愛するお方が自発呼吸をしはじめて4時間・・・

皆もようやく落ち着き、私はその場をリリ・ルル・レンに任せ玉間に座った。

私の隣にはララ、そして目の前ではアバンスへ帰るリュームが別れの挨拶をしに来ている。

 

「リューム・・・何から何まで、すまなかった」

「いえ、仲間ではありませんか・・・しかし、まだこれからですわよ」

「わかっておる、最低限の最初の山を越えただけに過ぎぬからな」

「ミルちゃんやシャクナさんを今はやっと休ませる事ができたでしょうが、本当に大変なのは・・・」

「うむ、せっかく蘇生させても意識が戻らねば、何の意味も無くなってしまう」

 

いつものやさしげな表情をしていたリュームがキリッと険しい顔になる。

 

「ハプニカ様・・・ミルちゃんでははっきり言えないでしょうから私から申しますわね」

「あぁ、何でも言って欲しい」

「こうなったのはどんな経緯はあれ、あなたの責任です、ですからきっちり取れる責任は取るべきです」

「もちろんだ・・・一生、償い続けるつもりでいる」

「しかし、償えるのも意識を取り戻してから・・・その可能性はかなり低いでしょう」

 

ミルはその可能性は1割も無いと言っておったな。

 

「今は束の間の安堵で心を休ませておられるでしょうが、こうしている間にも・・・」

「あのお方の体は衰弱、消耗しておるというのであろう?」

「そうですわ、ですから、ありとあらゆる手を尽くして、必ず目覚めさせてください」

「無論だ、しかもそれは早くしなければ衰弱して目を覚ましにくくなるゆえ、リリ達に急ぐよう言ってある」

「なら良いのですが・・・約束してください、必ず、眠りから起こしてみせると」

 

その約束がなければ帰れぬという訳であるな・・・よしわかった。

 

「約束しよう、必ず、あのお方の意識を取り戻させると」

「・・・これはおそらく、ハプニカ様への愛が試されている事になると思われますわ」

「どういう事だ?私は試験を受けていたとでもいうのか?」

「ええ、目を覚ますには脳にダメージが極力無い事が絶対条件です」

「つまり、息をしていない、心臓が止まっていた間に、きちんと回復魔法を・・・」

「脳にかけ続けていたか。例え何秒かでも気を抜いていれば、脳細胞がいくつか死んでいるでしょう」

 

うむ、1分でもミルかシャクナがうたた寝をして術をおろそかにしていれば、

意識を取り戻すことは絶対に無いという事か・・・例え10秒でも脳に障害が残ってしまいそうだ。

 

「私は妹とシャクナを信じておる、だからこそ託したのだ」

「良い報告をお待ちしておりますわ、私もハプニカ様を信じております」

「だからこそ私を助けてくれたのだな・・・リューム、本当に頭が下がる・・・感謝する」

「いえ、これはハプニカ様を助けたいというより、あの方を助けたいからですわ、大切な仲間ですもの」

「そうだな・・・ではセルフにも伝えて欲しい、私はあのお方と幸せになる、と」

 

一礼して帰っていったリューム・・・

こういう時こそ供に闘った仲間との友情はありがたい、

蘇生の時もリュームの言葉がなければ危なかった・・・落ち着いたら私の方からアバンスへ礼に行こう。

 

「ララよこうしてはおれぬ、あのお方の目を覚ますぞ」

「はい、ハプニカ様直々にやられた方が、あのお方もきっと喜ぶでしょう」

「ミルとシャクナは起こすでないぞ、疲労を取らせる事が先決だからな」

 

再び愛するお方が眠る部屋へ足を進めた・・・。

 

 

 

 

 

「リリよ」

「ハプニカさまー、お忘れ物ですかー?」

「いや、休もうと思ったが愛する人が傍におらぬと、とても気が休まらぬ」

「ではー、隣に寝床を用意いたしましょうかー」

「その手間はいらぬ、こうすれば良い」

 

今一度、愛するお方のベッドに入る・・・

僅かながら呼吸音が聞こえてくる、あぁ、これが何よりも嬉しい・・・

もうそれだけで目から涙が・・・いや・・・愛するお方が目を覚まして最初に見たものが私の泣き顔では困る。

 

「あぁ・・もうすぐ・・もうすぐそなたに会える・・・」

 

そっと頬をなでる、

呼吸する肌は着実に生気を取り戻している・・・

これならば明日にでも目を覚ましそうだが、過度な期待は毒だ。

 

「私が・・・私の手で・・・必ず・・・目を覚まさせて・・・みせるぞ・・・」

 

そっとやさしく唇を重ねる・・・

カサカサであるな・・・やさしく舌で濡らす・・・

早く私の抱擁に、口付けに応えて欲しい・・・愛しいお方を・・・

 

「・・・今、私に出来る事を、1つでも多く考えてくれぬか・・・なあララ、リリ、ルル、レンよ」

「はい・・・私達姉妹は、いま、ハプニカ様の親衛隊よりもこのお方の親衛隊である事を優先させていただいてますゆえに」

「ですからー、もうずっとその事を考えていますー、どうすれば呼吸を取り戻すかー、そしてー・・・」

「呼吸を取り戻したら、どうすれば目を覚ましてくれるか・・・そのためなら何だってやるよ」

「きもちよぉくおきてもらうためにぃ、いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい考えているのぉ〜」

 

・・・やはり親衛隊、私の考えをよくわかって実行してくれているようだ。

 

「では最初の知恵をいただこうか」

「はい、ではこれを・・・」

 

ララが差し出したのは・・・・・水の入ったコップだ。

 

「これをどうするのだ?」

「まず最初にすべきことは、これをこのお方に飲ませる事です」

「ふむ、一見簡単そうに見えるのだが・・・」

「それはそれは難題ですわ、眠っているお方に水を飲ませるのですから」

「では、コツか何かあるのだろうか・・・」

 

そっと愛しいお方を大切に抱き起こすララ。

 

「このお方は息はしていますが食事はまだなままです」

「今後は食事をさせねばならぬというのだな、そのためにはまず水、と」

「ですが、うまく飲ませませんと、水が食道ではなく気管に入ってしまい、肺に流れてしまいます」

「・・・今のこのお方の状態ではむせる事はできぬ、それはすなわち死に繋がるのであるな」

「はい、しかもずっと食事をせず呼吸はしている状態ですと、気管に水が入る危険が非常に高くなります」

 

・・・まさにこのお方は今、生きている事が試練の連続なのだ。

 

「では最善の飲ませ方を教えて欲しい」

「はい、食事というのは通常、前屈みでするものです、ですからまず体を前屈みにします」

「・・・慎重にな・・・よし、それから?」

「続いて、お水を飲ませるのですが、前屈みですと自ら飲む意思がなければ気管に入ってしまいます」

「かといって体を後ろへ反らせたまま入れては無理矢理になってしまうな」

「ですからまず前屈みで、水を漏らさず飲ませて続いて体を反らせ喉へ流し込むのです」

「・・・・・・・・そうなると方法は1つしかないな」

 

私は覚悟を決め、コップの水を口に含む・・・

そして、そっと愛しいお方の唇を奪い、舌で割って入り、

ゆっくり、ゆっくりと水を送り込む・・・舌も深く深く入り込ませる・・・・・

 

「・・・ん・・・・んん・・・・・」

 

ちゅぴ・・・ちゅ・・・ちゅうっ・・・

 

あぁ・・・目的を忘れて接吻に夢中になってしまいそうになる・・・

しかし目的はあくまで水を飲ませる事・・・そのためには・・・飲み込みやすいよう、

水に互いの唾液を含ませ、粘着性を持たせれば食道へと流れ易くなるであろう、だからこそ、

舌と舌をもっと念入りに絡ませて・・・あぁぁ・・・愛するお方の舌が私に絡まってくる感覚が脳を焦がす・・・

実際は私が絡ませているのみであるが・・・早く・・・このお方に・・・接吻を・・され・・た・・いぃ・・あぁぁぁぁ・・・・・

 

・・・・・・・・・コクッ・・・

 

「ハプニカ様、うまく食道を通ったようですわ、このまま続けてくださいませ」

「・・・・・・・・・」

 

コクッ、コクッ・・・・・

 

「その調子です・・・もう一杯用意させていただきますわ」

 

ララが何か言っておるが、構うまい・・・

このお方と愛し合えれば・・もう・・・何も・・・い・・ら・・・・ぬ・・・・・・・・・・

 

・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ハプニカ様、今日はこれでもうよろしいかと・・・」

「何?もう終わりか・・・よし、わかった」

「このまま行けば、近いうちにスープ、シチュー、食事へと移行できそうです」

「だが焦りは禁物だ・・・とはいえ早く栄養をつけさせねば衰弱してしまうか」

「ジレンマですわ、その上手な間を計算するのも私達の役割です」

 

・・・そうだ、良い事を考えたぞ

 

「よし、私はこれから、食事をこのお方とまったく同じにしようぞ」

「し、しかしそれでは、ハプニカ様のお体が・・・」

「このお方が耐えてらっしゃるのだ、私も耐えられぬはずがなかろう、いや、耐えねばならぬのだ」

「ハプニカ様には、毎日激務と言える程の皇務が控えてますゆえ・・・」

「かまわぬ!・・・今日の食事は水4杯であったな、私の食事も今日はそれだ」

 

私自身が体感する事で、

このお方の衰弱具合を体感できる。

いわば一心同体・・・これならば単なる自己満足だけではなくなるであろう。

 

「これで益々、目を覚ませていただかなくてはならなくなったな」

「・・・わかりました、ではそうさせていただきます」

「うむ、私もどんなに飢えても必ず耐えてみせよう、このお方のために」

 

・・・・・ガクッ、と私の膝が崩れる、

何だ?急に頭がクラッとしてきたぞ・・・

 

「ハプニカ様!」

「う・・・すまない・・・少し横になりたい・・・」

「無理もないですわ、ずっと気を張ってらして、精神的疲労が一気に来たのでしょう」

「・・・私が我を取り戻したときのララと同じ状態という訳か・・・」

「はい、ですから今日はもう休まれた方が良いと思います」

 

・・・あれだけ戦争を戦い抜いた私といえど、

愛するお方を救う為の神経戦はやはり相当堪えるという訳か。

ならば仕方ない、この戦いはまだまだ続くのだ、今は休ませてもらおう・・・

 

「私達で寝室にお運びしますので・・・」

「いや・・このお方の・・・ベッドで・・・」

「寝返りで胸を圧迫でもしては大変な事になりますから・・・」

 

あぁぁ・・・夢の中で・・・愛する方と・・・愛を・・か・・た・・り・・・・・・

 

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