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エイズ治療薬の現状

昭和62年7月15日号 No.3

  AZT(アジドチミジン)は、胃腸管から良く吸収され、主に肝臓で代謝を受け腎臓で排泄されます。
半減期は約1時間で、通常200mgを4時間毎に服用します。

 副作用軽減の手段として、AZTの誘導体であるDDC(ジデオキシシチジン)など複数の薬剤を組み合わせて使う方法が用いられています。

 これらはヌクレオシドと総称されるDNAおよびRNAの合成での前駆物質で、RNAウイルスであるエイズウイルスがRNAからDNAに変換する際の逆転写酵素を阻害することによって効果を現します。

 *エイズウイルスはT4細胞に特異的に感染し破壊し、これにより免疫不全につながります。

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 *ウイルス感染後は、健康キャリア→リンパ腺症を含むエイズの前駆症状(ARC)→真正エイズへと進行します。

 *T4リンパ球(ヘルパー)の大幅減少およびT4/T8比の低下が特徴とされています。

<消毒方法>

 エイズウイルスは、非常に抵抗力が弱く、熱に対して56℃30分で感染能力を失い、60℃5分で不活化され、78〜80℃で死滅します。

 エタノール(25〜50%)、ステリハイド、次亜塩素酸Na、イソプロパノール、クレゾール石鹸(5%)などが有効です。(室温、10分)


<HIVの増殖過程>

1.HIVがCD4陽性リンパ球細胞内に侵入する。

2.HIVは逆転写酵素を使って自身のRNAをDNAに変換し、複製を行う。

HIVはレトロウイルスであるため遺伝情報は一本鎖RNAに保存されているが、ほとんどの生物では遺伝情報は二本鎖DNAに保存されている。

3.HIV-DNAはCD4陽性リンパ球細胞の核内に侵入し、インテグラーゼを使ってその細胞のDNA内にもぐり込む。そしてHIV-DNAはその細胞にHIVのコピーを多数作成させる。

4.新しいウイルス粒子が組み立てられてその細胞から放出され、他のCD4陽性リンパ球細胞に感染する準備が整う。HIV増殖の起こったCD4陽性リンパ球は破壊される。

<<2000年2月追記>>

・逆転写酵素阻害剤

 ヌクレオシド系(NRTI)
   
  抗レトロウイルス剤
  NTRI〜核酸系逆転写酵素阻害剤

 その三リン酸化合物が逆転写されるDNAに取り込まれてそれ以上のDNAへの転写を不可能にする。

  有効性が初めて確認された抗レトロウイルス薬。自らがHIVのDNA内に取り込まれることによりHIVの増殖過程を中断する。その結果、合成されたDNAは不完全であるため新しいウイルスを形成できない。

          ザイアジェン(ABC)、コンビビル(AZT+3TC)、ゼリット(d4T)
          エピビル(3TC)、ハイビット(ddC)、ヴァイデックス(ddl)
          レトロビル(AZT/ZDV)
 
 非ヌクレオシド系(NNRTI)

NNRTI〜非核酸系転写酵素阻害剤

 細胞内で逆転写酵素に直接接着し、逆転酵素の立体構造を変えてしまうと言われている。(逆転写酵素の疎水性ポケットに結合し、触媒活性を阻害すると考えられる。)

  逆転写酵素と直接結合し、RNAからDNAへの変換を阻害することによりHIV増殖を停止させる。これらの薬剤はNNRTIと作用部位は同じですが、作用機序が全く異なる。

          ストックリン(EFV)、ビラミューン(NVP)

・HIVプロテアーゼ阻害剤(PI)

 HIVの増殖サイクルの最終段階であるHIV前駆体蛋白質からウイルスの構造蛋白と酵素(プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ)を生成する過程を阻害する。

 プローゼ(APV)、ビラセプト(NFV)、ノービア(RTV)、インビラーゼ(SQV)、
 クリキシバン(IDV)

・日和見感染治療薬

 CMV(サイトメガロウイルス)感染治療薬:ホスカビル、デノシン、
 カンジダ症治療薬:エンペシド


・成長ホルモン製剤:セロスティム

  CD4リンパ球数200/mm3以下の症候性HIV感染症並びに後天性免疫不全症候群(エイズ)に伴う体重減少患者における除脂肪体重の増加及びその維持


HIV治療の原則

出典:OHPニュース 1999.4

・早期に強力な抗HIV療法を開始する。
・治療目標はHIV−RNA量を検出限度以下に抑え続ける。
・治療は原則として3剤併用で開始すべきである。
・抗HIV薬は、どの薬剤であっても単剤で用いるべきではない。
・併用療法といっても、1剤づつ足していってはならない。
・次の組み合わせを副んだ多剤併用療法は行ってはならない。
AZT+d4T、ddC+ddI、ddC+d4T、ddC+3TC
・適正な服薬方法の徹底が必要
・治療により免疫が回復したからといって、決して治療を中止してはならない。

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ネビラビン

ジドブジン(AZT:レトロビル)、ジダノシン(ddI、ヴァイデックス)、ラミブジン(3TC,エピビル:日本でも申請中)などのヌクレオシド類縁体は、HIV逆転写酵素を阻害します。

ネビラピンは、HIV逆転写酵素を阻害する“非ヌクレオシド”で、本剤は、HIVのヌクレオシド感受性株及び体制株の両方に対し活性があり、いくつかの株に対してはヌクレオシド類との併用により相乗的に作用します。

ネビラピンを単独、または一種類のヌクレオシドのみと併用した場合には、HIV耐性が急速に発現します。

主な副作用は発疹で、通常治療初期に生じ、重篤または致命的になる可能性があります。
発熱、悪心、頭痛等、CYP3Aタイプの肝チトクロームP450イソエンチームを誘導し、経口避妊薬、プロテアーゼ阻害剤、他の薬剤の血清中濃度を低下させる可能性があります。

ネルフィナビル

米国では入手可能となった4番目のプロテアーゼ阻害剤、サキナビル(Invirase:日本未発売)、リトナビル(ノービア:申請中)、インディナビル(Crixivan:日本未発売)と同等。
経口剤で食物の影響を受けずよく吸収されます。HIV耐性の発現は遅く、大部分の耐性株は他のプロテアーゼ阻害剤に感受性を残しています。古いプロテアーゼ阻害剤に耐性の株は、ネルフィナビルにも交差耐性を有することがあります。

進行したHIV感染患者で、2種類のヌクレオシドとネルフィナビルを併用すると、CD4値が増加し、HIV RNAが検出範囲以下にまで低下することが示されています。

副作用:インディナビルやリトナビルより忍容性がよく、。軽度から中程度の下痢、他のプロテアーゼ阻害剤と同様に、他剤の肝代謝に影響を及ぼしますが、リトナビルより影響は少ないとされています。

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HAART
highly active antiretroviral therapy

 現在の標準的な抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)療法は、抗HIV薬を3〜4剤使用するHAARTと呼ばれる多剤併用療法です。

 このHAARTにより、HIV感染者の生命予後は著しく改善されましたが、現在のHIV剤ではHIVを完全に排除することは事実上困難とされています。

 このことが明らかになるにつれ、服薬に伴う患者への肉体的、精神的、経済的負担を考慮すると、HAARTの開始をできるだけ遅らすべきであるという考えになってきています。

 1997年以降NRTIを2剤とPIを1〜2剤併用する多剤併用療法が可能となり、多くの感染者で血中HIVRNA量が検出感度未満にまで低下させることが可能となりました。

 現在では、NRTI2剤+PI1〜2剤またはNRTI2剤+NNRTI1剤を用いる療法が、HIV感染症の標準的療法となっています。

 NRTI:ヌクレオシド系逆転酵素阻害剤、NNRTI:非ヌクレオシド系逆転酵素阻害剤、PI:プロテアーゼ阻害剤(上記参照)

 出典:医薬ジャーナル 2004.11


<付記>

HIV量と病状の関係

 HIV感染症は、感染から発症まで平均十数年といわれている慢性のウイルス疾患ですが、その発症には非常に個人差が大きいことが知られています。

 病状の進行は初感染から6〜9ヶ月目の血漿中ウイルスRNA量(以下ウイルス量)に相関し、ウイルス量の高い人ほど病状の進行が速いとされています。初感染直後HIVはHIVに対する免疫のない固体内で非常に速い速度で増殖します。しかし、細胞性免疫が機能しはじめる4週目ごろ(免疫学セットポイント)をピークにウイルス量は減少しはじめます。

 液性免疫、すなわち抗体はウイルス量が下がり始めてから上昇してきます。その後、感染から6〜9ヶ月ぐらいで、血清のウイルス量はそれ以上下がらないウイルス学的セットポイントに達します。この時のウイルス量が高い人ほど早く病状が進行し、低い人は長期未発症であるとされています。

 ウイルス学的セットポイント以降のウイルス量が一定となり、あまり変化が見られない無症候期でもウイルスが激しいturn overを繰り返しています。

 リンパ節内でHIVは1日に約数十億個が産生され、6時間程度の半減期で消退していること(半減期約10分という最近のデータもある)、感染したCD4陽性(CD4+)T細胞は約1.6日の半減期で破壊されることが分かってきました。つまり、産生されるウイルスに対抗してCD4+T細胞を次々に供給し、平衡状態を保っているのです。したがってウイルス量が高いほどより多くのCD4+T細胞を供給し続けなければならず、結果として供給すべきCD4+Tが細胞が枯渇してくることになり免疫不全が進行してくるものと考えられます。

 これらの事実からすると、いかにしてHIV量を上昇させないでおくかということが、エイズを発症させないための治療の基本であり、有効な治療によりウイルス量を減らすことができれば、病状の進行を遅らせることも可能ではないかと考えられます。

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