「まさか・・・」「この国の国王になってくれぬか」 「私には無理です!国王なんて、私にはそんな力は・・・」 「そなたは何もしなくていい、この城の皆が全てやってくれる」 「じゃあ、ハプニカ様はどうなさるのですか?」 「当然、私は王妃につく」「・・・えっ!?」 ハプニカ様は髪をなびかせつつ、 スタスタと俺の方へ歩いてくる、 そして近くまでくると真剣なまなざしで言った。

「どうか・・・私と結婚してくれぬか」 「はっ・・・ハプニカ様っ・・・!!」 「ずっとそなたに目をつけていた・・・私では不満か?」

ハプニカ様はそっと俺の手をとると、 腰をかがめ、俺の手の甲に・・・・・キスをした。 そして手を離すと再び俺の目を真剣に見つめる・・・ 「ハプニカ様・・・私は・・・そんな器の人間ではありません」 「何を言う、世界中に知れ渡る英雄ではないか」 俺は目を逸らすように自分の手の甲にうっすらついた薄紅色のキスマークを見つめる・・・ 「私はこの国の者ではありません」 「住めばそなたも立派なこの国の者だ」 「ハプニカ様だからこそ国民は慕っているのでしょう、私では無理です」 「そなたの事は国民みんな尊敬しておる、無論、私もな」 「私に国を動かす技量などありません」 「それは私や大臣が全てする、おぬしは何もしなくてよい」 「・・この国最大の特産物は天馬や飛竜です、それに乗れない国王だなんて・・・」 「私が1から教えよう、難しいことなどない、事によれば私がすべて操る、そなたは後ろに乗っているだけでよい」 「・・ハプニカ様がよくても、妹のミル様やあの親衛隊、それにこの城の方たちが・・・」 「この城の今の王は私だ、大臣に文句は言わせぬ、ミルや天馬4姉妹も喜んでくれよう」

俺はため息を1つついて、 一番胸に溜まっていた言葉を押し出した。 「・・・この国と・・ハプニカ様には・・・それ相応のふさわしい方がいらっしゃるはずです」 「どういう意味だ?」 「私にはもったいなさすぎます、もっとハプニカ様を支えられる方でないと・・・」 俺の言葉が言い終わらないうちに、 ハプニカ様が髪を振り乱して俺に詰め寄った。

「私にはそなたしかおらぬと言っておるのだ、 私が一緒になりたいのはそなただけ、誰がふさわしいかは私が決めることだ! もったいない?そなたは私にとって最高の宝石、その自分を卑下するということは私を侮辱することになるのだぞ、 もしそなたが私より格が下でつりあわないというのなら、私がそなたと同じ身分になろう、 その時はもうこの国など知らぬ、それだけの覚悟でそなたと結婚したいと言っておるのだ、 国のためではない!私の心が・・・そなたを求めておるのだ!!!!!」

怒涛のごとく俺に言葉をぶつけたハプニカ様、 あのクールなハプニカ様がこんなに熱くなったのは・・・ 戦争中、まれにしか見たことがない・・・5・6回ぐらいだろうか。 肩で息をはぁはぁさせながら、うつむき、唾を飲み込んで、 再び俺を見つめて言う。 「私を支えられないというなら・・・その分、私がそなたを支える・・・ 普通の夫婦が普通に支え合う倍、いや、何倍、何十倍も、そなたを支え・・・愛する・・・ そなたがそばにいてくれるだけで・・・私には・・・何よりの支えだ・・・・・」

驚くべき光景・・・ ハプニカ様が両目からぼろぼろと涙をこぼしている・・・ 決して、誰にも涙を見せたことのないハプニカ様が・・・ いや、戦争中、たった1度だけ泣いた事がある。 ・・・それはこのダルトギア王国で、敵についていたハプニカ様の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーを、 ハプニカ様が自らの剣で倒した時・・・その時、つーっと一筋の涙が流れたが、すぐに拭き取ってしまった。 その時でさえ、1筋しか涙を流さなかったハプニカ様が・・・ 決して人前で涙を流そうとはしないハプニカ様が・・・ まわりの傭兵の目など気にもせず、俺にすがって号泣している・・・・・

「・・・・・う・・・すまない・・・取り乱して・・・しまった・・・」 慌てて涙をぬぐうハプニカ様、傭兵が慌ててタオルを持ってきた。 声が震えている・・・こんなハプニカ様・・・ハプニカ様じゃないみたいだ・・・ 「・・・そうだな、突然結婚してくれと言われても・・・ 本当にすまない、自分よがりであった、そなたの気持ちも考えず・・・ どうか今晩はゆっくりしていって、そして考えてほしい・・・」 涙をタイルでぬぐいながら、玉座へと戻るハプニカ様。 「・・・最後にもう一度だけ言う・・・私は本気だ・・・」 「ハプニカ様・・・」 「おい、客室にご案内さしあげろ、決して失礼のないようにな」 「はっ!!」 俺は傭兵に連れられて玉間を後にする、 最後に1度深く頭を下げて・・・

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