「それで、僕はどうすれば?」 「そうね・・・そもそもあなたはこの図書館へ何しに来たの?」 「はい・・・珍しい本がいっぱい読めたらなぁーって・・・でも珍しすぎて読めないですね・・・」 「うーん、このへんの本はむやみに開けちゃ駄目よ、絶対に」 「な、なんでですか?」

少女は真っ黒な本を一冊、取り出した。

「・・・この中に、世界を滅ぼす魔物が封印されているとしたら?」 「え?そ、そうなんですか?」 「例えばよ、でも、そういう本もここにはいっぱいあるわ、まだここは未開の本ばかりよ」 「こ、恐いですね・・・ひょっとしたらこの本も・・・」 「逆にあなたが封印されちゃう本だったりして、そういうのもあるわ」

僕は思わず下についていた両手を膝に抱えた、そして疑問を投げかけた。

「あ、あのう・・・館長様は大丈夫なんですか?」 「私はねえ・・・ま、話すと長いけど・・・聞く?」 「その、手短に・・・でも聞きたいです」

少女は後ろから水筒を取り出すと1口飲んで、 可愛らしい少女声で語りはじめた・・・

「私のママは医療書籍部所の所長だったの、ママは私を育てながら本の管理をやっていて、 私がまだ5歳ぐらいのときに・・・私を連れてこの倉庫へ本を探しに来たの、 まだ私はじゅぶんに本を読むことはできなかったけど、その時から本は好きで、 ママが目を離した隙に・・・倉庫の奥へ奥へと迷い込んでしまって・・・ さすがにまだ5歳だったからそんなに奥までは行かなかったんだけど、 たまたま落ちていた1冊の本をめくったら・・・そこには・・・」

僕は唾をごくんと飲んだ。

「そこには・・・ひらがなで書かれた『時を止める呪文』があったわ」 「ひ、ひらがなで・・・ですか?」 「そうよ、しかも一回読んだら忘れない・・・本は読み上げたら灰になったわ」 「時を止める呪文がそんなに簡単に・・・」 「今考えると信じられないほどの奇跡だったわ、そんな本を読むなんて」

少女は奥から今度は乾パンを口に運び飲み込んだ。 「時を止める力を手に入れた私は、まだ幼なすぎたのが幸いしてか、 悪用はしなかったわ、ただひたすら時を止めて本を読むだけ・・・ 毎日毎日・・・違うわね・・・時が止まってるから、ずーっとその永遠の時間を利用して、 このバンデルン図書館の本を読みふけったの・・・時が止まるとまったく疲れないし、 眠くもならなければおなかもすかない、歳もとらない・・・はじめは漢字の勉強の本からスタートして、 算数、国語、社会、物理、医学、天文学、外語学、だんだん難しい本も理解できるようになっていって、 そして私はこの図書館の地上にある本全てを読み終えて・・・すっかり何もかもマスターしちゃったの、 時を再び動かしたときはまだ私は5歳なのに何でも出来るようになってたわ、本当に何でも」

再び水筒を口に運びごくごく飲む。

「で、今度はこの地下倉庫に眠る膨大な量の本に目をつけたワケ、 はっきりいってこっちの本はすごいわ、すごすぎるわ、 地上の本が序章でこっちの本を読み出してやっと本編って感じ、 ここに押し込められた本は地上に置けないほど複雑すぎて解読不能なのや、 あまりにも危険すぎる本、何が封印されてるのかわからない本、 その他いろいろな本が押し込まれたまま放置されてるの、 どのぐらいまで下に埋まってるのか・・・いくら時を止めて掘ってもまだ行きつかないわ、 多分どれかの本の魔法による影響で底無しになってるんでしょうし、 さらにこの図書館と同じぐらいの容量の本が中に封印されてる本もあったり・・・ その本の中の本の中にも本がしまってあったりするから、時を止めてもきりがないわ」

そ、そんなに本が・・・本の中にも本・・・その中にも・・・

「そこまでいくと本の内容もこの世界のものじゃなかったり・・・ いにしえの本、魔界の本、異次元の本、自分で話を作る本、生きた本・・・ そして読んだ本は全て憶えていって、おかげて私はあらゆる魔法を使えるし、 読む順番を考えて、魔物が封印されてる本を開けても対処できるようにしたり、 それに読めば読むほど面白くって、どんどん倉庫の地下を掘り進んだわ」

どうやらこの少女、知識欲は無限にあるようだ。

「でもやっぱり何千年も何万年も時を止めて本を読んでると、 この私でも寂しくなることもあるのよね・・・だから、たまーに時を動かして上に戻るの、 でも1週間も上ですごしてると、すぐにまた地下に篭りたくなっちゃって・・・ 

一応、止まってる時間の中でも自分なりに時間を作ろうと、 今では魔法で1000万年に1秒づつ時を進めてるわ、自分の中と外との時差ね」

えっと・・・つまり、少女は自分の中で時を止めて、 その止めた時の中で1000万年経過したら、 現実に戻って1秒だけ時を進め、また1000万年・・・

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