皆もようやく落ち着き、私はその場をリリ・ルル・レンに任せ玉間に座った。
私の隣にはララ、そして目の前ではアバンスへ帰るリュームが別れの挨拶をしに来ている。
「いえ、仲間ではありませんか・・・しかし、まだこれからですわよ」
「わかっておる、最低限の最初の山を越えただけに過ぎぬからな」
「ミルちゃんやシャクナさんを今はやっと休ませる事ができたでしょうが、本当に大変なのは・・・」
「うむ、せっかく蘇生させても意識が戻らねば、何の意味も無くなってしまう」
いつものやさしげな表情をしていたリュームがキリッと険しい顔になる。
「ハプニカ様・・・ミルちゃんでははっきり言えないでしょうから私から申しますわね」
「こうなったのはどんな経緯はあれ、あなたの責任です、ですからきっちり取れる責任は取るべきです」
「しかし、償えるのも意識を取り戻してから・・・その可能性はかなり低いでしょう」
「今は束の間の安堵で心を休ませておられるでしょうが、こうしている間にも・・・」
「そうですわ、ですから、ありとあらゆる手を尽くして、必ず目覚めさせてください」
「無論だ、しかもそれは早くしなければ衰弱して目を覚ましにくくなるゆえ、リリ達に急ぐよう言ってある」
「なら良いのですが・・・約束してください、必ず、眠りから起こしてみせると」
その約束がなければ帰れぬという訳であるな・・・よしわかった。
「・・・これはおそらく、ハプニカ様への愛が試されている事になると思われますわ」
「ええ、目を覚ますには脳にダメージが極力無い事が絶対条件です」
「つまり、息をしていない、心臓が止まっていた間に、きちんと回復魔法を・・・」
「脳にかけ続けていたか。例え何秒かでも気を抜いていれば、脳細胞がいくつか死んでいるでしょう」
うむ、1分でもミルかシャクナがうたた寝をして術をおろそかにしていれば、
意識を取り戻すことは絶対に無いという事か・・・例え10秒でも脳に障害が残ってしまいそうだ。
「良い報告をお待ちしておりますわ、私もハプニカ様を信じております」
「だからこそ私を助けてくれたのだな・・・リューム、本当に頭が下がる・・・感謝する」
「いえ、これはハプニカ様を助けたいというより、あの方を助けたいからですわ、大切な仲間ですもの」
「そうだな・・・ではセルフにも伝えて欲しい、私はあのお方と幸せになる、と」
蘇生の時もリュームの言葉がなければ危なかった・・・落ち着いたら私の方からアバンスへ礼に行こう。
「はい、ハプニカ様直々にやられた方が、あのお方もきっと喜ぶでしょう」
「ミルとシャクナは起こすでないぞ、疲労を取らせる事が先決だからな」
「いや、休もうと思ったが愛する人が傍におらぬと、とても気が休まらぬ」
僅かながら呼吸音が聞こえてくる、あぁ、これが何よりも嬉しい・・・
もうそれだけで目から涙が・・・いや・・・愛するお方が目を覚まして最初に見たものが私の泣き顔では困る。
「私が・・・私の手で・・・必ず・・・目を覚まさせて・・・みせるぞ・・・」
早く私の抱擁に、口付けに応えて欲しい・・・愛しいお方を・・・
「・・・今、私に出来る事を、1つでも多く考えてくれぬか・・・なあララ、リリ、ルル、レンよ」
「はい・・・私達姉妹は、いま、ハプニカ様の親衛隊よりもこのお方の親衛隊である事を優先させていただいてますゆえに」
「ですからー、もうずっとその事を考えていますー、どうすれば呼吸を取り戻すかー、そしてー・・・」
「呼吸を取り戻したら、どうすれば目を覚ましてくれるか・・・そのためなら何だってやるよ」
「きもちよぉくおきてもらうためにぃ、いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい考えているのぉ〜」
・・・やはり親衛隊、私の考えをよくわかって実行してくれているようだ。
「それはそれは難題ですわ、眠っているお方に水を飲ませるのですから」
「今後は食事をさせねばならぬというのだな、そのためにはまず水、と」
「ですが、うまく飲ませませんと、水が食道ではなく気管に入ってしまい、肺に流れてしまいます」
「・・・今のこのお方の状態ではむせる事はできぬ、それはすなわち死に繋がるのであるな」
「はい、しかもずっと食事をせず呼吸はしている状態ですと、気管に水が入る危険が非常に高くなります」
「はい、食事というのは通常、前屈みでするものです、ですからまず体を前屈みにします」
「続いて、お水を飲ませるのですが、前屈みですと自ら飲む意思がなければ気管に入ってしまいます」
「かといって体を後ろへ反らせたまま入れては無理矢理になってしまうな」
「ですからまず前屈みで、水を漏らさず飲ませて続いて体を反らせ喉へ流し込むのです」
ゆっくり、ゆっくりと水を送り込む・・・舌も深く深く入り込ませる・・・・・
あぁ・・・目的を忘れて接吻に夢中になってしまいそうになる・・・
しかし目的はあくまで水を飲ませる事・・・そのためには・・・飲み込みやすいよう、
水に互いの唾液を含ませ、粘着性を持たせれば食道へと流れ易くなるであろう、だからこそ、
舌と舌をもっと念入りに絡ませて・・・あぁぁ・・・愛するお方の舌が私に絡まってくる感覚が脳を焦がす・・・
実際は私が絡ませているのみであるが・・・早く・・・このお方に・・・接吻を・・され・・た・・いぃ・・あぁぁぁぁ・・・・・
「ハプニカ様、うまく食道を通ったようですわ、このまま続けてくださいませ」
このお方と愛し合えれば・・もう・・・何も・・・い・・ら・・・・ぬ・・・・・・・・・・
「このまま行けば、近いうちにスープ、シチュー、食事へと移行できそうです」
「だが焦りは禁物だ・・・とはいえ早く栄養をつけさせねば衰弱してしまうか」
「ジレンマですわ、その上手な間を計算するのも私達の役割です」
「よし、私はこれから、食事をこのお方とまったく同じにしようぞ」
「このお方が耐えてらっしゃるのだ、私も耐えられぬはずがなかろう、いや、耐えねばならぬのだ」
「ハプニカ様には、毎日激務と言える程の皇務が控えてますゆえ・・・」
「かまわぬ!・・・今日の食事は水4杯であったな、私の食事も今日はそれだ」
いわば一心同体・・・これならば単なる自己満足だけではなくなるであろう。
「これで益々、目を覚ませていただかなくてはならなくなったな」
「うむ、私もどんなに飢えても必ず耐えてみせよう、このお方のために」
「無理もないですわ、ずっと気を張ってらして、精神的疲労が一気に来たのでしょう」
「・・・私が我を取り戻したときのララと同じ状態という訳か・・・」
ならば仕方ない、この戦いはまだまだ続くのだ、今は休ませてもらおう・・・
あぁぁ・・・夢の中で・・・愛する方と・・・愛を・・か・・た・・り・・・・・・