「あ・・・」 

 

ありがとう、と言いたかったが、 

もうすでに席についてしまった真雪に、 

僕は心でつぶやくしかなかった。 

 

ありがとう、真雪・・・・・ 

 

僕は真雪のノートで予習をする、 

とても綺麗な字、わかりやすい説明、

要所にカラーペンでラインが引いてあり、

あの難しい英文も完璧に訳してある。 

何より、僕のように八叉のオロチや杉平助の顔といった落書きがまったく描かれてない。 

これなら僕でも高得点が取れるかも?と、思わず笑みがこぼれる。 

 

テストが始まり、 

僕は早速、これさえやっておけば大丈夫、の英文を訳す。 

 

「えっと・・・TWO−MIXになりたーい!と夢見た少女がまず最初に始めたのが、 

名探偵コナンのコスプレ作り、しかしいざ完成してみると未来少年コナンの服装、 

コナン違いだと思いつつ、まあこれはこれでいいやと着て街を闊歩していると、 

目の前から王蟲のコスプレをした男がグゴゴゴゴーと迫ってくる、やばい! 

私はナウシカじゃない、いくら同じ宮崎アニメでも・・・と思うものの自然と口から 

『森が、森が怒ってる・・・』のセリフが、これぞ心は拒んでも体が求めてしまう状態、 

勢いのまま交尾を迫ってくる王蟲になんとか逃げようとしてあがいていると、 

後ろから大量の王蟲のコスプレをした男達が・・・」 

 

完璧だ、あれだけ難しい英文がすらすら訳せている、 

これも全て真雪のノートのおかげだ、 

真雪に感謝しながら僕はテストを無事に終えた。 

 

♪き〜んこ〜んか〜んこ〜ん♪ 

 

4時限目終了のチャイムが鳴り、 

昼食の時間になった。 

僕は英語のノートを手に、 

真雪の方へと歩み寄る。 

 

「ありがとう、助かったよ」 

「・・・うん、猫ちゃんなら、いつでも、貸してあげるから・・・」 

 

顔を少し赤らめてうつむく真雪、 

さらに顔を赤くしながら言葉を続ける。 

 

「猫ちゃん、それで、よかったら、お昼・・・一緒に・・・」 

「おにいちゃんっっっ!!!」 

「うおっ!!!」 

 

僕の背後から突然、

可愛い声がガバッと僕の背中に抱き着いてきた、 

僕は思わず声を上げてびっくりした。 

 

「なんだ瑠璃か、いきなりタックルしてくるなよなぁ」 

「ふふ、おにいちゃん、お昼ご飯一緒に食べよ、はい、お弁当♪」 

 

可愛らしいお弁当箱を僕に差し出す。 

 

「ああ、ありがと、じゃあどこで食べる?」 

「うーん、瑠璃、中庭がいいな♪」 

「今日は天気がいいからな、じゃあ行こう」 

「あ、真雪先輩もご一緒しませんか?」

 

いつのまにか暗い表情の真雪がほつりとつぶやく。 

 

「私は・・いい・・・」 

「真雪・・・」 

「おにいちゃん、さ、行こうよー」 

 

ルリーは半ば強引に僕を連れ出した。 

 

「おにいちゃんとお昼ご飯、嬉しいなー♪」 

「うーん、瑠璃・・・」 

「真雪先輩も一緒に食べればいいのにぃ」 

「うん・・・それはそうだけど・・・」 

「真雪先輩とお友達になりたいのになー」 

「きっとなれるよ、瑠璃なら・・・多分」 

「さぁ、はやく中庭へいきましょ♪」

 

本当の所、どうなのだろうか? 

真雪とルリーは、仲良くなれるのだろうか? 

うーん・・・その答えは僕にあるような気がする・・・ 

まだよくわからないけど・・・ 

 

「おにいちゃん、あそこ空いてるよ♪」 

 

中庭のベンチに座る僕とルリー、 

春の日差しがやさしく僕たちを包む。 

ルリーは鼻歌まじりに弁当箱を開く。 

 

「あいかわらず瑠璃の料理はおいしそうだなぁ」 

「おにいちゃんのために、腕によりをかけて作ったのだ☆」 

「朝、早く起こしてくれたら僕も手伝うのに」 

「そんなこと言って、おにいちゃん起きないくせにぃ」 

「はは、大丈夫だよ、今度は早く起きるから・・・」 

「いいのっ、おにいちゃんは、瑠璃に任せてほしいのっ!」 

 

仲の良い兄妹、 

を通り越して恋人同士のような会話に僕は楽しくなる、 

ルリーが来てからずっとこうだ。 

 

「おにいちゃん、はい、あーん♪」 

 

もどるめくる