明かりの消えた寝室に、冴えた月の光が射し込んでいる。 照らされた闇の透明な蒼は誰も知らない湖の水底のようだった。 「半屋君…」 八樹は互いの存在を確かめる行為の後、なお肌を触れ合わせることを好む。 半屋はその手を払い、拒絶の意を表していたが、八樹はその腕をとり半屋の躯を抱き込んだ。 「離せ」 「なんで?」 八樹の腕は半屋の躯の熱を鎮めるために、穏やかに動く。 「離せっつてんだろ」 邪険に払いのけると、まったくしょうがないなとつぶやいて八樹は離れていった。 八樹のベッドは一人暮らしには不自然なほど広い。それがいつ換えられたのか、半屋はもう覚えていない。 こうしたやりとりも既に日常と化していた。 「半屋君」 気がつくと八樹はベッドに片肘をついて半屋を見つめていた。 「人魚姫の話は知ってる?」 「アァ?」 馬鹿馬鹿しい。半屋は躯を起こそうとしたが、八樹に柔らかく止められた。 八樹の瞳は昏い、自らを傷つけるとき特有の色をしている。 「人間と人魚が視線を合わせると災いが起こるんだって。知ってた?」 半屋を止めた手はそのまま半屋の躯をなぞる。八樹の瞳は昏い。半屋はその手を払わなかった。 「だから王子と人魚姫の眼が合ったとき、嵐が起きて船が沈んだんだって」 そう言うと、八樹は半屋の顔に口づけを落とした。話を続ける様子はない。 「……で」 「それだけだよ?」 そう言いながら八樹はゆっくりと半屋の目蓋に口づけた。 「怖い目だね」 八樹はひそやかに笑う。瞳の色が感情を読ませないものに変わった。その瞳になると半屋には八樹の感情が読めなくなる。別にいつも読みたいわけではないのだが。 「…何が言いてえんだ。てめぇは」 「人魚だったのはどっちだろうね…。君かな。俺なのかな」 そう言って八樹はまた半屋の目蓋に口づけてくる。 半屋は顔をしかめ、シャワーのために起きあがろうとした。しかしそれも八樹に止められ、ベッドに押しつけられて激しい口づけを与えられる。 「てめぇ、いいかげんにしろ」 「まだつきあえるよね?」 八樹はあからさまな意図を持って半屋の躯をまさぐる。半屋は諦めて躯を投げ出した。 鎮めたはずの躯は簡単に火がつき、もう八樹の言葉は半屋には届かない。 「俺だろうね…やっぱり」 災いを呼ぶ瞳と言うにふさわしい半屋の瞳は今は焦点を失い、その剣呑さを隠している。 でも初めて眼が合ったときに災いを呼んだのはきっと自分の方。 だからどんなに躯を重ねても人魚姫の想いは王子には届かない。 深い湖のような夜の底で、八樹は一人笑みを浮かべた。 これは企画ものの一部です。ヘボン企画 萌え優先で書いた物なので、自分でもよくわからないところがあるのですが、つまり『俺達一目惚れだよね?』ということが言いたいのかもしれません(笑) |