コンコン  「食器を下げに来ましたー」 ハプニカ親衛隊・次女のリリさんの声だ。 ガチャッ 「失礼しますー・・・どうしたんですかー?ぽかーんとしちゃってー」 「いや、考え事を、ね」 「お皿とグラスをー・・・まあ、きれいに召し上がってー・・・」 「とってもおいしかったよ、ごちそうさま」 「それとー、ミル様がお会いしたいとおっしゃってましたよー」 ミル様・・・ミルちゃんか、なつかしい、 ハプニカ様の妹君で、戦争でも大魔術師として攻撃や治療に大活躍した功労者だ。 「ミル様ですか、それは俺もお会いしたいです」 「そうですかー、ぜひお部屋にいらしてくださいということでしたよー」 「じゃあ、お邪魔しようかな」 ルルさんに案内され、ミル様、いやミルちゃんの部屋の前に来た。

コンコン 「ミル様、お連れいたしました」 「はい」 中に入ると机に向かって座っている背の低い女の子が、 くるりと回ってこちらを向いた、かわいらしい少女・・・ ハプニカ様の妹、ミルちゃんだ。 「これはこれはミル様、ごきげんうるわしゅう・・・」 「もう、おにいちゃん、かたっくるしい言い方はやめてくださいー」 「ご、ごめん、ミルちゃん・・・どう言っていいか・・・」 「おにいちゃん、お久しぶりです」 「お久しぶり、元気にしてた?」 「うん!!」 このミルちゃん、 とっても俺になついてくれている、 戦争の最中もハプニカ様がみんなを引き締めたのと対照的に、 ムードメーカーとしてみんなを盛り上げてくれた、アイドル的存在だ、 俺の所へもおにいちゃん、おにいちゃんと言ってよく緊張をなごませてくれたものだ。 「おにいちゃん、お姉様に会いにきてくれたのぉ?」 「うん、いろいろと、ね」 「じゃあ、お姉様と結婚するんでしょ?」 「え?う、うーん・・・どうだろ」 「お姉様、まだ言ってないのぉ?」 「ううん、言われたよ、結婚してって」 「じゃあ、おにいちゃん、これからお兄様だねっ」

にこにこ微笑んでいる、 ミルちゃんはやっぱり子供だなあ、 なんせハプニカ様とは10も歳が離れているから・・・ 「あれ?何か書いてたの?」 「そうなの、あの戦争を思い出して、伝記にしようとおもってぇ」 「へえ、じゃあそっちの本は?」 あわてて机の上の本を伏せるミルちゃん。 「こ、これは見ちゃ駄目!」 「そんなに恥ずかしい本なの?」 「これは戦争中、ずっとつけてた日記なのぉ」 「初めて聞くなあ、日記つけてたなんて」 「あとで平和になったら本にしようと思ってぇ」 結構しっかりしている。 「でぇ、おにいちゃんは、お姉様といつ結婚するのぉ?」 この城の女性はハプニカ様も含め、 俺が絶対に断らないと信じ込んでいるようだ。 「・・・結婚しないって言ったら?」 「えー、そんなの嘘ー」 「まだ迷ってるとしたら?」 「おにいちゃん、迷ってるってことはきっと結婚するよぉ」 ・・・ミルちゃん、案外するどいのかも? 「じゃあ、結婚しない」 「あーん、おにいちゃんの意地悪」 「ごめんごめん、そんなにむくれないで」 「じゃあ、お姉様と結婚してくれる?」 「・・・そういえば、なんで知ってるの?プロポーズのこと」

ミルちゃんは日記を手にとり、 にやにやしながら中を覗き込んでいる。 「お姉様、おにいちゃんのこと・・・くすくすくす」 「ちょ、ちょっと、何が書いてあるんだ?」 「お姉様と結婚してくれたら教えてあげるー」 ・・・無邪気なミルちゃんとはいえ、 こう何度も結婚結婚と言われると、 少しうんざりしてきたぞ、あの4姉妹といい・・・ 「じゃあ、結婚しないから教えなくてもいいよ」 「え、えー?じゃ、じゃあ教えたら結婚してくれますかー?」 「ミルちゃんは無邪気だね、いっそのことミルちゃんと結婚しようかな」 「えええええーーーーー!?」 「・・・・・冗談だよ」 くしゃくしゃっとミルちゃんの頭をなで、 俺は部屋を出ようとノブの手をかけた。 「おにいちゃんの・・・意地悪ぅ」 「はは、またね」 部屋を出ると丁度、ティーカップを2つトレイにのせたリリさんが来た。 「もうお戻りですかー?」 「ええ、その紅茶はミルちゃんとリリさんでどうぞ」 「はいー・・・ではお言葉にお甘えしてー」 リリさんとはすれ違い、 そのまま元の客間へと戻る。

廊下を歩きながら考える、 やはり俺の推理は間違いなさそうだ、 あれだけみんなでよってたかって「結婚、結婚」とせかしてくるのは、 やはりこの国に平和の空気を広めるための、政略結婚に他ならない・・・ 俺の意志なんで、もうどうでもいいのだろう、形さえ整えれば・・・ハプニカ様がそんな人だったとは・・・ 正直言えばショックだが、でもそれは攻められないことなのかもしれない、 俺だって同じ立場だったら、好きでもない女性と結婚するかもしれないし、その時はできるだけ幸せにしてやりたいと思う。

・・・あれ?俺の部屋の前に誰か立っている、 あの長身・・・あの長い黒髪・・・あのスタイルは・・・・・ 俺はその女性に話し掛けた。 「ハプニカ様、どうなされたのですか?武装なされて」 「ああ、その・・・もしよければ、散歩でもせぬか?」 「いいですが・・・その格好は少々堅苦しいですね」 「いやその・・・どういう服が良いかわからなくて・・・着替えてくる」 「そのままでいいですよ、その方がハプニカ様らしい」 「それは・・・喜んで良いのか」 「ハプニカ様はハプニカ様な方がいいですよ、無理なさらず・・それでどこへ?」 「うむ、着替えてついてきてほしい・・・」 ハプニカ様は城の上の方へ着替えおわった俺を連れて行く、 あれ?散歩って、城の中なのだろうか?と思っていたら・・・・・

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