別荘の中は古めかしくも落ち着いた雰囲気で、 しばらく住む人がいなかったためか少し寂しい雰囲気が漂う、 しかし生活感がまったくないという訳ではなく・・まさしく隠れ家といった感じだ。 静かな室内、メイドや衛兵は1人もいないようだ、窓の外はやわらかい日差しが・・・ なんだか心底リラックスできそうな別荘だ、まさに時が止まった楽園といったような・・・ 「ここがリビングだ、まあ座るがいい」 「はい・・それにしてもびっくりしました、ズバラン山脈の頂上にこんな場所があるなんて」 「おにぃちゃん、すごいでしょ?ここをしっているのは王族だけだよぉ」 「うん、ハプニカ様から聞いた・・・ここなら大戦の時も安全だったのでは?」 「そうだ、実際、大戦中も父の目を盗んでもし我が血脈が途絶えたときのための遠縁を住まわせていた」 「へえ・・・そうですよね、そういう可能性もありましたから・・で、今は?」 「私たちだけなのぉ、隠居してきたからぁ、ここにずっと住んでいいことになったのぉ」 「ここに・・・住む?」 「そうだ、私たちは疲れた・・もう疲れきってしまった・・・だから、ここで余生をおくる事もできる」 「そんな、ハプニカ様はまだ25歳ではないですか!ミルちゃんなんて15・・・」 「私はぁ、おにぃちゃんと一緒にいられるならどこでもいいのぉ」 「えっ!?」 俺の胸に潜り込むミルちゃん。 「おにぃちゃん、ミル、おにぃちゃんと一緒に行くぅ、ついてく事に決めたのぉ」 「ミルちゃんまでそんな事を!?」 「・・・ミル、それはミルだけでは決められる事ではあるまい」 ハプニカ様も俺の横で迫ってくる。 「・・もちろん私もそなたについて行きたいのだが、それはそなたの決める事だ、 とりあえずここへは私の白竜でしか来れぬ、邪魔者はおらぬ、1週間ほどここで身を隠し、 4姉妹の目の届かぬ所へ送ろう、私達がついて行ってもよいか、その時に決めてほしい」 「1週間ですか・・・」 「ああ、今すぐ行っては追われてしまうかもしれぬゆえ・・・」 「念のためだよぉ、それまでおにぃちゃんのお世話、ちゃんとするねぇ」 「・・・ちゃんと逃がしてくれるのですね?」 「もちろんだ、私達の心配はいらぬ、そなたと別れてもここでミルと幸せに暮らすつもりだ」 うーん、俺はハプニカ様に助けてもらった・・・のか!? なんか、強引に連れ去られたような気がするのだが・・・ 「とにかく今はここでくつろぐがよい」 「はぁ・・・」 「おにぃちゃん、またミルの日記聞いてくれるぅ?」 「う、うん・・・」 「では私はここの掃除をもう少しするとしよう」 そう言いながら微笑んだハプニカ様は・・・ 何かふっきれたというか、心からとても嬉しそうに思えた。

「・・・ミルちゃん?」 「くー・・・くーー・・・」 「・・・寝ちゃった」 日記を読みつかれて眠るミルちゃん・・・ まだ昼下がり、暖かい日差しが眠気を誘う、 俺も眠くなってきた、ここにいるとなぜか全身の力が抜ける・・・ ミルちゃんを起こさないようにそーっと部屋を出て、別荘の表へと出る、 真上にはいくつもの木が揺れ、その間から流れる雲と眩しい太陽が覗かせる、 まわりを見ると・・・本当に何もない、ただの木の地面が広がっている、いや、 その地面の端に木の枝がまわりから伸びてすり鉢場になっている・・・その端の方へ行ってみる。 ・・・なるほど、端の方へ行くと木の斜面の角度がだんだんと急になり、登りきれず外を見る事もできない、 まるで天然の城壁で守られているような・・・逆を言えば天然の牢獄のような気もしないではないが。 木を登ろうにも傾斜がきついうえ昇る足場がない、外の景色、というか下の景色を見てみたかったのだが・・・ ・・・チロチロチロ・・・ あれ?水の流れる音がする・・・ 音の方へ行く・・・木の大きな裂け目を見つけた、 その中に水の流れが・・・どうやらこの木のさらに上から流れて来てるみたいだ、 これだけ大きな木なんだから、木の全体に水が流れているんだな、まるで血液のように・・・ 本来なら空気もほとんどなく、とてつもなく寒いはずの高度なのにこんな楽園のような環境になっているのも、 全てこのスバランの木のおかげか・・・でも水はあっても食べ物は・・・!? ドスッ!! 背後に物音が!何だ!? と振り返るとそこには・・・木の実だ、 赤く大きな林檎のような・・・よく見渡すと他にもいろんな色や形の木の実が・・・あ、ハプニカ様が来る! 「どうした、散歩か?」 「はい・・・外の景色を見たかったのですが・・・」 「別荘の屋上からなら見渡せるぞ」 「そうですか・・あと、この木の実は、食べられるのですか?」 「もちろんだ、スバランの木の実は種類・栄養豊富、全て美味であるぞ」 ・・・ガサガサガサ!! 「な、何かいる!?」 「心配いらぬ、あそこを見よ」 「あそこ?・・あ、白竜!あれ!?」 ハプニカ様の示した方法、 木の枝の上の方を見ると・・・ 白竜がいる、しかも、何匹も・・・!? 「白竜の親子だ」 「本当・・あ、あっちにも!」 「あそこにいるのが私の白竜だ、丁度子供に餌をあたえておる」 「本当だ、小さい白竜が3匹・・そのとなりの大きいのは、白竜の奥さん?」 「そうだ、この場所は元々は白竜の棲み家なのだ、今も200匹ほどの白竜が住んでいる」 「なるほど、そうだったんですか、気づかなかった・・・よく見るとちらほら上にいますね」 「白竜は平らな場所は本来好まぬからな、皆、上の枝にいる」 「恐く・・・ないですか?」 「よく見るがよかろう」 言われた通り、ハプニカ様の白竜をよく見る・・・ なるほど、あれだけ迫力があって恐いと思っていた白竜も、 奥さんと子供の前では、やさしい顔つきになっている、親しみさえ感じる・・・ 「そなたが恐れていた山の神も、真実はこのようなものだ」 「そうですね、白竜への考えを改めさせられました」 「ダルトギアの民も同じだ、戦いが全てではない」

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