「あっ、テメェはっ?!」発見した相手に相当の感情を抱いていたのだろう。千恵はうかつにも、潜んでいた場所からうっかり立ち上がってしまった。
「なっ、なななな何よっ!!」
こちらはこちらで、まさかいきなりこんな状態の中で呼び止められるとは思ってもいなかったのだろう。晶は声のした方向にマズルを向けるのも忘れて大声で返事をしたまま固まってしまった。
「・・・こーこで会ったが百年目ー・・・」
「だから何がよっ?!」
"Who done it ?!" 〜あるいは「モテモテ主人公君争奪 大サバイバルゲーム大会実施の顛末」〜
(ACT-6)千恵は今回、かなり本気で落ち込んでいた。
中学の卒業式でブチ上げたロックコンサート。
その時、その企画の言い出しっぺだったアイツを無理矢理ギタリストとして引っ張り込んだのが千恵だった。
最初はあまり期待していなかったのだが、アイツはなんとなくコツらしきものをつかんだらしく、なんとコンサート当日までにはなんとかカタチになるぐらいのテクを身につけたのだった。その頃の練習中でのセリフ。
「なんか楽器やってたの?」
と聞くメンバーに、アイツは「うん、以前バイオリンをちょこっと・・・。」
と答えたのだ。その当時は「こいつってオボッチャマだったのかなぁ」くらいの感想しか湧かなかったし、それよりなにより一緒にステージに立てるという喜びの方が勝っていたので聞き流していたのだが・・・。
「習ったお相手は、あの遠藤とか言うタカビー女だろーなー。」
ふつふつとわき上がる怒りにも似た焦燥感。
認めたくないのだ。
「あの女のお陰で、あの時のかけがえのない時間が生まれたのだ」という事実を・・・。「・・・・・・見てろよ遠藤おーっ!!」
晶の与り知らぬトコロで、勝手に「燃え上がれガン○゛ム」な千恵であった・・・。
そんな事情など知る由のない晶ではあったが、千恵という存在は少なからず晶の神経を逆なでしていたのは事実である。
「アイツったら、よりにもよってロックギターを演奏したことがあるですって? それはきっと、あんなガサツな女に感化されてしまったからよっ。」
何よりも「騒音」に近い嬌声を張り上げ、あまつさえそれを人前で演奏してお金まで戴いてしまうなどという図々しい音楽がこの世にあると言うだけでも、晶は苦々しく思っているのだった。
実際にロックのライブなどには出かけたことのない晶は、友人からの又聞きで、「なんでもブタの生首を投げたりお客さんとケンカを始めちゃったり、挙げ句は○○○を出して見せちゃうバンドがあるんだって。」と聞かされ、ショックで倒れたことがあったのだ。
・・・それは伝説の「あのバンド」に限ってのことであろう。あながち間違いではない(と言うか事実なのではあるのだ)が、ロックを志す人間が、何も全員そんなにハデな催し物をしている訳じゃない・・・。「せっかくこのアタシがバイオリンという、『左手は技術、右手は芸術』と言われる、一生モノの高尚な趣味を教えてあげたというのに。」
・・・いや晶、この際だから正直に言ってしまおう。
「アタシのオトコに何を吹き込んでるのよ!!」
クラシックとロック。
対極とも言ってよいこの世界は、結構根が深くなりそうな危険な予感を孕んでいた・・・。
「へっ、よりにもよってアンタとお手合わせとはねぇ。」
千恵は苦々しく口を開いた。「それはこっちのセリフよ!! ・・・いいわ。私も丁度アナタとだけはちゃんと決着をつけなきゃいけないと思ってた所だから。」
晶も負けてはいない。いや、たかが口ゲンカ程度で負けたくはない。「面白いコト言うね。・・・いいよ、やってやろうじゃん!!」
千恵がにやりと笑う。吹き抜ける一陣の風。
張りつめた緊張感が周囲をジワジワと浸食していった。『一触即発』という言葉は、きっとこんな状態を言うのだろう。
と。
「ヒュバッバッバッバッバッ!!」
「トパパパパパパッ!!」二人はある一点を見つめると、ほとんど同時にその「目標」目がけてフルオートを見舞った。
「いったーい?!」
・・・聞こえてくるのはえみるの声だ。これは、実際のサバゲーでもたまに起きる「事故」である。
何故ならすでに「戦死」したゲーマー、・・・通称「死体」は本来なら移動などしないのだが、仕留められたゲーマーがいつまでもその場所に留まっている必要も無く・・・、よって当人が「死体である」と分かるように、例えば「銃を頭上に掲げている」等のジェスチャーを予め決めておけば、残ったゲーマーは目標として扱わないようにするというのがルールなのである。えみるはそれをしていなかった。
開始早々に討ち取られてしまい、ガックリとうなだれながら『死体置場』(通称「モルグ」)へと移動していたえみるは、その途中でこの二人の諍いに巻き込まれてしまったのだった。
半泣きになりながら二人をにらみつけ、改めてモルグへと向かうえみる。
『泣きっ面に蜂』とはこういうことを指すのだろうか。・・・いと哀れ・・・(T^T)。「ちぇっ、邪魔が入ったな。」
千恵が片手で操っていた"M60"を握り直しながら悔しそうに言う。「全くね。で、どうするの?」
晶も、ホールドしていた"SIG SG550"を下ろしながら返す。「こうなったら『決闘』しか無いだろ?」
「フン、見かけに寄らず随分と古風な人なのね。・・・いいわ、受けて立つわよ。」「短いヤツ、持ってるよな?」
千恵は自分の腰のホルスターからコルトM1911A1を取り出した。
「勿論よ。」
晶もホルスターから、・・・ベレッタM93Rを掴み出す。「なんだよ、そのブカッコウなやつは。」
千恵がバカにしたよう鼻で笑う。「いいのよ、これで。その価値は分かる人にしか分からないんだから。」
晶も譲らない。「まっいいか。じゃ、二人で背中合わせになって。」
「10歩歩いたら振り向いて撃つんでしょ? さっさとケリをつけましょうよ。」
「後悔するんじゃねーぞ。」千恵が不敵に笑う。
「トーゼンよ。負けてたまるモンですか。」
ジャリッ。
足場を固めた二人は、銃のマズルを真上に向けてスタート地点に立った。
「いくぜ。」
「ええ。」
「よし、スタートだ!!」「「1」」
「「2」」
「「3」」
「「4」」
「「5」」
「ろくーって、ああっ?!」
「きゃーっ?!」ずでん。
・・・そう。
ここはさっき千恵達が遭遇するまで、えみるがせっせとトラップを仕掛けていた場所である。よりにもよってえみるは、実に範囲にして100m四方ものトラップゾーンを作っていたのであった。
「いてててて、なっ、なんだよこりゃあ?!」
千恵が喚く。「誰がこんなマネを、・・・いったーい。」
晶もヒザをさすっている。「・・・って、ああっ?!」
「今度はナニよっ?!」
「あ、アタシのガバが・・・。」
千恵が泣きそうな顔で晶に手の中の獲物を見せる。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・握りつぶしちゃった、のね。」
見れば、千恵のガバのトリガーガードから下半分のグリップが無い。足下に落ちているスチール製のマガジンに至っては、使用が不可能なほどにグッシャリと変形してしまっている。これを、・・・・・・転んだ拍子に握りつぶした・・・?
晶は、今更ながらとんでもない相手を敵にしていることに戦慄した。
「・・・で、どうするのよ。」
と、晶。「仕方ないねー。・・・じゃ、長物で決闘ってのは?」
「本気なの?! そんなバカでかい銃で・・・。」
晶は面食らった。どこの世界に(電動エアガンとは言え)機関銃を担いで至近距離での決闘などというコトを考えつく人種が・・・。いや。自分の目の前にたった一人、いることはいる。
「・・・後で文句は言わないでよね。」
晶はやれやれという風に頭を振った。「その代わりと言っちゃあなんだケド、さ。アンタも長物にしてくれない? もちろんストックは畳んだままで構わないぜ?」
千恵がからかうように言う。それが晶にはカチンときた。「・・・いいわよ。じゃ、始めましょう。」
「ただし、カウントは"5"だ。重いとお互い疲れるだろ?」
千恵はニヤニヤしながらそう続けた。「無駄なお気遣いは結構よっ。」
「よし、スタートだ!!」「「1」」
「「2」」
「「3」」
「「4」」
「「5!!」」「バッ!!」と振り向き、横方向に向かってなぎ払うように連射をする晶。・・・しかし。
「あっ、えっ?!」
そこに千恵の姿は無かった。・・・ところが。
「バイバイ、高いトコロしか物を見ていなかったおじょーさん!!」
「?!」そう。千恵は5歩進むと咄嗟にプローンニング(伏せ撃ち)へと姿勢を切り替え、晶の足下からM60のその凶悪なマズルを向けていたのだった。その俊敏さと動物的なカンは、もはや常人の域を超えていた。そして、あの重たい銃機を軽々と振り回すキンニク・・・もとい、鍛え上げられた『G.I.ジェーン』のような肢体は、正に「正統派ロッカー」の姿そのものだった。
「ヒュバッバッバッバッ!!」
・・・こうして、千恵の当面の危機は去った。しかし安心してはいけない。
我々ロッカーが「温故知新」の精神を忘れるたびに、第二、第三の「遠藤晶」が出現するかも知れないのだ。
戦え千恵、負けるなロック魂!! 日本のロックシーンは君の双肩にかかっているのだ!!
「何を言う!! 晶とて犠牲者ではないか!!」・・・どこからか芹○教授の声が、千恵の耳に聞こえたような気がした・・・。
To Be Continued...