「何がおかしいんだい?」 「だって、これから王様になられるんですよね?」 「こういうのも私たちの立派な仕事なんですよー」 「この国の国王になるんだから、これぐらい当然だよ」 「毎日やってもいいですよぉ、ほんとにぃ」 その言葉にびっくりした。 「え、もうそういうことになってるの?」 「だってハプニカ様からプロポーズされたんですよね?」 「やっぱりすぐにOKしたんですかー?」 「まさか断るなんて言ってないよな?」 「王様ぁ、よろしくお願いしますぅ」 この4姉妹、もうすっかりその気だ。 「待ってくれ、まだ俺は何も決めてない」 「え、そうなんですか?」 「ど、どうしてですかー?」 「何か不満でもあるのか?」 「し、信じられないですぅ!」 4人いっせいに顔を近づける。 「い、いや・・・君たちはそれでいいのか?」 「異存はありませんが」 「問題ないと思いますー」 「反対する訳ないよ」 「結婚してくださーい」 やいのやいのうるさい。

「でも、ハプニカ様はなんで俺を・・・」 「ハプニカ様はずっとあなたのことを御慕いしてたんですよ、 ただどうしても戦争中はそれを表に出す訳にはいかないので・・・ 気付いていたのは私たちとミル様だけだと思います」 「たまにあなたの方をじーっと見つめてたんですよー、 でもそれだけ・・・あの戦争中にできる事といったらそれだけでー、 あとはそれがまわりに気付かれないようにずっと想いを胸に押し殺していたんですよー」 「別に鈍感って訳じゃないと思うから安心しな、 私たちだって気付くのにずいぶんかかったんだから・・・ 相当前から目をつけてたみたいで、ひょっとしたら最初に会ったときからかも」 「ハプニカ様は戦争が終わってすぐにでも告白したかったみたいですぅ、 でもすぐに国に戻って復興しなくちゃいけなくってぇ、あわてて発つことになってぇ、 気持ちだけでも伝えようとしたんだけどぉ、もうすでに・・・あのあとどこへ行ってたんですかぁ?」

あのあと・・・戦争が終わった直後・・・ 俺は真っ先に、沈んだ我が故郷に報告に行った・・・ 1分1秒でも、我がふるさとに伝えたかった、「全てが終わった」と。 その後、セルフ様のいるアバンス王国へ行って、 逃げ延びてきたモアスの生き残りをそのまま住まわせていただくようにお願いして、 さらにあちこちの国にも同様のお願いをしてまわって・・・ モアスの生き残りは港町に散らばっているので、どうしてもそっちを優先して挨拶回りをすることになり、 結局、山の中にあるこのダルトギア王国のガルデスシティには、 いくら大都市といえどモアスの民がいるとは考えられず、 セルフ様の伝言係の用事がなければ来なかっただろう、 結局最後に回ることになって・・・1ヶ月もたってしまっていた。

「どうなさいました?考え込んでしまって」 「迷うことないですよー、ハプニカ様、とってもやさしいんですからー」 「そうだよ、別に他に恋人がいる訳じゃないだろ?だったら、さ」 「お願いしますぅ、王様になってくださぁい、王様、王様、王様ぁ」

うーん、うるさいぞ・・・ 「ハプニカ様は俺のどこが気に入ったんだろう」 「そ、それは・・・えっと」 「そうですねー、うーん」 「それはハプニカ様が知ってるよ」 「えー、わかんないよぉ」 もういいや 「ありがとう、もう下がっていいよ、ご苦労様」 「は、はい、それでは失礼いたしました」 「あとで食器を下げに来ますねー」 「何かあったらすぐに呼んでよね」 「おじゃましましたぁ」 連なって出て行く4姉妹、 バタン、とドアを閉めたとたん静かになる。

「・・・・・ふぅ」 俺は残りのアップルパイを頬張りながら再び考えた、 あの4姉妹はあんなことを言っていたが実際はどうなのだろう、 こんな夢みたいな話・・・いや、夢のままな確率の方が高い、本気にしない方が・・・ きっとハプニカ様のことだ、何か考えがあって俺と結婚したいと言ったに違いない、 でも俺と結婚して、何があるというのだ?この国に俺を置いておく理由・・・うーん・・・何だろ。 この国はまだ復興が始まったばかりだ、 ハプニカ様を女王にして活気づいている、 そこに俺と結婚となれば・・・さらに活気づくのだろうか? ハプニカ様は俺を英雄と言った、真偽は別として国民全員そう思っているとしたら、 女王と英雄の結婚・・・その英雄が新国王・・・ふむ、確かに国民は喜ぶかもしれない。 ハプニカ様は策略家だ、そういった計算で俺を置いておく可能性もあるかもしれない、 国のために、平和のために、俺と結婚する・・・ハプニカ様の性格からするとありえるかも。 しかし俺の知ってるそのハプニカ様の性格って、あってるのだろうか? よくよく考えると俺はハプニカ様の深い性格など、何も理解していないのかもしえない。 冷静で真面目で正義感が強くて、かと思うとここ1番の時には激しくなる・・・・・ふぅ・・・ ということは、やはりハプニカ様は俺のことを愛してないということになる、 まさに政略結婚っていうやつだ、そこまでして、俺と一緒になるメリットがあるというのならば、 自分の感情を殺してまで、国民のために、景気を上げるために、英雄であった国王を作り上げる・・・ 俺が一緒に戦ったあのハプニカ様なら、ありえない話ではない、俺の知っている限りでは。 そう考えると、何もかも説明がつくぞ・・・この考えで合っているかも? ハプニカ様のぼろぼろ流したあの涙、迫力があったが、 今考えるとあやしいものだ、ほとんど涙を出さないあのハプニカ様が、 あんなに取り乱すなんて、どう考えても不自然すぎる、あれも芝居なのだろうか、 そうだ、きっと芝居に違いない!あとは魔法をかけたかアイテムを使ったか尻をつねったか・・・ なるほど、これで結論が出た、あやうくすっかりその気になってのぼせ上がる所だった、うーむ・・・

じゃあ、俺はどうすればいいのだろうか? ハプニカ様は俺からしてみれば世界一の美女だ、 あらゆる意味で完璧な、完全無比な、史上最高の女性・・・ そのハプニカ様のお力になれるのであれば、たとえ見せかけだけの結婚でも、 これほど幸せなことはないのかもしれない、光栄なことではある、だけど・・・それが俺に務まるのか? 俺にはもう帰る場所などない、 ここでハプニカ様のために、張りぼての国王として生きていくのもいいだろう、 「何もしなくてもいい」と言っていたのは、そういうことか、俺には何も期待してないということなんだな、 でも・・・でも、もしそうやって生きていくとしても、本当に何もしないのでは申し訳ない、いくら期待されてないとはいえ、 もしもの時はハプニカ様を支えてあげたいし、本当に認めてもらえる男になりたい、そしていつしか本当に愛されてみたい。 そのために、俺にできる事・・・ 本当にハプニカ様を守ってあげられることを証明する・・・ どうすればいいのだろうか、闘うにしても、もう戦争を終わってるし・・・もっと活躍しとくんだった。

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