Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第361夜

都市伝説



「都市伝説」という語の定義についてはほかに任せることにする。
 なんか。単なる「伝説」と違って、どことなく怖い話が多いのは気のせいか。俺、怖い話って苦手なのよ。

 こんな話がある。秋田弁で説明する。
 舞台は、とあるクイズ番組である。
出題者「人間の体で、『へ』で始まる場所は、どこでしょう」
解答者「へなが!
    (はずれ、のブザー)
解答者「あ〜、違った、へじゃかぶであった」
 解説が必要であろう。
へなが」というのは「背中」のことである。秋田弁に限らず、サ行とハ行はよく入れ替わる、ということは何度も書いた。「それなら」と「ほな」、「行きません」と「行きまへん」、「しゃっくり」と「ひゃっくり」、「しち」は「七」にしろ「質屋」にしろ「」と言う例がある。
へじゃかぶ」は「膝株」。
 正解は、「へそ」。

 さて、これがなぜ「都市伝説」か。
 秋田弁で説明する、と上で書いた。俺も、秋田の出場者がいて、と聞いた。
 ところがこれ、青森だ、宮城だ、岩手だ、と様々な説がある。検索エンジンで、「方言 AND アップダウンクイズ」とか「へなが AND クイズ」というようなキーワードをぶちこんでみるとわかる。
 青森説は、秋田と同じで、「へなが」「へじゃかぶ/へんじゃかぶ」。
 宮城説では、最初の一字が違い、「『し』で始まる部位」である。解答者は、「しぇなが」「しじゃかぶ」「してこび」などと答える。「してこび」は「おでこ」。
 仙台説では、「しなが」。
 宮城説の場合、正解は「心臓」である。
 新潟説では「ひ」、解答者は「ひじゃかぶ」。

 東北弁だ、というのが共通点としてある。ここでは、新潟も東北にくくる。
 正解が「人体の真中にある部位」だ、という点も共通している。ヘソしかり、心臓しかり。小指とかではないわけ。おそらく、これは本当の問題文にあったのだろう。「ひ」で始まるという新潟説の場合、正解は何になるんだろう。
 出題者が、それは方言だ、と指摘している説もある。その場合、再度、チャンスが与えられたりしている。それはうそ臭い、と思うがどうだろう。とっさに、それが俚言形だ、ということがわかるだろうか。「訛り」でわかったのか。
 解答者がどうなったかというと、津軽説では「へっちょだったか」と言って悔しがる、という駄目押しがあるほか、逆切れした、仲間に責められて自殺した、と様々である。人の死が出てくる辺り、いかにも都市伝説っぽい。

 膝について。
 京都では、「ひざぼん」という言い方がある。「膝坊主」だが、「膝小僧」という言い方は全国共通語にもある。なんでここ「小僧」なんだろう。
 岡山では「すねぼん」。「脛」の「坊主」だろうなぁ。
 長野では「おぼさん」。これでひらめいた。膝蓋骨 (いわゆる「皿」) を坊主頭に例えたのか?
 大辞林に寄れば、「膝小僧」は「膝の関節の外側の部分」。内側の柔らかいところは「膝小僧」とは言わないらしい。
 なお、そこは、「膕屈」または「引屈」と書き、「ひかがみ」と言う。
 突然ですがクイズです。「ひよめき」という人体の部位を示す単語がありますが、どこのことでしょう。
 鹿児島では「つんぶし」。「膝つ節」で、この「つ」は「の」という意味の「つ」。色んな節のうち、「膝の節」ということ。徳島の一部でも言う。

 比較的、標準語形に似ている、ということがあると思う。「へなが」にしろ「へじゃかぶ」にしろ、「あぐど (かかと)」「なづぎ (おでこ)」「げほ (おでこ)」ほど離れていない。ことに、クイズ番組という緊張した場面 (決勝だった、という説明もある) では、うっかり出てしまう可能性があるような気がする。
ひざぼん」あたりも危ない。音が標準語とそれほど違わないこともあるし。「ひ」で始まる部位が思いつかないけどな。「脾肉の嘆」とかか? これはこれで、問題が難しすぎて、警戒心が強くなってしまうか。
 そういう意味では、「してこび」は怪しいなぁ、と思う。

 これはおそらく、東北者の自虐趣味の結果であろう。
 好きで言葉について自虐的になったわけでもないと思うが。現に嘲笑されつづけてきたわけだから。自殺云々の噂はその線上にあるのだと思う。
 物語に仕立てて笑い飛ばしてしまうしかないのであろう。





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