「それで私、どれくらいここにいた?現実の時計、止まっちゃって・・・」

少女は止まった懐中時計を持ち上げて振り子のようにぷらぷらさせる、 僕は計算をはじめた。

「えっと、2週間です、ですから14日、それを秒に直すと、 3600秒が1時間だから、24時間は86400秒で、1209600秒、 1秒が1000万年ということは・・・あ・・・ははは・・・・・」

僕は気を失いそうになった。

「そんな所ね、でも前に地上に出た時は1ヶ月以上こっちにいてからだから、 そんなに大したことはないわね、でもそろそろ上がる時間ではあるわ」

うーん・・・ 今、彼女は15歳のはずだと言っていた、 5歳の時から10年間、一体どのくらい時を止めたのだろうか? 15歳の若さで館長になったという考えは正しくない事になる。

「どうしたの?」「い、いや、すごいなあっと思って・・・」 「・・・ありがとう」「え?」「誉めてくれたから」

少女は僕の胸に甘えるようにもたれかかった。

「何度かこの話を聞かせた相手はいるけど、 みんな私を怖がって逃げていったわ・・・ 誉めてくれたのはあなたが初めて」「そ、そうなんですか?」 「ねえ、あなたは恐くないの?」 「いや、別に・・・時を止めればどんな事だって思いのままなのに、 ずっと永遠、本を読んでいたって・・・尊敬します」

少女は僕の心臓に耳をあてる。

「嬉しい・・・あなたの鼓動・・・ぬくもり・・・全て感じるわ・・・」 「それで・・・いつ読み終わるんですか・・・本は無限にあるんですよね・・・」 「そうね・・・現実の世界はすごく大事だから、いつか時を止めるのをやめるでしょうけど・・・」

僕は少女の頭をやさしくなでる。

「あん・・・今は・・・まだまだ本を読みたいし・・・ でも・・・一人でいるのはもういいかなって思って・・・ あなたを呼んだのよ・・・正しくはあなたが呼ばれたって言い方かな・・・」

少女は上目遣いで僕の目を見つめる。

「実はね、私、助手が欲しくなって、魔法を唱えたの」 「魔法・・・ですか?」 「そう、本で得た魔法・・・私の望む理想の助手を呼び寄せる魔法」 「じゃ、じゃあ僕はあなたに呼ばれたんですね」 「ええ、それで時を動かして待ってたの・・・」

少女はか細い両腕を僕の背中に回してぎゅっと抱きつく。

「本当に私の理想の男の子・・・ねえ、私の助手になってくれない?」 「助手ですか?何を・・・すればいいのでしょうか・・・」 「私、ずっとずっと1人でいたけど、ついに1人でいることが耐えられなくなったの、 だから、私の側にいてくれるだけでいいわ・・・その分、いろんなこと教えてあげる」 「いろんな、とは」「全てよ、私の持っている知識全て・・・それにね、本の中には、 どうしても1人じゃわからない事も多くて・・・どう?私じゃ駄目?」

丸メガネの奥から僕を見つめる2つの瞳、 僕は魅了の魔法をかけられたように目を逸らせられない・・・ 愛らしい顔、唇、体・・・僕はもうこの少女に逆らえない気がした。

「・・・いいですよ、館長様・・・私でお役にたてるのなら・・・」 「あ・・・ありがとう・・・エリスって呼んで・・・」 「わかりました、エリス様・・・・・」

僕はぎゅっとエリスを抱きしめる、 この図書館に来て本当に良かった・・・ 18歳と5ヶ月17日にして、初めての春が来た・・・

「じゃあねえ、まずはこの本を・・・」 「その前に上に戻りませんか?」 「ううん、お願い、あともうちょっと・・・10分だけ・・・駄目?」 「わかりました、10分だけですよ」 「・・・ありがとう、じゃあこの本をねえ・・・」

エリス様はさっき持っていた黒い本を取り出す。

「その本は結局、何ですか?」 「これね、見たらわかるけど・・・最後にもう一度聞くわ、私の助手になってくれるのね?」 「はあ・・・はい」「じゃあ、私のこと、好き?」「はあ・・・はい・・・あ!」 「素直ね」

僕はまた顔が赤くなる。

「決定ね、あなたは私のものよ」「そ、その・・・」「はい、見て」

エリス様は黒い本を僕に見せ付けるように開いた、 その瞬間、中からまぶしい光があふれ出す!

「う、う、うわあああああーーーーーーーーーー!!!」

その光に吸い込まれた僕は、必死で目をつむり身を竦める・・・ ・・・・・・・・あれ?

「目を開けても大丈夫よ」

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