「・・・おなかすいたぁ」

 

トン、とベッドから降りる音・・

三久ちゃんが起きたみたいだ、

足音が近づいてくる・・カチャ、と食器の音が・・

 

「おにいさまあ、おにぎりもらうねぇ・・」

 

もぐもぐもぐ・・・

食べてる・・うう、僕も食べたい・・・

 

ぐうぅぅぅ〜〜〜・・・

 

「おにいさまも一緒に食べようよお・・・」

 

行かないぞ!絶対!

 

「ねえ・・もう三久、あきらめたからあ・・」

 

全然あきらめてないくせに!

 

「最後に一緒にごはんたべようよお、ねえ・・・」

 

油断してたまるか!いつ、いつ、また、ぐいっと・・・!!

 

「電気つけるねえ・・ん・・んん!!!」

 

ん?どうした?

 

「お、おなかいたい・・おなかいたあい!!」

「・・・え!?」

「おにいさまあ!お、おなかいたいよお!!」

 

ど、どうしたんだ!?

 

「おなかいたあい!げほっ・・い、いたいよお!おたいよお!!」

「三久ちゃん!?」

「た、たすけてえ!おにいさまあ!たすけてええええええーーーーー!!!」

 

た、大変なことになってる!!

三久ちゃん、ひょっとして、食中毒!?

 

「おなかがあ!いたあい!だれか・・た、たすけ・・・げほっ、げほっ」

 

どたばた、と、のたうちまわっている!?

助けなきゃ!すぐに救急車を・・って、腕が痺れて開けられない!?

そんな馬鹿な・・助けないと!緊急事態だ!三久ちゃんを・・三久ちゃんを!!!

 

「うう・・おにいさま・・はやく・・たす・・・けて・・・・・」

 

・・・いや待て!

また、罠かもしれない・・

って、そんなこと言ってる場合か?これは!?

 

「三久ちゃん、大丈夫!?」

「たすけて・・たすけて・・・たすけて・・・」

 

・・・・・れ、冷静になれ!

よーく考えてみよう、もし罠なら・・・

これは僕の一生を左右する大切な瞬間なんだ!!!

本当に苦しんでるなら・・そうだ、三久ちゃんの他にもう1人いるはずだ!

その人が助けるはず・・・やっぱり罠か?そういえば食べて苦しむ時間が早すぎるような・・

 

「た・・す・・け・・・」

「三久ちゃん!もう1人いるだろ?その人に・・」

「・・・お・・・にぃ・・・さ・・・ま・・・・・」

 

・・・・・静まり返る部屋・・

大丈夫か!?これは・・これは、これは、

僕は本当にこんなことしていていいのか!?

三久ちゃんが、ひょっとしたら死んでしまうのかもしれないんだぞ!?

何も食中毒とは限らない、盲腸だとか、他にも何かの病気かもしれない・・・

 

でも罠だとしたら、

飛び出したらすぐに胸元に潜り込まれて、

あっという間にくすぐり無限地獄へ引きずり込まれてしまう・・

今の僕ならあとほんのちょっと、こちょこちょとくすぐられるだけで、

もう三久ちゃんの完全な所有物になっちゃう、そのための罠という可能性も・・・

 

「三久ちゃん?三久ちゃん?」

「・・・・・・・・・・」

 

返事が無い・・・

気絶しちゃったのか、それとも・・

物食べてる途中の気絶なら、窒息死しちゃう!!

でも、作戦だったとしたら、僕の一生がそこで終わってしまう、

くすぐりという餌で働かせられる性奴隷になってしまう・・それも嫌だぁ・・

 

とにかく朝まで待たないと・・

隙間から光りは入ってきてない、

まだ夜中なんだろう・・って、カーテン締め切られてたらわからないんじゃあ?

いや、黒い暗幕でもしてないかぎり、朝日はわかるはず・・それまで待とう、

もし事故が本当なら・・三久ちゃんが悪いんだ、何度も罠で騙そうとしたから。

 

「・・三久ちゃん、朝になったら助けてあげるから、それまで我慢してね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・ごめんね」

 

あやまる僕・・

不安が襲う、同時に眠気と尿意と疲労と空腹と喉の渇きと、

全身のムズムズ感、すなわち、くすぐられたい禁断症状も・・!!

 

 

 

・・・・・はっ!うとうとと寝てしまっていた!

ぶらーんと下がっていた手を上げ、慌てて取っ手を握る!

もし、もし寝ていた間に開けられていたら・・・考えるとぞっとする、

でも、どのくらい眠っていたんだろう?もし三久ちゃんの苦しみが芝居だったら、

もうとっくに開けられていたかもしてない、って、それじゃあこれは、本当に!?

 

様子だけ見ようかな・・・

でも、扉のそばで誰か待ち構えているかも・・

とにかく朝までは我慢だ!朝になって・・迎えの車が来る頃までは・・・

 

 

 

・・・

・・・・・

・・静かだ、静かすぎる・・・

あうあうあう、全身のムズムズがひどくなってる、

まるで蜘蛛が這ってるみたいに・・これってまんま麻薬中毒じゃないか!

三久ちゃんのくすぐりって、まさに麻薬だったのか?あんなに気持ちいいんだもん、

麻薬以上にすごいかも・・・もし逃げ切っても、一生この感覚がつきまとってしまうのか?

 

いや、麻薬ならなおさら抜けられるはずだ、

僕の精神力なら・・なんとかなる!なってみせる!!

ここまで耐えたんだ、これから先も、ずっとずっと耐えてみせるさ!!

 

 

 

・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

 

もういいかげん朝だろう?

でもまだ外から光りは入ってこない・・

三久ちゃんの息遣いも聞こえない?まさか?

息を殺しているのか、それとも、まさか・・・よ、よそう、

そういう事を考えるのは朝になってからだ!それまでは、とにかく我慢!

 

 

 

・・・トイレ行きたい・・

何か食べたい・・もう眠りたい・・

疲れた・・早く出たい・・汗も気持ち悪い、お風呂・・

勃起ももうずっと邪魔だ、はやく抜きたい・・くすぐられたい!!

いや、最後のは余計だ、もう僕は、くすぐられる事はないんだから・・・!!

 

 

・・もうすぐ自由だ、

僕の好き勝手にできるんだ、

堅苦しい家になんて縛られる事なく、

思いのままの人生を突き進む事ができるんだ!

あともうちょっとで・・もうちょっとなんだ、だから・・

だからこんなに苦しいんだ、でも、それだけ努力すれば報われる!

じいちゃんには課題をクリアした褒美にもう1つ、この家の事もお願いしとかないと・・

きっとあのじいちゃんのことだ、僕をこの家に囚う事を失敗した罰として潰してしまうだろう、

そんな事をしないように約束させなくっちゃ・・そして貰った莫大なお金でこの家を少しは助けよう。

 

・・・いや、いざ逃げたらもうそんな事はどうでもいいかも?

敗者は敗者らしく潰されていくのみ、2人の兄ならそう言うだろう、

僕だって人生を奪われてしまう所なんだ、それに打ち勝った以上は勝者として、

もうこの家の事なんて綺麗サッパリ忘れるべきかもしれない、うちの家ではそれが正しい。

ひょっとしたら美麗家をここまで助けていたのも、今日のこの日のためなんじゃあ?僕を囚うために・・

 

「・・・・・朝は・・・まだ・・・か・・な・・・」

 

思わずつぶやく僕・・

うぅ、声を出しちゃったからよけいに喉が渇く・・

ごくん、と唾を飲み込む・・このタンスの中に飲み物なんて・・

こ、これはラムネ?いや、防虫剤だ・・そりゃそうだ・・ううう・・・

トイレ行きたいよお・・お布団で眠りたいよお・・早く・・朝に・・なってくれ・・・

 

 

 

・・・

・・・・・

・・・・・・・・・・

 

「あれ?こ、これは・・・」

 

隙間から光が差し込む・・・

この光り・・電灯とかじゃない、

自然な明かりだ・・やわらかい感じのする、

独特の明るさ・・・これって朝日なんじゃあ?

見れば見るほど、感じるほど、自然な明るさ・・・朝日だ!!

 

やった!ついに朝が来たんだ!!

そういえばさっき、車が通る音がした、

夜中でも車は通るから珍しくはないんだけれども、

朝に来た車となると、これはもう僕の自由へのお迎いに違いない!

とうとう、とうとう僕は耐え切ったんだ!1週間のくすぐり快楽地獄に!!

 

「・・・三久ちゃん!」

「・・・・・・・・・・」

 

僕の明るい声にも返事はない、

そうだ、最後の詰めをちゃんとしないと!

どうやって外へ逃げるか・・相手は2人という可能性もある、

いや、3人以上だってありうる・・・今の僕はもうかなりへろへろだ、

3姉妹で押さえつけてくすぐられたら、瞬く間に狂わされてお終いになっちゃう。

 

かといって、朝日が挿し込んだ以上、もうここには用はない、

どうやって脱出するか・・廊下や階段は危険かも、いや、そもそも、

廊下への扉に鍵をかけられたりしていたら・・じゃあ窓はどうだろう?

結構な高さだよな、飛び降りたら怪我しそうなくらいの・・窓だって鍵がかかってるだろう、

ガラスをぶちやぶるのはすごく危険だしなあ・・・そうだ!窓の上だ!屋根には上がれるはずだ!!

三久ちゃんが器用に屋根から窓にぶら下がっていたのを思い出す、そうだ、屋根へ逃げれば!

そこから雨樋づたいとか、木に飛び移れば!よし、これで行こう!あとは・・・窓だな・・

ガラス代ぐらいは弁償できるけど、僕の体の方が・・そうだ、この中にある服で武装しよう!!

何でもいいからいっぱい服で体を守れば・・達磨状態になってしまえば、三久ちゃんに捕まったとしても、

そうやすやすとはくすぐられない!もう朝になったんだ、外にさえ出てしまえば、車に乗り込んでそのまま・・!!

 

クローゼットの中で三久ちゃんの服を物色する、

手首を守って・・いや、こんなに着ちゃったら服が邪魔で屋根に上がれない!

飛び降りた方が早いといえば早い・・あれ?外の光が強くなった?完全に朝か?

そうだ、早くしないと、しばらくすると車はまた去って行っちゃうんだ!急がないと!

こうなったら、素早さに賭けるしかない!出て、窓を開けて、屋根に上がる!素早くだ!

 

人間、本当にいざとなったら何とでもできる!

素早さで勝負するなら余計な服は着ない方がいい!

三久ちゃんとか誰かが襲ってきたら心を鬼にして蹴り飛ばすぐらいしなきゃ・・

窓は丁度朝日が挿し込む場所だ、朝日に向かって、自由に向かって突っ走ればいい!!

・・・ん?風が入ってきている?窓が・・窓が開いているようだ、こ、これはチャンスだ!!

 

バサバサバサバサバサ・・・

 

よーく聞くとカーテンがなびく音が!

間違いない!窓は開いているぞ!ラッキーだ!

もう、もう耐えるのも限界だ、すぐに、窓が開いているうちに外へ出て、

自由を!ついに自由を!あこがれの、僕のための自由を手に入れられるんだ!!

祝福してくれるであろう朝日に向かって、飛び出すなら今しかない!このハイテンションそのままに!!

 

よーし、深呼吸して・・

スーハー・・スーハー・・・

行くぞ・・迎えに来ている車へ向かって・・・

 

ドクンドクンと心音が響く・・・

・・そうだ!出る時はこの中の服をぶちまけて行こう!

さすが僕だ、眠気と疲労で思考能力が落ちてるという訳じゃないな、

逆に頭がさえている!服をばっとぶちまけて相手がひるんだ隙に外へ!!

どきどきどきどき・・・行くぞ・・行くぞ・・自由へ・・朝日に向かって・・・!!

 

でやあ!!

 

バンッ!!!!!

 

どさどさどさっ、とタンスから飛び出る服!

それにまぎれて飛び出る僕!窓の方に向かう!

その僕の目に飛び込んできたものは・・・!!

もどる めくる