「先生、日曜日も髪の毛をとかさせてくださいよ」  「もう、いつも駄目って言ってるでしょ?先生の部屋、ちらかってるから」  「じゃあ掃除してあげますから」  「そんなこと言って・・・あなただって体がもう大丈夫ならここ来ることもないのよ」  「そ、そんなぁ・・・先生がいるから、僕は1日もまだ学校を休んでないんです、中学の頃に比べたら信じられないことなんですよ」   そう、病気がちの僕は、  先生の髪を毎日といでいくうちにみるみる健康になっていった、  信じられないくらいに・・・これが「愛の力」とでもいうべきだろうか?    「あなたのとぎ方って、やさしい・・・これからもずっとといでくれるなら、一生伸ばそうかしら」  「はい、先生さえよければ一生といであげますよ」  「卒業したらどうするのよ?」  「それでもとぎに来ます」  「まあ・・・嬉しいわ、おせじでも」    おせじなんかじゃない、  僕は本気なのに・・・卒業したら立派に就職して、  先生に認めてもらおう・・・いや、大学の方がいいかな?    「はい先生、とぎ終わりました、椅子の背もたれの内側に髪の毛入れますね」  「どうもありがとう、はい、お駄賃に今日もお弁当作ってきたわよ」  「あ、今日はオムレツだぁ!いただきまーす」    僕はいつものように先生が作ってくれたお弁当を食べる、  うちの親が作るいいかげんな弁当では体質改善はできないと、  永井先生が僕の両親と話し合って、作ってくれることになったのだ、  こんなに良くしてもらっていいのだろうかと思う、体も調子良くなったし・・・  僕が先生のことがますます好きになっていくのは自然なことなのだろう。    「おいしい?」 「はい、おいしいです!もぐもぐ・・」  「先生も毎日、あなたのためにお弁当作るのが楽しくって」  「僕も毎日、先生のお弁当が楽しみです!」  「ふふ、じゃあ私たち、結婚したらベストカップルね」    僕は赤くなってうつむいた、  先生と結婚・・・夢のような話だ・・・    「だ、だって先生、恋人とかいないんですか?」  「昔はね・・・でも私、なんかものすごく嫉妬深いらしくって、男の人の方から逃げちゃうのよ」  「そんな、もったいない・・・」 「お前みたいな恐い女は御免だ!なんて言われたこともあるわ」  「信じられません、こんなにやさしい先生なのに」    確かに信じられない、  僕は永井先生が怒った姿なんて1度も見たことがない。  恐い女・・・先生にはそういう知らない1面があるのだろうか?    「はい、お茶、熱いから気をつけてね」  「ありがとうございます・・・ごくごく・・・」  「もうご飯食べちゃったのね」  「はい、いつもいつもおいしくって、すぐに」  「お口よごれてるわよ、はい、ふいてあげる」    まるで幼稚園児と保母さんのようだが、  永井先生にされるとちっとも嫌じゃない、  逆に嬉しいくらいだ・・・    「じゃ、じゃあ先生、肩と首をもませてもらいます」  「ありがとう、よろしく頼むわね」  「はい・・・あいかわらず硬いや・・・よいしょ・・・」      先生の後ろから長い髪の毛をかき分けて白い首をもみほぐす、  手が髪の毛の滝の中にすっぽり入ってしまっている・・・  もみもみ、もみもみと一生懸命、先生の首を揉み続けた。    「そこそこそこ、その筋・・・いいわぁー」  「ここですね・・・硬い・・・うんしょ、うんしょ」  「ごめんなさいね、もうすぐ30だから、すっかり肌も衰えちゃって」  「そんなことないです、全然若いですよ、まだまだ」  「だって、あなたが20歳のとき、私は32よ」    12歳の差・・・あらためて聞くと一回りも違うが、  僕には28から32になるからといって、そんなに変わりがあるとも思えなかった、  そうか、僕が25歳だと先生は37歳か・・・全然大丈夫、だと思う。    「いいですね、僕が20歳になったら32歳の女性と結婚したいです」  「・・・本気にするわよ」  「ええ、僕は本気ですよ、あ、次は肩をもみますね」 

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