☆女王の壮大な愛☆

「よくぞいらしてくれた、礼を言うぞ」 玉座に座る凛々しくも美しい長身の女性、 腰の下まではある長髪を揺らしながら、 やさしくも嬉しそうに俺に語り掛ける。「一言連絡をくれれば迎えの竜を出したのに・・・ ここまで登ってくるのは大変であったろう」 「はい、思ったより高い場所にあって・・・でも良い運動でしたよ」城の窓からたくさんのドラゴンや天馬が飛び交うのが見える、 確かに空を飛んで来れば楽だった、こんなに歩くには距離があったとは・・・ 実は俺の足の裏にはすでにマメがいくつかできてつぶれている。「竜とまでいわなくてもせめて馬ぐらいは・・・ あ、そなたは馬には乗らない主義であったな、失礼・・・」 「いえ・・・ふもとから見るぶんには近く感じたんですが、こんなにかかるとは・・・」

飛竜が飛び交うズバラン山脈、その一際高いガルデス山の中腹にある巨大な都市、 それがこの国・ダルトギア王国の首都、ガルデスシティである。 その中心にあるのがここガルデス城・・・ふもとからは近く見えたのだが、 やはり歩いて来るにはかなり無理があったようだ、丸2日もかかってしまった。

「門番もびっくりしていたぞ、そなたの名を聞いて・・・ はじめは冗談だと思ったらしい、機嫌を悪くしていたら詫びよう」 「・・・ハプニカ様にそんな言葉をかけていただけるなんて光栄です」 この容姿端麗、知的でありながらしなやかで力強くもある完璧な美女こそ ダルトギア王国の新女王となった、ハプニカ様である。

「どうもこの玉座というのは座りごこちが悪い・・・肩がこる」 「そうですか、でもハプニカ様に相応しい場所に思われますが」 「・・・これもあの戦争のせいだ、あの大戦はいろんな物を失ってしまった・・・」

先の大戦で魔に操られた敵将・ザムドラー率いるスルギス王国と同盟だったこの国は、 前の国王であったハプニカ様の父・ジャイラフ王と兄・ジャヴァーの凶行により、 当初は敵側について罪の無い民衆を苦しめていた。 それに反発したハプニカ様は妹のミル様と部下の天馬騎士4姉妹を連れ、 我ら解放軍に加わり共に戦ったのであった。

「それで今日はわざわざこんな高地まで何をしに?」 「一応、各国に平和になったお礼の挨拶回りをと思いまして・・・ ついでに伝言役みたいなのをやっております、これを・・・」 俺は解放軍リーダー・アバンス王国の国王に就任したセルフ様からの手紙を、 ハプニカ様に手渡した、内容は各国の平和条約制定についてである。

「ふむ、セルフもいろいろ大変だな、戦争が終わっても休む暇が無いと見える」 「お言葉ですが・・・ハプニカ様もこの国に戻って不眠不休で再興に尽くしてらっしゃると聞きました」 「私は仕方あるまい、父や兄のつぐないがあるのだから・・・それよりそなたは?」 はあ、私には・・・帰る場所なんてありませんから・・・」 「だが各国に散らばっておるのであろう、モアスの生き残りが」 俺はかつて海上都市と呼ばれたモアス島のモアス王国の騎士だった、 しかし敵の魔法攻撃により島ごと沈められてしまい、母国を丸ごと失ってしまった・・・ かろうじて逃げ延びた旧島民が世界中の港町でなんとか生きている。

「今更集まってもらっても何もできませんよ、 もう国王も島も、何もかも沈んでしまったんですから・・・」 「ではそなたが新たな土地で新モアスの国王になるがよかろう」 「そんな・・・私は一介の騎士です、そんな器ではありません」 「何を言っておる、あの戦争の影の功労者はそなたであろう、そなたがいなければ・・・」 ハプニカ様はこんなことを言っているが、 俺は闘いの作戦を練ったぐらいで戦闘の実績はあまりない、 その作戦会議もここにいるハプニカ様が考えた奇策や罠が功を奏しただけで、 俺は昔、本で読んだ作戦の受け売りを言っただけ・・・ ハプニカ様が緻密に計算した策略や罠に比べたら俺なんて、 はっきり言ってたいして役になっていなかっただろう。

「・・・少なくとも私はそなたをセルフと同等・・・いや、それ以上の働きをしたと思っている」 「そんな、誉めすぎですよ、もったいない・・・」「私は真剣だ」 真剣なまなざし・・・ このハプニカ様こそ、本当は1番の功労者なのであろう、実際、 リーダーだった15歳のセルフ様をはじめ、解放軍は10代後半から20代前半のメンバーが多かった、 かくいう俺もまだ20歳になったばかり、そんな中で26歳のハプニカ様は、 部隊のよきアドバイス役として、ある時は母として、ある時は姉として、やさしくきびしくみんなを取りまとめた、 場合によってはリーダーのセルフ様にさえ平手打ちをくらわせたほどである、 それだけみんなに信頼が厚く、またここぞという時のハプニカ様の激がみんなの力の源となった。

「では、そなたはこれからどうするのだ?」 「そうですね、今はとりあえず各国を廻って解放軍に参加してくださったお礼を言いに行っていたのですが、 それもこの国で最後ですし、伝言役の仕事ももうハプニカ様のお返事で終わりでしょうから、 セルフ様の所へ戻ったら、そのままアバンスに住もうかなと・・・」 「ほう、アバンスの城で官僚 にでもつくのか?」 「とんでもない、平和になったことですし城下町で道場でも開こうかと・・・」 「そんなこと、セルフが許すはずなかろう、それ相応の仕事があるに違いない」 「確かにセルフ様はそういう感じの事を言ってくれていましたが・・・私には・・・」

玉座から立ち上がり窓辺に移動するハプニカ様、 行き来するドラゴンを見つめながらこう切り出した。 「・・・では、この国に残ってはくれぬか」 「は?」「私の力になってほしい」窓からさーーっと風が入ってハプニカ様の長髪をなびかせる。 「この国に・・・ですか?」「そうだ」 「しかし私にできる事などもう何も・・・竜や天馬には乗れないし、 剣の腕もこの国には私よりうまい人はいくらでもいるし、 あとは・・・戦術などの講師ぐらいですか、でもそれはもっと専門家が・・・」 「そんなことはさせられぬ、そなたに失礼だ」 「では、私に何を・・・?」

さらに強い風が吹いた、ハプニカ様の髪がぶわっと持ち上がる・・・ 流れるような綺麗な黒髪だ・・・・・ 「そなたにしかできない事だ・・・」 「何をすれば・・・いいと?」 「何もしなくてよい、ただ、そこに座ってくれるだけで」

くるりと振り返り、 スラッと長い腕を伸ばす・・・ その先にあるのは・・・・・玉座だ。

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