「ん・・・・・いい匂い」
すっかり暗くなった部屋、
甘い一美さんの香りと別に、
下から美味しそうな料理が匂ってくる。
ぐきゅるるるるる〜〜・・・
「お腹も鳴ってる・・・」
呼びに来るのを待ちたかったが空腹がそれを許してはくれない。
少しよろけながらもキッチンの方へ行くと、なにやら言い争いが聞こえてきた。
「もういいだろ?私、出て行くから!」
「二恵!!」
廊下の角に隠れながらこっそり覗き込むと、
二恵さんを一美さんが引きとめようとしてる。
「有人さんとやらが私を選ばなかった以上、もうここに用はないよ」
「なんてこと言うのよ二恵!用がないってどういうことなの?」
「ここにいる必要がないってことさ、だからもう出て行くから」
二恵さんがいらだつように一美さんに言葉を吐きつける、
一美さんもそれに対抗するかのように言い返す。
「今、一番大事な時じゃないの!みんなで力を合わせて・・・」
「私がすることなんてもうないよ、有人さんとやらはもう姉さんの虜だろうし、
そうでなくても時間の問題だよ、それにもし失敗しても、もう私には関係ないからね」
「関係ないって何いってるの!?」
「出て行くには丁度良いタイミングだってことだよ、明日には出て行くから」
「待ちなさい、二恵!」
あ、2人がこっちへ来る・・・どうしよう・・・
「有人おにいさま、どうしたの?」
「あっ、三久ちゃん!」
いつのまにか僕の背後に三久ちゃんがいた、
一緒になって覗いてたみたいだ、これ位の子供にはショックだろうな、
と思ったら言い争っている2人の方へ自分から出て行った、大丈夫かな?
「もう決めたんだから・・・あ」
「二恵、いいかげん・・・に・・・」
「お姉ちゃんたち、どうしたのー?お腹空いたぁ〜」
やっぱり一番下の妹の前ではまずいと感じたのか、
ちょっとばつが悪そうにしている、慌てて取り繕っている感じだ。
もしこれを計算でやっていたとしたら、相当に頭の回る子だぞこれは。
「有人おにいさまもー、もうご飯だよー」
「う、うん、わかったよ・・・一美さん、じゃあ食べましょう」
「は、はいっ・・・ほら二恵も!有人さまの前ですよ!」
「・・・・・今晩はいらない」
「二恵!!」
逃げるように去っていく二恵さん、
それを戸惑いの表情でおろおろと見つめる一美さん、
そしてさっさと食卓の方へと行った三久ちゃん、僕も行こう。
「一美さん・・・」
「・・・・・・・・・・」
考え込んでいる、
あらためてこの家が『待ったなし』なのがよくわかるよ、
家族という点でも僕をここへ捕り込んでしまう事が、みんなを繋げる最後の手なのかも?
「・・・あら、お食事でしたわね」
「は、はいっ・・・」
「では、まいりましょう」
僕は・・・ここで何をしてるんだろう?
一美さんに完全に溺れてしまって・・・
いや、まだ逃げるチャンスはあるとは思うけど、
結局、僕は・・・単なる道具なのだろうか・・・じいちゃんの・・・
そして、この家の・・・・・!?
「有人さま?有人さま?」
「あ!すみません、今度は僕がぼーっと・・・」
「ふふ・・・思い出してらしたのですか?」
ひっ!また何かされないうちにさっさと行こう。
入れ替わりで三久ちゃんが出ていった、二恵さんを呼びに行ったのかな?
連れ戻せるといいけど・・・そして座ると隣には一美さん、ふ、ふたりっきり!
「ふふふふふ・・・」
「う・・・あの・・・その・・・」
と、すぐに二恵さんがやってきた、助かった・・・三久ちゃんがあっけなく連れて来てくれた。
「あの・・・二恵さん・・・」
僕の話し掛けにも答えず、
席について無言で食事を始めた。
「いただきまあーーーす」
「いただきます」
「い・・・いただき・・・ます」
今夜は洋食か・・・う、クリームシチューの白ささえ、
母乳を連想してしまう・・・やばい、一美さんに相当、毒されてるぞ・・・
精神を蝕まれているというか・・・なんて思っているそばから、僕の目の前に・・・!
「はい有人様、よく冷えたミルクですわよ」
「あ、ありがとう、一美・・さ・・・・ん」
うう、普通のミルクさえ、飲むのが怖いっ・・・
でも、せっかく美味しそうに冷やしてもらっているミルク・・・
どう見ても普通のなんだから、よし、これを普通に飲む事で、もう大丈夫だって自分の心に焼き付けよう!
「では早速・・・」
普通のミルク・・・
美味しいミルク・・・
一美さんの母乳じゃない、牛さんの、怖くないミルク・・・・・
ごく、ごく、ごきゅごきゅごきゅごきゅごきゅ・・・
「!!!」
甘さの薄い、妙にねばっこい味が舌に、喉に絡みつく!
飲んでから鼻を抜ける生臭さ、あきらかに市販のものでも、
また牛のものでもない味!でも味わった事がある!なぜならこれは、間違いなく・・・!
一美さんの母乳!!!
「あら、どうなさいました?」
「あ・・・・ぅ・・・い、いえ・・・その・・・」
「ほら二恵!足を上げて食べないの、行儀悪いでしょ?」
・・・なぜだろう、ここで『やっぱり普通のお水を』とか、
『ミルクの味が変だから別のを』とか言うなり、言わなくても席を立って、
冷蔵庫からお茶なりを自分で出せばいいのに、で、できない・・・どうして逆らえないんだ・・・
「・・・・・」
黙ってさらに一美さん特製ミルクを飲む、
ううっ、トランクスの中がすぐに、はちきれんばかりにビンビン・・・
まるで逆らえない魔法をかけられてしまったみたい・・駄目だ、飲んじゃ・・・駄目だあっ!!
ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごくごくごくごくごく・・・
「おかわりをお注ぎしますわね」
ど、どれだけ仕込んでるんだろう・・・
口内や喉、食道や胃まで、内側から犯されている気分だ。
怖い・・・怖いよお・・・でも・・・飲むのを・・・やめられ・・・ないぃぃぃ・・・・・
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めくる |