新米衛兵くらいにまでは戦えるようになるのでは?と錯覚してしまう。
だが、もう無理に戦わせる事はできぬ、いや、無理でなくとも戦わせられない、
あのお方は私が一生をかけてお守りするのだ、だからこそ、私がしっかりせねばなるまい。
「はい、秋の空中武闘会を開催するか否かを決定する会議も含まれております」
「全国民が参加する春の闘技トーナメントに並ぶ、秋の毎年恒例行事・・・」
「飛竜や天馬を使う兵士であれば誰でも参加できる、空中戦最強を決める戦いですわ」
「ああ、こちらも前回優勝がルル、その前がリリ、その前のララは大きさが倍の飛竜に天馬で勝利したな」
闘技トーナメントがあのような悲劇になってしまっては、開催が危ぶまれている。
予定通り開催して国王の断固たる態度を示すべきか、自粛して内政の安定を最優先にするべきか・・・
「お兄ちゃんにぃ、みんなで動物の格好をして見せてあげようと思ってぇ」
色々な事をして気を紛らわせる、飽きさせないというのは立派な癒しだ、
あのお方をそういう趣向で楽しませようというのであれば、これは参加せずにはいられぬな。
「はい、準備と申しましても確認だけですので、省くことはできます」
別の来賓用寝室だ、すでにリリとルルとレンが着替え終わっている。
リリは馬、ルルは犬、レンが猫か、これからミュージカルでも始めるようだな。
「ウサギというか、これはバニーガールそのものの衣装ではないか」
「お姉さまのスタイルだとぉ、これが一番ぴったりだとおもってぇ」
「ウサギのカチューシャまで・・・ううむ・・・まあ、あのお方が喜んでくださるなら・・・」
少し窮屈だが、これはそういうものなのであろう、強調される胸が意図を感じるからな。
後ろのチャックを上げられるのがきついが、逆に気が引き締まるというものだ、仕事であれば。
「はい、これはオスライオンの格好ですわ、メスライオンは地味ですから」
いつのまにか部屋を出ていたミルが戻り、慌ててネズミの格好になる。
おそらくあのお方にこれから皆が来る説明をしてきたのであろう、
これで全員完了だ、あのお方に笑われたりしないか不安であるが・・・
レンを先頭にあのお方の部屋へと連なって入り、それぞれが自分の格好をアピールする。
バニーガールの格好をし、しかも、ぴ、ぴょん、などと・・・ううぅ・・・
「いえ、その、なんというか・・・素晴らしすぎて、クラクラしそうです・・・」
「本当です・・・世界で一番美しいバニーガールです、間違いなく・・・」
「そうかそうか、ふふふ・・・喜んでもらえて嬉しいぞ・・・ぴょん」
気を使って無理に言っているのではないな、ならばこれは成功だ!
「うわっ!みんなそんなに寄りかからないで・・・つぶれるっ!」
楽しんでくれているようだ・・・愛するお方は顔を紅くしている。
レンの口からも、秋の闘技トーナメントに出るかの決断を直接話して欲しいからな。
なかなかうまくいき、髭も剃り終え、今度は指の爪を切らせていただいている所だ。
「あああっ、そんな、しゃぶらないで・・・指を・・・指の間まで・・・」
「手、手が!ハプニカ様の手・・・そこはっ・・・駄目っ・・・!」
「ああっ・・・あ・・・あああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!!」
「そうか、ではいよいよだな・・・ララよ、あれを渡す時が来たようだ」
ダルトギアのメダルも造ろうと思ったが、思い直して別のものにした、それは・・・
あくまでも、愛するお方に、告白に行くのだ、握るなら花束であろう。
「ああ、それでだ、そなたが立てるようになったと聞いて・・・」
やはり駄目であったか・・・素直に、正直に真実を打ち明けよう。
「・・・実は、そなたのはすでに溶かされてしまっていた・・・すまぬ」
「それで色々調べて・・・同じ物を作ったつもりなのだが・・・」
「いえ、そのお気持ちだけでも・・・嬉しい・・・で・・す・・・」
「ああ、結婚指輪だ・・・どうか・・・受け取ってはもらえぬか」
「・・・・・俺がちゃんと歩けるようになったら、答えを出します」
「そうか・・・・わかった、ではそれまでこの指輪は預かっておいて欲しい」
・・・預かっていただく、これが今、私がしてもらえる精一杯だ、
見事に失敗してしまったか、だが、まだはっきりと拒否された訳ではない、
望みがある以上、愛するお方が歩けるようになるまでの残り時間、愛を深めるだけだ。
「・・・選ぶ道はひとつ、良い方法を考えるとおっしゃってました」
「それはまた意味深げであるな、だがシャクナを呼んだのだ、悪い考えではあるまい」
「ああ、結局は開催したものの、レンの参加はあのお方の看護を理由に見送ったのであった」
「お蔭様を持ちまして、ララ様の愛馬をお借りして、優勝する事ができました」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えますが・・・優勝賞金は我が教会の修繕と、孤児たちの養育費に」
教会のために使うことが、自分のためというならそれはそれで良いのだろう。
「はい、優勝したマリーさんなのですが、さすがに目立ってしまいまして」
「そうであろう、本来乗っていたマリーの白竜ではなく、ララの天馬を借りたにもかかわらず、圧倒的な強さで優勝したのだから」
「はい、マリーさんの白竜は行方不明・・・そうではなく、マリーさんの事を快く思っていない方々が騒ぎ始めました」
「そうか、春の闘技トーナメントで私の命を狙っていた事実を知っている者が、話を広げたのであるな」
確かに謀反の中核人物であり、他の者たちが次々と処刑された中、
ほぼ無罪に近い形で教会に暮らし、しかも空中戦ナンバーワンを決めるトーナメントで優勝し、
大金を手に入れたとなると、いかにその金を福祉に役立てたとしても、面白くないと感じるのは当然だ。
「幸い、私がいるためか教会や神父さまに危害は加えられてないのですが・・・」
「マリー自身は表を歩けなくなってしまったのか、名誉の優勝をしたにも関わらず」
「ご本人はあまり気にしてないようです、孤児たちのためにやった事だからと・・・孤児たちも大喜びでしたし」
「マリーが非難されなくてはならぬなら、もっと非難されるべきは私だ・・・マリーは気の毒であるな」
「しかし、何も知らない方々はハプニカ様の下された刑が甘すぎだと怒ってらっしゃいます」
ならば修道院での奉仕か、いっそ我がガルデス城に戻すしかないな、
戦争時の避難とは性質が違うゆえ、スバランの木で隠れてもらう訳には行くまい。
「ありがとうございます!今はまだ、もう少し様子を見たいとおっしゃっていました」
「護衛が必要ならいつでも出そう、マリーに怒っているのはおそらくスロトやヴェルヴィの部下だった者だ」
「せめて、トレオ様が元気なご様子を、国民の皆様に見せられれば流れも良くなると思うのですが」
「まだ早いな、秋のトーナメント観覧も時期早々と見てリハビリに集中していただいている、だが何らかの形は考えよう」
婚姻の式典で、第8王妃としてマリーを発表できれば、全ては丸く収まるのだが・・・・・。
そういえば、あのお方の像の完成式典も延期になりっ放しであったな、あのお方が参加せねば意味ないと。
とっくに完成し、すでに国民に親しまれておるのだが・・・あのお方の窓から見ようと思えば見えるゆえ、もう気付いておるかも知れぬ。
「シャクナよ、そなたはあのお方の第7王妃だ、そろそろ嫁ぐ準備を怠るでないぞ」
「はいっ、いつでもできております、今日トレオ様に呼んでいただいたのは、てっきりそれかと・・・」
「特級僧侶の試験を受けるとなると、しばらくこちらに住む事となろう、ついでにあのお方へのアプローチをするが良い」
正確には、あのお方のアプローチのついでに特級僧侶の試験を受けるのだがな。