日に日に回復していく愛しいお方、

このままの勢いならば立つことはもちろん、

新米衛兵くらいにまでは戦えるようになるのでは?と錯覚してしまう。

だが、もう無理に戦わせる事はできぬ、いや、無理でなくとも戦わせられない、

あのお方は私が一生をかけてお守りするのだ、だからこそ、私がしっかりせねばなるまい。

 

「さて、今日は大臣たちとの大事な会議であったな、ララよ」

「はい、秋の空中武闘会を開催するか否かを決定する会議も含まれております」

「全国民が参加する春の闘技トーナメントに並ぶ、秋の毎年恒例行事・・・」

「飛竜や天馬を使う兵士であれば誰でも参加できる、空中戦最強を決める戦いですわ」

「ああ、こちらも前回優勝がルル、その前がリリ、その前のララは大きさが倍の飛竜に天馬で勝利したな」

 

今年も開催し、レンに優勝してもらうはずであったが、

闘技トーナメントがあのような悲劇になってしまっては、開催が危ぶまれている。

予定通り開催して国王の断固たる態度を示すべきか、自粛して内政の安定を最優先にするべきか・・・

 

「失礼しますぅ」

 

入ってきたのは妹のミルだ。

 

「お姉さまぁ、お時間ありますかぁ」

「そうだな、無いと言えよう、間もなく大臣を集めての会議だ」

「わかりましたぁ、ではお兄ちゃんには私たちだけでしますぅ」

「待て!あのお方に何をするというのだ?」

「お兄ちゃんにぃ、みんなで動物の格好をして見せてあげようと思ってぇ」

 

ふむ、ずっとベッドで寝ておるゆえ、退屈もするのであろう、

色々な事をして気を紛らわせる、飽きさせないというのは立派な癒しだ、

あのお方をそういう趣向で楽しませようというのであれば、これは参加せずにはいられぬな。

 

「ララよ、会議まで時間はまだあるな?」

「はい、準備と申しましても確認だけですので、省くことはできます」

「ミルよ、あまり長くはできぬが、参加させてもらおう」

「ではぁ、着替えていただきますぅ、ララさんもぉ」

「はい、どのような衣装が用意されているか、楽しみですわ」

 

ついていった先はあのお方の部屋の隣、

別の来賓用寝室だ、すでにリリとルルとレンが着替え終わっている。

リリは馬、ルルは犬、レンが猫か、これからミュージカルでも始めるようだな。

 

「私の衣装はどれだ」

「これですぅ、お姉さまは、うさぎさんの衣装です」

「ウサギというか、これはバニーガールそのものの衣装ではないか」

「お姉さまのスタイルだとぉ、これが一番ぴったりだとおもってぇ」

「ウサギのカチューシャまで・・・ううむ・・・まあ、あのお方が喜んでくださるなら・・・」

 

馬のリリと犬のルルに手伝ってもらいバニースーツを着る、

少し窮屈だが、これはそういうものなのであろう、強調される胸が意図を感じるからな。

後ろのチャックを上げられるのがきついが、逆に気が引き締まるというものだ、仕事であれば。

 

「ハプニカ様、お似合いですわ」

「そう言うララもな、その格好はライオンであるか」

「はい、これはオスライオンの格好ですわ、メスライオンは地味ですから」

 

いつのまにか部屋を出ていたミルが戻り、慌ててネズミの格好になる。

おそらくあのお方にこれから皆が来る説明をしてきたのであろう、

これで全員完了だ、あのお方に笑われたりしないか不安であるが・・・

レンを先頭にあのお方の部屋へと連なって入り、それぞれが自分の格好をアピールする。

 

「にゃん♪」

「レ、レンちゃん!その格好、猫の・・・!?」

「わんわんっ♪」

「ルルさんは・・・犬の格好・・・!」

「ヒヒヒーーーン♪」

「リリさんは馬で・・・」

「がおー、がおー♪」

「ララさんは・・・ラ、ライオン・・・かな?」

「チューチューチュー♪」

「ミルちゃんっ、ね、ねずみ・・・かわいいっ・・・!!」

「ほらぁお姉様ぁ、恥ずかしがってないでぇ」

「う・・・ぴ、ぴょんっ・・・」

「ハ、ハッ、ハプニカさまあああ???」

 

は、は、はずかしいっ・・・

この歳で、しかもおそらく普通のバニーより大柄のこの体で、

バニーガールの格好をし、しかも、ぴ、ぴょん、などと・・・ううぅ・・・

 

「そ、その・・・やはり、似合わぬか・・・?」

「いえ、その、なんというか・・・素晴らしすぎて、クラクラしそうです・・・」

「そうか?・・・素晴らしいか?本当か?」

「本当です・・・世界で一番美しいバニーガールです、間違いなく・・・」

「そうかそうか、ふふふ・・・喜んでもらえて嬉しいぞ・・・ぴょん」

 

褒めてもらうと、やはり嬉しい・・・

おそらく本心で喜んでいるのであろう、

気を使って無理に言っているのではないな、ならばこれは成功だ!

 

「ねぇねぇ、なでてなでてぇ〜、にゃぁ〜♪」

「うん、はい、なでなでなで・・・」

「にゃんにゃんにゃん♪ごろごろごろ・・・」

「私も!わんわんっ♪」

「私もー、ヒヒーン♪」

「がおーがおーがおー」

「ちゅーちゅーちゅー・・・ちゅっ♪」

「あー、ミル様ずるいー!私もキスするっ!」

「うわっ!みんなそんなに寄りかからないで・・・つぶれるっ!」

「やめぬか!こら!・・・すまない、皆、つい・・・ぴょん」

 

皆でがっつきおって・・・

私は腕で皆を下げ、愛するお方に迫る。

 

「・・・ほら、さわってよいのだぞ、どこでも」

「どこでもって・・・」

「ほら・・・」

 

締め付けられ、強調された胸を突き出す。

愛するお方がその迫力にゴクリと唾を飲んでいるようだ。

 

「遠慮せずとも・・・ほらっ」

 

手首を掴み、強引に触れさせる・・・ぷにっ、と胸が弾んだ。

 

「あっ・・・!」

 

僅かながら揉み、持ち上げてくれている、

楽しんでくれているようだ・・・愛するお方は顔を紅くしている。

 

「どうだ?」

「恥ずかしいですっ・・・」

「嫌か?」

「いえ、決して嫌という訳では・・・」

「そうかそうか・・・ふふふふふ・・・・・」

 

だが残念、もう時間のようだ。

 

「では今日はこの格好で皇務をする事にしよう」

「そっ、それは・・・」

「そうかそうか、似合ってるか・・・ふふふふふ・・・・・」

 

4姉妹と共に部屋を出た、

あのお方が喜んでくれた格好だ、

今日はこの姿で過ごそう、さあ、会議だ。

 

「では皆で大臣との会議に出席する、着替える時間などないぞ」

 

レンの口からも、秋の闘技トーナメントに出るかの決断を直接話して欲しいからな。

 

 

 

それからしばらく経った、ある日。

今日は私が直々に、愛しいお方の散髪をさせていただいている。

なかなかうまくいき、髭も剃り終え、今度は指の爪を切らせていただいている所だ。

 

「・・・ハプニカ様にこんな事までしていただけるなんて」

「これぐらい、たやすいことだ」

「恐れ多いです、大変・・・」

「こんな事で恐れていてどうするのだ」

「・・・いたっ」

「す、すまない、深爪になってしまった・・・ぱくっ」

「あっ!そんな、指を吸って・・・きたないっ・・・」

「・・・・・」

「あああっ、そんな、しゃぶらないで・・・指を・・・指の間まで・・・」

「・・・・・・・」

「手、手が!ハプニカ様の手・・・そこはっ・・・駄目っ・・・!」

「・・・・・・・・・・」

「ああっ・・・あ・・・あああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!!」

 

ふふふふふ・・・このまま精も抜いてさしあげよう・・・・・

 

 

 

王妃となる婚約者それぞれが愛を競い合い、

時には協力し癒し続け、やがて目覚めから1ヶ月が過ぎた。

 

「ララどうした、そんなに慌てて」

「はい、あのお方が、立てるようになりました」

「そうか、ではいよいよだな・・・ララよ、あれを渡す時が来たようだ」

 

私は前から頼んでおいたものを持ってこさせた、

できうる限り復元した、モアス英雄のメダル・・・さらに、

ダルトギアのメダルも造ろうと思ったが、思い直して別のものにした、それは・・・

 

「この結婚指輪、受け取っていただけると良いが・・・」

 

皆を代表し、まず私が渡す。

その反応が良いものであれば、

他の皆も順次、それぞれが用意した物を渡すであろう。

 

「では・・・私1人で行かせてもらおう」

 

胸が高まる、鼓動が速くなる・・・

剣でも握りたいが、何も戦いに行く訳ではない、

あくまでも、愛するお方に、告白に行くのだ、握るなら花束であろう。

 

「失礼する」

「はい、ハプニカ様、お仕事はお済みですか」

「ああ、それでだ、そなたが立てるようになったと聞いて・・・」

「えっ?何ですか?その小さな箱は」

「うむ、そなたに贈り物がな・・・これだ」

 

中を開けまず見せたものは・・・

 

「こ、この金のメダルは、モアスの!?」

「ああ、そなたにお返しする」

「戻ってきた・・・嬉しい・・・ありがとうございます!」

「ウッホン・・・礼にはおよばぬ・・・」

「懐かしい・・・あ、あれ?でも、ちょっと・・・・・!?」

 

まじまじと見つめ、少し怪訝そうな顔になる、

やはり駄目であったか・・・素直に、正直に真実を打ち明けよう。

 

「・・・実は、そなたのはすでに溶かされてしまっていた・・・すまぬ」

「そう・・・ですか」

「それで色々調べて・・・同じ物を作ったつもりなのだが・・・」

「あ・・・りがとう・・・ござい・・ます・・・」

「・・・やはりうかぬ顔のようだな・・・すまない」

「いえ、そのお気持ちだけでも・・・嬉しい・・・で・・す・・・」

「それとは別に、これも受け取ってほしい」

「今度は・・・指輪!?」

「ああ、結婚指輪だ・・・どうか・・・受け取ってはもらえぬか」

「・・・・・・・・・・」

「受け取って・・・・・くれぬ・・・か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

黙り込まれてしまった・・・

重苦しい空気、まるで真夜中のようだ・・・・・ 

 

「・・・・・俺がちゃんと歩けるようになったら、答えを出します」

「そうか・・・・わかった、ではそれまでこの指輪は預かっておいて欲しい」

「・・・わかりました、あくまで、預からせていただきます」

 

・・・預かっていただく、これが今、私がしてもらえる精一杯だ、

見事に失敗してしまったか、だが、まだはっきりと拒否された訳ではない、

望みがある以上、愛するお方が歩けるようになるまでの残り時間、愛を深めるだけだ。

 

・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・その夜。

 

「おおシャクナではないか、久しぶりであるな」

「はい、本日はトレオ様がお呼びになられたもので」

「そうか、してあのお方は何か申していたか?」

「・・・選ぶ道はひとつ、良い方法を考えるとおっしゃってました」

「それはまた意味深げであるな、だがシャクナを呼んだのだ、悪い考えではあるまい」

 

・・・何か不安そうな表情だな、心が重いと見える。

 

「シャクナよ、何かあったのか?」

「あ・・・はい、その、失礼でなければ、申したい事が・・・」

「私とシャクナは共に王妃となる仲間だ、遠慮なく申せ」

 

意を決して口を開いた。

 

「実は、先日の、秋の闘技トーナメントなのですが」

「ああ、結局は開催したものの、レンの参加はあのお方の看護を理由に見送ったのであった」

「お蔭様を持ちまして、ララ様の愛馬をお借りして、優勝する事ができました」

「サポートのシャクナにもいくらか賞金は回ったのか?」

「そうとも言えますし、そうでないとも言えますが・・・優勝賞金は我が教会の修繕と、孤児たちの養育費に」

 

少しくらいは自分のものに使って良いものを・・・

教会のために使うことが、自分のためというならそれはそれで良いのだろう。

 

「それで?何か問題でも起こったのか?」

「はい、優勝したマリーさんなのですが、さすがに目立ってしまいまして」

「そうであろう、本来乗っていたマリーの白竜ではなく、ララの天馬を借りたにもかかわらず、圧倒的な強さで優勝したのだから」

「はい、マリーさんの白竜は行方不明・・・そうではなく、マリーさんの事を快く思っていない方々が騒ぎ始めました」

「そうか、春の闘技トーナメントで私の命を狙っていた事実を知っている者が、話を広げたのであるな」

 

確かに謀反の中核人物であり、他の者たちが次々と処刑された中、

ほぼ無罪に近い形で教会に暮らし、しかも空中戦ナンバーワンを決めるトーナメントで優勝し、

大金を手に入れたとなると、いかにその金を福祉に役立てたとしても、面白くないと感じるのは当然だ。

 

「幸い、私がいるためか教会や神父さまに危害は加えられてないのですが・・・」

「マリー自身は表を歩けなくなってしまったのか、名誉の優勝をしたにも関わらず」

「ご本人はあまり気にしてないようです、孤児たちのためにやった事だからと・・・孤児たちも大喜びでしたし」

「マリーが非難されなくてはならぬなら、もっと非難されるべきは私だ・・・マリーは気の毒であるな」

「しかし、何も知らない方々はハプニカ様の下された刑が甘すぎだと怒ってらっしゃいます」

 

このままシャクナの教会に置いておくのは厳しいか・・・

ならば修道院での奉仕か、いっそ我がガルデス城に戻すしかないな、

戦争時の避難とは性質が違うゆえ、スバランの木で隠れてもらう訳には行くまい。

 

「わかった、マリーの希望も踏まえて対処しよう」

「ありがとうございます!今はまだ、もう少し様子を見たいとおっしゃっていました」

「護衛が必要ならいつでも出そう、マリーに怒っているのはおそらくスロトやヴェルヴィの部下だった者だ」

「せめて、トレオ様が元気なご様子を、国民の皆様に見せられれば流れも良くなると思うのですが」

「まだ早いな、秋のトーナメント観覧も時期早々と見てリハビリに集中していただいている、だが何らかの形は考えよう」

 

婚姻の式典で、第8王妃としてマリーを発表できれば、全ては丸く収まるのだが・・・・・。

そういえば、あのお方の像の完成式典も延期になりっ放しであったな、あのお方が参加せねば意味ないと。

とっくに完成し、すでに国民に親しまれておるのだが・・・あのお方の窓から見ようと思えば見えるゆえ、もう気付いておるかも知れぬ。

 

「シャクナよ、そなたはあのお方の第7王妃だ、そろそろ嫁ぐ準備を怠るでないぞ」

「はいっ、いつでもできております、今日トレオ様に呼んでいただいたのは、てっきりそれかと・・・」

「特級僧侶の試験を受けるとなると、しばらくこちらに住む事となろう、ついでにあのお方へのアプローチをするが良い」

 

正確には、あのお方のアプローチのついでに特級僧侶の試験を受けるのだがな。

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