「まずはあのお方に、最後の挨拶を皆にして欲しいと巧みに誘導し、屋上に来ていただきます。

 屋上でハプニカ様なりミル様なりに挨拶をし終えたあのお方は、降りる前に屋上にある白竜の小屋に目を止めます、

 白竜は餌の林檎が欲しいそぶりを見せます、あのお方は優しいゆえに、籠にある林檎20個を全てさしあげるでしょう、

 すると美味しく食べ終えた白竜が急に苦しみだして死ぬ演技をします、ハプニカ様の白竜でしたらこれくらいはできます、

 そこへルルあたりが慌ててやってきて『白竜の餌は1食3個まで、それ以上あげたら死んじゃうよ!』と、取り乱します、

 ダルトギアにおいて白竜殺しはどのような人間であれ死刑、と宣告し牢屋へ入れます、するとどうでしょう、隣の牢屋には、

 なぜか泣いているレンがいるではないですか、レンはあのお方が去る事となり、市民はあのお方を殺しかけた罪による死刑を求め、

 ハプニカ様は押し切られ、レンを1週間後に処刑する決定を下した、という事にします、そこでレンがあのお方に1週間詫び続け、

 面会に来た私たち姉やハプニカ様、ミル様も、レンが本当に、どうしても避けられず処刑となってしまう事を悔い、嘆き悲しみ、

 それと同時にあのお方への愛も本物だったという事を処刑されるレンとともにわかっていただくのです、そして1週間がたち、

 レンは泣きながら処刑場へ連れて行かれます、あのお方の入った牢は丁度、ギロチンの一番上の部分だけが見える場所にし、

 間もなく執行というタイミングでハプニカ様が現れ、レンを助ける方法はひとつしかない、それは皇族になる、つまり王妃になる事、

 あのお方が国王となり、王妃に貰う。そうすればレンが助かるだけでなく、あのお方の白竜殺しの罪も国王すなわち皇族ですので、

 罰せられない事となります、ここまで追い詰めれば間違いなくあのお方はハプニカ様との結婚を了承するでしょう、

 ただここで終わってはいけません、この後が肝心なのです、ハプニカ様と結婚して国王になる了承を取り付ける、それを聞き、

 ハプニカ様は感謝の言葉と共に慌てて連れて行かれたレンの後を追う、間に合うか間に合わないかと思わせるため時間を置き、

 一番上の部分だけ見えるギロチンをスッと落とします、するとレンが処刑されたと思い込むでしょう、その数時間後、

 ウエディングドレスに身を包んだ重い表情のハプニカ様があのお方を牢へ迎えに行くのです、そこで指輪の交換をし、

 絶対に2人は離れることはできない呪いをミル様の闇魔法でかけていただくのです、このレベルの魔法はぎりぎり使えるそうですし、

 レン様処刑のショックで我を失っているあのお方は素直にかかってくださるでしょう、そしてレンのためにもと私やリリ、ルル、

 そしてミル様も含めた皆で盛大な婚礼の儀式を行い、パレードをするのです、そのパレードの上空では、あのお方に見せ付けるかのように、

 死んだはずの白竜がレンを乗せて祝福するのです、あのお方はここまで策略されてはしょうがない、と諦め全てを受け入れるでしょう、

 どのみちもう呪いがかけられている訳ですし、ここまできてしまえば、あのお方の性格を考えても後戻りや拒否は確実に不可能です」

 

・・・何か小説みたいな、いや、芝居の脚本みたいであるな、

一生懸命練ったのであろう、4姉妹で・・・この通りにすれば確かにうまくいくかも知れぬ、だが・・・

 

「却下だ・・・あのお方を騙す訳にはゆかぬ」

「しかし、他に手を考えようにも、それに何より時間が・・・」

「私たちは早い段階で間違えていたのだ、どうすればあのお方が我々の愛を信じてもらえるか、これを探るべきであった」

「愛は沢山、受けていただいていたはずでした!それが、このような結末を・・・いえ、まだ終わってはおりません」

「ああ、だがそなたたちの言うとおり、望みがあと1回あるとするならば、もはや小細工は通用せぬ」

 

私たちは、私は、愛をめいっぱい注ぐことだけで安心していた・・・

ここまでしている、そして喜んでいる、だから想いに応えていただけるはずだと・・・

しかし、花に水を与えすぎたかのように、愛の押し売りをしていたのであろう、あのお方が断れないのを良い事に・・・

 

「もう考えるのも疲れ果てた・・・そなたたちの言うラストチャンスは、私があのお方と過ごす最後のひとときにさせてもらう」

 

また意識がクラクラと・・・もはやこれが、現実かそうでないかすら、あやふやになってきた・・・

 

「お姉さまぁ・・・」

 

丁度ミルが戻ってきた、

よし、あのお方の所へ行こう。

 

「これは夢だ・・・あのお方が城から出るなどと言う、悪い夢だ・・・」

 

ふらふらと廊下へ・・・

4姉妹もミルも心配の表情を浮かべるが、

さすがにもう止められぬのであろう・・・さあ、あのお方の部屋へ・・・

 

ガチャッ

 

入ると愛するお方が荷物をまとめていた。

 

「すまない、何か支度中であったか」

「は、はあ・・・」

「少し胸を貸してくれぬか」

 

余計なことを考えるのは、よそう・・・

今、ここに愛するお方がいる、そして私は甘えようとしている。

それを拒まず、受け入れてくれている、今はこの事実だけでじゅうぶんだ、胸に顔を・・・あぁ・・・

 

「突然すまない、とてもひどい悪夢を見たものでな・・・」

「悪夢、ですか?」

「ああ・・・そなたがこの城を出ていく夢だ・・・」

 

夢であってくれ、とすがるように抱きつく・・・

 

「そなたに・・・私の愛が偽りだと言われてしまう夢・・・まさに悪夢だ・・・」

「ハプニカ様・・・」

「あんな悪夢、もう、2度と見たくはない・・・現実なら窓から飛び降りていた」

 

つまり、現実ならば私は、飛び降りねばならぬ・・・

 

「恐い・・・そなたを失うのが恐い・・・」

「ガタガタ震えてますよ、大丈夫ですか?」

「もう、1人では寝られぬ・・・これから、今夜から毎日、一緒に寝てくれまいか・・・」

 

この瞬間が毎日続けば良い・・・

明日も明後日も、この先毎日、こうしていたい・・・

今までそうしてこれたのだ、明日から急にできなくなる事など・・・うぅぅ・・・

 

「わかりました、今夜は一緒に寝ましょう」

「・・・・・ありがたい」

 

今夜は一緒に寝られる、それだけで、私の心は・・・まだ保てるのだ・・・・・。

 

 

「ふふ、今夜はもう誰にも邪魔させぬぞ」

「そうですね、今夜は2人っきりで・・・」

 

夜になり、2人で共にベットへ入る・・・

今までさんざんいやらしい事をしてきたのに、なぜか初夜のようだ・・・

 

「結婚指輪、まだ持っておろう?」

「・・・あ!そ、そうですね・・・まだ・・・」

 

まだ迷ってる、とでも言ってくだされば、私は・・・・・

 

「そなたとの結婚式・・・ウエディングドレスなど、似合うであろうか・・・」

「もちろんですよ、ハプニカ様ほどの美人、似合わないはずがありません」

「そうか・・・ふふふ・・・そなたとの結婚式か・・・・・」

「・・・あ・・・そ、そういう意味では・・・」

「他に何の意味があるというのだ・・・」

 

・・・2人の意思は、おそらく合っているはずだ・・・

 

「ハプニカ様、ダルトギアは好きですか?」

「ああ、もちろんだ、生まれ故郷が嫌いなものか」

「そうですよね・・・私も故郷のモアスが大好きです」

「モアス・・・残念な事になった、悲しいであろう・・・」

「そうですね・・・でも、海の男としての誇りは持っています」

「たのもしいぞ」

「ハプニカ様も、ダルトギアの誇りを持っていますよね?」

「ああ、もちろんだ」

「・・・モアスとダルトギアって、正反対なんですよね・・・」

 

天井を見つめる愛しいお方。

 

「モアスは海の民です、穏やかな時もあれば激しいときもある海・・・

そんな海で生きてきた俺は、やっぱり海が恋しくなります・・・

ダルトギアは、確かにいい所ですが、山の民の住む国です、

しかも、強い者が全ての国に思えます、ドラゴンのあの迫力を見るとわかります・・・

俺は海のシャチやイルカと仲間になったり、海に浮かんだ舟で昼寝する事の方があってます、

海の民が山の民の気持ちをわかる事など、できないと思います、その逆も・・・

海で慣れ親しんだ俺が山に親しむのは、やっぱり無理です、もちろんその逆も。

それに・・・、もう力もない俺が、この国を守る事は・・・・・できません・・・・・」

 

・・・・・そうか・・・やはり・・・ふられていたの・・か・・・

 

「・・・うっ・・・ううっ・・・」

 

一気に涙が溢れ出す・・・

 

「わかっていた・・・夢ではなかった事を・・・

しかし、信じたくなかった・・・信じたく・・・ううっ・・・」

 

がばっ、と愛しいお方を胸で抱きしめる・・・

離れたくない、離したくない、別れたくない!

今夜で終わるというのであれば、夜明けなど来なければよい・・・、

ううぅ・・・体が震える・・寒い・・・心が寒い・・・愛しいお方のぬくもりは伝わるのに・・・、

私のぬくもりは、想いは、伝わらなかった・・・いや、伝わっていたとしても、信じてもらえなかったのだ・・・・・

 

「うっ、うっ・・・私は・・私はそなたに償う事すら叶わぬのか・・・うぅぅ・・・」

「・・・・・・・・・・すみません、もうじゅうぶん償っていただきましたから・・・」

「・・・せめて、せめてそなたのその温もりを、今だけでも・・・心に焼き付かせてくれぬか・・・」

 

ぎゅううっ、と腕に力が入る・・・

このままひとつに溶け合ってしまいたい、そう思える・・・

大粒の涙がぽたっ、ぽたっと落ち、愛しい人を濡らしてしまう・・・・・

 

「ううっ、うっ・・・うううぅぅぅうぅ・・・」

 

これがラストチャンスだとして、どうしろというのだ?

説得や小細工をするよりも、これが永遠の別れとなるならば、

一生の思い出に、1分1秒でも長く、強く、深く、抱きしめていたい・・・!!

 

このお方が去って行ったとして、、

私はこの先、どのように生きてゆけば良いのだろうか?

正直に言って、もう生きてはいられない、しかし、それでも死ぬことが許されぬならば、

命尽き果てるまで、このように震えて、泣いて過ごさなくてはならないのだろうか・・・・

ならば全ての感情を捨て、生きる屍として、国の一部として残りの人生を歩もう、たまに涙をこぼす人形として・・・。

 

「ハプニカ様、私も、この瞬間を・・・一生、宝物にして生きていきます・・・」

「・・・もう、もう取り返しはつかぬのだな・・全て私の責任だ、言い訳はせぬ・・・」

「1つ、お願いがあります・・・」

「・・・・・何だ?」

「その、う、うまく言えませんが・・・これからもハプニカ様は、ハプニカ様でいてください・・・」

「どういうことだ・・・?」

「ハプニカ様は・・・ハプニカ様であるべきです、ハプニカ様らしく、ハプニカ様でいてください・・・」

「・・・私は私だ、偽った事など一度もない・・・信じてもらえなかったがな・・・」

「そうですね、私はハプニカ様に幻想を抱いていたのかもしれません・・・」

 

・・・・・勝手な妄想を抱いていたのは私のほうだ、

ひょっとしたら私はこのお方の事を人形として扱っていたのかも知れぬ、

勝手に喜び、勝手に感じ、勝手に愛し・・・しかし愛したお方は人間であった、

だから最後に怒って去ってしまう事となってしまった・・・恋愛というものは難しい、

私は終始、恋愛小説の主人公に恋をしてしまっていたのかも知れぬ、思い通りにならなくなって、はじめて気がついた。

 

「うっ・・・愛しい・・愛しい人・・・そなたが・・・愛しい・・・」

「私も夢のようです・・・でも、夢なんです、これは、今は・・・」

「いや、現実だ・・・そなたがいるのも・・・別れが待っているのも・・・ううぅ・・・」

 

 

もう、何も余計なことを考えず、ただ抱き合うだけ・・・

それ以上も、それ以下もできないまま、ついに夜が明けようとしていた・・・

 

「ハプニカ様、夜が明けます・・・」

「もう、そんな時間か・・・」

「はい・・・もう、行かないと・・・」

「・・・・・どこへ行くのだ」

「・・さあ、でも・・・1人になれる所で・・・・・」

 

離したくないが無理に力を入れる事もできない腕を取り払われ、

愛しいお方ははベットから出る・・・私はそれをただ見つめる事しかできない・・・

そうしているうちうに服を着て、荷物を手にされた・・・そこからゴソゴソと品物を取り出した。

 

「この3つは、お返しします」

「それは、国宝の剣と、モアスのメダルと・・・指輪・・・!」

「はい、剣はもう使えません、メダルは・・・偽りの物などいりません、指輪は・・正式にお断りします」

「そうか、そうだな、剣はそなたにプレッシャーを、メダルはそなたに疑心をあたえてしまった、

指輪は・・・渡し方を間違えたようだ、すまない、私には恋愛などはじめてであったので・・・

人の心を第一に考えて戦っていたつもりであったが、もっとも大切な恋の勉強がおろそかであった・・・すまない」

「やっぱり俺にはハプニカ様はハプニカ様です、そんなハプニカ様が好きでした・・・どうかお元気で」

「私は私らしく、か・・・わかった、それがそなたの望みなら、そうしよう」

「では・・・さようなら・・・ハプニカ様・・・」

 

あぁ、私に引き止める事は、できぬ・・・

これが、最後に愛しいお方にできる、せめてもの償い・・・

振り返らず静かに出ていった・・・おそらく、もう・・・・・戻らぬ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

涙も声も枯れ果ててしまった、

あのお方の温もりを、せめて感じようとベットに頬をつける・・・

これで、ハプニカという女の、悲しい恋の物語は、幕を閉じたのだ・・・・・。

 

「私らしく・・・・・もう生涯、恋は・・・・・せぬ」

 

もう感情は捨て去ろう、

女としてのハプニカはたった今、死んだ。

後はあくまでも、国王としての、女王ハプニカを全うするしかないのだ!!

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