「うわあ、本当に綺麗だ・・・」 翌日、遅い朝食を食べ終えた俺はハプニカ様に誘われて別荘の屋上へ出た、 別荘自体が3階建てとはいえどかなり高い建物なため、塀のようになっている木の淵の外が見渡せる、 そこは360度、雲の海・・・本当にここは海に浮かぶ島のようだ、懐かしい・・・  俺は生まれ故郷のモアス島と思い出す、この雲の海に飛び込んでしまいたいほどに・・・ この絶景に心を奪われているとハプニカ様はそっと設置されてある大き目のハンモックに腰を下ろした。 「今日はここで一日中、横になっていようではないか」 「は、はい・・・」 「さ、来るのだ、まだゆうべの疲れも残っておろう」 た、確かに・・・まだ腰の疲労が抜けていない・・・ 誘われるままハプニカ様とハンモックに横になると、 そのままハプニカ様は俺をまるで子供のように胸に抱く・・・ ギシッ、ギシッと縄の音が揺れ、心地よいゆりかごのように・・・ モアス島とともに沈んだ母を思い出すようだ・・ハプニカ様の胸、やさしい香り・・・ 「・・・そなたのその表情、嬉しいぞ」 「え・・?」 「その安らいだ表情・・そなたは今まで、私に心から信頼した表情を見せてもらえなかった気がするのだ」 「そうで・・すか?」 「ああ・・だが今、はじめてそなたの心から安らいだ表情を見た気がするのだ・・」 確かに俺はずっとハプニカ様を疑っていた・・・ 本当に俺を愛しているのか?本当は俺を心から愛してはいないのでは?と・・・ いくらハプニカ様や4姉妹たちと愛欲の宴を繰り広げても、心からの信頼、安らぎは無かったのかもしれない。 でも・・でもハプニカ様がこう言うということは、俺は今、ハプニカ様を信頼している・・・? 確かに俺はハプニカ様の胸の中でこうして素直に甘えている、この素直さは確かにはじめてかも・・・ 「・・・さあ、どうしようか・・私の話でも聞いてくれるか?」 「話・・ですか・・」 「ああ・・それともこうして何も言わずただ、幸せに浸っているだけでも私は良いが・・」 「幸せ・・ですか・・・」 「そうだ・・私は・・・幸せだ・・・」 幸せ・・・ 愛する人と時を過ごす幸せ・・・ この幸せ、思い出すのは俺がガルデル城を出る前に、 夜通しハプニカ様とただ、ただ抱き合っていた時の幸福感だ・・ 時が止まっても良いと感じた、一生忘れないと誓った、あの人生最高の幸せ・・・ それがまた、こうして訪れているんだ・・・ 「そなたの髪を、背をなでさせてもらうぞ・・・」 あああ、ハプニカ様のやさしい手つき・・・ やわらかくも暖かい日差しの木陰でハプニカ様に愛でてもらっている・・・ まさに恋人同士のように・・まるで、まるで夢の世界のようだ・・・・・ 「そなたには・・もっと私を知って欲しい・・」 「ハプニカ様を、ですか・・・」 「そうだ、聞いてくれるか?私の事を・・」

ハプニカ様はやさしく語りはじめた、 幼い頃の思い出、戦争前の父や母や兄や妹・ミルちゃんのこと、 少女の頃から白竜と遊んでいたこと、教育係に淡い恋心らしきものを抱いていた思い出・・・ はじめて武術大会で優勝した時の喜び、戦争が起きて母が殺された事、父や兄を止められなかった後悔・・・ 楽しい事も悲しい事も、幼いときの事から俺と会ってからの事まで、何から何まで話そうとしてくれる・・・ 地上にいた時はここまで話を聞く時間はなかった、本当に忙しそうだったから・・・ こう一生懸命、ハプニカ様に話してもらうと想いが伝わってくる・・俺への・・想いが・・・・・

そうしてハプニカ様との甘い時間は過ぎ、 ミルちゃんが運んでくれた昼食を挟んで日も傾き、 やがて夕方になった・・スバランの木には沢山の白竜が戻ってくる・・・ 「・・見よ、まわりを・・・」 「わあぁ・・・すごい、これは・・・」 雲海が夕日で紅く染まる、 その幻想的な景色はここがまさに天国に思える、 その雲間を割って戻ってくる白竜はさながら天使のようだ・・・ そう、恐くさえ感じていた白竜も今や天使に見える、ハプニカ様にしてもそうだ、 完全無比の強い女性だと思っていたのに、こんなに甘い甘い女性だったなんて・・・・・ 「俺・・綺麗すぎて・・・心が洗われるようです」 「そうか・・」 「はい、心が・・癒されます」 「それを聞いて安心したぞ・・・」 「でも・・その、幻想的すぎて・・幸せすぎて・・少し恐いです」 「恐い・・・・・?」 「ええ、その、ひょっとしたら俺はあの時・・実は目を覚ましていなくて、ずっと夢を見続けているんじゃないかと・・」 「つまりここが夢の中、と?」 「そうです、ここがまさしく天国のような環境だから・・ひょっとして実はもう死ん・・・」 きゅうっ、と俺を強く抱くハプニカ様・・・ 「夢であるものか・・そなたは今、現実に私の胸の中にいるのであるぞ・・・」 「そ、そうですね・・」 「夢ではない・・このぬくもり、夢にしてたまるものか・・夢で終わらせてたまるものか・・・」 ハプニカ様に抱きしめられる感触がいつもに増して心地よい・・・ ハプニカ様の想いが俺に伝わってくるようだ・・素直にそれを感じる・・・ この楽園では、俺はハプニカ様を・・・疑う事が、もう、できないかもしれない・・・・・ 「お姉様ぁ、おにぃちゃぁん、夕食ができたよぉ」 「ミル・・もう、そんな時間か」 「あたりも暗く・・なってきましたね・・・」

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