「山行報告」塩見岳冬山合宿(’59年1月)

部報“山靴”No.65 (合宿報告特集号) -'59/7発行- より(土屋記)  

(メンバー) CL長島、SL高橋、朝倉、藤田、土屋、樋口(延)

(12月29日)
 新宿発のスキー合宿の人達と同じ汽車にて出発する。年々増えるスキーヤーの中で、大キスリングを担いで動くので、動作が鈍るせいか座席を確保できず、全員デッキで周りにポンチョをさげ、頭からツェルトをかぶって過ごした。

(12月30日)晴れ
 飯田線の一番列車に乗り換えて1時間半、やっと明るくなりかけた伊那大島駅に着く。バスの時間迄は2時間程ある。8時にやっと出たバスは、副与の乗り換えで30分待たされる。この間に朝食。落合に着いたのは10時10分。少し待ってトラックに乗せてもらい、沢井まで入る。1時間程歩いて奥沢井、ここで昼食を摂る。林道の終点、広河原からいよいよ雪も多くなってくる。重荷を気にしながら、2ピッチでやっと三伏峠の登り口に出る。
 時間的に少し早いので、尾根上にキャンプサイトを探したが良い場所がなく、少し下って沢の脇にC1を設置した。沢の水が使えるので、全てスムースに運び、20時キャンドルを消した。
 (伊那大島8:00→落合10:10→沢井11:00→広河原13:25→尾根取付き(幕営)15:00)

(12月31日)曇りのち雪
 今日の行動(三伏峠迄)が、今回合宿の最大のアルバイトコース。起床5時半で出発8時半、1時間1ピッチで重荷に喘ぎ、縺れる足に気を掛けながら登る。ゆっくりした歩調で一歩一歩と。2ピッチ迄は良かったが、上に行くにつれて 雪も多くなり、同時に疲れも出てくる。トップが替わり、そして又替わる。十歩も歩くと息が切れる。脚を踏ん張り、じっと恨めしそうに上を見る。そして又歩き出す。やっと稜線まで来ると、もう12時を回っている。
 先程から降り出した雪は、暖かい気温のためか重く、体に付くとすぐに水滴と化す。衣服は濡れる。大切な山靴まで水が滲み込んでいる。でも此処まで来れば、もう先は長くないと全員張り切って出発したが、1時間歩いてもまだ峠に着かない。また1時間だいぶ疲れた頃、やっと三伏峠に出る。夏の2倍は掛かった。全く苦しい登りだった。
 峠から小屋までは大したことはないと出発してみたが、小屋の下降点迄の林間はラッセルがひどく、苦労する。お花畑に出てからも時々もぐる。体がふらつく。脚が縺れる。雪はサンサンと降っている。16時、小屋に着き付近にテントを張る。積雪2m強。寝る前に2回テントの上と回りの除雪をする。
 (出発8:40→三伏峠15:10→三伏小屋(幕営)16:00)

(1959年元旦)雪
 昨日同様の重い雪のため、今日は停滞となる。昨夜からの雪は今朝迄に1m位は積り、昨日のラッセルは跡形も無い。狭いテントに6人は少し苦しく、1日が長いこと。退屈な1日であった。

(1月2日)晴れ
 塩見岳まで此処から往復出来ないことはないが、将来の縦走合宿の訓練のため権右衛門山付近にテントを進めることにする。2日間の雪で積雪も3m位になっており、重荷を担いでの歩行は非常に手間取る。
 本谷山の急坂では時々腰までもぐる。曇り空に青空が出て来て、間もなく快晴になった。本谷山から初めて見る塩見岳の姿は大きく力強いものを感じる。左手に農鳥岳、間ノ岳、北岳と続き、更に甲斐駒、仙丈岳が聳え立っている。
 本谷山から権右衛門山の道は林間なので、木にデカキスが当たると、枝の雪がバサッと落下して襟首に入る。全く苦しい。それでも時々見える塩見岳は、陽が上がるにつれて美しく、苦労も忘れる。
 (出発10:00→本谷山11:30→権右衛門沢(幕営)14:50)

(1月3日)晴れ
 「今日は登頂日」起床2時半、夜中にエアーマットの空気が抜けてもっと早くから目は覚めていたが。
 塩味の無いオジヤを食べ、どうにか元気を出す。昨夜揃えておいた用具を持って、真暗な林間に向って出発する。森林限界を過ぎると東の空が明るみ始め、白い急斜面が目に映える。風が強い。雪煙が飛ぶ。
 天狗岩の岩場も思っていた程でもなく、ぐんぐん高度を稼ぐ。雪煙が目をたたく。強風がヤッケを、オーバーズボンを通して身にささる。風を避けて首を曲げ、ピッケルを打ち込んで歩く。
 「頂上」7時40分、他のパーティーの誰よりも早く三千米の頂上に立った我々6名。今迄の4日間の苦労が今ここに立つためのものだったら、もっと喜び、もっと感激してもよいであろうが、ここは余りに風が強く、雪煙は顔を手を痛いほど叩く。でも、間近に見える南ア南部の悪沢岳、荒川岳、赤石岳と全く素晴らしい。
 この頂きに立つための4日間、いや数年の苦労は、この瞬間にして忘れ去る。長くは居られない。記念撮影をして下山。
 一度歩いた道は二度目になると楽に歩ける。ぐんぐん高度を下げるのが勿体無いくらいだ。時々振り返ってみる塩見岳は雪煙が飛び、大きな青空の下にどっしりと高く聳えている。
 テントを撤収して、鹿塩まで一気に下ることにして下山を急ぐ。広河原では既に暗くなり、鹿塩に着くのは10時位になると思われたが、途中で上手くトラックを捕まえられたので、予定より早く鹿塩に到着できた。
 待ちに待った風呂に入り、少しのアルコールで今日の登頂を祝い、暖かい布団で今迄の疲れを癒す。
 (出発5:45→塩見岳7:40〜8:10→テント撤収9:20〜11:00→三伏峠15:00→広河原17:15→鹿塩(宿泊)19:00)

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