ぱらっ・・・ぱらっ・・・・ぱらっ・・・・・

 

ハプニカ様の寝室から本をめくる音がする、

こっそり覗くと窓辺の机でランプを頼りに読書するハプニカ様、

読んでいるのは・・・ミル様の日記!しかもミル様はベットで疲れて寝てらっしゃる!?

 

真面目な顔で本にふけいる表情・・・

その瞳は少しずつ光りを取り戻していっているのがわかる、

あのまま読ませても良いのでしょうか、大戦の事を克明に書かれた日記でしたら、

ハプニカ様があのお方へ好意を抱いていく様子も順番に書かれているでしょうし、

大戦後の闘技トーナメント最終日まで書かれていれば、記憶を蘇らせる事になるのでは・・・!!

 

私は言い訳を考えながらハプニカ様に声をかけようと扉をさらに開くと、

ミル様がこちらを見て唇に指をシーッのポーズであてていらっしゃる、

きっとミル様にはミル様なりの考えでハプニカ様に自ら日記を読ませているのでしょう・・・わかりました。

 

ゆっくり扉を閉め、ハプニカ様の寝室から遠ざかる・・・

さあ、朝になる前にリリに任せている書類を整理しましょう。 

 

 

 

・・・・・そして朝

 

「ララ姉さん」

「何ですルル?朝食でしたら書類の整理に区切りがつく9時過ぎにいただきます」

「ハプニカ様が・・・呼んでるんだ」

 

ハプニカ様・・・

徹夜で日記を読まれたのでしょうか、

もう朝なのに・・・お体に差障りありますわ。

 

「わかりました、今すぐ・・・」

「ララ姉さん?フラフラだよ!寝てないんじゃない!?」

「私は・・・私のすべき事を・・・・・ではハプニカ様の所へ・・・」

 

ソファーで寝ているリリを起こさないようにゆっくりと廊下へ・・・

 

「体、支えるよ」

「ありがとう・・・部屋の前までで良いですから」

 

ハプニカ様の寝室の前に立つと自然と顔がキリリとなる。

 

トントン

 

「入れ」

「失礼致します」

 

中ではハプニカ様がミル様と豪華な朝食をいただいている・・・

体力的にはもう力を取り戻せそうですわね、でも問題は精神面・・・!!

 

「ララ・・・どうした、酷い顔だぞ」

「そんなに酷いでしょうか」

「ああ、ガイコツのようにやつれておる、一体どうしたのだ」

「では・・・化粧をして出直してまいりましょうか」

「いや、良い・・・それより・・・教えて欲しい事があるのだ」

 

ナイフとフォークを置くハプニカ様。

 

「闘技トーナメントであるが・・・優勝者は誰であった?」

「それは・・・レンでございますが・・・・・」

 

ミル様を見ると、黙々とスープを飲んでいられる・・・

 

「ふむそうか、ミルの日記は闘技トーナメントの予選が終わったところで切れておってな・・・」

 

・・・やはりミル様、忙しくて日記の続きを書く暇が無かったのでしょうね。

 

「そうか・・・レンが優勝したか、ではレンも心の底から姉妹の繋がりを誇れるであろうな」

 

・・・・・どう言っていいのでしょうか・・・・・

 

「それでレンの望む褒美は何であったか」

「確か・・・頭をなでて欲しい、であったかと」

「まだ済ましておらぬな?よし、レンを呼んで参れ」

「レンは・・・まだ闘技トーナメント負傷者の手当てを・・・」

「なに?日付ではトーナメントから半月が過ぎておるのだが・・・」

 

考えながらフォークを持ち魚を頬張るハプニカ様。

 

「んぐ・・・わかった、もう良い、下がれ」

「はい、かしこまりました・・・」

「・・・・・待て!その・・・なんだ・・・トーナメントだが・・・」

「なんでしょうか?」

「ぅ・・・・・そうだな、来年はターレ殿に出ていただこう、本当なら優勝して貰ってから私と結婚すべきであろうが、国民も待てまい」

 

私は一礼してドアに手をかける・・・

 

「待て!!」

「はい」

「負傷者を・・・見せてはもらえぬか」

「・・・はあ」

「その・・・半月も治療が必要なら只の怪我ではあるまい、運営に落ち度があったならば会って謝らねばならぬ」

 

ついに・・・ハプニカ様の本能が対面を決意されたようですわね。

 

「それで、怪我の程度は?」

「・・・ハプニカ様の目で確認された方が・・・」

「お姉さまぁ、お食事終わってからのが良いです」

「そうだな、私もずいぶんと腹が空いておるゆえに・・・」

「私もその方が良いと思いますわ」

 

ひょっとしたら、また当分食事が喉を通らなくなるかも知れませんから・・・

 

 

 

「よし、食事は済んだ、行くぞ」

「お姉さま、一緒に行きたい・・・」

「ミルも来るか、よし・・・それで病室はどこだ」

 

私はハプニカ様を案内する・・・

廊下を歩く足が緊張するのは私の疲労からではなく、

この対面がどういった結果になるかが恐ろしくって・・・

 

「ララよ、ミルの日記を読んで記憶を思い出していたのだが・・・おかしな事があってな」

「おかしな事とは、どのような事でしょうか?」

「この私が・・・大戦の間、仲間に恋をしていたというのだ、おかしいとは思わぬか?」

「ハプニカ様が恋をする、すごく真っ当で自然な事に思えますが」

「だが私には父上が決めた、ターレ公爵という婚約者がいる。私が二股をかけるように思えるか?」

 

私はあえて歩みをゆっくりにする、

場合によっては遠回りをする覚悟で・・・

 

「ハプニカ様はこと恋愛に対しては真摯で情熱的だと思われます」

「私もそうだと思っておる、よって、二股などかける訳がない、そうであろう?」

「はい、2人と同時に恋愛ができる程の器用さは持ってはいないはずです」

「しかし、ミルの日記では私がターレ殿ではない者に恋をしている、おかしいではないか」

「・・・・・」「・・・・・・・・」

 

黙り込む私とミル様・・・

 

「ミルよ、あの日記は事実に着色を加えた創作、そうであるな?」

「おねえさまぁ・・・」

「小説を書くのは自由であるが、もう少し真実味を出して欲しいものだ」

「・・・・・・・・・・」

「間違ってターレ殿が読んだら気分を悪くするであろう、

 もし看病の最中に読まれでもすれば大変だ、幸い帰郷しておられるが・・・」

 

これ以上聞くのは、正直つらいですわ・・・足を速めましょう。

 

「ターレ殿が戻られたら、わざと1日休んで看病してもらう事にするぞ、

 私の意識がはっきりしている時に1日中傍で甘えさせてもらえれば私は嬉しい・・・」

 

ハプニカ様、あきらかに暴走してらしてる、

ただ相手を絶望的に取り違えてらしているのが心苦しい・・・

ミル様も泣きそう・・・と、ようやくあのお方の治療室についた。

 

「警備が厳重であるな?では・・・」

 

コン・コン

 

・・・・・ガチャッ

 

「おお、レンではないか」

「ハプニカさまぁ・・・・・」

「どうした・・・おぉそうだ、レンよ」

 

ハプニカ様がレンの頭に手を乗せ、なでる。

 

「トーナメント優勝、大義であった」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぃゃぁ・・・」

「どうした?泣くほどではないであろう、親衛隊四姉妹として当然の優勝だ」

 

逃げるようにしてシャクナさんの方へ行くレン、

シャクナさんは少しでも油断すると土色に変色してしまう、あのお方の体を懸命に治癒魔法で包む・・・

 

「・・・・・失礼する・・・ララよ、これは・・・もう死んでおるのではないか!?」

「私も最初はそう思いました、治療を止めればたちまち全身が腐ってしまうでしょう、でも、まだ生きておられます」

「生きている、というより、無理矢理生かしておるだけでは・・・それで、これは・・・・・誰だ?」

 

ハプニカ様の目から涙が溢れる・・・

 

「ん?・・・なぜだ?・・・なぜ私は・・・泣いて・・・お・・・る・・?」

「ハプニカ様・・・お気づきになられませんか・・・最愛の方を・・・」

「これは・・・・・ま、まさか・・・この・・胸の傷は・・・そして・・この顔は・・・おぉ・・・・・」

 

ぼろぼろと涙が止まらないハプニカ様・・・

 

「そうか・・そうだ・・・思い出したぞ・・あの日記は・・真実・・・そして・・・あの翌日・・悲劇が・・・・・」

「ハプニカ様、このお方はまだ生きておられます、そして、意識を戻させるのは、ハプニカ様が必要なのです!」

「私は・・・私は何という事を・・・おぉ・・・う・・うぁ・・・うああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

慌ててミル様が駆け寄り、ハプニカ様にしがみつく!!

 

「おねえさま!!助けないとぉ!!はやくぅ!たすけてあげてぇ!!」

「うあっ・・あうっ・・うっ・・・ぁぁあうっ・・・う・・えぐっ・・えぐっ・・・・・ぉえっ・・・」

 

あまりのショックにうずくまって、えずく・・・

嗚咽が部屋に響く中、シャクナさんは黙々と魔法をかけ続けている・・・

 

「・・・ハプニカ様、落ち着いてください・・・あのお方の治療中ですから・・・」

「ぅぅぅ・・・・・ぅあ・・・ああぁ・・・・わた・・しは・・・なんと・・いう・・あやま・・ち・・を」

「まだ生きておられます、仮死状態ですが、懸命に治療を続けておりますゆえ・・・」

「・・・・・・ララよ・・・あれから・・・何日が経ったと申した・・・」

「はい、倒られてから、半月が過ぎております、15日です・・・ですからもう生命の猶予が・・・!!」

 

よろめきながら立ち上がるハプニカ様。

 

「・・・・・・・・・・・よし、私に泣く暇は無い、治療を急ぐぞ!」

「ハプニカ様!?」

「一刻の猶予も無いのであれば、泣いたり後悔したりするのは後だ、私はこのお方の治療に専念する!」

 

つ・・・強い!

ハプニカ様、なんと強い意志を持っておられる方なのでしょう!!

 

「ミルよ、すまない・・・で、私は何をすれば良い」

「えっとぉ・・・声をかけたりぃ、体をさすったりぃ、息をおくりこんだりぃ・・・」

「湯で体を拭くのはどうだ?もしくは何か大きな刺激を与えるとかだな・・・」

 

元のハプニカ様に戻られた・・・

おそらくまだ死んでいない事、意識が戻る希望がある事を理解し、

自分の感情が、精神が崩れ落ちる前に「自分がなすべき事」を認識して実行なさってる!

悲しむこと、後悔する事を後回しにして全てを愛する方の生命維持優先とする・・・さすがですわ、

でもこれだと、愛するお方が亡くなった瞬間、ハプニカ様の精神は間違いなく修復不可能に崩壊する・・・!!

 

「ララよ、新しいタオルを、それとぬるい湯を」

「かしこまりました!私も全力でおてつ・・だ・・・・ぁ・・・」

 

力が抜ける・・・意識が落ちる・・・

今度は私が・・・限界にきて・・・しまった・・よ・う・・で・・・・・

 

「ララ?ララ、ララよ!」

「ララお姉さま!お姉さまぁ!!」

「まぁ大変!ミル様、ララさまを!!」

 

ぁ・・・安らかな魔法・・これは・・・ミルさまの・・・回復・・ま・・ほ・・・・・・

 

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