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手術時の血液準備方法について

SBOEとは

1999年9月15日号 276

 

 手術用の血液準備量について、適正な量の血液を準備し、血液の有効利用を促進するとともに、輸血検査の無駄を省くことを目的として下記のような方法が推奨されています。

医薬発第715号 厚生省医薬安全局長

1.最大手術血液準備量と手術血液準備量計算法

 最大手術血液準備量(Maximum Surgical Blood Order Schedule;MSBOS)とは、術中輸血の可能性の高い場合に用いられる方法です。合併症のない定型的な待機的手術症例を対象にして、術式別の平均的な出血量あるいは使用量と交差適合試験申し込み量から算出された血液量(MSBOS)のみを手術前に準備することです。

 つまり、交差適合試験をして準備する血液単位数(C)を実際に使用した単位数(T)にできるだけ近づけることを目標とし、C/T比を1.5以下、すなわち術前の血液準備量は輸血量の1.5倍以下とすることが妥当とされています。ただし、この方法では術前の患者の貧血のレベル等、個別の状況が考慮されていないことから、近年これに代わる手術血液準備量計算法(Surgical Blood Order Equation;SBOE)が提唱されていますが、これは、血液型不規則抗体スクリーニング法(後述)を前提としたより無駄の少ない血液準備を行う方法とされています。

 この方法は、術式別に平均的な出血量、使用開始の基準点(トリガー;Hb7〜8g/dL)及び患者の術前Hb値の3つの数値から、患者固有の血液準備量を求めます。つまり、はじめに患者の全身状態が許容し得る血液喪失量(出血予備量)を求め、その量と手術時の出血量との差から準備量を計算します。すなわち、手術での出血量が出血予備量を上回らない場合には血液の準備を必要としませんが、逆に上回る場合にはその差(不足量)を準備する方式です。

2.血液型不規則抗体スクリーニング法

 血液型不規則抗体スクリーニング法(Type and Screen;T & S)とは、術中輸血の可能性の低い場合に用いられる方法です。

 例えば、輸血する可能性が30%以下あるいは1症例につき平均2単位以下の使用量の手術術式では、予め患者のABO血液型・Rho(D)型(T)と不規則抗体スクリーニング(S)を行って、Rh陽性・不規則抗体陰性であれば交差適合試験済みの血液を準備しないで手術を行います。

 術中に血液が必要になった場合には、輸血用血液のABO血液型の確認(オモテ検査)あるいは主試験(生理食塩液法の迅速法)を行って、直ちに使用する方法です。T&Sを行っておけば、大部分の不適合輸血を防ぎ、安全な輸血が可能であることから、積極的に活用することが推奨されます。

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 現在、当院での血液センターの返品本数が多く、血液センターより、血液の効率的運用を考慮するように再三注意されています。

 注文された血液の50%程度が未使用で返却される状態です。

 また、期限切れで廃棄となったものは財源的に無駄であるばかりでなく、善意の献血というボランティアの行為も無駄になってしまいます。

 ABO血液型の取り違いにより、致命的な溶血性の副作用を来すことがあります。

 使用直前には、患者氏名(同姓同名患者ではID番号や生年月日など)・血液型・その他の事項についての照合を、必ず各バッグごとに細心の注意を払った上で実施することが必須です。


「買ってはいけない」はもう買われましたか?

EBMに向けて(1)

 「買ってはいけない」という本がベストセラーになっているそうです。私も自分で買ってよみました。かつて私はこのコーナーで毒舌薬理学というシリーズを連載していましたので、共感を持って読みました。

 この本を要約すると、今発売されている主な食品(特にファーストフード)、化粧品などには様々な化学物質が添加されている。それらが人体にどんな有害な作用をもたらすのか分かったものではない。だから、そんなものは買ってはいけないということなのです。

 その後すぐ、この本に対する反論も出始めました。曰く、引用されているデータは、一見科学的根拠がありそうだが、良く調べてみるといい加減だ。勝手にデータをごまかしている。文藝春秋に掲載された反論の一部を引用してみますと「独自の検証もせず、都合の良い文献からの恣意的な引用だけを自説の根拠にした。」ということなのですが、これは私が最近まで連載していたバイアスを考えるシリーズでも書いていたことと同じです。

 そして、この反論している筆者自体も「買ってはいけない」とされる商品を全面的に支持しているわけではなく、「ではないだろうか」「ことも考えられる」「否定できない」とされる部分に問題点があるとしているのです。

 これも、良く考えてみると今、薬物療法でも最近騒がれている"EBM"と共通するものがあります。

 EBMにつきましても、このコーナーで触れたことがありますが、一体どういうことなのかもう一つピンときませんでした。しかし、これらの本を読んでいるうちに私にはピンとくるものがありました。要するEBMとは「この薬はほんまに効くんかいな!」という疑いを持つことが必要だということです。

「この薬は効くかもしれない。」「効くことも考えられる。」 「効果は否定できない。」というのが今までの薬だったのです。 本当に効くことが実証されている薬を効果的に使おうというのがEBMなのです。 


<医学用語辞典>

バランス・スコアカード
BSC

 米国で開発された企業の経営状態を評価するシステム。

 従来の「財務(過去)の視点」に加えて、「顧客(外部)の視点」、「業務(内部)の視点」、「学習と成長(将来)の視点」の4つの指標から経営状態を評価します。

 最近は企業だけでなく病院機能の経営管理手法としても導入されつつあります。


ATM療法


 潰瘍性大腸炎の治療に、ヘリコバクタ・ピロリ除菌療法のような抗菌薬多剤併用を行う療法

 F.variusmが大腸粘膜細胞に付着、侵入し、粘膜からIL6,IL8などの炎症性サイトカイン産生を著明に促進する作用があることが確認されています。そこでF.variusmが抗菌薬に耐性化することを防ぎ、より高い効果を促すためにH・ピロリ除菌を参考にF.variusmに感受性の高いアモキシシリン(ABPC)、テトラサイクリン(TC)、メトロニダゾール(MNZ)の3剤を併用する療法(現在保険適応外)

 ※ 用量は、H・ピロリ菌に用いる用量の1.5倍
 

    出典:薬事 2007.1   日本消化器病学会雑誌101 A515.2004 大草 敏史


自己免疫性膵炎


 自己免疫性膵炎とは、その発症に自己免疫の関与が疑われる膵炎で、画像上、びまん性膵の腫大と膵管の狭細像を示す症例が中心で、高γグロブリン血症、高IgG血症や自己抗体の存在、ステロイドによる治療が有効であるなど自己免疫機序の関与を示唆する所見を伴う膵炎で、予後は比較的良好です。

 日本では、1992年に」びまん性膵管狭細型膵炎として始めて報告され、特徴的な膵管像に注目が集まり、その後、多くの報告がなされてきました。

 この疾患の発生頻度は明らかではありませんが、比較的稀な疾患と考えられており、高齢者の男性に好発します。通常の膵炎のような強い腹痛を訴えることは少なく、ほとんどの患者では軽度から中等度の痛み、あるいは腹部不快感を訴えます。約70%の症例で閉塞性黄疸を認め、この症状を契機に医療機関を受診します。

 通常の慢性膵炎、膵癌との鑑別は、IgG4測定が非常に有用であることが確認されています。(本症ではIgG4が上昇)

 治療は、ステロイドが有用で、血清IgG4はその活動性に対して治療後劇的に低下します。
ステロイドの初期量はプレドニゾロン30〜400mg/日から開始し、2〜4週間後、臨床徴候の改善を見ながら2〜3ヵ月を目安に維持量まで漸減します。寛解後は2.5〜5mg/日を維持療法として用います。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2010.6

 

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