超長距離射撃の凄腕がいる。
 白兵戦に長けた人物がいる。
 S&D(サーチ & デストロイ)で、その潜在能力を遺憾なく発揮している娘もいる。

 木に縛り付けられたままの僕ではあるが、耳を澄ませ、気配を感じられるようになれば、遠方の様子も手に取るように分かる。
 悲しいかな、思いがけず奮闘している3人の主力の前に、その他の9人は善戦むなしく次々と戦線から離脱しているらしい。

 この戦い、果たして一体・・・?


"Who done it ?!"

〜あるいは「モテモテ主人公君争奪 大サバイバルゲーム大会実施の顛末」〜
(ACT-3)

 たっぷりと調整を施したノーマルタイプのFA-MASに"RED-EAGLE"社製のスコープ(412×40FF・倍率4〜12)をマウントしたスナイパーカスタムが、美由紀の相棒である。
 積極的に山林を動き回ることは自分には体力的に不可能であると判断した美由紀は、持ち前の一所懸命さで、狙撃に関しての映画・・・(この場合は『山猫は眠らない』と"LEON"だったりする)・・・を繰り返し何度も観て勉強し、その上で近所の子供がよく出入りしている模型店の店員に頼み込み、何丁も試射させてもらってようやっとこの銃をチョイスした。
 多分、実際に撃つことになるであろう現実的な距離・20〜25m程度でずば抜けて集弾率の高かったのが、電動エアガンシリーズとしては初期のモデルであるこの"FA-MAS"なのだ。
 そして美由紀が選択したこの銃が後々彼女自身を救うことになろうとは、その時には夢にも思わなかったのである・・・。

 最初に見つけたのは、ゆっくりと匍匐前進をしながら雑草を結って輪っかにし、ブービートラップを仕掛けているえみるの姿だった。

 「あっ、あの娘はぁーっ!!」
 ・・・美由紀が怒るのもごもっとも。
 

 あの人は「全員がケガの無いように」と散々気を配ってくれたというのに、わざわざケガを誘発するようなマネを早速しているからだ。
 頭にカッと血が上り、・・・しかし美由紀は冷静に、自分のBDUのボタンホールにぶら下げているTIMEXのミリタリーウオッチを確認する。

 ゲーム開始時間まであと10秒。

 美由紀はゆっくりとスコープをのぞき込み、こちらに背を向けて四つん這いの格好になっているえみるの、正にオシリに向けてレティクルのヘアラインを重ねた。

 5、4、3、2・・・

 「ヒュパッ!!」と、第1弾が射出される。
 絞るように引ききられたトリガー。
 そして軽い満足感。
 美由紀は間違いなくこの記念すべき第1弾がえみるを仕留めるであろうと確信した。

 だが恐るべし。さすがに「神様に愛されている娘」永倉えみるである。
 あろうことか、えみるに目がけて発射した白いBB弾は、木々の間にあって見えなかった蜘蛛の糸にかすって微妙にラインが狂い、えみるの横数センチの場所に着弾したのだ。

 「えっ?!」
 「誰だりゅん!!」

 着弾場所とFA-MASの発射音から即座に美由紀のいる場所に見当をつけたえみるは、めくらうちではあったが美由紀にめがけて「先ほどのお礼だ」と言わんばかりに、キャリコのその凶暴な銃口を向けた。
 瞬く間に銃弾の雨霰に襲われる美由紀。しかし、えみるのそれは何故か一発もヒットしなかった。

 キャリコは別名を「弾ばらまきマシン」とも言い、「命中精度」という言葉からはほど遠い代物でもある。しかもジャムしやすいことでも有名であった。

 ガキッ。
 「ああっ?!」

 ・・・言わんこっちゃない。早速弾が機関部のどこかに噛みこんだらしい。

 美由紀はそっと頭をあげると、急いでスコープを覗く。
 そこには、既にキャリコを投げ捨ててコンバットナイフを掴みだし、美由紀に襲いかからんとしているえみるの姿が映し出されている。

 美由紀は頭を振って邪念を払うと、今度はしっかりと狙ってトリガーを絞った。

 「ヒュパッ!!」
 「ペシ!!」

 少々情けない音を立てながらも、美由紀の第2弾は今度は間違いなくえみるにヒットした。

 「ああっ!! ダーリンはえみりゅんのものなのにー!!」

 ・・・"LEON"では「ヒット & アウェイ」、つまり「仕留めたら即撤退しろ」と教えていた。
 今の騒ぎを聞きつけて他の誰かがここへやって来るだろう。
 美由紀は「ドサッ」と倒れ込むえみるの音を背後に聞きながら、たった一言こう呟いた。

 「奇跡を待つより、捨て身の努力よ。」

 努力家の美由紀ならでは、である。まずはお見事。


To Be Continued...