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B型肝炎の予防

昭和62年8月15日号  No.5

===汚染事故が起こったら48時間以内にヘブスブンを===

 

 最近(注!!このころは、エイズもC型肝炎も知られていませんでした。)誤って使用済みの注射針を刺してしまう医療事故によるHB(B型ウイルス感染)が問題となっています。

 現在では、HBウイルス(HBV)感染の処置薬として、HBワクチン(HBY)とHBグロブリン(ヘブスブリン)の2種類があります。

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* ヘブスブリン(乾燥ポリエリレングリコール処理抗HBs人免疫グロブリン)

 本剤は受け身免疫によってB型肝炎ウイルス感染を予防するもので、HBs抗原陽性血液による汚染事故後のB型肝炎発症予防やHBVキャリアの母親から生まれたHBV感染予防などに適用される。

 <適応症>  HBs抗原陽性血液汚染事故後のB型肝炎発症予防

 <用法・用量>通常、成人に対して1回5〜10ml(1000〜2000単位)
        筋注用と静注用(I)あり。

 事故発生後7日以内。48時間以内が望ましい。

* HBワクチン(HBY)

 血中に迷入したHBVは、肝細胞に取り込まれ増殖するがあらかじめワクチンを接種しておくことにより抗HBs抗体が生体内で産生され、HBVは肝細胞に取り込まれる以前に流血中で中和処理され、肝炎発症が防御される。

 <適応>B型肝炎の予防、母子感染の予防

 HBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液による汚染事故後のB型肝炎発症予防(抗HBs人免疫グロブリンとの併用)

*医療関係者のうちハイリスクの人、HBe抗原陽性の妊婦からの出産児、キャリアのいる家族(特に乳幼児)、頻回輸血が予測される患者

<用法・用量>
 通常0.5mlを4週間隔で2回、更に20〜24週を経過した後に1回0.5mlを皮下に注射

<<B型肝炎に有効な消毒剤>>

 切り傷、眼は石鹸と大量の水で洗う。

 手は1%次亜塩素酸Naで洗った後、石鹸と水で洗う。

 汚染血液等を床にこぼしたら直ちに棒雑巾に1%以上の次亜塩素酸Naをつけてこする。

 器具類の消毒はステリハイド、0.1%次亜塩素酸Na(血液汚染時は1%)へ1時間浸潤

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HBs抗原(オーストラリア抗原)〜防御抗体産生を誘導する。
HBc抗原〜ウイルス粒子のコアあるいは感染肝細胞核にある。
HBe抗原〜血清の感染力によく相関する。

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セロコンバージョン
seroconversion


ウイルス抗原が陰性となり抗体が陽性となること。

e−セロコンバージョン

出典:薬局 1998.5

 HBVの感染様式には2種類有ります。
1.成人が性行為などにより、感染(成人初感染)して発病する急性肝炎と2.出産時に母子間で成立する持続感染状態(キャリア)です。

 成人発感染では、数%に劇症肝炎が見られますがほとんどはウイルスは排除され肝炎は沈静化します。そして感染後約6ヶ月でHBs抗体が出現することで、終生免疫を獲得し肝炎は治癒します。成人初感染はIgM−HBc抗体価が陽性になることでキャリアとの鑑別が出来ます。

 日本でのキャリアのほとんどが母子間垂直感染です。母親がe抗原陽性例では高率にキャリア化しますが、e抗体陽性例ではごく僅かしかキャリア化しません。

<キャリアの自然経過>

 感染早期の10〜20歳代までの若年齢では宿主の免疫応答が乏しい(免疫寛容)ためウイルス量が多いにもかかわらず肝炎の起きていない状態で推移します。
 e抗原陽性、e抗体陰性、血中HBV−DNAおよびDNAポリメラーゼは高値です。これがヘルシーキャリアと呼ばれる時期です。

 20歳後半から30歳前半にかけHBV感染肝細胞はリンパ球の標的にされ肝臓に炎症が生じます。この肝炎は一過性で終わり、e抗原陽性の陰性化、さらにe抗体の陽性化をみます。これがeセロコンバージョンと呼ばれる重要な現象です。

 e抗原の産生が停止するとHBVの産生も著しく低下します。その時、肝内ではe抗原を産生できないHBV変異株主体の感染が成立しますが、多くの例で肝障害はほぼ終焉します。全HBVキャリアの80〜90%はこのような良好な経過をたどり、特に治療の必要はありません。自然経過でも年間5〜10%の症例でeセロコンバージョンが起きています。


 eセロコンバージョンは35歳を過ぎると自然には起きにくく、ALT(GPT)の変動が激しく肝硬変への移行が危惧される場合は、積極的な治療の対象となります。HBVキャリアの10%が肝硬変へ4%が肝細胞癌が発生すると推定されています。

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SVR
sustained virological response

持続性ウイルス学的著効

IFN治療終了後6ヶ月間、最も高感度の検出系を用いて血中HCV−RNAが検出されない場合に、IFNの治療効果がSVRであったと判定します。


エイズ治療薬のラミブジンが、B型肝炎ウイルス(HBV)にも効果

出典:朝日新聞 2000.12.9.6


 ラミブジンは出産時などに感染したHBVのキャリア(保持者)が10代後半から20代にかけて発病する慢性肝炎に対しても効果があることが分かりました。とりわけ重症化した患者で1割しか助からなかったものが全員助かり、2割しか助からなかった劇症化患者の救命率も6割異常に上がりました。
(虎ノ門病院での報告)

 ラミブジンは核酸誘導体で、DNAの一部に似ており酵素が間違えてDNAにつなげてしまうと、細胞が増殖できなくなるという作用で、もともと抗癌剤として開発されました。

 ラミブジンの場合は、エイズウイルス(HIV)のRNAからDNAをつくる逆転写酵素の働きを防ぎウイルスが増殖するのを抑えます。

 HBVはHIVと異なりDNAを持つウイルスですが、肝臓の細胞の中で自分のDNAからまずRNAを創り、再度DNAに戻すという奇妙なことをしています。その時に逆転写酵素が働きます。

 人間の細胞が持つDNAを作る酵素は天然の核酸と同じ型しか選びませんが、HBVの逆転写酵素は天然型でない方の核酸も取り込みむしろ天然でない方を多く取り込んだとの報告があります。そのため人間に対する毒性が低く副作用が少なくなります。

 問題点もあり、1年間ラミブジンを使用し中止したところ、反動でHBVの活動が激しくなり、肝炎が悪化して死亡例も出たとのことです。

 また、長く使うと耐性ウイルスが出てくることもあります。インターフェロンとの併用で治療することもできますが、耐性になると病原性も弱くなり、ラミブジンが効かなくても肝機能は回復するという報告もあります。

ラミブジン 商品名 ゼフィックス錠

薬理作用

1.DNAポリメラーゼ/逆転写酵素阻害(上記参照)

2.DNA鎖伸長停止

 チェーンターミネーション

 ラミブジンはヌクレオシド(シチジン)誘導体なので、HBV複製中の(−)鎖DNAのシトシン部位に取り込まれることで、DNA鎖の伸長を停止させます。


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de novo B型肝炎

2010年9月1日号 No.528

 de novo B型肝炎とは、いったん治ったと思われる患者さんが癌化学療法や長期間にわたる免疫抑制療法を受けることで。HBVが血液中に出現して再活性化する病態をいいます。

 HBs抗原が陰性になって、ウイルスは排除されたと思われていた場合であっても、肝細胞や末梢血の単核球などに微量ながらHBVが残存し、免疫抑制状態下において、再び増殖してくる可能性が明らかにされています。

 {参考分家}血液製剤 headline 2010.No2(日本赤十字社)

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 B型肝炎ウイルス(HBV)に感染した成人感染例の大半は急性肝炎を発症しますが、免疫能に問題がなければ、所見上、HBVはいずれ血中から消えて排除された形になります。

<再活性化の機序>

 大きく分けて2つのファクターがあります。

1)癌化学療法、免疫抑制療法前のHBVの感染状態
  HBs抗原陽性>HBc抗体陽性あるいはHBs抗体陽性の順に再活性化リスクは高くなりますが、HBs抗原陽性例のなかでもHBV-DNA量が多い場合にはさらにリスクが高いと考えられえています。

 HBc抗体、HBs抗体いずれも陰性の場合は、リスクがないとかないと考えてもよいでしょう。

2)宿主(身体)の状態

  年齢などの要因もありますが、重要なのは免疫能がどれくらい抑制されれるかということで、臓器移植などで免疫抑制剤を長く使用している患者さんは高リスクt考えられます。

<対策>

 厚生労働省のガイドライン(下記参照)

 HBs抗原陽性例では、早い時期から核酸アナログ製剤(バラクルード)を予防投与することが望ましいと考えられます。

*免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン


 厚生労働省のガイドライン(下記参照)

 HBs抗原陽性例では、早い時期から核酸アナログ製剤(バラクルード)を予防投与することが望ましいと考えられます。

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*免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン

   スクリーニング(全例) HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体

*HBs抗原(+)→HBe抗原・抗体、HBV-DNA定量→核酸アナログ投与(バラクルード)

*HBs抗原(-)

    
   →HBc抗体(-)and HBc抗体(-)→通常の対応

   → HBs抗体(+)and/or HBs抗体(-)→HBV-DNA定量
     
    (+)検出感度以上→核酸アナログ投与(バラクルード)
    (-)検出感度未満→モニタリング HBV-DNA定量 1回/月(AST/ALT 1回/月)治療終了後少なくとも12ヶ月まで継続

        (+)検出感度以上→核酸アナログ投与(バラクルード)
        (-)検出感度未満→モニタリングにもどる


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HBs抗原:ウイルスの外側にあり、感染した肝細胞での増殖の際に小型粒子として血中に遊離される。
     :測定時点でのHBVによる持続感染を意味する。

HBe抗原:ウイルスの内側にあり、過剰増殖の際に可溶性蛋白として血中に遊離される。
     :測定時点での肝臓内でのウイルスが活発な増殖をしており、感染力が高い状態にあることを意味する。

HBc抗体:ウイルスの内側にあるコア抗原(HBc抗原)に対する抗体(中和抗体ではない)、増殖の際血中に遊離される。
     :一過性にHBVに感染した場合、HBs抗原が血中から消える前の早い段階から出現してくる。
     :過去の感染既往があったことを意味する。

HBs抗体:HBs抗原に対する抗体(中和抗体)、一過性にHBVに感染した場合、HBs抗原が血中から消えた後に遅れて出現してくる。
     :過去の感染既往があったことを意味する。


HBV再活性化対策と輸血後肝炎との鑑別

 癌化学療法、免疫療法を行う際のスクリーニング検査では、HBs抗原だけでなく、HBc抗体とHBs抗体を必ず測定すること、そして、いずれかの検査が陽性の場合にはHBV-DNA定量検査をモニタリングすることが重要です。

 また、HBs抗原陽性例と陰性例では、再活性化のパターンが大きく異なることを知っておく必要があります。HBS抗原陽性例では、癌化学療法の早期、たとえば、1コース目とか2コース目に突然、肝障害が起きることがしばしば見られますが、HBs抗原陰性例の場合は、後半あるいは抗癌剤投与が終了した後にウイルス量が増えて再活性化し、肝炎を発症するパターンがほとんどです。
 つまり、HBs抗原陽性例では肝障害とウイルス量の増加がほぼ同時に進行するため、早い時期から核酸アナログ製剤(エンテカビル:バラクルード錠)を予防投与することが望ましいと考えられます。

*輸血時は感染症マーカー検査を徹底すること

 これまで輸血後肝炎とみなされていた症例の一部は、HBc抗体とHBs抗体が輸血前に陽性であった可能性の高いことが指摘されています。

 以前から肝臓内に潜んでいたHBVの再活性化によって、肝炎が発症したかもしれないのです。

 de novoB型肝炎対策の基本は、HBc抗体とHBs抗体を測ることですので、輸血の際は全例を対象とした輸血前後の感染症マーカー検査を徹底することが求められています。

 それが、再活性化の予見を可能とし輸血後肝炎と再活性化肝炎の鑑別するための有力な手がかりになると考えられます。


{参考文献}血液製剤 headline 2010.No2 名古屋市立大学大学院医学研究科 楠本 茂氏

   

 

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