「勝者・フレシュ!!」

 

勝ち名乗りを受け、

私に向かい敬礼をする・・・

確かに強い、素晴らしい成長であり、

もし今、戦があればフレシュを連れて行く事に異論は無い。

しかし・・・あのお方の姿はどこにも無く、戦いぶりにもあのお方の面影は、無い。

 

「ララ、今の戦いぶり・・・どう見た」

「レンには及ばないと思います、したがってトレオとどうなるか・・・」

「あのお方についてはどう思う」

「・・・短時間で強くさせるには適した方法かと」

「ほう、具体的に解説できるか?」

 

あのお方がどのようにフレシュを強くさせたか・・・

 

「まずあのお方の闘い方を伝授するのは時間的に不可能です」

「昨日教えて今日なら、それは当然だな」

「そこで本来の師匠・ヴェルヴィの闘い方を助長する指導をしたと思います」

「新しい剣を渡すより、すでに持っている剣を研がせる・・・短時間の育成には効率的だ」

「はい、しかし今後、本格的にあのお方の弟子となれば、ヴェルヴィ派の闘い方も変わってくると思われます」

 

よってフレシュの戦いぶりにあのお方の気配が無いのも当然か、

とはいえ姿まで無いのは・・・やはりトレオを監視しておられるのだろう。

 

「マリーは勝ったのであろうか・・・」

 

マリーは精神的な闘いの駆け引きに長けている、

いわば心理戦の達人だ、特に男に対してはほとんど負けた事が無い、

私の記憶では兄上やヴェルヴィに稽古で負けたくらい・・・とはいえ相手は魔物だ、

魔物に心理戦は無意味だ、よって大戦の時も、我が皇家と血の繋がりがあるのを理由に、

別荘である避難地・スバランの木へ潜んでもらっていた、国がもし滅んでも血を残せるように・・・

 

「前回準優勝のマリーがもし敗れたならば、国民はさらに騒ぐであろうな」

「・・・そうなるとトレオが暴れる可能性があります、そうなったら・・・」

「まあ、そうなれば逆に簡単に捕まえる事ができるが、問題は裏に何が潜んでいるかだ」

「黒幕がいるかどうか、あのお方が調べてくださっていますが、私にはその検討がつきません」

「うむ、それは私もだ、案外、黒幕などおらぬのかも知れぬな、いても大した敵ではないのかもな」

 

だが、尋常では無い強さには変わりない。

トーナメントを見る方としては絶対的な悪人(ヒール)がいて盛り上がるだろうが、

命を狙われている私としては、たまったものではない、だからあのお方もスロトに奇襲を頼んだのであろう。

 

「ハプニカ様」

「ルル、早い戻りであったな」

「それが・・・フレシュの傍にあのお方、いませんでした」

「やはり・・・もう教える事は教え終わっているのかも知れぬな」

「フレシュはもしトレオが上がって来たらヴェルヴィ殿の敵(かたき)を必ず打つって息巻いていました」

 

ヴェルヴィ殿・・・容態が心配であるな・・・

 

「それでフレシュの闘い方ですが、あれはやっぱりヴェルディ殿直伝の・・・」

「うむ、先ほどララと話していた、それはもう良い、それよりマリーが気になる」

「では闘いの結果だけでも聞いてきます」

「そうだな、ひょっとしたらまだ闘っている最中かも知れぬが・・・」

「ついでにヴェルヴィ殿の容態も聞いてきます」

 

ルルが体をひるがえしたその直後、私は呼び止めた。

 

「いや待て、その必要はないようだ」

 

なぜなら・・・重い体を揺らしながらスロトが飛び込んできたからだ。

 

「ハプニカ様!大変でございます!ウホンウホン!!」

「・・・・・負けたのか」

「マリーが・・・いや、マリー様が・・・おお、可哀想なマリー様・・・」

「どうなったのだ!」

「トレオの魔の力により・・・顔が・・・潰されましたぞ・・・」

 

その報告に私はギリリ、と歯を食いしばった。

 

「なんということを・・・!!」

「やはり相手は心の無い魔物であるゆえ、非道、外道で・・」

「リリはどうした!」

「はっ!トレオの移動を狙って奇襲をかけると」

「・・・・・リリ・・・マリーの仇を討ってくれるはず・・・」

 

マリー・・嗚呼、マリー・・・すまない・・マリー・・・

 

「それでマリーは?」

「はっ、こういう事態ゆえ、シャクナをはじめ手の空いている僧侶を集めて治療を・・・」

「何とか助かると良いが・・・そうか、ということはトレオの回復役はいないという事であるな?」

「はは・・・それであのお方から伝言で、トレオは着実に弱っている、だからトーナメントは中止させないで欲しいと」

「そうか・・・魔物といえど体力は無尽蔵ではないはずだからな、ダメージも受けているはずだ」

 

おまけに回復役もいない・・・

む?待てよ、そもそもシャクナがいなくなったからといって、

白魔法では魔物であるはずのトレオが回復するはずはないのだが・・・

 

「ハプニカ様、それで・・・次は準決勝であります」

「ベスト4だな、残っているのはフレシュとトレオと、あとレンは残っているはずだが・・」

「ムホン!残り4人になった所で勝ち残った者に『何でも望む賞品』を聞くことになっておりますゆえ」

「ああ、この国で叶えられる限りの望みを叶える・・前回のルルは黄金の蹄鉄であったな、天馬用の」

「決まりでありますゆえトレオに望みを聞いた所・・その・・ウッホン!希望賞品は『ハプニカ』と」

 

・・・・・私か。

 

「それはすなわち・・・私の命を狙っているという宣戦布告であるな?」

「さすがハプニカ様、するどい!ムホンムホン」

「・・・・・スロトよ、トレオに伝えよ、私は受けて立つと!」

 

ニヤリとほくそ笑むスロト。

 

「では早速伝えてきますぞ!ウッホン!それでは!」

「スロト!あのお方は今どこに・・・」

「ムホンムホンムホンムホンムホン!!!」

 

マントをひらひらさせて出て行った・・・

何も魔物相手に律儀に伝えなくとも良いのに。

 

「ララ、どう思う」

「・・・・・トレオは『ハプニカが欲しい』と言った訳ではないのでしょう」

「ああ、スロトがおそらく『何が望みだ』と聞いたら『ハプニカ』と答えただけであろう」

「その程度の知能しかないからこそ、マリー様の顔を潰すという酷いことを・・・」

「おぞましい・・・こうなった以上、やはり大会の中止も考えねばならぬか・・・?」

 

考え込んでいるルル。

 

「ハプニカ様、魔物がそれだけの知識しか無いとなると、やはり裏に誰かいます」

「そうか・・・一応根拠を聞こうか」

「おそらくトレオは大会で優勝して、ハプニカ様に近づけるタイミングを狙っていると思います」

「優勝者は私が直々に優勝カップを授ける事になっておるからな」

「・・・知能の低い魔物が単独でそこまで出来るとは思えません、やはり操っている、魔の影があるはずです」

 

そうなると、操っているのは誰だ!?

強力な魔物を操れる者となると、この城では、

・・・・・ミルだけだ、ミルは魔道士の力も持っているゆえに、

白魔法だけではなく闇魔法も使える、だが高いレベルでは無理なはずだ、

それに妹のミルがそのような事をするはずは無い、では誰が・・・他の国からか!?

 

「ハプニカ様」

「なんだ、メイドのベネルクか、紅茶か?」

「いえ、いまスロト様の遣いからこれをお渡しするように言われまして」

 

渡された紙・・・

ララがそれを受け取って目を通す。

 

「これはベスト4に残った戦士の、優勝した場合に叶えて欲しい事リストですわ」

「そうか、読み上げてくれ」

「はい、まずはフレシュ・・・親衛隊に入れて欲しい」

「むう、私の親衛隊に男が・・・いや、これはおそらくあのお方の親衛隊につきたいのであろう」

「そうだと思われます、ハプニカ様の親衛隊は永遠に私たち4姉妹だけですから」

 

たのもしい・・・永遠に尽くしてくれる、これでこそ親衛隊だ。

 

「次にジュビライ・・・息子を衛兵隊長にして欲しい」

「ほう、ジュビライらしい、ジュビライの権限なら私に許可などいらぬのに」

「おそらく優勝は無理だと踏んで、息子に奮起を促すためにかと」

「で、レンは?・・・そうか、では準決勝はジュビライとレンであるのだな」

「はい、レンの願いは・・・そ、その・・・大変申し上げ難いのですが・・・」

 

珍しい、ララが困った顔をしておる、

紙を覗いたルルも、複雑な表情で頭をかいておる。

 

「なんだ?遠慮なく申せ、それとも無理難題なのか?」

「い、いえ・・・その・・・な・・・な・・・」

「な?・・・えーい、貸せ!」

 

ララから紙を奪い取る!そこには・・・

 

「・・・・・これは本気か?」

「はい・・・レンは・・・ハプニカ様に、なでなでして欲しいと」

「頭をなでる・・・まあ、レンの場合は賞品にあまり意味は無いからな」

「そうです、優勝したという事実だけで、レンは本当に欲しかった『心の賞品』を手に入れるかと」

「だからこそ、優勝賞品は頭ナデナデで良いのであろうな」

 

・・・紙の一番下・・・

トレオの希望賞品・・・ハプニカ・・・

誰がトレオの、魔物なぞのものになってたまるものか!!

 

「・・・次の試合は・・・ルル、今の時間は?」

「もう4時半になります、準決勝は5時からです」

「そうか早いな、準々決勝と準決勝の間も1時間であったな」

 

・・・暗い表情のリリが戻ってきた。

 

「リリご苦労・・・その表情は、奇襲失敗か」

「・・・ダメージは与えましたー、背中をしっかり刺したはずですー」

「それで、リリの中にあった納得いかない感覚の正体はわかったか?」

「・・・・・順を追って説明させていただきますー」

「うむ聞こう、だが時間が無いゆえに手短にな」

 

キリッとした表情になるリリ。

 

「まずは準々決勝の前にー、シャクナさんに会いに行きましたー」

「何と言っておった?」

「それがー、ショックで寝込んでおられましてー・・・」

「・・・ルルの奇襲に驚いてか、ちと辛い目にあわせてしまったな」

「安静にすればすぐ良くなるとのことでしたのでー、まずはトレオの試合をー」

 

伏目がちになった・・・やはりこれから語る内容は辛いのであろう。

 

「試合はー、はじめはマリーさんが攻めていましたー、というよりー、トレオは何もしていませんでしたー」

「・・・・・不気味だな」

「そうかと思ったらー、しばらくして急にトレオが狂ったように・・マリーさんを・・・顔を中心に・・・」

「うむ、酷い怪我については聞いた、それよりリリの気付いたことを教えて欲しい」

「はいー、相手はやはり魔物ですー、全身を必要以上に覆う鎧がその証拠かとー」

 

鎧の魔物か・・・

 

「うむ、鎧であれば魔物の姿を隠せるからな」

「それにー、闇の魔物であればー、日光が当たれば力が弱くなりますからー」

「・・・操っている者は見当たらなかったのか?」

「いえー、どちらかというとあの鎧は魔の力を体内に閉じ込めるためかとー」

「どういう事だ?力を封印しておるというのか?」

 

封印してその力というのなら、とんでもない化け物だ。

 

「んー・・・これはあくまで予想ですがー」

「想像でも良い、リリの直感なら信頼できる」

「魔王が倒されてー、トレオにはもう魔の供給源が無いのではないかとー」

「・・・・・そうか、だから、魔の力が外へ漏れ抜けていかぬように鎧で閉じ込めておるのか」

「奇襲したときにー、包帯が見えましたのでー、包帯と鎧で二重に力を逃がさないようにしているかとー」

 

謎が解けてきたぞ。

 

「では、動力源たる、操りし者はいない・・・と?」

「それはー、いるような直感がしますー」

「ふむ・・・確かに鎧や包帯を用意した者がいるはずだからな」

「それとー・・・トレオは確実に弱くなってきていますー、奇襲で動きが鈍くなりましたー」

「さすがの魔物も、予選1回戦から準々決勝まで闘い、2度の奇襲を喰らっては力が弱まるか」

 

人間であればとっくに過労死しておるはずだ。

 

「・・・それでシャクナは?」

「闘いが終わってからー、目が覚めてマリーさんの治療に集中したそうですー」

「そうか・・・それは邪魔しない方が良いな」

「以上ですー、あのお方の姿はそこにもありませんでしたー」

「・・・・・どこで何をしておられるのだろうか・・・」

 

そうか、スロトと動いておるの・・・か?

 

「ハプニカ様」

「ルル、どうした」

「もうすぐ準決勝です、どうしましょう」

「む・・・トレオは・・・任せるしかあるまい、あのお方に」

「ではレンとミル様に何か伝えてきましょうか」

 

・・・いや、ここまできたら決勝まで動かぬ方が良いだろう。

 

「何もしなくて良い、皆でレンを応援しよう」

「よろしいのでしょうか?もちろん動かない事も手の1つではありますが」

「ララ、ここはどうしてもあのお方の『任せて欲しい』という言葉に待ちたいのだ」

「あのー・・・ハプニカさまー・・・」

「リリ、気になることでもあったか?」

「・・・・なにかー、なーにーかー・・・大きなピントがずれてる感覚がー・・・」

「まだすっきりせぬか・・・ではルル、やっぱりレンとミルから情報交換をしてきて欲しい」

「わかりました、時間が無いので今すぐに」

 

風の様に駆けていくルル、

リリはまだ納得いかない表情で髪を指でクルクルしている、

ララはメイドのベネルクから水を貰って飲んでいる・・さて、そろそろ天覧席へ行くとしよう。

 

 

 

 

「只今より準決勝をはじめます!」

 

夕日が照らす超満員の中央闘技場、

もう1部のたいまつは火がつきはじめている。

ステージの東西に控えるジュビライとレン、レンの隣にはミルだ。

 

「ジュビライの隣にいる僧侶は・・・」

「奥様です、夫婦で闘っていらっしゃいます」

「うむ・・・良きパートナーであるな」

 

私もあのお方と一緒になったら、

怪我をしても直ぐに治せるよう、

極上のエリクサーを懐にしまっておこう。

 

「ジュビライ!レン!前へ!」

 

観衆の声援が一層大きくなり、

互いに一礼してステージ中央へ・・・

 

「ん?ララ、それは何だ」

「双眼鏡ですわ、決勝にトレオが来た時、客席を見張れるようにと思いまして」

「用意が良いな、フレシュが倒してくれればその心配もいらなくなるのだが」

「・・・まあ、ルルまでレンのセコンドにいますわ」

「本当か?・・・あれがそうか、ミルの後ろの方にいる・・・」

 

やはり心配なのであろうか、

しかし正式なセコンドは1人しか置けないため、

1歩退いた所で見ておる、よって公正的には問題なかろう。

 

「・・・・・準決勝、レン対ジュビライ・・・はじめ!!」

 

ゴィーーーーーーーーーン!!

 

いつもより強めに叩かれた銅鑼の音とともに、

ジュビライが一気に間を詰める!しかしレンは長槍でそれを・・・

 

スパッ!!

 

「な、なにっ!?」

 

ジュビライの剣が、レンの長槍を斬った!?

 

「ハプニカ様!あれは・・・剣斬りの剣!」

「ララ、本当か!?」

「はい!間違いありません!双眼鏡でしっかりと!」

 

槍の先を斬られて戸惑うレンに、

ジュビライがそのまま突進する!

慌てて避けるも剣が容赦なく襲ってきて・・・!

 

「何をしておる!はやく、止め・・・!!」

 

ジュビライがレンを、突き刺す!!

 

「ええ〜〜〜い!!」

 

レンが大きく後ろに跳び、

場外へ!そして場外の地面に折れた槍を挿し、

槍がバネのように大きくしなり、その先に捕まっていたレンが・・・!!

 

びよ〜〜〜〜〜ん!!

 

反動を利用して大きく空中へ跳んだ!

私の目線と同じ程の高さまで・・しかしこのままでは、

ステージの中央に落ちて、待ち構えるジュビライの剣の餌食に!!

 

「レンよ!覚悟!!」

 

下のジュビライが勝ち誇った様子で上空のレンを見つめる!

ルルも走ってくるが、ミルも魔法を撃つが、間に合わない!?

 

ヒュンッ!!

 

バシッ!!!!!

 

「ぐあああっっ!!」

 

静まり返った闘技場に響く男の悲鳴!

ジュビライの頭に・・・レンが空中へ跳ぶバネに利用した、

レンの長槍の竿の部分が物凄い勢いで当たったからだ!!

 

カラン・・・カラカラ・・・

 

剣斬りの剣を落とすジュビライ、

バタリを倒れたその体の上へ着地したレン、

直後、さらに大きくジャンプする!その下をミルが発射した攻撃魔法が通り、その先には!!

 

「きゃああああああああああ!!!」

 

バシューーーッ!!!

 

・・・・・ジュビライのセコンド、妻の体にかすり服に燃え移る!!

 

「おい、消せ!急ぐのだ!!」

 

・・・衛兵が必死に炎を消す、

あれだけ早く処置すれば軽いヤケド程度で済むであろう・・・

しかし、なぜだ?なぜ、父上が持っていたはずの、剣斬りの剣を!?

 

ガヤガヤと場内がざわつく、

ルルはレンの体を気遣っているが無傷だ、

長槍が壊された以外は・・・そしてジュビライは・・・

 

「母さん!母さあああああああああああああああああああああん!!!」

 

グッタリした母に抱きつく息子・・・

一方父親は・・・倒れたまま動かぬ、

そのまま衛兵に運ばれて行った、剣だけ残して・・・!!

 

「勝者・レン!!」

 

勝っても浮かぬ表情のレン、

当たり前だ、ジュビライはレンの命を狙っていた!

あくまで闘技、刃を殺した剣で戦う予定が、なぜ我が父秘蔵の剣を・・・!?

 

「えー皆様!只今の試合はジュビライ殿の反則負けであります!!」

 

折られた長槍の先を拾うレン、

剣斬りの剣を拾うルル・・・そしてミルと、

3人が無言でステージを後にする、一体、ジュビライはどうしたというのだ!?

 

「ララよ!!」

「・・・・・トレオだけではなかったようですわね」

「これでしたー、私のしっくりこなかった謎はー、敵はトレオだけではありませんでしたー」

「うむ、リリ・・・そなたの疑問はこれであったな、しかしなぜジュビライが・・・!!」

「本人に聞くのが一番ですー」

 

そのあたりはルルが調べてきてくれるはず・・・!!

 

「うぐぐ・・・油断しておった!私のミスだ!」

 

体中に憤りを煮えぎらせ、

天覧席から控えの室内へと戻った。

 

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