様が残してたのがぁ、昔、向こうに行ったときに見たからぁ」

「壊れてなければ良いがな・・・うっ、この重い箱の中身は本か?全て必要なものか?」

 

白竜は・・・まだ平気そうな目をしてはおるが。

 

「これは日記なのぉ、大事な大事な思い出だから持っていきたいのぉ」

「わかった・・・よし終わった、これ以上の重さはさすがに白竜も機嫌を悪くする、もう無いな」

「あとはぁ、私とお姉さまぁ」

「その重さも計算に入れてだ・・・さあミルよ、行こう」

「はいっ、お姉さまっ!」

 

屋上から城の中へ戻る、

ここともお別れ・・・まさか去る事になろうとは。

だが仕方が無い、二者択一を迫られての決断だ、私やミルがいなくとも、

この国は栄え、この国は残るはずだ、後は残った国民に任せた・・・玉座へ戻り、

その後ろにある戦闘服に身を包み、剣を握る・・・ミルも大きな賢者の杖を手にし、まるでこれから戦いに行くようだ。

 

「歓声が凄いな・・・」

 

冬の訪れを知らせる風とともに聞こえてくる国民の声、

ベランダに出ると特別に開放された城の庭、広場を人が埋め尽くされている。

中央闘技場であれば入りきらぬ程の人、人、人・・・さあもう時間だ、私は国中に響く大声で、意を決して叫んだ。

 

「皆よ、よく聞いてほしい!!」

 

低い声がミルの魔法で大きく響くと、

眼下の国民が一斉に静かになり、私に集中する。

 

「世界を救い、この国を救ったあのお方は、もうここにはいない、おらぬのだ!

身も心も傷つき、疲れ果て、全てに愛想を尽かして出て行ってしまわれた・・・これは私の責任だ!

よって責任を取り、私は愛するあの方を追ってミルとともに、この国を去る!去って、許されるならば、あのお方を生涯お守りする!

もう、あのお方を1人にはできぬ!すでに私の親衛隊も、この私に愛想を尽かし、あの方を追い、去っていった・・・

皆も私に愛想をつかして欲しい!私がいる事でまた争いが起こる可能性があるならば、争いの火種となる私はこの国を去る!

私がこの国にいる限り、あのお方が国王になったとしても、私もあのお方も命を狙われる可能性があるならば、去ろう!!

これも私が、そして父がこの国を醜い闘いの国にしてしまった、責任の取り方だ!だからこそ、去ってきれいにして行く!

あとは皆で、決して争いの無い平和な国を、知恵を出し合って作って欲しい!それこそが、あのお方にこの国を許してもらう唯一の方法だと思うからだ!」

 

うぅ・・・感極まって涙が一筋流れてきてしまった・・・。

 

「ここにいるミルも、私と同じくあのお方を心から愛している!

私達2人は、あのお方を追いかける!そしてもし、もしできれば、

償わせてもらい、そして、私の愛を生涯かけて、ぶつけるつもりだ!

一生かかったとしても、いや、必ず一生、どんな事があろうと、あのお方を愛し続ける!

そのために!私はこの国を去らせてもらう!これが私の我が侭と言われてもかまわぬ!

もう、何にも邪魔されたくないのだ!何も恐くはない!愛するあのお方のためならば!!!」

 

静まり返り、のち、さわめく民衆たち・・・

驚き困惑しているのであろう、このまだ皆が戸惑い静かなうちにと、

私は指笛で合図を送る・・・屋上からはいつもより動きが鈍い白竜がベランダの前で滞空する。

 

「よしミル、行くぞ」

「後ろぉ、大臣の皆さんが慌てて来ましたぁ」

「捨ておけ・・・そらっ!!」

 

2人で飛び乗ると、白竜はバッサバッサとゆっくり舞い上がり、

そのままスバラン山脈の方へと加速する・・・もう後ろは振り返らぬ、

ベランダで叫ぶ大臣たちの声もあっという間に風に掻き消され・・・雲の隙間へと入っていった。

 

「さあ、後はもう知らぬ、これからは私たちだけの事を考えよう」

「でもお姉さまぁ、どうなるか予測はついてますよねぇ?」

「もちろんだ、まあ普通に考えればマリーが国王となりシャクナが補佐するであろうが・・・」

「マリーさんもぉ、シャクナさんもぉ、表には出たがらないと思うぅ」

「そうだな、だから実情の内政はマリーとシャクナがやり、2人が信頼置ける誰かを国王に据えるかも知れぬ」

 

まあ、ターレが戻ってきて国王になるとか言い出さなければ誰がなっても大丈夫であろう、

そうなるとジュビライJrか、ミルの弟子か、シャクナの教会の神父などは面白そうだな1度も会った事は無いが。

 

「見えてきたぞ・・・スバランの木だ」

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