本の紹介 太平洋戦争の起源

  目 次

1. あとがき
2. 本の目次
3. 著者紹介
4. 「歴史」とは何か
5. 米欧関係の行方
6. 「米国帝国論」の流行
7. 日露戦争の教訓

8. 感情の季節
9. 歴史を学ぶということ



入江 昭 著 篠原初枝 訳


財団法人 東京大学出版会発行

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1. あとがき
  本書は1987年にThe Origins of the Second World War in Asia and the Pacificという題でイギリスで出版された著作の訳書である。まず最初に、本書の日本語訳をすすめて下さった東京大学出版会の竹中英俊氏と、翻訳の労にあたられた篠原初枝氏に謝意を表したい。翻訳の仕事は、学術書であろうとそれ以外の著作であろうと、良心的にしようとすれはきわめて骨の折れる作業であるが、篠原さんは、シカゴ大学歴史学部大学院の学生として勉学に励みながら、二年がかりで、原書に忠実で、丁寧な翻訳をして下さった。私も一、二度目を通したが、竹中氏からも用語のみならず内容についても詳細なコメントをいただいた。また軍事史研究の第一人者である秦郁彦氏も校正刷に目を通され、多くの有益な指摘を下さった。このような方々の好意的でプロフェッショナルな支援なしには、本書の刊行もできなかったであろう。
 この本の英語版が出版されてから四年たったが、その間に刊行された文書や公にされた資料は少なくない。その中でも『日本外交文書』シリーズの『日米交渉−1941年』(上・下巻、外務省外交史料館、1990年)は特記すべきであり、それ以外にも『入江相政日記』(全六巻、朝日新聞社、1990−91年)や『昭和天皇独白録 寺崎英成・御用掛日記』(文芸春秋、1991年)などは貴重なデータを提供している。また学術研究書も多く発表されており、とくに最近では日中関係についての日本、中国の歴史家の労作が目につく。
 今回の翻訳にあたり、そのような資料や論文に一通り目を通したが、原書の書き直しはしないことにした。もともと英文の原書は学生や一般の読者を対象とした解説書で、詳細な史実を綿密に分析した学術書ではないことも一つの理由であるが、より根本的には、「太平洋への道」をマクロの枠組みでとらえようとした私の試みを、そのまま伝えたいと思ったからである。マクロの枠組み、すなわち太平洋戦争に至る経過を、主として国際関係史の流れの中でとらえるのは、もちろん一つの視覚を提供するだけであり、他にも多くの見方(例えば政策決定機構に焦点をあてたもの)のあることは当然である。しかし開戦から五十年たった今日、たまたま「冷戦後」の国際関係が流動的になっているだけに、世界の平和、安定、秩序といったものがどのようこして構築されるか、あるいは破壊されてしまうのか、といった問題を考えてみるのは重要であろう。1930年代も、1990年代も、国際秩序をどう定義するのかという根本問題は共通しているのである。
 現代の日本、そして1990年代の日本の外交を考えるにあたっても、太平洋戦争に至る道は示唆に富んでいるのではないか。再びあのような悲劇を繰り返さないためにも、日本の指導者が国際社会に対しどのような態度でのぞみ、どのような点で失敗、挫折し、あるいは誤りを犯したかを学ぶ必要がある。例えば本書もたびたぴ指摘するように、1930年から1941年にいたる日本外交は、世界の中で次第に孤立化していく。しかも孤立化を防ごうとしてとった対策のタイミンクが悪く、日本の地位の改善につながらない。また他方、「英米依存からの解放」といったスローガンの下に、世界秩序の再編成を試みるのであるが、それも自発的というよりは他力本願的、すなわち「世界情勢の変化」についての甘い判断によってもたらされる場合が多かった。総じて機会主義的、独善的で、自主性のない政策を続けたため、国際社会の中でますます孤立してしまった、といえる。
 しかしこのすべてが必然的だったわけではない。1931年の満州侵略以降、いくつかの道は残されていたのである。そして日本の選んだ道はほとんとすへてが孤立化を助長することになってしまったのであるが、この傾向に抵抗しょうとする指導者も存在していた。そして理念としても、意味不明な新秩序論ではなく、国際協調を前提とした修正秩序論も最後まで消え去らなかった。
 これからの日本が「冷戦後」の国際秩序の構築に貢献し、自らの孤立を防ぐためにも、太平洋戦争に至る経過を真剣にふり返ってみる必要があろう。本書がそのような点でも貢献することがあれば幸いである。
  1991年7月 東京にて                                      入江 昭

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2.本の目次
 第一章 序 論 ……………………………………………………………………1
  一 はじめに…………………………………………………………………………1
  二 ワシントン体制への日本の挑戦 ………………………………………………2
  三 新ワシントン体制の可能性……………………………………………………30
  四 人民戦線………………………………………………………………………42

 第二章 日本の孤立………………………………………………………………60
  一 はじめに…………………………………………………………………………60
  二 中国における日本の武力行動…………………………………………………61
  三 ドイツの対日接近 ………………………………………………………………74
  四 宥和政策  ………………………………………………………………………81
  五 東亜新株序 ……………………………………………………………………95
  六 外交革命   ……………………………………………………………………108

 第三章 反民主連合の進展……………………………………………………123
  一 はじめに ………………………………………………………………………123
  二 東京とワシントンの動向………………………………………………………123
  三 東京と南京の動向……………………………………………………………131
  四 ドイツの春季攻勢  ……………………………………………………………141
  五 国内新秩序……………………………………………………………………154

 第四章 同盟の蹉跌……………………………………………………………168
  一 はじめに………………………………………………………………………168
  二 三国同盟  ……………………………………………………………………168
  三 英米同盟の形成  ……………………………………………………………179
  四 日ソ中立条約   ………………………………………………………………195

 第五章 戦争への道……………………………………………………………210
  一 はじめに………………………………………………………………………210
  二 独ソ戦争………………………………………………………………………211
  三 岐路に立つ日本………………………………………………………………220
  四 日本の開戦決定………………………………………………………………240

 第六章 結 論  …………………………………………………………………253
  一 はじめに ………………………………………………………………………253
  二 東条内閣………………………………………………………………………254
  三 ABCD陣営の戦争準備 ………………………………………………………268
  四 真珠湾攻撃……………………………………………………………………274

 あとがき  …………………………………………………………………………281
 索  引

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3. 著者紹介
 1934年 東京に生まれる。
 1961年 ハーバード大学Ph.D.
 現 在 ハーバード大学歴史学部数授。
[主要著書]
 After Imperialism (1965, Harvard U. P.)
 『日本の外交』 (1966,中央公論社)
 Across the Pacific (1967, Harcourt, Brace)
 Pacific Estrangement (1971, Harvard U. P.)
 『米中間係』 (1971,サイマル出版会)
 The cold War in Asia (1974, Little, Brown)
 From Nationalism to lnternationalism (1977, Routledge and Kegan Paul)
 『日米戦争』 (1978, 中央公論社)
 Power and Culture (1981, Harvard U. P.)
 Experiencing the Twentieth Century (共編, 1985, 東京大学出版会)
 『二十世紀の戦争と平和』 (1986, 東京大学出版会)
 『新・日本の外交』 (1991, 中央公論社)
 『日米関係50年』 (1991, 岩波書店)

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[Last updated 2/28/2006]