やがて季節は秋から、冬になろうとしていた・・・

 

 

「ではリリ、あくまでも自然に廊下ですれ違うようにな」

「はいー、どうしてもあのお方の元気な姿を見たいという方々をー、すれ違わせてきますー」

「かなり荒っぽい非公式謁見であるからして、粗相の無いようにな」

 

愛するお方はすでに城内を歩き回れるまでに回復した、

国民もあのお方の元気な姿が見たいとせっついていたため、

厳正な審査・身辺調査をしたのち8名だけ、城内見学という表向きの理由で、

あのお方と廊下ですれ違わせ、生きている、順調に治療されてる所を見せる・・・

そう何度も使える手ではないが、1度でも効果は高いであろう、さて、不自然が無いように私もすれ違おう。

 

「・・・・・来たようであるな」

 

歩くどころか、駆け足でやってきた愛しいお方。

 

「いっちに・・・いっちに・・・」

「すごいではないか、城の中を走れるとは」

「まだ軽くですよ、ハプニカ様」

「これならばもう少し頑張れば、また元の力が取り戻せる」

「・・・いや、そうは思いません・・・ハプニカ様、あとでお話があります」

「何だ?・・・わかった、そなたの部屋に伺うとしよう」

「いえ、私が玉座まで・・・」

 

愛するお方の方から、話があるとは珍しい。

期待と不安が入り混じり、季節の冷たい空気が私をピーンと緊張させる。

玉座につくと、私の前で真剣な表情で一礼した、さあ、いよいよのようだ。

 

「話というのは・・・やはり?」

「はい、これの事です」

 

持ち出してきた小さな箱、その中に煌めくのは、私が渡した結婚指輪!

 

「・・・決心してくれたのであろうか?」

「その事で、1つだけ質問があります」

「・・・何だ」

「ハプニカ様、思い出してください、あの、トーナメントの戦いの時・・・」

「ああ、あまり思い出したくないが・・・」

「あの時、トレオという男が私だと気づいていましたか?」

「・・・・・いや、気づかなかった」

「本当ですか?嘘ではないですよね?本当に私だとわからなかったのですか?」

「もちろんだ、わかっていたら、あんな事には決してならなかった・・すまぬ」

「そうですか・・・よくわかりました」

「本当にわからなかったのだ・・・許して欲しいとは言わない、だが、しかし・・・」

「そういう事を言ってるのではありません・・・これでわかりました」

「な、何をだ!?」

 

何をわかったと、いうのだ!?

 

「ハプニカ様は、俺を愛してなどいない!!」

 

・・・・・その強い口調が、私の脳に強い衝撃をもたらした!

 

「あのトーナメントの時、トレオという男は、優勝したらハプニカ様と結婚したいと言った、

それをハプニカ様は了承した・・・つまり俺でなくても強い男なら誰でもいいって事だ、

俺のことを最初から愛してはいなかった、いや、俺を愛していたにせよ、俺より強い男であれば・・・

スロトが嘘を、なんて言い訳は通用しない、ちゃんとハプニカ様自身がその条件をスロトから聞いて、

了承したという事はリハビリ中に聞いた、つまりハプニカ様が愛しているのは俺なんかではなく、

ただ単に強くて都合の言い男を、愛しているって事にしたいだけなんだ!!!」

 

な、なにを言っておるのだ!?

言われている事が、理解できぬ、

いや、何がどうなっているのか・・・訳がわからぬ!!

 

「正直、裏切られたと思いましたが、仕方がない事なんだとも思いました、

同情はしますが・・・でも、それと結婚は別です、もうそれにつきあう気はありません、

俺がいないと困る事情も知っていますが・・・俺も困ります、もう力がないんですから」

 

ただ、ただわかるのは・・・

間違いなく、私は今、ふられている・・・その事実だけだ・・・・・

 

「とにかく、私は明日、もうこの国を去ります、そして2度と会う事はないでしょう・・・

ハプニカ様なら国民をちゃんとなだめる事はできるはずです・・・頑張ってください・・・

では・・・これで、失礼します・・・・・」

 

背を向けて出て行く!

引き止めねば!声を、かけ・・・ね・・ば!

 

「・・・あ・・・う・・・あ・・・・・」

 

言葉にならない!

力ずくで引きとめようとするも、

足が震え、体がすくんで動けない!あああ!!

 

「ああぁ・・・そんな・・・そん・・・・・な・・・・・・・・」

 

ようやく玉座から立つも、足がまともに揃わない・・・

あのお方の部屋へ・・・何か誤解があったのならば・・・とか・・ねば・・・

いや、もう・・・もう・・わけが・・・わか・・ら・・ぬ・・・ああ・・・あああああぁぁぁ・・・・・

 

「ーーーーーーーーーー!!!」

 

声にならない声を叫び、その場に崩れ落ちる!

駆け寄ってきたのはララ、遅れてルルもやってきた!

 

「ハプニカ様、どうなされました?」

「すごい顔・・・普通じゃないです!何があったんだろ?」

「あのお方が・・・この城を・・・去る・・・我々は・・・捨てられて・・・しまっ・・・た」

 

ララとルルを弾きとばし廊下へ出る!

驚いた表情のリリも無視し跳び込んだのは・・・私の寝室だ!

 

「うぁ・・・ぁ・・・・・わああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

嘘だ!!

全て嘘と言ってくれ!

このような事が・・・・・あるはずがない!!!!!

 

「ぁぁぁぁぁ・・・・・・・うあああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

ガチャリ

 

「お姉さまぁ!」

「うっ・・・・・うううぅぅぅうぅうぅぅぅ・・・」

「どうしたのぉ?しっかりしてぇ、おねぇさまぁ」

 

遅れて入ってきた4姉妹。

 

「ハプニカ様!詳しいお話を、お聞かせください!」

「一体なにがあったのでしょうかー、私には見当がつきませんー」

「捨てられたって言いましたよね?あのお方が、お城を去るって」

「とりあえずぅ、横になってくださぁい、お着替えを・・・とりあえずこれぇ」

 

グシャグシャに泣く私をとりあえず落ち着かそうとしてくれる、

半ば強引にベッドへ横にし、窮屈な正装を解いてくれる・・・

ラフな格好にになり、私はベッドへ潜り込んだ、まるで篭城するかのように。

 

「もう・・・もう駄目だ・・・ふられて・・しまっ・・た・・・」

「お姉さまぁ、なんて言われたんですかぁ?」

「この城を、この国を、去ると・・・もう2度と、会わない、と・・・うううぅぅぅ・・・」

 

終わった、全てが終わった、私はもう、この闇の中で、朽ち果てていくのだ・・・

 

「お姉さまぁ、お姉さまぁ、お姉さまぁ・・・」

「信じられませんわ!リリ、ルル、レン、確かめに行きましょう!」

「はいー、ハプニカ様がこのような状態ではー、直接聞いてくるしかー」

「きっと誤解だよ、あんなにも愛を受け入れてくれたんだから、誤解だよ!」

「ミルちゃん・・・ミルさまはぁ、ハプニカさまをお願いしますぅ、いってきますっ!」

 

出て行った4姉妹・・・そして私は・・・

 

「う〜ん・・・う〜ん・・・・・うぅ〜〜〜ん・・・」

「おねえさまぁ、うなされてるぅ・・・気をたしかにもってぇ・・・」

「うぅ・・・ぅ・・・・・ぅ・・・・・・ぅぅぅ・・・・・」

 

私はもう死んだのだ・・・

暗い暗いこの闇は、きっと死後の世界・・・

こんなにも苦しいのだ、きっと地獄に落ちたに決まっている・・・

あぁ・・・あのお方はどこだ・・・名前を呼ぶ・・・呼び続けても応えてはもらえぬ・・・

かろうじて聞こえるのはミルが私を呼ぶ声のみ・・・あああああぁぁ・・・私は・・・何もかも、失ってしまった!!

 

・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ガバッ!!

 

「!!」

 

眩しいっ!

突然、掛け布団が引き剥がされた!

地獄でうずくまっていた私が突然、ベットの上に放り出されてしまったようだ!

 

「ぅ・・・・・う?」

 

薄目を開けると涙の痕をつけた4姉妹が並んでいた。

 

「ハプニカ様、もうお時間がありません、明日の朝にはあのお方は、本当に出て行ってしまわれます」

「残された僅かなチャンスがー、あと1回くらいあると思いますー、最後の最後まで諦めてはいけませんー」

「大戦の時、あのお方が囮で取り残された時、普通なら諦める所を助けに行きながら方法を考えた、あの時と同じです」

「いまミルさまがぁ、説得に行ってくれてるのぉ、その間にぃ、わたしたちでぇ、最後の方法を考えましたぁ、聞いてくださぁい」

 

私は枕に顔を埋めながら、つぶやいた。

 

「・・・・・申せ」

 

そのような短時間で、恋愛感情を逆転させる方法などないと思うが・・・

 

「まずはあのお方はハプニカ様の求婚を断った理由ですが、力を失ったことへの絶望感が大きかったようです」

「にもかかわらずー、私たちがー、看病してもてなしたことがー、心の重荷になってしまっていたようですー」

「私たちは強くなくてもいいから頼りたいのに、頼られてるって事は強くなきゃいけないって勘違いしちゃって」

「治してあげようと一生懸命になったことがぁ、本当は治らないって気付いた事でぇ、嫌な気持ちになっちゃったぁ」

 

看病の方針そのものが間違っていたのか?

いや違う!私たちは、少なくとも私は、本気で愛を注ぎ込んだ!

それを全て否定されてしまったのだ、何故そうなったのか、まったくわからぬ・・・

 

「今になって冷静に考えると、あまりにも愛しすぎてしまったのかも知れません」

「話が急でしたー、いきなり婚約や結婚を告げるよりもー、自然と恋人から始めるべきでしたー」

「ハプニカ様と結婚したいって理由であそこまでしてくれた事に、私たちが安心しきってました、それが落とし穴でした」

「好きなのにぃ、本当に好きなのにぃ、それを好きってわかってもらえないってぇ、恋って本当に難しいですぅ・・・えーん」

 

うぅ、こんな精神状態でも、冷静に分析しようとしてしまう、私が憎い・・・

私たちがここまで必死に愛情表現をしたのは、全て、人生を掛けてでもお詫びしようとした事であると・・・

それは確かに合っている、落とし穴はそこだ、確かに私たちはそういう感情も持っていた事は否定できない、

しかしそれは、愛しているからこそ、本気で好きだからこそ、そうしようと誓っているのだ!だが、だがしかし、

あのお方にはおそらく、それが伝わっていなかった、だから、スロトが仕組んだ罠を、歪んだ事実を真に受けて・・・

 

「少し、考えさせてくれ・・・」

 

ララたちの言う通りラストチャンスがあるなら、おそらくそれは1回だ、

今夜、もう1度だけあのお方に会おう、その時にどう説得、いや、真実をわかっていただくか・・・

変に闘技トーナメントでスロトが言った事はこうで、私がこう思っていて実はこういう事、と本当のことを打ち明けても、

ここまで私の愛を全否定されておるのだ、単なる「今さっき作った言い訳」としか感じぬであろう、第一、何を今更という話になる。

大戦中に愛情表現をまったくしなかったせいで、逆にこちらへ来ていただいてから愛しすぎ、その温度差がこの事態を招いたなら、むしろ愛は逆効果だ。

 

「これはもう・・・理論の問題ではない、感情の問題だ・・・」

 

い、いかん、か、からだが、体が震えてきた・・・

頭が・・・き、気が狂いそうだ・・・やはり駄目か、私は・・・もう精神が・・・もたぬ・・・か

 

「ハプニカ様!僅か30分の時間でですが、私たち親衛隊4姉妹で考えた策を用意いたしました」

「この方法でならー、あのお方もー、ハプニカ様とー、ミル様とー、私たちとー、結婚できますー」

「はっきり言って策略、汚い罠になっちゃうけど、スロトの罠のせいでこうなっちゃったんだから仕方ないです」

「一生懸命やりますからぁ、どうかこれを試してみてくださぁい、みんなで幸せになる最後の方法ですぅ」

 

紙をぱらぱらめくる音・・・

私の精神を繋ぎ止めるためにも、聞いておこう。

 

「説明・・・して・・・くれ」

 

意識を耳に集中する。

もどる めくる