Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第434夜

っつか、もうチョーダメダメっす



 なんだかだるい。やる気が出ないっつーか。
 原因の一つが鼻炎であることは間違いないと思うんだが。
 鼾 (いびき) が、鼻から口にかけての気道がふさがれることによるものであることは知られていると思うが、昼、息をしているのに鼾にならないのは、体に力が入っているからである。眠ると力が抜ける。その結果、喉とか鼻とかの筋肉が垂れてきて気道をふさぐ。
 俺の場合、鼾をかいたまま寝てる、ってことは (おそらく) なくて、力が抜けて鼾をかきはじめた瞬間に目が覚める。鼾をかかないように体勢を変えてリトライする、ということを繰り返すので、寝つくまで時間がかかるわけである。*1

 鼻炎はそう簡単に治るものではないので、疲労回復に効く薬でごまかそうかと思っていたところ、養命酒が妙な広告を出した。サライの 4/7 号に載っているので、もし間に合ったら見てみてほしい。
 疲れてる人のための飲み物、ということで、「疲れた人」を各地の方言で表現している。25 個あった。
 秋田はなくて、「北海道弁・東北弁」という形で「こわい」が挙がっている。これは、「筋肉が強張った状態」を指す。秋田の「こえ」も同系。関東弁も「こわい」になっているが、これは茨城あたりを指したものだろう。あの辺は、方言区画としては東北弁の地域である。
 広島の「たいぎぃ」は「大儀」、鹿児島の「だれた」は「だれる」「だるい」、「よだきい」は大分弁として紹介されているが、宮崎・熊本あたりでも使う。「疲れた」というより「億劫だ」「面倒くさい」という方に重きがある。鳥取では、これを人について使うと「ダメな奴」というような意味になる由。
 静岡弁として「かんだるい」が挙げられているが、「かいだるい」が和歌山辺りまで延びる。大阪南部では「ふがいない」ということに意味が変わるようだ。あるいは、「疲れた」と「人間としてダメである」には接点があるのかもしれない。
 英語でも“tired”には「疲れた」と「飽きた」という意味とがある。「疲れた」の守備範囲の広さに共通点があるのはなんとなく面白い。
「京都弁・福井弁」という形で複数の地域にまたがった表現である、ということも書かれているわけだが、そんなのは別に「ほっこりした」に限った話ではない。方言の違いってのはアナログなものなので、「秋田弁」とデジタルに切ると、こぼれ落ちるものが山ほどありまっせ、旦那、ということである。

 話は急に変わるが、秋田魁新報のコラム「北斗星」。
 市町村合併で、3/22 に、一気に 6 つの市が誕生した。方言に絡めてその話題を取り上げていた。
 ネタになった表現は、ここでも何度も扱った「うるがす」。寒天とか、研いだ米とか、なにかを水に漬けておいて状態の変化を期待する、という動詞である。これは、主として柔らかくすることが目的なので、「状態の変化」とは言いながら、焼けた鉄を水に入れて冷やす、というときには使えない。
 更に、問題が発生したとき、状況の変化による解決を期待して放置することも「うるがす」と言う。接点はあるので理解できるだろう。
「北斗星」はこれを「先人の知恵に感心する」と表現している。
 ちょっと待て。
 それは、その使い方が生まれた時点では、「乱れた日本語」だったはずだ。そこに気づけ。それを褒め称えていいのか。

 今、例の『問題な日本語』を読んでいるところである。スーパーで、少年マガジンとか婦人公論とかと一緒に並んでてびっくりしたが。
 それにも書いてある通りで、言語の変化には理由がある。理由があろうとダメだ、と言うのなら、「うるがす」をモノから発展させて状況に適用する使い方もダメであろう。
「全然いい*2」に対する非難もそうなのだが、「正しい日本語」教の信者は、過去に発生した「乱れた日本語」は肯定するのに、自分の目の前で起こっている「乱れた日本語」は否定する。そのダブル スタンダードについて、筋の通った説明を聞いたことが無い。「起こってしまったものはしょうがない」と言うのだろうか。「正しい」って言葉は、そんな安易な言葉ではあるまい。

 自治体の合併だが、目下、県内最大の自治体は新生の由利本荘市、次が同じくできたばかりの北秋田市である。この二つを合わせると、東京都より大きい。
 こういう広大な自治体が成立するについては、各地の方言の違いが小さくなっている、という現実も無関係ではない、ということは指摘しておこう。

 養命酒に戻る。
 方言の一覧の下にある文章に、「その土地ならではの趣」とあるが、この「ならでは」の意味がわからない。何が言いたいんだ? 「北海道・東北」ってとてつもなく広い括り方しといて。
 あと、「これだけ多く『疲れた』の言い回しがある国もないのではないでしょうか」。
 数えたのか?
 それとも、日本語って特別なんだよ、っていうアレか?

 というわけで、ほんの数時間で、言葉に関する、上滑りな文章を続けて読んだので、まとめてみた。
 ま、自戒も込めて。





*1
 なんで「鼾」は「かく」んだろうと思って
大辞林で調べた。「汗をかく」と同じで、汚いものを排出する、という意味なんだそうだ。「恥をかく」も用例として挙がっていた。 ()

*2
『問題な日本語』では、夏目漱石と芥川竜之介が、「全然」を肯定の意味に使っている例を紹介している。
 それにしても、今風の「全然」も、相手の言ったことや前提を否定する形で使われているのだ、という指摘にはびっくりした(「大丈夫?」「全然平気」は、「あなたは私が具合悪いと思っているのかもしれませんが、そんなことはありません」という意味。「大丈夫だろ?」に「全然平気」は返しにくい)。確かに、その通りだ。これに気づいた学生さんに脱帽。
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