ザザザザザザッ。
「キュバッ! キュバババババッ!!」

 ホンの10数メートルという至近距離を併走しながら、るりかと明日香は激しい撃ち合いを展開していた。
 しかし当たらない。

 ・・・と、

「ザッ。」
「ガサッ。」
二人同時にブッシュに飛び込む。揃いもそろってマガジンがカラになったのだった。


"Who done it ?!"

〜あるいは「モテモテ主人公君争奪 大サバイバルゲーム大会実施の顛末」〜
(ACT-5)

 「走りながら撃つ」というこの行為が、実は思っているほど難しいものではないというのは実際にやってみたことのある人ならご存じであろう。
 ただでさえその日の風向きによって着弾点が大きく左右されるBB弾ではあるが、単なる弾蒔き機械として使う分にはそんなでも無いハズなのだ。
 相手の進行方向のちょっと先にマズルを向けてやれば良いのだから・・・。

 しかし、この二人は素人であった。
 とにかく目前の相手に向けてトリガーを引くことしかしないものだから、彼女たちの通った後にはペンペン草も、・・・・・・・・もとい、白いBB弾による獣道ができあがりつつあったのだ。
 そして何度目かの弾切れ。

 ほぼ同時にマガジンの交換を終わると、・・・しかし今回は少々様子が違う。なかなか木陰からでてこない。
 牽制しあっている訳ではなく、単純にヘバったのだ。

 ふたりが用意した銃。それは、るりかが兄から借りた"H&K G-3"であり、そして明日香が『限定版』という言葉に釣られて買った"H&K MP5-A4(type SEALS)"である。
 大容量のバッテリーを搭載しているため、ストックも折り畳みの可能なタイプではなく、・・・必然的に重量がかさむ仕様となってしまった。
 ましてやるりかの"G-3"がフルサイズのアサルトライフルであるのと同様、明日香の"MP5-A4"はSWAT仕様のフル装備である。
 ・・・もうちょっとTPOに注意すれば比較的楽になったハズなのだが・・・。

 ゼイゼイと荒い息を吐きながらも呼吸を整える二人。
 しばらく休んだ後で、ついにどちらからとも無くクスクスと笑い声が挙がった。

「ねねね、アナタ山本さんでしょ?」
 先に話しかけたのは明日香だった。

「そー言うそちらさんは星野さん、だったっけ?」
 るりかも思わず返事をする。

「そーでーすぅ、ふふふ。」
「なーに?」
「いやぁ、なっかなか持久力があるんだねーっと思ってさ。」
「そっちだってかなりのものじゃない?」
「実はアタシ、ファミレスで一日中立ちっぱなしのバイトしてるから、足腰には自信があったんだけどさぁ。」
「へ、そーなの? 私もコンビニでバイトしてるから、缶ジュースの運搬とか、二時間立ちっぱなしでレジ打ちやったりしてるよー。」
「えー、そうなんだぁ。」
「確かに筋肉だけなら、松岡さん・・・だっけ? あの人にはかなわないって思うけどねー。」
「うんうん、そーだよねぇ。」
「でも、あの人ってすぐにガス欠になっちゃいそうな気がしない??」
「あ、以外とそうかもー。」

 またクスクスと笑い声が挙がる。

「なんでかって言うと、ウチのアニキって結構そのテのゲームが好きでさぁ。」
「『そのテ』って、いわゆる『18才未満はおことわりー』ってヤツ?」
「そうそれ。でさぁ、アニキが言うには、『普段強がってるオンナは、いざって時にもろいぞ』って言うんだ。」
「ふーん。」
「でね、そういった類のゲームにもやっぱり出てくるじゃない、『強いオンナ』ってキャラがさー。」
「うんうん、それで?」
「アニキったら、『オレはそーゆーオンナから真っ先にリョージョクしちゃうんだぜ』って得意満面になって言うんだわ。」
「あははははっ、なにそれー。」
「笑っちゃうでしょー? あの松岡さんが○○とか×××で□□□□されちゃうなんて。」
「「あはははははははっ」」

 ・・・花も恥じらう年頃の女の子のクチから飛び交う不適当なセリフ(T^T)。
 またもやひとしきり笑うと、二人は急に遠い目をしてこう言った。

「ね、私たちってこういうカタチで出会ってなかったら、結構いい友達になれたと思わない?」るりかがふぅとため息をついて言う。
「うーんそうだねー。アタシも今そんなことを考えてたトコロ。」
明日香が屈託無く返す。
「で、ものは相談なんだけどさぁ。」るりかが真顔になって声をひそめる。
「あ、やっぱり気がついた?」明日香も、銃のセレクターが"AUTO"になっていることを再度確認した。 

「私が囮になって飛び出すから、アナタはバックアップお願いね。」るりかが一呼吸おいて中腰になった。
「おっけー。取りあえずは二人で生き残ろうねっ!!」耳をそばだてて全方向に気配を感じ取ろうとする明日香。

 るりかと明日香はお互いに目配せをし、一呼吸置く。


 先ほどから周囲の様子がおかしい。虫は息を潜め、鳥がこの近辺を避けて飛んでいるらしいのだ。
 自然界の生き物たちにまで無言の圧力をかけている凄まじい存在が、実はつい先ほどから二人の会話を聞いていた。
 そしてその存在は、・・・どうやらこの近くにいるらしい。

 二人の周囲だけが妙に静かになったのは、なにも二人が会話をやめたからではない。
 おそらくは一発必中をねらっているためなのだろう。
 抜き身の日本刀のような恐怖感がジワジワと二人に向かって迫りつつある。

 風がザワザワと茂みを揺らし、・・・そして意を決したように、るりかが合図とともに開けた場所に躍り出た。

「うりゃあーーーーーーっ!!」

 と、そのとき、

「ヒュタタタタタタタンッ!!」

 恐ろしいまでに間隙のない連射、いや、これはもう「速射」である。

(何?! 一体どんな銃を使ってるの?!)
 本気でビビる明日香。しかし彼女も負けるわけには行かない。音の発生源へ向けてフルオートで無我夢中で応戦する。

 が。

「ああっ?!」

 裏返った声が明日香の耳に届く。早くもるりかが仕留められてしまったらしい。

(ええっ?! 姿が見えないよお!!)

 そしてるりかの絶叫が終わらないウチに、明日香自身にも白い弾が雨霰と襲いかかる。

ぺしぺしぺしぺしぺしっ!!

「どーしてぇー?!! うっそー!!」

 そんな二人を射すくめるかのような重たい存在感が、頭上の木の茂みから姿を現した。
 それは"H&K MP5-K"を両手に構えた若菜の姿であった。

「ど、同時に・・・?」
「に、人間業じゃないよお・・・。」

 失礼なセリフを吐く二人に向けて更に一発ずつお見舞いし、完全にとどめを刺してから若菜が言う。

「ふぅ。・・・私を一体なんだと思っていらっしゃるのかしら。」

 ころころと笑う若菜。

「さて、一体あと何人なのでしょう?」

 そういうと若菜は、まるで身につけている装備や自重など無視するかのように足音もたてず、まるで風に舞う木の葉のように軽やかに疾走して二人の視界から消えていったのである。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くノ一???


To Be Continued...