★化け猫の妻の"FIAT PUNTO"購入記★1.『御旗の元に』
・・・その時の私は、ハッキリ言ってヤバかった。本当にヤバかった。
何がヤバかったかって、カミさんの車の5年ローンを、その春の「期末賞与」という名のわずかばかりのボーナスを使い4年とちょっとで払い終わり、気が大きくなってしまっていたというのがその最たるものであった。思い返される慎ましやかな生活。
これからは少しづつ生活も上昇機運となってゆくであろう幸福感に、私は少し酔いしれていた。しかしそれ以上に、この時期の私は何故かカメラに心を刺激されていたというのがあった。
息子には"SHARAN"シリーズの"Leica M3"などを買い与え、なおかつ私自身がその夏のボーナス+バイト代で"Nikon F3"などというとんでもなく趣味なものを手に入れ、いつカミさんにその金額がバレやしないかとドキがムネムネしっぱなしの日々だったのだ。上がる心拍数、下がらない血圧。不眠、錯乱、宇津打氏能。<<(をい)
そんな軽い後悔を、・・・しかしうっかり懺悔したりすれば即殺されること間違いなし。私はあくまでもいつものように何気なく、そして気丈に振る舞わなくてはならなかったのだ。
そんな私の心情を知ってか知らずか、カミさんはある日こんな爆弾発言をしたのである。
後に「物欲アルマゲドン@化け猫宅 in 2001」と呼ばれることになる、妻の新車購入にまつわる顛末である。
2.『エロイカ/英雄伝説』
「ね、最近アタシの車のエンジンがヤバイんだけど。」
「なに?」
カミさんのその当時の愛車・「スバル ヴィヴィオ ビストロ」は5doorの5M/Tである。
毎日のカミさんの通勤を支え、且つ、時にはカミさんの実家である東京までのアシとして、その持てる能力をフルに発揮させられていた。一頃はそのとばしっぷりから私がつけたあだ名が、何を隠そう『アクアラインの緋(あか)い女王』であったことは記憶に新しい。
そのビストロが、・・・なんですと?
「雨の日にねぇ、水たまりの上を走ると回転数がカクンと落ちるのよね。」
そんなカミさんの通勤ルートは、岩波文庫からも『ああ、ダンプ街道』として悪名高く知られている某県道である。そんな路上でいつ逝ってしまうか分からない脳溢血寸前みたいな車に乗っているなんて危険きわまりない!
私には見える。
スピードが落ちた瞬間、後方から積載量オーバーのダンプが急制動も空しくカミさんの軽自動車に突っ込んでゆく様が・・・。妙な想像をするだけして、私は思わず身震いした。
私の胸中に言いしれぬ不安の陰がよぎったのは、この時が初めてだったことをここに書き記しておく。
「ん、でも水たまりさえ避けていれば大丈夫みたいなの。」
「うーん、多分電装系だろうなぁ。今度定期点検に出すときに、併せて看てもらおうか。」
「そうだね。気をつけるよ。」
その日の会話はあっさり終わった。
しかし、私はこの時の自分の言動を、のちのち後悔することになるのである・・・。
3.『祈 り』
「ね、エンジンがいよいよヤバイんだけど。」
「なにぃーっ?!」
正に寝耳にミミズク、晴天に辟易とはこのことだろう。<<(落ち着けっ)
「ど、どんな風にヤバイの?」
「うん、・・・今度は晴れてる日でも回転数がガクッと落ちるようになっちゃったの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(滝汗)。」
定期点検なんぞ待ってはいられない。この時の私の心境を、みなさんは想像できるだろうか?
さて、私には一つだけ悪い癖がある。
それは「情報収集」と称して、普段から車と言わず色々な物のカタログをあれこれともらってきてしまうというものだった。
ちょうどその日も、私はビストロの任意保険の更新があったのでスバルへと出向き、今まさにカタログをもらって帰ってきたばかりだったのだ。まぁ確かに丸4年は乗ったのだし、走行距離もそれなりだ。私の中ではさり気なく「いつ買い換えてもいいように」という思考がどこかにあったのだろう。
それに先も書いたが、カミさんの通勤経路にはダンプがうようよ走っている。実際いまのビストロを買う際にも、私は「できることなら普通車にしてくれ」と当時のカミさんには言ってあったほどだ。
その時の私を一体誰が責められよう。私は妻の身を案じているだけなのだ。
「・・・なぁ。いっそ買い換えるか?」
一瞬、カメラの入っているショルダーバッグが視界をかすめたが、いったん口をついて出てしまうと元T●Y●TAのセールスマンとしての血が騒いだのだろう。いや、それ以上に私の手にしていた「インプレッサ」の特別仕様の、その価格があまりにも魅力的だったのがいけないのだ。
そう。私は当初インプレッサを買わせるつもりだった。
1500ccの5M/Tでツーリングワゴン。いい選択ではないか。
これがコミコミ150万円で乗れるのだ。時々は私が乗りたいほどである。<<(本音)
「え。でもそんなお金無いわよ。」
「んー、でも修理に出して見積もりしてもらうだけだってお金はかかるぞ?
それに、それがもし致命的な欠陥だったらどうする?
その時は買いたたかれて下取りにすらしてくれなくなるぞ?
査定価格がまだまだ残っている今のうちに、代替えも考慮に入れておくのは悪いことじゃないだろう?」折悪しく、私はつき合いのある銀行さんから何故か「夏のマイカーローンキャンペーン」のチラシをもらっていた。そのチラシによれば、「普段の金利から1%下げた今だけの特別金利に加えて、例えばその口座が給与の振込先に指定されていれば更に0.1%、同じ口座から公共料金の引き落としをしていれば更に更に0.1%安くする」といった、なんだか今の私たちのためにあるようなキャンペーンを展開していた。
回り出す余計な思考。
物欲とは別の醍醐味。
「やっちゃえ」と、どこかで囁く声がする。←(本当なら病気です)
あまりにも出来すぎているタイミング。
神様、私は一生こんなネタまみれな人生の裏街道を突っ走らなくてはならないのでしょうか(泣)?
ぐるぐるぐるぐる・・・。とめどなく働き続け計算しっぱなしの私の灰色の脳細胞。
しかし、そんな私を誰が責められよう。私は妻の身を案じているだけなのだ。
「う〜ん・・・。」
悩み始めたカミさん。実際、実家に車で帰省するたびに「オートマだったらラクだよねぇ。」とこぼしていたのも私は聞いていた覚えがある。
今のビストロを直して乗るか。
ダンナである私の甘言に乗って←(×)、もとい忠告を聞いて代替えを検討するか。
「で、この車なんだが。」
私はカバンに突っ込んであったインプレッサのカタログを取り出した。
・・・重ね重ね言う。
私は妻の身を案じているだけなんだってばさ。
4.『192455631』
その数日後。
私と妻はスバルのディーラーにいた。
目的はもちろん「インプレッサの試乗」である。子供は何事かと目を丸くする。
私は見積もりだけが必要であり、カミさんはその車の全長が知りたいだけだ。
カミさんはあの日の夜、私の一言に呆気なく陥落した。それは、
「ビストロとほぼ同額のローンだよねぇ。」
・・・嘘じゃありません。カミさんのビストロは、買った当時ほとんどフルオプションなのでした。その金額約1300k。
ええ、軽自動車に掛ける金額じゃありませんよね。でも、どうせあとあと付けたくなるパーツがあるのだったら、メーカーオプションの方が面倒が無くていいじゃないですか。
で、1300k。そのおかげでこうして下取り価格がたっぷり残っているのです。
今思い出してもなんという侠(をとこ)っぷりでしょう。ビバ、俺様。
そしてこれがとどめでした。
「俺のプジョーのローン、あと半年で終わるんだよね・・・。」
そんな様々な思惑を乗せて、試乗車であらせられるトコロのインプッサ君は走り出す。
カミさんと子供、そしてスバルの新人営業マンを乗せて・・・。
私はその間、営業所で頂いたコーヒーなど飲みつつ見積書を前にあーでもないこーでもないと頭をひねっていた。
特別(に安い)仕様なので、実際の使用を鑑みるとあれもこれもとなる。
で、出た結論。
「いまいち。」
いえ、決して悪い仕様じゃないですよ?
安全基準もたっぷりと満たし、その魅力的な積載量から想像するに、私の休日の過ごし方が楽しくなるようで。
ただ私の車選びの基準からはちょっとばかりズレがあったのです。第一に、新型のインプレッサ君、顔が面白おかしくなっちまいました。WRCでの活躍を知っている私はそのひとつ前の型がいいなぁと思っていました。デザインが今ひとつ。
第二に、その新型に代わってからはインプレッサ君、ラリーでの耐久性が今ひとつ信用できません。(ソレを言ったらプジョーも、206になってからは「速いけど壊れる」というラリーシーンが今年は多いですが)
ラリーカーのくせに耐久性に信用が置けないというのはかなりのマイナスです。第三に、個性がないということ。乗ってみる。いい車だ。可もなく不可もない。しかしそれだけ。昔のバイクブームの頃に、
「何に乗ってるんですか?」と、訊ねられ、
「VTです。」と答えた瞬間、
「ああ、・・・いいバイク、ですよね。」と、早々に話が打ち切られてしまうような居心地の悪さ。
あれと同じ物を、私は最近の国産車に感じてしまっているのです。
そしてその「匂い」は、残念なことにこの新型インプレッサ君からも感じ取れてしまうのでした。
とんがっていない、面白味に欠ける車だなぁ、と。
そうこうしているうちに、カミさんと子供が試乗から戻ってきました。
自動ドアをくぐるカミさんと目が合います。その目を見た時、私は直感しました。
ああ、カミさんも「良い車」だとは感じても、今ひとつ決定打に欠けていたのだな、と。
この日は結局、見積もりとオプションパーツのカタログをもらい、後日自宅まで査定に来てもらうという約束を取り付けて終了となりました。(この日はたまたまビストロで出かけなかったのです)
後は維持費と下取り価格の話を、カミさんと煮詰めなくてはなりません。
税金、保険料、ガソリン代etc.etc...... ハッキリ言って一から出直しです。そして次の日の会社帰り、私はうかつにも今の私のプジョーを買ったお店、「ローバージャパン正規ディーラー、(株)ファミリー、ローバー木更津店」改め、「フォルクスワーゲン正規ディーラー、(株)ファミリー、フォルクスワーゲン木更津店」に立ち寄りました。
5.『心の傘は』
別に千葉県に限ったことじゃありませんがとかく軽自動車、それも女性ドライバーだと分かると、周囲の車はバカにして平気で幅を寄せてきたり割り込んできたりするもんです。<<(偏見じゃないですよ、念のため)
それに、やっぱり長く乗るんですから多少のお茶目にも寛大でいたいじゃないですか。で、カミさんに最初に勧めたのがイタ車のフィアット・プント1.2L。
「フォクスワーゲン木更津」と銘打っているのに素直にVWに行かないトコロがミソですな(笑)。実際POLOやLUPOは、同じ車格のクセに妙に金額が高い。しかもVWは昔々、当時のフォードに
「日本向けに割高な価格を設定している。それはフェアじゃない!」 とすっぱ抜かれて以来、私の中ではキライな車会社として認識されてしまいました。それまではドイツ車って割と好きなハズだったんですがねぇ・・・。
でもまぁPOLOの試乗車があったのでカミさんに運転させてみることにしました。私も横に同乗。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ねぇ。」
「うん?」
「『いい車』、だよね。」
「・・・うん、『いい車』、だね。」
ああ、何というコトでしょう! 「ドイツ人が作る小型大衆車」は、突き詰めると国産車のソレと同じ運命を辿るのでしょうか?
「安全で」
「良くできた」
「でもそれだけでしかない」
「高揚感のない」そんな車に!
営業所の周囲(そのルートには一般道はモチロン、スピードの出せるバイパスやちょっとした山間部もありました。試乗をするにはうってつけだったと言えるでしょう。)を一回りして帰ってくる頃、私とカミさんは妙に言葉少なになっていました。
・・・POLOに現在乗っていらっしゃる方には別にケンカを売っている訳ではありませんが、・・・でもやっぱりつまらなかったです。
これなら遙かに金額の安いヴィッツを買っても同じだと思われます。<<(暴言)私たちはお互いの顔をとっくりと見合わせました。
「一応、ポロにするよ。」
「そう?」
弾まない会話。
気の抜けたやりとり。しかし、流石ウチのカミさん。私のネタ提供にここぞとばかりに強力に協力してくれました。
「グレードは"GTi"にするよ。」
「ぬわにいーっ!!?」
6.『いっしょに歩こう』
下取りも本家ディーラーより100k高く取ってくれるというし、決めました。しかもちょうど次の船便で、希望する黒の"GTi"が届くというではないですか。
私は早速、次の日の朝イチに店長に電話して"GTi"を押さえてもらうことにしました。
・・・話は変わるんですが、みなさん。私はここで一つだけ、教訓として書きたいことがあります。それは、
「お客様に何か大きな買い物をさせた後は、
絶対に何か余計なことを考えさせないように配慮すること」
ここから事態は更に急降下で進みます。ええ、進んじゃうんです(T_T)。
その日の昼休み近くのことです。一本の電話が私の職場にかかってきました。
「化けさん(勿論職場では本名です、念のため)、奥さんから電話だよ。」
ぎく。
・・・こんな時にわざわざ、しかもねらいすましたように忙しい時間帯にかかってくる身内の電話など大抵ロクなものがありません。
私はしぶしぶ手近な受話器を取り上げ、「保留」ボタンを解除しました。
「あ、もしもし? アタシだけど。」
備"BINGO"後です。
・・・・・・・・・・・・・・・・相手はカミさんです。この受話器の向こうから何かイヤな気配が漂っているのをビンビンに感じます。
「・・・なに?」
私の声は掠れていたような気がします。ああ、言うんじゃない、今更やめるとか言うなよ、もう連絡しちゃったぞ?
「やっぱりプントちゃんにするっ。帰りに車屋さんで待ってるから。それだけ、じゃあね。」プツッ、ツー、ツー、ツー。
(思考回路をフォーマットしています。しばらくお待ち下さい)
・・・取り残される僕。
・・・・・・受話器を握りしめたままの姿勢で置いてきぼりの僕。
・・・・・・・・・「ちゃん付けで呼ぶほど親しくなった何か」があったらしいのだけれどちっとも分からない僕。
思わず「どうしてなのママン」などとフランス語で泣きを入れてみたくなりました。
そんな風に固まってしまった私を、職場の人が追い込みます。
「どうしたの? 不幸でもあったの?」
ええ、いま精神的にめちゃくちゃ不幸です、私。 その日に限ってカミさんの職場の電話番号を持っていなかった私は、やむを得ずカミさんの携帯に電話を入れてみる。
・・・。
・・・・・・。
「おかけになった番号は、現在電波が届かないトコロにあるか・・・」
・・・・・・・・・ちっ、使えねぇな"J-PH●NE"!!
仕方がありません。半分泣きそうな顔のまま、私はその日を職場で過ごしました。
会社の帰りに、ディーラーで待ち受けているであろう悲喜劇を計りかねながら・・・。
7.『花咲く巴里』
飛び込むような勢いで自動ドアをくぐり抜ける私。
果たしてそこには、困ったような笑みを張り付かせたままの店長の姿と、その店長の正面の椅子に腰掛けて私を待ち受けているカミさんの姿がありました。
「・・・・・・・・・で?」
「うん。実は"GTi"をやめて・・・。」
凍り付く営業所の店内。
「・・・それで?」
「やっぱりプントちゃんにすることにしたよ。」
ホッとした空気が瞬時に流れこむ営業所の店内。店長も今では"GOOD SMILE"で私たちの前に居ます。
聞けばプントのカタログやら私が買っている"TIPO"の記事を読んでいるうちに、最初は見慣れないデザインだったプントの方が、木更津辺りにこれからあふれかえりそうなPOLOよりも魅力的に写ってきたんだとか。
ちなみにプントの決定打は、
まぁ私も先に書いた理由でVWは以前ほど好きではなくなっていたので、これはこれで別にいいかと思い直しました。色はオリオングレイという、どちらかと言えばガンメタみたいな色。これに・・・。
「ポリマーシークと。」
ふむふむ。
「ガソリンは納車時に満タンで。」
ほほう。なかなか買い方が分かってきたじゃないの。
「あと、後ろのウィンドゥ全部に真っ黒いスモークフィルムを入れてください。」
「なんですとおーっ!?」
(HDDがクラッシュしました。再起動します)
め・・・。
目つきの悪い二代目プントに・・・。
ギラリと光るガンメタリックのポリマーシークの肌と・・・。
そして真っ黒いスモークフィルム・・・。
(データの復旧に失敗しました。再セットアップ試行中)
神様。
私はこの女性を妻に娶ったことを、今回ほど痛いと感じたことはありません・・・。
8.『未来(ボヤージュ)』
そして2001年7月某日。
納車完了です。
カミさんと新しい相棒の「FIAT PUNTO 1.2ELX 'Speed Gear'」の、
明日はどっちだ。
(終わり)