「はいー、どうしてもあのお方の元気な姿を見たいという方々をー、すれ違わせてきますー」
「かなり荒っぽい非公式謁見であるからして、粗相の無いようにな」
厳正な審査・身辺調査をしたのち8名だけ、城内見学という表向きの理由で、
あのお方と廊下ですれ違わせ、生きている、順調に治療されてる所を見せる・・・
そう何度も使える手ではないが、1度でも効果は高いであろう、さて、不自然が無いように私もすれ違おう。
「・・・いや、そうは思いません・・・ハプニカ様、あとでお話があります」
期待と不安が入り混じり、季節の冷たい空気が私をピーンと緊張させる。
玉座につくと、私の前で真剣な表情で一礼した、さあ、いよいよのようだ。
持ち出してきた小さな箱、その中に煌めくのは、私が渡した結婚指輪!
「ハプニカ様、思い出してください、あの、トーナメントの戦いの時・・・」
「本当ですか?嘘ではないですよね?本当に私だとわからなかったのですか?」
「もちろんだ、わかっていたら、あんな事には決してならなかった・・すまぬ」
「本当にわからなかったのだ・・・許して欲しいとは言わない、だが、しかし・・・」
「そういう事を言ってるのではありません・・・これでわかりました」
「あのトーナメントの時、トレオという男は、優勝したらハプニカ様と結婚したいと言った、
それをハプニカ様は了承した・・・つまり俺でなくても強い男なら誰でもいいって事だ、
俺のことを最初から愛してはいなかった、いや、俺を愛していたにせよ、俺より強い男であれば・・・
スロトが嘘を、なんて言い訳は通用しない、ちゃんとハプニカ様自身がその条件をスロトから聞いて、
了承したという事はリハビリ中に聞いた、つまりハプニカ様が愛しているのは俺なんかではなく、
ただ単に強くて都合の言い男を、愛しているって事にしたいだけなんだ!!!」
「正直、裏切られたと思いましたが、仕方がない事なんだとも思いました、
同情はしますが・・・でも、それと結婚は別です、もうそれにつきあう気はありません、
俺がいないと困る事情も知っていますが・・・俺も困ります、もう力がないんですから」
間違いなく、私は今、ふられている・・・その事実だけだ・・・・・
「とにかく、私は明日、もうこの国を去ります、そして2度と会う事はないでしょう・・・
ハプニカ様なら国民をちゃんとなだめる事はできるはずです・・・頑張ってください・・・
「ああぁ・・・そんな・・・そん・・・・・な・・・・・・・・」
あのお方の部屋へ・・・何か誤解があったのならば・・・とか・・ねば・・・
いや、もう・・・もう・・わけが・・・わか・・ら・・ぬ・・・ああ・・・あああああぁぁぁ・・・・・
「あのお方が・・・この城を・・・去る・・・我々は・・・捨てられて・・・しまっ・・・た」
「うぁ・・・ぁ・・・・・わああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ぁぁぁぁぁ・・・・・・・うあああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
「一体なにがあったのでしょうかー、私には見当がつきませんー」
「捨てられたって言いましたよね?あのお方が、お城を去るって」
「とりあえずぅ、横になってくださぁい、お着替えを・・・とりあえずこれぇ」
ラフな格好にになり、私はベッドへ潜り込んだ、まるで篭城するかのように。
「もう・・・もう駄目だ・・・ふられて・・しまっ・・た・・・」
「この城を、この国を、去ると・・・もう2度と、会わない、と・・・うううぅぅぅ・・・」
終わった、全てが終わった、私はもう、この闇の中で、朽ち果てていくのだ・・・
「信じられませんわ!リリ、ルル、レン、確かめに行きましょう!」
「はいー、ハプニカ様がこのような状態ではー、直接聞いてくるしかー」
「きっと誤解だよ、あんなにも愛を受け入れてくれたんだから、誤解だよ!」
「ミルちゃん・・・ミルさまはぁ、ハプニカさまをお願いしますぅ、いってきますっ!」
「おねえさまぁ、うなされてるぅ・・・気をたしかにもってぇ・・・」
こんなにも苦しいのだ、きっと地獄に落ちたに決まっている・・・
あぁ・・・あのお方はどこだ・・・名前を呼ぶ・・・呼び続けても応えてはもらえぬ・・・
かろうじて聞こえるのはミルが私を呼ぶ声のみ・・・あああああぁぁ・・・私は・・・何もかも、失ってしまった!!
地獄でうずくまっていた私が突然、ベットの上に放り出されてしまったようだ!
「ハプニカ様、もうお時間がありません、明日の朝にはあのお方は、本当に出て行ってしまわれます」
「残された僅かなチャンスがー、あと1回くらいあると思いますー、最後の最後まで諦めてはいけませんー」
「大戦の時、あのお方が囮で取り残された時、普通なら諦める所を助けに行きながら方法を考えた、あの時と同じです」
「いまミルさまがぁ、説得に行ってくれてるのぉ、その間にぃ、わたしたちでぇ、最後の方法を考えましたぁ、聞いてくださぁい」
そのような短時間で、恋愛感情を逆転させる方法などないと思うが・・・
「まずはあのお方はハプニカ様の求婚を断った理由ですが、力を失ったことへの絶望感が大きかったようです」
「にもかかわらずー、私たちがー、看病してもてなしたことがー、心の重荷になってしまっていたようですー」
「私たちは強くなくてもいいから頼りたいのに、頼られてるって事は強くなきゃいけないって勘違いしちゃって」
「治してあげようと一生懸命になったことがぁ、本当は治らないって気付いた事でぇ、嫌な気持ちになっちゃったぁ」
それを全て否定されてしまったのだ、何故そうなったのか、まったくわからぬ・・・
「今になって冷静に考えると、あまりにも愛しすぎてしまったのかも知れません」
「話が急でしたー、いきなり婚約や結婚を告げるよりもー、自然と恋人から始めるべきでしたー」
「ハプニカ様と結婚したいって理由であそこまでしてくれた事に、私たちが安心しきってました、それが落とし穴でした」
「好きなのにぃ、本当に好きなのにぃ、それを好きってわかってもらえないってぇ、恋って本当に難しいですぅ・・・えーん」
うぅ、こんな精神状態でも、冷静に分析しようとしてしまう、私が憎い・・・
私たちがここまで必死に愛情表現をしたのは、全て、人生を掛けてでもお詫びしようとした事であると・・・
それは確かに合っている、落とし穴はそこだ、確かに私たちはそういう感情も持っていた事は否定できない、
しかしそれは、愛しているからこそ、本気で好きだからこそ、そうしようと誓っているのだ!だが、だがしかし、
あのお方にはおそらく、それが伝わっていなかった、だから、スロトが仕組んだ罠を、歪んだ事実を真に受けて・・・
ララたちの言う通りラストチャンスがあるなら、おそらくそれは1回だ、
今夜、もう1度だけあのお方に会おう、その時にどう説得、いや、真実をわかっていただくか・・・
変に闘技トーナメントでスロトが言った事はこうで、私がこう思っていて実はこういう事、と本当のことを打ち明けても、
ここまで私の愛を全否定されておるのだ、単なる「今さっき作った言い訳」としか感じぬであろう、第一、何を今更という話になる。
大戦中に愛情表現をまったくしなかったせいで、逆にこちらへ来ていただいてから愛しすぎ、その温度差がこの事態を招いたなら、むしろ愛は逆効果だ。
頭が・・・き、気が狂いそうだ・・・やはり駄目か、私は・・・もう精神が・・・もたぬ・・・か
「ハプニカ様!僅か30分の時間でですが、私たち親衛隊4姉妹で考えた策を用意いたしました」
「この方法でならー、あのお方もー、ハプニカ様とー、ミル様とー、私たちとー、結婚できますー」
「はっきり言って策略、汚い罠になっちゃうけど、スロトの罠のせいでこうなっちゃったんだから仕方ないです」
「一生懸命やりますからぁ、どうかこれを試してみてくださぁい、みんなで幸せになる最後の方法ですぅ」