ルルにせめて結果だけでも取りに行かせたのだが、まだ来ぬ・・・来た!
「なんということだ・・・ヴェルヴィ程の熟練剣士が・・・!!」
昨日の1回戦から勝ち進んだトレオがこれだけ時間をかけながら勝ったという事は、
間違いなく魔物の仕業であろう・・・魔物・・・魔の力を持つ者・・私はそれを、許さない!!
「ウッホン、とんでもない敵でございます、ヴェルヴィ殿は意識不明でございます」
「それは・・・ウッホン!他言無用と言われておりますゆえ・・・」
「では・・・次のトレオの相手は、ジェフェニでございますが・・・」
「はは、その通りで・・で、あのお方は、ジェフェニ戦の後、トレオに奇襲をかけて欲しいと」
「ま、まだ早い!・・・まだそれは早いでございます、ウッホン、あのお方が感づいてしまいますぞ」
「そうであるな・・では、城の衛兵を連れて、その者たちに奇襲させるが良い」
「頼んだぞ、その闘いいかんによって奇襲をするかどうかの最終判断を下してくれ」
「では目立たないよう、腕が立つのを8人ほど精鋭して連れて行きます」
「ルル殿、トレオに絶対に姿を見られぬよう・・・感づかれては何をされるか・・・」
「わかってる、あのお方が泳がせてるんだから、私は偵察だけしかしないよ」
「では私はあのお方が呼んでらっしゃるゆえ・・・失礼しますぞ・・・ウオッホン」
全て解決したら褒美をたんまりやらねばなるまいな・・・見直したぞ。
「・・・・・うまく言葉で言い表せないー、感覚的な違和感があるんですー」
こういう才能は理解を超えて頼もしい・・・そのリリが言っているのだ、
その違和感を深く考え、対処しなくてはならない・・・うーむ・・・どうするべきか・・・
おそらく、いかにレンの長槍をかいくぐり素早さで懐に潜り込むか、
それしかチキスの勝ち目は無いであろう、勝負は一瞬で決まりそうだ。
お互い逆に隙を見せてしまうことになりかねない、緊迫した空気が流れる。
とはいっても母親違いだ、レンの母はララ・リリ・ルルを生んだ後、
我が父が孕ませてしまった隠し子・・・私とミルとは半分の血しか繋がっていない、
それはララ・リリ・ルルとて同じ事・・しかしララたちはそのような事をまったく気にせず、
ごく普通に可愛い仲の良い妹として接した、そして月日は流れ・・・レンの存在が目立ち始めた時、
事実が漏れるのを恐れた我が父はレンを手に掛けようとした、思えばあの時すでに、もう父の心は魔に蝕まれていたのかも知れぬ。
私はそれを察知し、慌てて父の手が及ばぬよう、親衛隊に入れた。
姉3人がすでに親衛隊に入っていたから当然であるし、ミルの話し相手にもピッタリだと思ったからだ、
ミルとは半分姉妹であるから予想通りすぐに仲良くなり、私とミルの目が光っている間は、
ララリリルルのフォローもあり、父は命を狙わなく、いや、狙えなくなった。もちろん親衛隊4姉妹としても、
鉄壁の連携を誇った・・・ルルの口調が少々ぶっきらぼうなのも、まだ皇族への口の利き方がわからぬレンに気を使っての事だ。
「・・・・・ルルが許されれば、レンも許される。私が許せば、皆が許したからな・・・」
大戦を4姉妹が鉄壁の連携で戦い抜いた事は国民には届いていたはず、
しかし、どうしても目立ってしまうのはこの私、そしてミルだ、それは仕方がない。
だからこそ、復興の象徴であるこの闘技トーナメントでレンが優勝する・・・そこに大きな意味があるのだ、
上の姉3人が優勝した大会で優勝し、名実ともハプニカ親衛隊4姉妹ここにありを国中に誇る・・・そして・・・
このトーナメントが14歳以上の国民であれば誰でも参加できるのは、
「優勝者がこの国で今いちばん強い」という事を身を持って納得させるためだ、
そうやって代々この大会の価値を高めてきた事で、国の衛兵への信頼を国民から得てきた。
よって、レンが優勝すれば、誰もが認めるのはもちろん、レン自身も大きな自信になるはずだ、
これでようやく、私にも、そして上の姉3人にも認められると・・・もうとっくに認めておるのに。
空中のチキスをレンの長槍が、ぶんっ、となぎ払い、ステージの外へ落とす!
・・・・・とっとっと、といった感じでギリギリで着地したレン、
そしてチキスはあまりの長槍の素早さに地面に叩きつけられたようだ。
思わず危ないと叫んでしまったが・・・ミルがレンに抱きついて喜んでいる。
「・・・ララ、レンは、トレオの事をわかっているのであろうか」
「はい、おそらくは・・・気付いていなくてもミル様が、きっと」
「そうだな・・・できるならば、決勝はトレオと当てたくは無いものだ」
問題はその後、ルルの偵察だ、ルルならば何か新しい情報を掴んでくるはず・・・!!
私は大きくおじぎをするレンに手で挨拶し、控えの間へ戻る・・・次は5回戦、時間が無い。
「4回戦と5回戦の間は1時間しかないからな・・・ルルは急いで戻るはずだ」
ルルがあのお方を連れてきて、全て解決した、と言われればどれだけ楽であろうか。
その時は人目もはばからず、抱きしめて唇を重ねてしまうかも知れぬ、押さえがきかずに・・・
「・・・・・少しワインでも飲んで落ち着こうか、ララ、ついでくれ」
「ああ、酔わない程度に・・・んっ・・・んっ・・・よし、少し落ち着こう」
「やはり相手は・・・化け物です、精鋭部隊8人、全員軽く払われました」
「はい、トレオの4回戦も見ましたが、ジェフェニはまったく歯が立ちませんでした」
「あのお方は見なかったけど、国民はトレオの凶悪な強さに気付いたようで凄い罵声でした」
・・・・・まあ、かつての英雄・ヴェルヴィを倒したのだからな、
どこの馬の骨ともわからぬ、異常な強さの者が・・・直に見れば魔物の気配もするのであろう。
「いえ、普通の少女です、私たちの精鋭部隊に普通に悲鳴をあげていました」
・・・魔物が普通の僧侶を雇っているというのもおかしなものだな、
少女・・・そういえばスロトに報告に来ていた僧侶、あの少女だというのか?
だとすれば、なぜ・・・とても魔物とグルになるようには見えない感じであったが。
「ややや!ハプニカ様大変でございます!ムッホン!またトレオめの奴が・・・」
「なりませぬ!あのお方が申しておりました、『トレオはまだばれてないと思っている』と!」
「ウッホン・・・よって、ハプニカ様や親衛隊が出てきては、トレオに気付かれてしまいますゆえ」
「・・・奇襲した時点で普通なら感付く物であるが、まあ、あのお方がそう言うのなら・・・」
「何よりあのお方は極力、1人で解決したい様子、ハプニカ様たちに直接手出しはしてほしくないかと」
「うむ・・・それでだスロト、ルルから聞いたのだが、トレオについておった僧侶、あれは何だ?」
「やや!鋭いでございますな・・・あれは・・・・・あのお方が、僧侶のシャクナにお願いして監視を・・・」
「シャクナは普通の僧侶ではありませぬぞ、素質を見込まれ、城の季節集会に参加する程の・・・」
「季節に1度の集会は城に入れるといっても300人も集まる、特筆すべき事でもあるまい」
「ははっ、その・・・実は私が頼んだのでありまして・・・あのお方もそれを了承したと・・・」
「・・・・・そうだ!あのお方は、誰の稽古をつけておるのだ?まだ勝ち抜いておるのか?」
「いや、あのお方が、誰についているか申すと、その・・・有利にされるのではないかと」
「・・・・・そういう事か、ならばわかる、あのお方の考えそうな事だが・・・で、誰だ?」
「はっ、我が衛兵の若手で今一番勢いのある、フレシュでして・・・」
確かヴェルヴィの弟子で今一番注目されており、一番伸びる時期の戦士だ、
この国の高いレベルの強者は女が多い、それはこの国が天馬・飛竜に乗って闘う事が多いため、
女の方が身が軽く素早さに長け、さらに天馬、飛竜と心が通じやすく操縦も扱い易い。
そこへあえて男のフレシュを指導・育成する事で、この国においてヴェルヴィのような「男でも強い戦士」を作りたかったのだろう。
「・・・・・そのような事をせずとも、あのお方が一番強いのに・・・」
「おっ!すまない!少し考え事をな・・・ではルル、引き続き・・・」
「どうしても、うまく言えませんが納得ができませんのでー、私が直に行ってきますー」
「はいー、できればシャクナさんという方と接触してー、間接的にあのお方の考えを聞いてきますー」
よほど何か引っかかる事があるのだろう、ここは任せた方が良い。
「それと・・・スロト、お前自身もトレオについてしっかり探るのであるぞ」
・・・聞いたか聞いていないかわからないうちに走り去って行った、
まさかスロトはあのお方に任せてばかりなのではないだろうか?とふと頭によぎった。
きちんとあのお方の補佐をできていればいいが・・そうか、あのお方が奇襲を頼んだのはスロトにであったな。
「私が頼まれたのではなく、スロトが頼まれた・・・だから私も親衛隊もあのお方に気付かれてはならぬのだった」
「ああリリ、トレオの次の闘いぶりと、その後の奇襲、頼んだぞ、シャクナとやらについても頼む」
「・・・・ルルよ、奇襲に行かぬかわりに、フレシュを見てきてもらえぬか」
「ああ、どのように稽古をつけているか、そして・・・あのお方がどんな様子か見てきて欲しい」
「何も知らないふりをすれば、あのお方と会話くらいは出来ると思います」
「頼む・・・頼んだ・・・私が『信じている』と言っていたと伝えて欲しい」
「そうか、マリー・・・マリーならやってくれるかも知れぬな・・・」
「それと・・・これからハプニカ様がこちらでご覧になられる試合は、エスパス対フレシュです」