予想外に反ハプニカ派が根強くはびこり、拘束者は三桁を超えた・・・
「それはハプニカ様かミル様の決める事ですわ、皇族の方は皇族の方からでしか裁けない掟ですから」
「マリーさんの証言ー・・・本当に全て信じられますでしょうかー」
「ええ、話に矛盾はありませんし、何よりあの瞳・・・ハプニカ様やミル様の輝きを僅かながら感じました」
つまりそれはマリーたち反・ハプニカ派が警戒すべき敵だったため、
計画を悟られないようにするためマークすべき人間・・・その特定のおかげで私達の労力が一気に解消される事となる、
あのお方の警護1つにしても、ターレ公爵1人に任せるより衛兵10人を置いた方が・・・ターレ公爵もよくやってくれましたけど。
「良いのですかー?万が一、また脱走するような事があったらー・・・」
「そのときは・・・ミル様に決断をしていただきましょう、大変重い決断を・・・」
ごくりと飲み込んで、スプーンをミル様が抜くと、ゆっくりこちらを向いた・・・
「ララ・・・・ララは・・・おとなでは・・・ない・・・の・・・」
「・・・ねえ・・・ちちうえ・・・と・・ははうえ・・と・・・あにうえ・・・は?」
私はハプニカ様が運ばれた直後に命を狙いに来た僧侶・ラーナンの言葉を思い出した。
ミル様は震えの止まらない手で懸命にハプニカ様へ水を飲ませる・・・
「そうなのぉ、きっとお姉さまぁ、10才くらいになってるのぉ」
「これから少しずつぅ、年をはやくとってもらってぇ、元の年齢まで戻ってもらうのぉ」
ハプニカ様が戻る・・・元のハプニカ様に・・・戻してみせる!!
「・・・・・ミル様、手がおぼつかないようですね、かわりましょう」
「うぅん、私がおねぇ様をもどすのぉ、私でないとできないのぉ、きっとぉ」
「でもそんなに震えていらっしゃって・・・まさか、お風邪でも・・・?」
「・・・きのぉ、マリーさんにされたのがぁ・・まだのこっててぇ・・・」
でも、その体を我慢してでもハプニカ様を助けたいその気持ち・・・痛いほどわかりますわ。
「え?シャクナさんはあのお方の治療に・・ではいつ、休まれるのですか?」
「シャクナさんもぉ、私もぉ、ちょっとずつ休んでるから心配しないでぇ」
・・・・・ミル様の弟子でも謀反者の白黒がはっきりしてきていますもの、
白とはっきりわかってらっしゃる方に、これからもっともっとサポートしていただきましょう。
まだ慌しい・・・運び込まれた時の忙しさがそのまま今日まで続いているのですもの。
「まだミル様が看病しておられます、部屋もリリが見張っております」
「ハプニカ様の結婚相手が、事もあろうにあのトレオとして現れた大戦の英雄であると・・・」
「どうもせぬわ、その方がいざ発表の時、私が出た時の国民の驚きと喜びを見たいのでな!はっはっは」
・・・結果的に良い方に出ている様ですので、ここは放っておきましょう。
「しかも英雄の像を皆で造ろうとカンパまで・・・私も一口乗っておいたぞ」
「ま、最終的には私の像になるのであろうがな・・では城を見回るとしよう!はっはっはっは」
でも、ターレ公爵の勝手な思い込みですもの、同情はすれどハプニカ様のお相手はもう・・・
「ハプニカ様のためにも、国民のためにも、あのお方に生きていただかなくては・・・!!」
シャクナさんが回復魔法をかけながら助手が口へ運ぶフルーツを食べる・・・
相当疲れている様子は目のくまから見てとれる、早くミル様が代わってあげないと・・でも・・・
魔力をあげる・・・それはさながら命を削り、寿命をあのお方に分けているかのよう・・・!!
「・・・・・・・トレオ様・・・・トレオ様、もうすぐ・・もうすぐ良くなりますから・・・!!」
私は静かに部屋を出る・・・と、開けた扉に立っていたのは・・・
「この部屋の警備は信頼のできる衛兵に託しました、レンは今日1日休むのが仕事ですよ?」
「でもぉ、シャクナさんが休めないからぁ、シャクナさんのお手伝いしたいのー!」
「・・・・・・わかりました、レンは頑固ですものね、邪魔にならないようにするのですよ?」
でも、まだまだする事はいっぱい・・・ハプニカ様が戻られる目処が立ってきた以上、
今こそ気を抜かず、気を引き締めてやらないと・・・さて、私もこれから尋問を手伝うことにしましょう。
「はいー、人の心は頑丈ですからー、証拠を突きつけても理論的な部分を無視する方もいらしてー・・・」
「・・・・・心は頑丈・・・だからこそ、1度壊れてしまうと、脆いのでしょうね・・・」
あのお方も、回復なさってくれないと・・・たとえハプニカ様が回復なさっても、
せっかく正気に戻ったハプニカ様があのお方の亡骸と対面しては、今度こそ「戻らない発狂」をしてしまうかも知れません。
「い、いえ・・・リリ、あのお方の様子を見てきてもらえますか?」
軽くノックをして中へ入ると・・・あら?いない・・・どちらへ?あ、ベランダ・・・
何かを思い出そうとしているのか、何かに呼ばれているのか・・・・・
ただ一点、雨粒が全身に落ちるのもかまわず空を見上げ続けている・・・・・
黒い雨雲の間を縫ってやってきたのは・・・・・ハプニカ様の白竜!
「・・・・・・・・ぁ・・・・・あなた・・は・・・私・・の・・・と・・も・・だ・・・・・ち」
ここは、白竜とハプニカ様の2人っきりにしてさしあげましょう・・・
ベランダから部屋へ戻るとルルが大きなタオルを用意して待っている。
「ミル様はシャクナ様と一緒にあのお方の治療中で、レンもそれにつきそってます」
「確かにハプニカ様の回復が進んだ今、比重をあのお方に移すべきですわね・・・」
この国の新しい国王様とその王妃様ですもの、どちらも助けなくてはいけない・・・
「それが・・・する事が無いからやらせて欲しいと、ターレ公爵が・・・」
信頼のおける大臣も徐々に復帰していただいている事ですし・・・
とはいえ、こういう尋問は本音を言えば最も適役なのはハプニカ様・・・
だからといって回復を待ってはいられない、となるとやはり私とルルでするしか無いわね。
「私はターレ公爵と交代してきます、ルルもリリと交代して来てください」
ハプニカ様ならきっと、きっと、立ち直ってくださると信じています・・・・・
「ふう・・・今日の尋問はこれで終わりにしましょう、ルル、残りは明日ですわ」
「はい・・それで、あきらかに悪い人間はそろそろ処罰しないと・・・牢がもう、いっぱいです」
「・・・・・仕方ありませんわ、軽い部類の罪人は恩赦という事で出してしまいましょう」
「ミル様に判を突いていただく必要はありますが、この際仕方ないでしょう、ただ、あきらかに軽い罪しかないと見て取れる人のみです」
軽い罪だけと思ったら実はとんでもない重罪人、ってこともありえますから・・・
「マリーさんのおかげで、かなり白黒ついてきたはずなのに・・・終わりませんわね」
「ええ、マリーも全部、隅から隅まで知り尽くしていた訳ではないようですから」
「あ、あの・・・その・・・と、特別牢で・・・そ・・その・・・」
「その・・・看守を誘惑しては、その、何度も何度もイカせて・・・」
「いえ、もう、脱走する気は無いみたいで、なんていうか、ストレス解消の、ヤケ食いみたいに、男も女も見境なく・・・」
・・・・・そうだわ、こうなったら、猫の手でも借りたい事ですし・・・
「明日から容疑者や罪人の尋問はマリーさんにもやってもらいましょう」
「え!?いいんですか?だってマリーも一応、まだ刑罰を待つ罪人なのに」
「でも改心していますし、マリーさんなら敵側に内通していて直接尋問させた方が早いと思います、それと・・・」
「ジャイラフ様やジャヴァー様が使っていた地下の拷問室、あそこをマリーさんに貸しましょう」
「でも、拷問はハプニカ様が禁止したはず・・・だから今もこうしててこずって・・・!!」
「拷問室を貸したのはマリーさんのやり易い様にするためです、苦痛を与えなければ拷問にはなりませんよね?」
「・・・・・なるほど、ララ姉さん頭いい、マリーのその・・・いやらしい手で」
「苦痛を与え続ければ拷問ですが、快感を与え続ければ拷問ではない、という解釈にしましょう」
実際はどうか知りませんが、これくらいの法の抜け穴は許してくださいますよね?ハプニカ様・・・
「その・・私が・・・だな・・・その・・・あれだ・・・あの・・・」
逆に私の言葉を待って、それで思い出すとっかかりにしようとしている・・・
しかし、こういう時にあわてて今の現状を言うのは危険でしょう、そうなるとここは・・・
「ハプニカ様には様々な情報収集をお願いされておりますから・・・どれからお話しましょうか」
「そう・・・そうだ、そうであった、父上と兄上が・・・不穏な動きをしておるようだが」
「・・・・・今は様子見の段階です、動きがわかり次第、報告させていただきます」
ここまで思い出してくださってる、ということは・・・もうすぐですわ。
「そうか・・・では父上に、私はザムドラーが信じられぬゆえ、これから忠告に・・・」
「お待ち下さいハプニカ様・・・まだこの部屋からは出られませぬよう・・・」
「なぜだ?では兄者を呼んできてはもらえぬか、兄者なら話が早い」
「なに?・・・・・!!・・・なんだ、この酷い顔は・・・これが本当に・・・私、か?」
だからこそ、ハプニカ様自身の力で、記憶をゆっくりと順番に取り戻していただかなくては・・・
「・・・あれだけ泣かれたのですもの・・・仕方ありませんわ・・・」
「泣いた・・・そ・・そうだ・・・ううっ・・・は・・母・・・上・・・・・」
「・・・・・・・まだお母様を亡くされたショックが強いようですわね、落ち着くには時間がかかると思います」
私も心が痛みます・・・でも・・でも、これで良いのですわ、きっと・・・
「ハプニカ様・・・とにかく早く栄養をつけていただかなくては・・・」
・・・・・記憶はハプニカ様のお母上が殺された所まで戻ってきたのでしょう、
そうなると後は大戦、そしていよいよ・・・慌てて急にあのお方の事を思い出させては、
あまりにショックが大きすぎて、今度こそ廃人になってしまうかも知れません、だからこそ、
ゆっくりゆっくりと、気を落ち着かせて、記憶を戻させてあげないといけません・・・
一番良いのはあのお方が元気な姿をハプニカ様に見せる事ですが・・・・・その可能性は・・・・・
すっかりやつれていた体は血色を取り戻しはじめ、表情もキリリとしてきましたが・・・
「・・・母上を斬ったのは、やはり父上なのであろうか・・・私が直に問い詰めたいのだが・・・」
いつまでもこの部屋に軟禁しておく訳にはいかないようですわね・・・
「・・・・・ハプニカ様も、ひょっとしたら切り捨てられたのかも知れませんわね」
「・・わかっておる、それくらい察しはついておる・・・しかし大戦だけは避けねばならぬ・・・」
「食事をあれだけ運んでいるということは、私との面会も可能であろう!」
「何だ?おお、ターレ公爵か、少し髭が伸びたようだな、こちらへ参れ」
ドアが閉められ、部屋はハプニカ様と私とターレ公爵のみ・・・!!
「ああ、私が責任を持ってな・・・大変であったがそなたの顔を見て、今までの事など吹き飛んだぞ!」
「それだけ確認したかったのだ、ハプニカは私と結婚する、それに相違無いな?」
「ああ、父上の決定は絶対だ、だが前も申したように、大戦の気配がするゆえ・・・」
「・・・大戦は止めるつもりであるが、どちらにせよそうなるであろう」
「あいわかった!ハプニカよ、これで私の用件は済んだ!後はじっくり体を治せ!ガッハッハ!!」
満足そうに体をひるがえし、部屋を出て行くターレ公爵・・・!!
そして考え込むハプニカ様、ああ、なんという展開でしょう・・・ああ!!!
「そうか・・・ターレ公爵が看病を・・・見直したぞ・・・ふむ・・悪い気はせぬな・・・」
「・・・・・ずるいですわ、あのような状態のハプニカ様に・・・」
「巷で言われているおかしな噂もこれで払拭できるわ!ハプニカと結婚するのはこの私だ!ガッハッハ!!」